平子編
6.
真と弓親が並んで歩いている姿を、平子は後ろから見てしまった。
ああ、やっぱりあの二人……。
心臓が張り裂けそうに痛み、血が引いていく感じがした。
逃げ出したい気持ちとは裏腹に、二人の会話を聞きたくなった。真と弓親が、愛し合っていると確認する事ができたら、キッパリ諦められると思った。
堪忍な……真、綾瀬川……。
平子は霊圧を消して、二人の後をつけた。
真と弓親は人気の無い通路で止まった。平子は建物の影に隠れて、聞き耳を立てた。
「……僕にとって、いい話?悪い話? ちなみに、僕、君の事、全然諦めきれて無いんだけど」
まてや、どういう事や。何の話や。
「……じゃあ、悪い話……」
真……?
弓親が何かをグダグダ言い、真と弓親の間に張り詰めた空気が流れた。平子は期待と不安で頭がクラクラしていた。
嘘や……いや、でも、もしかして…………。
「…私、平子隊長が好きになりました」
ハッキリとした真の声が聞こえた。
平子は一人で、前かがみになり、胸を押さえた。汗が額をつたい、呼吸が荒くなった。
そこからの会話は聞こえなかった。
しばらくして、弓親が去っていく音がして、真が一人になった。平子も、そこから動けなかった。
真は長い間そこから動かず、立っていた。弓親を傷つけた事に、真自身が傷ついているのだろう、と予想はできた。そんな必要は無いのだけれど、それは平子が言っていい言葉ではない。
真が深く深呼吸をする音が聞こえて、こちらに歩いてきた。
マズイ、隠れようか、嫌、せっかく両思いになれたのに……。
あれこれ考えているうちに、真がすぐ近くまで来ており、建物の影から飛び出した平子と、鉢合わせした。
「お、お疲れさん……」
上ずった声で、ワザと笑いながら平子が言ったが。汗はかくし顔は火照っているしで、格好がつかなかった。
真は顔を真っ赤にして目を見開き、何も言わず回れ右して駆出そうとした。
「チョッ…!!!まてまてまて!!!!」
平子は急いで真の手首を掴んで引き止めた。真は抵抗しなかったが、顔はそらしたままだった。
「待てて!! 何でいきなり逃げんねん!」
真は空いている手を口にあてて、俯いた。
「……そんなの……惨めな思いをしたくないからに、決まってるじゃないですか……」
真の言葉に、平子は、ハッとした。
自分ばかりが片思いで、惨めに感じていた訳ではないのだ…。真も同じ様に、傷ついていてくれたのだ。
「……惨めやないで。片思いや、ないし………」
真は思わず平子の方を向いた。目には少しだけ涙が浮かんでいた。平子はその目を直視できず、目をそらした。
「…俺かて、お前の事………す、すす、好き、で…お付き合いとか、できたらなあ〜…………て……」
女性に面と向かって告白するなんて、何年ぶりだろう……。言葉にすることの、なんと難しく、恥ずかしいことか。
「まあ、そんな感じなんで、ご安心ください」
平子はそう言って、恥ずかしさに耐えられず顔ごとそらした。
真は涙目で、困惑した顔をしていた。
「だって!!初対面で私の事男だって……!!!!」
「初対面の話やろ!!!んな事ずっと引きずっとったんか!!!!」
勢いよく振り向いた平子を見て、真は耐えられなくなったのか、しゃがみこんで膝を抱えた。
「何でいるんですか……知られたく無かったのに……」
「何でや……両思いやのにか」
真はしばらく黙っていた。平子は静かに、真の言葉を待った。
「……嬉しい筈なのに……喜べない」
綾瀬川に、悪い思うてんやな……。ちゃんと振ったのに、何でそこまで気い使うんや……。でも、そういうんも、お前らしいわ……。しゃーないから、大人の余裕見せたるしかないな。
「……ええよ、それで。ゆっくり、やってこか」
平子もしゃがんで、真の目線に合わせた。真は顔を上げて、驚いたような、悲しいような顔をした。
「……すみません……私…」
平子は真の頭に手を置いて、グリグリ回した。
「謝んな。俺がええて言うてんねん。ええんや。お前が大丈夫んなるまで待つさかい。今まで通り、仲良うやって行こうや」
な?と平子が笑うと、真は小さく、はい、と呟いた。
真の手を取って立たせると、そのまま解散した。
二人はまだ恋人同士ではない。一緒には、帰れなかった。
その日の夜、平子は拳西とローズを誘って居酒屋にいた。
「つーわけで、両思いやけど付き合わないという関係になりました。完」
「完、じゃねーよ。付き合えよ」
拳西は不満そうだが、平子は余裕の顔をして酒をあおった。
「えーねん、これで。大人の余裕?みたいな?」
「随分余裕だね、真子」
ローズは不思議そうな顔をした。
「綾瀬川は余裕無くしてフラレたからな。逆に俺は余裕かまして、綾瀬川に対して優越感に浸るねん」
「そういうのは、大人気ないなあ…」
真と弓親が並んで歩いている姿を、平子は後ろから見てしまった。
ああ、やっぱりあの二人……。
心臓が張り裂けそうに痛み、血が引いていく感じがした。
逃げ出したい気持ちとは裏腹に、二人の会話を聞きたくなった。真と弓親が、愛し合っていると確認する事ができたら、キッパリ諦められると思った。
堪忍な……真、綾瀬川……。
平子は霊圧を消して、二人の後をつけた。
真と弓親は人気の無い通路で止まった。平子は建物の影に隠れて、聞き耳を立てた。
「……僕にとって、いい話?悪い話? ちなみに、僕、君の事、全然諦めきれて無いんだけど」
まてや、どういう事や。何の話や。
「……じゃあ、悪い話……」
真……?
