平子編
11.
次の日、本当に真は来なかった。
仕事を休んだ事がない真が出勤しないことに、多くの隊士が心配して雛森にどうしたのか聞いてきた。
そのたびに雛森は、体調不良だと説明した。
昨日出動した者は、平子との喧嘩は黙っていた。あの後雛森に口止めされたからだ。
「本当に真さんが十一番隊に行っちゃったら、隊長恨まれますよ」
雛森は書類をまとめながら、平子に文句を言った。平子は頬杖をついてハンコを押し続け、雛森を見なかった。
「何で俺が恨まれんねん。初めからいつでも戻れ言うてたやろ」
「そうですけど……。今回のは、真さんも不本意ですよ」
「あんなあ、桃」
平子は手を止めて、雛森を見据えた。
「あいつが、古巣の方が合う言うても、お前は止めるんか?」
「……それは……止めれませんけど……」
そうは言いつつも、雛森は納得できず、顔をしかめた。
「せやろ。それに、十一番隊の価値観でうちに居られても迷惑なだけや」
「そんな言い方しなくったって」
「事実や」
平子はハンコを置き、椅子にもたれた。
「うちの若手は皆アイツに憧れとる。アイツ見たいんになりたい思うとる」
「なら、うちに居てくれた方が……」
「若手がアイツ見たいんに、一人で死にかけて戦うんに憧れたら、お前止めれるか?」
雛森は自分の考えの浅はかさに気づき、口を結んだ。平子はそれに気づき、はぁとため息をついた。
「分かったんなら、それ以上聞くなよ。アイツもバカやない。ちゃんと考えて答え出すやろ。俺らは、待つしかないねん」
そう言う平子の顔は寂しそうで、平子が一番真を出したくないのは雛森は知っていた。隊長としても、男としても……。
「そりゃあ、平子が正しいぜ」
雛森はまた十番隊で、日番谷に相談していた。
日番谷は書類に書き込みながら、雛森を見ずに言い放った。
「……でも、真さんは、十一番隊の雰囲気とは違う気がするの……」
雛森はいつも通り、ソファーの背もたれ越しから日番谷を見ていた。
「それはどうかな」
「何で?シロちゃん…」
日番谷は筆を置いて、引き出しからファイルを取り出した。机の上でパラパラとめくると、あるページを出し、雛森にファイルごと差し出した。
雛森はソファーから降り、日番谷が差し出したファイルを手にとった。
「各隊の、年間殉職者数だ」
雛森が行を目で追っていくと、十一番隊だけが異様に多いのが目についた。
「他の隊の……5倍以上……?」
「そうだ。何でか、わかるか?」
雛森は答えが分からず、首をかしげて日番谷を見つめた。日番谷は呆れたように椅子にもたれ、雛森を見た。
「あいつらは、死を恐れていない。他人のも、自分の命すら軽視してる」
「真さんは…そんなじゃ」
「なら何で50年も十一番隊にいた?」
雛森は愕然として目を見開いた。日番谷の目は、冷静だ。
「霧島がどんなにまともに見えようが、自分で希望して十一番隊に居続けた奴だ。根本は好戦的で、命への価値観が周りと合わねえだろうよ」
悲しげな雛森を尻目に、日番谷は隊長として雛森に言い聞かせた。
「平子が危惧してんのは、そこだろ。隊の奴が、死んでもいいから戦う、なんて言い出したら、取り返しがつかねえ。隊長の仕事は、隊士を守る事だ。馴れ合いじゃねえ。悪い見本は、取り除くべきだ。だから、皆が見てる前で怒鳴ったんだ。お前も副官なら、そんくらい分れよ」
雛森は俯き、唇を噛み締めた。
分かる、分かるけど、嫌なんだ……。
「二人が、喧嘩するのが、嫌なの……」
雛森の悲しむ顔を見て、日番谷は眉間にシワを寄せて目をそらした。
「霧島がワリイよ、今回ばかりは。信頼を裏切ったんだ。自分を蔑ろにするって形でな」
一角が一番隊に報告書を提出した帰りに川沿いを歩いていると、ある人物が土手に座っているのが目に入った。
「ありゃあ…霧島か?」
懐かしい後輩との再会に、一角は思わず声をかけた。
「おーい、霧島!何してんだ!」
後輩は不意をつかれて肩をびくつかせ、驚いた顔で自分を呼んだ声の主を見た。
「斑目さ…副隊長」
一角は土手に降りて、真の横に並んだ。
