平子編
IFの世界 1
私を救ってくれるのは、いつもあなたでした。親友を失った時、好きだと思った人と決別した時、残酷な理不尽で打ちのめされた時……何時も側にいてくれた。
あなたを好きだと思います。それに気がついたのは、つい最近のこと。けれど、言えません。軽い女だと、思われたく無いのと、一度でも好きだと思えた人を、裏切る罪悪感に耐えられないから。
ただの友人として一緒にいられれば、それでいいと、自分を納得させます。時間をかけて。
「真、ちょお来てみい」
五番隊の隊主室でファイルの整理をしていた真は、隊長に呼ばれた。
真を呼んだ平子真子が、今の真の上司だ。
五番隊に来て、1年以上が経った。
来てすぐは、男性に近寄ると冷や汗と動悸で体が硬直したが、今はもう起こらない。おそらく、この男のおかげだ。平子真子と行動を共にしているうちに、トラウマを解消していった。
真にとって、男性の中で唯一肩の力を抜いて、本音を話せる相手だ。ただ、今は一つだけ、表に出さない本音がある。
読心術に長けたこの男に見破られないように、真は自分を偽って平静を保っていた。顔が赤くならないように、動揺しないように。感情を深く深く隠した。
「なんですか?仕事してください」
平子を見ないように、真は本棚にファイルを戻しながら文句を言った。
十一番隊時代には、先輩にも後輩にも、文句などほとんど言った事が無い真でも、この男には言える。内心は文句など無いが、これが二人のコミュニケーションだ。
平子は部下である真に文句を言われても気にも止めず、片耳からイヤホンを外して、真に差し出した。
「この曲、めっちゃええで。聞いてみ。お前絶対好きなやつや」
本人の意向など見向きもしないで、平子は当然のようにイヤホンを差し出す。真が拒まないのを知っているのだ。
真はファイルを机に置くと、平子に近寄った。
平子は椅子から立ち上がり、真にイヤホンを渡した。真はイヤホンが耳に入る距離まで行くとと、平子からイヤホンを受け取り、耳に入れた。
二人の肩が、触れるか触れないか位まで接近した。真はそのことから意識をそらせる為に、目を瞑り、曲に集中した。
「……本当だ……。好きです、これ」
二人は暫くそのまま、曲を聴いた。
手を伸ばせば、真の肩を抱ける。
触れたい。
ずっとその想いを押し殺していた平子の頭に、殺した筈の欲望が頭をもたげた。
ー友達にやるように、ガシッといけば、大丈夫ちゃうん?
ーいや、ドン引きされて、口聞いてもらえんくなるかもな……。
頭の中で二人の自分が意見を出し合う。
ーいやいや、大丈夫やって!意外とそっから意識してくるんちゃう?
ーアホか!やめろ!!関係壊すな!!こいつ、綾瀬川んこと好きなんやぞ!!
ー大丈夫やってー。もう1年以上何も関わり無いんやし、過去の男になっとるわ。前向かそうや。
前向きな自分に後押しされて、平子はゆっくり手を上げた。
真は目を瞑って曲に集中している。目を瞑ると、真のまつ毛の長さがよく分かる。
はー…やっぱコイツ美人やな……
真の肩まであと3センチ……。
手が震えて決心がつかず、行き場の無い指を動かした。
ーいけ!真子!!漢見せたれ!!
ーあかん!!関係壊すな!!信頼関係トントントン!!!!
ぐああああ!!やっぱ無理!!!何や最後のトントントンって!!!俺はチェルチェルランドの王子か!!!
平子の上げていた手は真に届かず、自分自身にツッコミを入れた。
「どうしました?」
平子の動きが気になって、真がイヤホンを外しながら平子を見上げた。図らずともそれは上目遣いで、男にはこういうテンプレートに弱い者が一定数いるわけで……平子も例外ではなかった。
目を押さえて、真から顔をそらす平子。
「何か目に入った……」
「ふーん……」
何やねん、ふーんって。もうちょい心配せえ。
興味無さそうな真に平子は不満げで、顔をしかめて横を見た。
部屋の入口に、二人の姿があった。
「わ゛ーーーーーーーーー(高音)!!!!!拳西!!!!ローズ!!!!!」
そこには、何とも言えない顔で気まずそうに立つ二人の友人がいた。
「真子………」
拳西が何かを言おうと、名前を呼んだ瞬間、平子の腕は友人二人の首に巻き付いていた。
「ひっさしぶりやなあ!!!何時ぶり!?戦争ぶり?!!!ちょっと外でゆっくり話そうや!!!」
「…平子隊長……」
「すまんな!真!ちょっと出てくるわーーー!!!」
平子は真を一度も見る事なく、拳西とローズを連れて隊舎から出て行った。
平子の姿が見えなくなると、真は机に手をついて胸を押さえた。
駄目だ……意識しないようにすればする程、意識してしまう……。
図らずとも早くなった鼓動に苦しみ、真は目を瞑って眉間にシワを寄せた。
1年前は、この感情は弓親さんに対してあった。だが、少し離れたらすぐに別の男を好きになってしまった……。何て情けなくて軽い女なのだろう…。最低だ……。
深呼吸を繰り返して感情を落ち着けると、真は仕事に向かった。
