東仙編
「霧島は、もう気にしていないそうですよ」
翌日、朝一番で檜佐木は東仙にそう言った。
霧島という単語に、東仙が動揺したのが分かった。
「……修兵、もう、いいんだよ」
東仙は、優しい声で言った。檜佐木に顔を見せないように、背中を向けた。
「どこかで、諦めなければいけなかったんだ。だから、もう、このままで……」
「で、でも、こんな喧嘩別れみたいにしなくても………」
「こうでもしないと、諦めきれなかった。また会ってしまうと、未練が……」
檜佐木はそれ以上何も言わなかった。
東仙は自分の中で、もう1度気持ちを押し込んだ。
昨日、朽木ルキアが見つかったんだ。藍染様は、処刑と共に崩玉を取り出すおつもりだ。そうなれば、我々はもうここには居ない。だから、彼女とも、このまま会わなくていい。どうせ離れ離れになるのなら。
朽木ルキアの処刑が決定し、藍染の計画が動き出した。
旅禍の侵入前に、真が墓参りに旅立ったのは東仙にとって好都合だった。
もし真がいたら、更木と共に行動し、東仙と刃を交える可能性があったからだ。
そのまま二人は会うこと無く、東仙は消えた。
東仙の謀反は真にとってショックではあったが、それ以上にいろんな事で心が乱れ、東仙の事は頭の片隅にあるぐらいだった。
決戦が終わり、乱菊との関係が戻った時、真は頭を整理して、東仙の墓参りに行く事にした。
花を買って、聞いた場所に行くと、大きな影があった。
「…狛村、隊長……?」
狼の、澄んだ鋭い目が真を捉えた。
「霧島か。東仙の墓参りに来てくれたのか」
狛村は場所を空けて、真が花を置けるようにしてくれた。
真は花を手向け、手を合わせた。
「…来るのが遅くなって、申し訳ありません。東仙隊長……」
生前、謀反を起こす前の東仙の人柄を思い出しながら、真は拝んだ。
「……裏切った東仙に、手を合わせてくれるのか……」
狛村が小さく震える声で、真に向かって呟いた。真は立ち上がり、狛村を見た。
「私は、裏切る東仙隊長を実際に見ていないので、実感が無いのです。だから、裏切る前の東仙隊長しか知りません…」
「……お主がそう言うてくれれば、東仙も喜んでいるだろう」
「そんな事は…」
狛村は考えていた。
そうか…この娘は、東仙の気持ちを知らんのだな……。
狛村は、東仙が初めて真への気持ちを吐露した時の事を思い出した。
「……東仙は、我々を裏切った。だが、東仙の全てが嘘では無かった事を、覚えていてくれ」
「……はい」
真は狛村に一礼して、東仙の墓を後にした。
最後まで、真が東仙の気持ちを知ることは無かった。
終わり。
〜サイドエピソード、「バレンタイン」〜〜〜
料亭にて
「東仙隊長は、料理がお得意なんですね」
「ああ、好きなんだ」
「お菓子なども作られるんですか?」
「作るよ。何故だい?」
「お恥ずかしながら、私料理ができないんです」
「へえ、意外だね」
「もうすぐバレンタインなので、今年こそ挑戦してみたくて……」
(心中穏やかではない東仙)
「も、もし、ご迷惑でなければ、教えていただきたいのですが……」
「あ、ああ、いいよ。今度九番隊舎においで」
「あ!ありがとうございます!!」
〜次の日〜九番隊舎
「修兵、来てくれないか」
「はい。どうしました?」
「ガトーショコラを作って見たんだが、どれが美味しいか、食べて見てくれないか」
机に並ぶ、5種類のガトーショコラ。
「な…何でこんな、ガトーショコラが…?!」
「いや、今度、お菓子作りを教えてほしいという子がいてね。どのレシピにしようか悩んでいるんだ」
「へ、へえ……」
「これはバター入り、これはバターとメレンゲ、これは卵黄、これは………………」
(ゲンナリする檜佐木)
〜更に3日後〜九番隊舎
前掛けをした真「今日はよろしくお願いします」
深々とお辞儀。
「霧島!?」
「檜佐木副隊長…」
「お菓子作り教えてほしいって、お前なのか?!」
「あ、はい…。私、壊滅的に料理ができないので……」
「私と修兵でサポートするから、安心していいからね」
「ありがとうございます、東仙隊長」
(何となく東仙の心中を察する檜佐木)
〜調理開始〜
卵が割れない真。
「…………また潰れた……」
「真君、卵は机の角に当てて、割れ目に親指をいれるといいよ」
「机の角……」ゴシャッ
「「……………」」
「(力加減ができないゴリラかよ………)」
メレンゲが飛び散るキッチン。
「おい霧島!泡立て器はボールの中に入れとかないと、飛び散るだろうが!」
「中に……」
