平子編
3.
五番隊隊長邸に着く前に、平子は真の腕の中で寝始めた。
真は勝手に平子の懐をあさり、鍵を取り出すと、勝手に中に入った。
家の中を歩き回り寝室を見つけると、平子をベッドに置いて隊長羽織を脱がせた。
寝室には洋箪笥やレコードプレーヤーが置かれており、和室には似つかわしくない現世のオシャレな物が並べられていた。流石オシャレを自称するだけの事はあり、クッションやラグにも統一感があった。
真は洋箪笥からハンガーを取り出し、隊長羽織をかけた。平子はベッドで寝息を立てている。
この男が、風呂にも入らず歯も磨かず就寝する事なんてあるのだろうか、と疑問をもった真は、平子の肩を揺すった。
「平子隊長」
呼んでも反応すらせずに、平子はすやすやと寝ている。きっともう、何をしても起きないだろう。
その時、真に魔が差した。
誰にも打ち明けられない想いを、どこかで発散したかった。だが、キスどころか、手に触れることすら、この女には到底無理な話だ…。
その代わりに名を呼んだ。
「…真子さん……」
たったそれだけで満足した真は、踵を返して家から出て行った。
誰にも知られない、自分だけの秘密だと思っていた。
平子真子は起きていた。最初から。
想い人に抱っこされている状況に耐えられなくなり、狸寝入りを決めていたのだ。
ベッドに置かれて隊長羽織を脱がされた時は、少しドキリとしたが、真に限って何かをする訳ではもちろん無く、隊長羽織がハンガーにかけられたのは音で分かった。
その後、何故か真は帰らなかった。
ベッドの側に立ち、じっと自分を見ているのが気配で分かり、平子はいたたまれない気持ちになった。気まずいから、早く帰ってほしいと思った。
その時、ハッキリと真の声が聞こえた。
「……真子さん………」
その後、真はすぐに部屋から、平子の家から出て行った。
残された平子の心臓は、バクバクと強く鼓動していた。胸を押さえていないと、出てきてしまいそうなほどの激しい鼓動だった。
何……今の!!!???今の、何!!!???
はなから真と両思いになれるとは思ってすらいなかった平子は、真の真意など毛頭理解できなかった。
翌日、ガンガンと痛む頭に、氷を入れたビニール袋を当てながら、平子は出勤した。
気まずい……。真に会いたくない……。いや、会いたい……。忘れてほしい………。
痛む頭であれこれ考えながら、隊主室のドアを開けると、真は既に仕事の割り振りをしていた。
「………昨日は……すんませんでした………」
平子は目を合わせずに謝った。いや、合わせられなかった。醜態を晒した事に加えて、真の謎の名前呼びが気になって仕方がなかった。
「……やると思った…………」
真の冷めた声と鋭い目が平子を刺した。平子は項垂れながら席につくと、机に体を投げた。
「……ホンマは、桃を呼ぶつもりらしかってんけど……手違いでお前を呼んでしもてん」
真はため息をつきながら、書類を平子の目の前に置いた。
「桃さんなら、昨日は女性死神協会の集まりでどちらにしても行けませんでしたよ。そもそも、誰かを呼ばなきゃいけなくなるほど飲まないでくださいよ」
真は相変わらず冷めた目をしている。呆れられているのが、嫌でも分かった。
「まあ…悪かった思うてるけど、オジサンにはオジサンなりに色々あんねん……。 こうしてちゃんと来とるし、多めに見たってや……」
平子は頬杖をついてため息をついた。
自分がこうなったのは、他でもない真のせいなのだ。
ただでさえ色々後悔しているのに、更にダメ出しされては心が持たない。
すると、真が平子の目の前に液体の入った小瓶を差し出した。
「二日酔いの薬です。四番隊から貰っておきました」
真の目はまだ冷めている。だが、その行動は確かに思いやりがあった。
平子は嬉しさを噛み殺しながら、そろそろと小瓶に手を伸ばした。
「……あ、ありがとさん……。流石、気が利くなあ……」
「……隊長がいないと、書類回せないんで」
真はプイっと顔をそらした。
平子の頭に、ある疑問が浮かんだ。聞けば後悔する気がするが、気になって仕方がない。
「お前…前もこんな事しとった?」
前の職場の男達にも、同じように気を利かせたのだろうか。真ならやりそうだが、自分は特別なのかその他大勢の中の一人なのか知りたかった。
真の目が動いて、何かを思い出しているのが分かった。感情は、顔に出ていない。
「更木隊長は、酔った姿を見たことも、聞いた事もありません」
そうか、更木はザルか。
「斑目三席は、しょっちゅうだったので、ほおっておきました」
知りたいんは、そいつやないねん……。
「弓親さんは………」
真の言葉が詰まり、切ない表情をした。
その男が、まだお前の中から離れんのやな……。
「私には、酔った姿すら、見せませんでしたね………」
真の目は遠くを見て、昔を懐かしんでいた。自分がどれだけ真を想い、支えても、忘れさせる事は不可能なのだ。
「……ほうか………」
平子は聞いた事を後悔したが、これで忘れられるとも期待した。こんな辛い気持ち、早く無くしてしまいたかった。なのに、真と話せば心は踊り、どうしようもなく、求めてしまうのだ。
「そんなことより!早く仕事してください!」
「あー!頭イタイ!頭イタイ!!!」
「薬飲め!!!!」