私を救ってくれるのは、いつもあなたでした。親友を失った時、好きだと思った人と決別した時、残酷な理不尽で打ちのめされた時……何時も側にいてくれた。
あなたを好きだと思います。それに気がついたのは、つい最近のこと。けれど、言えません。軽い女だと、思われたく無いのと、一度でも好きだと思えた人を、裏切る罪悪感に耐えられないから。
ただの友人として一緒にいられれば、それでいいと、自分を納得させます。時間をかけて。
「真、ちょお来てみい」
五番隊の隊主室でファイルの整理をしていた真は、隊長に呼ばれた。
真を呼んだ平子真子が、今の真の上司だ。
五番隊に来て、1年以上が経った。
来てすぐは、男性に近寄ると冷や汗と動悸で体が硬直したが、今はもう起こらない。おそらく、この男のおかげだ。平子真子と行動を共にしているうちに、トラウマを解消していった。
真にとって、男性の中で唯一肩の力を抜いて、本音を話せる相手だ。ただ、今は一つだけ、表に出さない本音がある。
読心術に長けたこの男に見破られないように、真は自分を偽って平静を保っていた。顔が赤くならないように、動揺しないように。感情を深く深く隠した。
「なんですか?仕事してください」
平子を見ないように、真は本棚にファイルを戻しながら文句を言った。
十一番隊時代には、先輩にも後輩にも、文句などほとんど言った事が無い真でも、この男には言える。内心は文句など無いが、これが二人のコミュニケーションだ。
平子は部下である真に文句を言われても気にも止めず、片耳からイヤホンを外して、真に差し出した。
「この曲、めっちゃええで。聞いてみ。お前絶対好きなやつや」
本人の意向など見向きもしないで、平子は当然のようにイヤホンを差し出す。真が拒まないのを知っているのだ。
真はファイルを机に置くと、平子に近寄った。
平子は椅子から立ち上がり、真にイヤホンを渡した。真はイヤホンが耳に入る距離まで行くとと、平子からイヤホンを受け取り、耳に入れた。
二人の肩が、触れるか触れないか位まで接近した。真はそのことから意識をそらせる為に、目を瞑り、曲に集中した。
「……本当だ……。好きです、これ」
二人は暫くそのまま、曲を聴いた。
手を伸ばせば、真の肩を抱ける。
触れたい。
ずっとその想いを押し殺していた平子の頭に、殺した筈の欲望が頭をもたげた。
ー友達にやるように、ガシッといけば、大丈夫ちゃうん?
ーいや、ドン引きされて、口聞いてもらえんくなるかもな……。
頭の中で二人の自分が意見を出し合う。
ーいやいや、大丈夫やって!意外とそっから意識してくるんちゃう?
ーアホか!やめろ!!関係壊すな!!こいつ、綾瀬川んこと好きなんやぞ!!
ー大丈夫やってー。もう1年以上何も関わり無いんやし、過去の男になっとるわ。前向かそうや。
前向きな自分に後押しされて、平子はゆっくり手を上げた。
真は目を瞑って曲に集中している。目を瞑ると、真のまつ毛の長さがよく分かる。
はー…やっぱコイツ美人やな……
真の肩まであと3センチ……。
手が震えて決心がつかず、行き場の無い指を動かした。
ーいけ!真子!!漢見せたれ!!
ーあかん!!関係壊すな!!信頼関係トントントン!!!!
ぐああああ!!やっぱ無理!!!何や最後のトントントンって!!!俺はチェルチェルランドの王子か!!!
平子の上げていた手は真に届かず、自分自身にツッコミを入れた。
「どうしました?」
平子の動きが気になって、真がイヤホンを外しながら平子を見上げた。図らずともそれは上目遣いで、男にはこういうテンプレートに弱い者が一定数いるわけで……平子も例外ではなかった。
目を押さえて、真から顔をそらす平子。
「何か目に入った……」
「ふーん……」
何やねん、ふーんって。もうちょい心配せえ。
興味無さそうな真に平子は不満げで、顔をしかめて横を見た。
部屋の入口に、二人の姿があった。
「わ゛ーーーーーーーーー(高音)!!!!!拳西!!!!ローズ!!!!!」
そこには、何とも言えない顔で気まずそうに立つ二人の友人がいた。
「真子………」
拳西が何かを言おうと、名前を呼んだ瞬間、平子の腕は友人二人の首に巻き付いていた。
「ひっさしぶりやなあ!!!何時ぶり!?戦争ぶり?!!!ちょっと外でゆっくり話そうや!!!」
「…平子隊長……」
「すまんな!真!ちょっと出てくるわーーー!!!」
平子は真を一度も見る事なく、拳西とローズを連れて隊舎から出て行った。
平子の姿が見えなくなると、真は机に手をついて胸を押さえた。
駄目だ……意識しないようにすればする程、意識してしまう……。
図らずとも早くなった鼓動に苦しみ、真は目を瞑って眉間にシワを寄せた。
1年前は、この感情は弓親さんに対してあった。だが、少し離れたらすぐに別の男を好きになってしまった……。何て情けなくて軽い女なのだろう…。最低だ……。
深呼吸を繰り返して感情を落ち着けると、真は仕事に向かった。