「珍しいな。お前がサボりか?」
腰を曲げて真の顔を見ると、真は目を細めて川を見た。
「いえ……来なくていいと、言われて……」
せつな気な真を見て、一角は真の横に座った。
「今度は何したんだよ。また自暴自棄にでもなったか?」
真は一角を見ずに、ただ川を見つめていた。
「…昔と同じように戦ったら、叱られました」
真はそのまま話し続けた。
「十一番隊は、どんな結果…怪我をしようが、何しようが、勝てば良かった……。私は、他の者を巻き込みたくなくて、一人で戦ったんです。十一番隊なら、それで良かった。でも、五番隊は、他の隊は違う。状況を見て、最小限の被害で治めなければいけないと……。それで、隊長と、価値観が合わなくて…」
一回呼吸を挟んで、真はまた口を開いた。
「だから……十一番隊に戻るか、五番隊に残るか、悩んでいました………」
悲しい顔でそう語る真を見てから、一角は真から目をそらし、同じように川を見た。
「お前が五番隊で学ぶ事が無くなったら、戻ってこればいいんじゃねえの」
真はゆっくり一角に視線を移した。一角も真を見た。
「もともと、そのつもりだったんだろ?」
一角が横目で真を見ると、まだ踏ん切りのついていない真がいた。
「学ぶ…………」
「お前は何を学びてえんだ?」
一角の質問をきっかけに、真の頭に大量の疑問が浮かんだ。
何の為に五番隊にいる?
何を得たかった?
何を守りたかった?
何で死神になった?
何が十一番隊と違う?
真が何か考えているのが分かった一角は、質問をやめて立ち上がった。
「…お前が戻るって言うなら、うちは大歓迎だぜ。お前は仕事できるし、何より若手を任せられるからな」
若手を…。そう、私はいつも、若手を指導したいと思っていた。戦いで困らないように、自分自身を守れるようにしたかった。それが、楽しくて、嬉しかったんだ……。
「よく考えて決めろよ。じゃあな」
一角はそう言って歩き出した。真が一角の背中に礼をいうと、一角はただ手をヒラヒラさせるだけだった。
次の日、本当に真は来なかった。
仕事を休んだ事がない真が出勤しないことに、多くの隊士が心配して雛森にどうしたのか聞いてきた。
そのたびに雛森は、体調不良だと説明した。
昨日出動した者は、平子との喧嘩は黙っていた。あの後雛森に口止めされたからだ。
「本当に真さんが十一番隊に行っちゃったら、隊長恨まれますよ」
雛森は書類をまとめながら、平子に文句を言った。平子は頬杖をついてハンコを押し続け、雛森を見なかった。
「何で俺が恨まれんねん。初めからいつでも戻れ言うてたやろ」
「そうですけど……。今回のは、真さんも不本意ですよ」
「あんなあ、桃」
平子は手を止めて、雛森を見据えた。
「あいつが、古巣の方が合う言うても、お前は止めるんか?」
「……それは……止めれませんけど……」
そうは言いつつも、雛森は納得できず、顔をしかめた。
「せやろ。それに、十一番隊の価値観でうちに居られても迷惑なだけや」
「そんな言い方しなくったって」
「事実や」
平子はハンコを置き、椅子にもたれた。
「うちの若手は皆アイツに憧れとる。アイツ見たいんになりたい思うとる」
「なら、うちに居てくれた方が……」
「若手がアイツ見たいんに、一人で死にかけて戦うんに憧れたら、お前止めれるか?」
雛森は自分の考えの浅はかさに気づき、口を結んだ。平子はそれに気づき、はぁとため息をついた。
「分かったんなら、それ以上聞くなよ。アイツもバカやない。ちゃんと考えて答え出すやろ。俺らは、待つしかないねん」
そう言う平子の顔は寂しそうで、平子が一番真を出したくないのは雛森は知っていた。隊長としても、男としても……。
「そりゃあ、平子が正しいぜ」
雛森はまた十番隊で、日番谷に相談していた。
日番谷は書類に書き込みながら、雛森を見ずに言い放った。
「……でも、真さんは、十一番隊の雰囲気とは違う気がするの……」
雛森はいつも通り、ソファーの背もたれ越しから日番谷を見ていた。
「それはどうかな」
「何で?シロちゃん…」