弓親が何かをグダグダ言い、真と弓親の間に張り詰めた空気が流れた。平子は期待と不安で頭がクラクラしていた。
嘘や……いや、でも、もしかして…………。
「…私、平子隊長が好きになりました」
ハッキリとした真の声が聞こえた。
平子は一人で、前かがみになり、胸を押さえた。汗が額をつたい、呼吸が荒くなった。
そこからの会話は聞こえなかった。
しばらくして、弓親が去っていく音がして、真が一人になった。平子も、そこから動けなかった。
真は長い間そこから動かず、立っていた。弓親を傷つけた事に、真自身が傷ついているのだろう、と予想はできた。そんな必要は無いのだけれど、それは平子が言っていい言葉ではない。
真が深く深呼吸をする音が聞こえて、こちらに歩いてきた。
マズイ、隠れようか、嫌、せっかく両思いになれたのに……。
あれこれ考えているうちに、真がすぐ近くまで来ており、建物の影から飛び出した平子と、鉢合わせした。
「お、お疲れさん……」
上ずった声で、ワザと笑いながら平子が言ったが。汗はかくし顔は火照っているしで、格好がつかなかった。
真は顔を真っ赤にして目を見開き、何も言わず回れ右して駆出そうとした。
「チョッ…!!!まてまてまて!!!!」
平子は急いで真の手首を掴んで引き止めた。真は抵抗しなかったが、顔はそらしたままだった。
「待てて!! 何でいきなり逃げんねん!」
真は空いている手を口にあてて、俯いた。
「……そんなの……惨めな思いをしたくないからに、決まってるじゃないですか……」
真の言葉に、平子は、ハッとした。
自分ばかりが片思いで、惨めに感じていた訳ではないのだ…。真も同じ様に、傷ついていてくれたのだ。
「……惨めやないで。片思いや、ないし………」
真は思わず平子の方を向いた。目には少しだけ涙が浮かんでいた。平子はその目を直視できず、目をそらした。
「…俺かて、お前の事………す、すす、好き、で…お付き合いとか、できたらなあ〜…………て……」
女性に面と向かって告白するなんて、何年ぶりだろう……。言葉にすることの、なんと難しく、恥ずかしいことか。
「まあ、そんな感じなんで、ご安心ください」
平子はそう言って、恥ずかしさに耐えられず顔ごとそらした。
真は涙目で、困惑した顔をしていた。
「だって!!初対面で私の事男だって……!!!!」
「初対面の話やろ!!!んな事ずっと引きずっとったんか!!!!」
勢いよく振り向いた平子を見て、真は耐えられなくなったのか、しゃがみこんで膝を抱えた。
「何でいるんですか……知られたく無かったのに……」
「何でや……両思いやのにか」
真はしばらく黙っていた。平子は静かに、真の言葉を待った。
「……嬉しい筈なのに……喜べない」
綾瀬川に、悪い思うてんやな……。ちゃんと振ったのに、何でそこまで気い使うんや……。でも、そういうんも、お前らしいわ……。しゃーないから、大人の余裕見せたるしかないな。
「……ええよ、それで。ゆっくり、やってこか」
平子もしゃがんで、真の目線に合わせた。真は顔を上げて、驚いたような、悲しいような顔をした。
「……すみません……私…」
平子は真の頭に手を置いて、グリグリ回した。
「謝んな。俺がええて言うてんねん。ええんや。お前が大丈夫んなるまで待つさかい。今まで通り、仲良うやって行こうや」
な?と平子が笑うと、真は小さく、はい、と呟いた。
真の手を取って立たせると、そのまま解散した。
二人はまだ恋人同士ではない。一緒には、帰れなかった。
その日の夜、平子は拳西とローズを誘って居酒屋にいた。
「つーわけで、両思いやけど付き合わないという関係になりました。完」
「完、じゃねーよ。付き合えよ」
拳西は不満そうだが、平子は余裕の顔をして酒をあおった。
「えーねん、これで。大人の余裕?みたいな?」
「随分余裕だね、真子」
ローズは不思議そうな顔をした。
「綾瀬川は余裕無くしてフラレたからな。逆に俺は余裕かまして、綾瀬川に対して優越感に浸るねん」
「そういうのは、大人気ないなあ…」