五番隊隊長邸に着く前に、平子は真の腕の中で寝始めた。
真は勝手に平子の懐をあさり、鍵を取り出すと、勝手に中に入った。
家の中を歩き回り寝室を見つけると、平子をベッドに置いて隊長羽織を脱がせた。
寝室には洋箪笥やレコードプレーヤーが置かれており、和室には似つかわしくない現世のオシャレな物が並べられていた。流石オシャレを自称するだけの事はあり、クッションやラグにも統一感があった。
真は洋箪笥からハンガーを取り出し、隊長羽織をかけた。平子はベッドで寝息を立てている。
この男が、風呂にも入らず歯も磨かず就寝する事なんてあるのだろうか、と疑問をもった真は、平子の肩を揺すった。
「平子隊長」
呼んでも反応すらせずに、平子はすやすやと寝ている。きっともう、何をしても起きないだろう。
その時、真に魔が差した。
誰にも打ち明けられない想いを、どこかで発散したかった。だが、キスどころか、手に触れることすら、この女には到底無理な話だ…。
その代わりに名を呼んだ。
「…真子さん……」
たったそれだけで満足した真は、踵を返して家から出て行った。
誰にも知られない、自分だけの秘密だと思っていた。
平子真子は起きていた。最初から。
想い人に抱っこされている状況に耐えられなくなり、狸寝入りを決めていたのだ。
ベッドに置かれて隊長羽織を脱がされた時は、少しドキリとしたが、真に限って何かをする訳ではもちろん無く、隊長羽織がハンガーにかけられたのは音で分かった。
その後、何故か真は帰らなかった。
ベッドの側に立ち、じっと自分を見ているのが気配で分かり、平子はいたたまれない気持ちになった。気まずいから、早く帰ってほしいと思った。
その時、ハッキリと真の声が聞こえた。
「……真子さん………」
その後、真はすぐに部屋から、平子の家から出て行った。
残された平子の心臓は、バクバクと強く鼓動していた。胸を押さえていないと、出てきてしまいそうなほどの激しい鼓動だった。
何……今の!!!???今の、何!!!???
はなから真と両思いになれるとは思ってすらいなかった平子は、真の真意など毛頭理解できなかった。
翌日、ガンガンと痛む頭に、氷を入れたビニール袋を当てながら、平子は出勤した。
気まずい……。真に会いたくない……。いや、会いたい……。忘れてほしい………。
痛む頭であれこれ考えながら、隊主室のドアを開けると、真は既に仕事の割り振りをしていた。
「………昨日は……すんませんでした………」
平子は目を合わせずに謝った。いや、合わせられなかった。醜態を晒した事に加えて、真の謎の名前呼びが気になって仕方がなかった。
「……やると思った…………」
真の冷めた声と鋭い目が平子を刺した。平子は項垂れながら席につくと、机に体を投げた。
「……ホンマは、桃を呼ぶつもりらしかってんけど……手違いでお前を呼んでしもてん」
真はため息をつきながら、書類を平子の目の前に置いた。
「桃さんなら、昨日は女性死神協会の集まりでどちらにしても行けませんでしたよ。そもそも、誰かを呼ばなきゃいけなくなるほど飲まないでくださいよ」
真は相変わらず冷めた目をしている。呆れられているのが、嫌でも分かった。
「まあ…悪かった思うてるけど、オジサンにはオジサンなりに色々あんねん……。 こうしてちゃんと来とるし、多めに見たってや……」
平子は頬杖をついてため息をついた。
自分がこうなったのは、他でもない真のせいなのだ。
ただでさえ色々後悔しているのに、更にダメ出しされては心が持たない。
すると、真が平子の目の前に液体の入った小瓶を差し出した。
「二日酔いの薬です。四番隊から貰っておきました」
真の目はまだ冷めている。だが、その行動は確かに思いやりがあった。
平子は嬉しさを噛み殺しながら、そろそろと小瓶に手を伸ばした。
「……あ、ありがとさん……。流石、気が利くなあ……」
「……隊長がいないと、書類回せないんで」
真はプイっと顔をそらした。
平子の頭に、ある疑問が浮かんだ。聞けば後悔する気がするが、気になって仕方がない。
「お前…前もこんな事しとった?」
前の職場の男達にも、同じように気を利かせたのだろうか。真ならやりそうだが、自分は特別なのかその他大勢の中の一人なのか知りたかった。
真の目が動いて、何かを思い出しているのが分かった。感情は、顔に出ていない。
「更木隊長は、酔った姿を見たことも、聞いた事もありません」
そうか、更木はザルか。
「斑目三席は、しょっちゅうだったので、ほおっておきました」
知りたいんは、そいつやないねん……。
「弓親さんは………」
真の言葉が詰まり、切ない表情をした。
その男が、まだお前の中から離れんのやな……。
「私には、酔った姿すら、見せませんでしたね………」
真の目は遠くを見て、昔を懐かしんでいた。自分がどれだけ真を想い、支えても、忘れさせる事は不可能なのだ。
「……ほうか………」
平子は聞いた事を後悔したが、これで忘れられるとも期待した。こんな辛い気持ち、早く無くしてしまいたかった。なのに、真と話せば心は踊り、どうしようもなく、求めてしまうのだ。
「そんなことより!早く仕事してください!」
「あー!頭イタイ!頭イタイ!!!」
「薬飲め!!!!」