日番谷は筆を置いて、引き出しからファイルを取り出した。机の上でパラパラとめくると、あるページを出し、雛森にファイルごと差し出した。
雛森はソファーから降り、日番谷が差し出したファイルを手にとった。
「各隊の、年間殉職者数だ」
雛森が行を目で追っていくと、十一番隊だけが異様に多いのが目についた。
「他の隊の……5倍以上……?」
「そうだ。何でか、わかるか?」
雛森は答えが分からず、首をかしげて日番谷を見つめた。日番谷は呆れたように椅子にもたれ、雛森を見た。
「あいつらは、死を恐れていない。他人のも、自分の命すら軽視してる」
「真さんは…そんなじゃ」
「なら何で50年も十一番隊にいた?」
雛森は愕然として目を見開いた。日番谷の目は、冷静だ。
「霧島がどんなにまともに見えようが、自分で希望して十一番隊に居続けた奴だ。根本は好戦的で、命への価値観が周りと合わねえだろうよ」
悲しげな雛森を尻目に、日番谷は隊長として雛森に言い聞かせた。
「平子が危惧してんのは、そこだろ。隊の奴が、死んでもいいから戦う、なんて言い出したら、取り返しがつかねえ。隊長の仕事は、隊士を守る事だ。馴れ合いじゃねえ。悪い見本は、取り除くべきだ。だから、皆が見てる前で怒鳴ったんだ。お前も副官なら、そんくらい分れよ」
雛森は俯き、唇を噛み締めた。
分かる、分かるけど、嫌なんだ……。
「二人が、喧嘩するのが、嫌なの……」
雛森の悲しむ顔を見て、日番谷は眉間にシワを寄せて目をそらした。
「霧島がワリイよ、今回ばかりは。信頼を裏切ったんだ。自分を蔑ろにするって形でな」
一角が一番隊に報告書を提出した帰りに川沿いを歩いていると、ある人物が土手に座っているのが目に入った。
「ありゃあ…霧島か?」
懐かしい後輩との再会に、一角は思わず声をかけた。
「おーい、霧島!何してんだ!」
後輩は不意をつかれて肩をびくつかせ、驚いた顔で自分を呼んだ声の主を見た。
「斑目さ…副隊長」
一角は土手に降りて、真の横に並んだ。
「珍しいな。お前がサボりか?」
腰を曲げて真の顔を見ると、真は目を細めて川を見た。
「いえ……来なくていいと、言われて……」
せつな気な真を見て、一角は真の横に座った。
「今度は何したんだよ。また自暴自棄にでもなったか?」
真は一角を見ずに、ただ川を見つめていた。
「…昔と同じように戦ったら、叱られました」
真はそのまま話し続けた。
「十一番隊は、どんな結果…怪我をしようが、何しようが、勝てば良かった……。私は、他の者を巻き込みたくなくて、一人で戦ったんです。十一番隊なら、それで良かった。でも、五番隊は、他の隊は違う。状況を見て、最小限の被害で治めなければいけないと……。それで、隊長と、価値観が合わなくて…」
一回呼吸を挟んで、真はまた口を開いた。
「だから……十一番隊に戻るか、五番隊に残るか、悩んでいました………」
悲しい顔でそう語る真を見てから、一角は真から目をそらし、同じように川を見た。
「お前が五番隊で学ぶ事が無くなったら、戻ってこればいいんじゃねえの」
真はゆっくり一角に視線を移した。一角も真を見た。
「もともと、そのつもりだったんだろ?」
一角が横目で真を見ると、まだ踏ん切りのついていない真がいた。
「学ぶ…………」
「お前は何を学びてえんだ?」
一角の質問をきっかけに、真の頭に大量の疑問が浮かんだ。
何の為に五番隊にいる?
何を得たかった?
何を守りたかった?
何で死神になった?
何が十一番隊と違う?
真が何か考えているのが分かった一角は、質問をやめて立ち上がった。
「…お前が戻るって言うなら、うちは大歓迎だぜ。お前は仕事できるし、何より若手を任せられるからな」
若手を…。そう、私はいつも、若手を指導したいと思っていた。戦いで困らないように、自分自身を守れるようにしたかった。それが、楽しくて、嬉しかったんだ……。
「よく考えて決めろよ。じゃあな」
一角はそう言って歩き出した。真が一角の背中に礼をいうと、一角はただ手をヒラヒラさせるだけだった。