ガガガガガガ(先端が曲がる)
「何やってんだよ!!馬鹿力かよ!!!」
「…すみません」
「(ゴリラかよ………)」
「型にクッキングシートをつけようか」
グシャグシャグシャグシャグシャグシャ(最早型にゴミを入れているだけの真)
「真君、ほら、ハサミで切ると上手くつけれるよ」
既に切ったシートを渡す東仙。
「ホントだ……凄いです、東仙隊長」
「(人間の文化を知らないゴリラかよ……)」
なんとかオーブンに入れる所まで来たガトーショコラ。
「焼き上がるまで、お茶にしようか」
「………はい」疲れ切っている真。
「(人間界に疲れたゴリラ……)」
「霧島がこんか不器用なんてな、意外だぜ」
「……本当に不器用なんです。針に糸を通せないんです……」
「そんな事できなくても、真君は立派だよ」
「むしろ、何ならできるんだよ」
「………イノシシの、解体………」
「何でそこ!?」
「じゃあ今度、イノシシを狩りに行こうか」
「東仙隊長!?」
焼き上がり、冷ましたガトーショコラを切り分け、小袋に入れた真。
「できた………!」
「完成したね、真君」
「ありがとうございました、東仙隊長、檜佐木副隊長」
「それは、誰に贈るんだい?」
「これは………」
真は2つを手に取り、東仙と檜佐木に渡した。
「私に…?」
「いつも良くしてくださる東仙隊長と、今日お世話になった檜佐木副隊長へ」
真は照れながら笑った。
「いつもありがとうございます。渡す方に教わるのは、悩んだんですが…」
東仙は手に持っている小袋を、大事そう両手で包んだ。
「サプライズだね」
東仙も真に笑い返した。
「…で、あとのヤツは誰に渡すんだよ」
「あとは、更木隊長と草鹿副隊長と斑目三席と弓親さんと狛村隊長と射場副隊長と阿近さんにあげます」
では、と真はガトーショコラを抱えて颯爽と出ていった。
東仙と檜佐木は、渡された小包を持ったまま、真が出ていった扉を見ていた。
「一番目は、東仙隊長でしたね」
「そうだね…」
東仙は小袋を開く事なく、大切にしまったままにした。
「狛村隊長、先生。ハッピーバレンタイン、です」
「なんじゃ、ボン。お前が作ったんか?美味そうじゃのう……うん、美味い美味い。ありがとうよ」
「ふむ……ハイカラな物だ。ありがとう、霧島。後で美味しくいただくよ」
「更木隊長、草鹿副隊長、いつもありがとうございます。これ………」
「わーい!!ケーキだ!やったー!!まこまこありがとうーーー!!!」
「……おう」
「剣ちゃん!!ちゃんとありがとうって言うんだよ!」
「三席、弓親さん。バレンタインなので、これ」
「ま、真が作ったの?僕に?僕だけに?」
「馬鹿野郎、1つは俺んだ。ありがとな、霧島」
「大切に食べるよ!!ありがとう」
「阿近さん、これ、いつものお礼です」
「坊っちゃんが作ったのか?食えるんだろうな?」
「手伝って貰ったので、食べれますよ」
「冗談だ。ありがとな」
「乱菊には、これを…」
いつも乱菊に会う場所にて。
「こ…これ、あたしが欲しがってた帯……!!!」
「乱菊にきっと似合うよ。また、着て見せて」
「真ーーー!!」
乱菊は真に抱きついた。
「大好きよ!!!」
「私も、乱菊が大好きだよ」
「で、他の人には何あげたの?」
「作ったガトーショコラ」
「へー!すごいじゃない。で、アンタは何個もらったの?」
「……ダンボール2箱分」
「相変わらず凄いわね」
「皆律儀だよね。私も見習って作って見たんだけど、疲れた……もう二度とやらない」
翌日、朝一番で檜佐木は東仙にそう言った。
霧島という単語に、東仙が動揺したのが分かった。
「……修兵、もう、いいんだよ」
東仙は、優しい声で言った。檜佐木に顔を見せないように、背中を向けた。
「どこかで、諦めなければいけなかったんだ。だから、もう、このままで……」
「で、でも、こんな喧嘩別れみたいにしなくても………」
「こうでもしないと、諦めきれなかった。また会ってしまうと、未練が……」
檜佐木はそれ以上何も言わなかった。
東仙は自分の中で、もう1度気持ちを押し込んだ。
昨日、朽木ルキアが見つかったんだ。藍染様は、処刑と共に崩玉を取り出すおつもりだ。そうなれば、我々はもうここには居ない。だから、彼女とも、このまま会わなくていい。どうせ離れ離れになるのなら。
朽木ルキアの処刑が決定し、藍染の計画が動き出した。
旅禍の侵入前に、真が墓参りに旅立ったのは東仙にとって好都合だった。
もし真がいたら、更木と共に行動し、東仙と刃を交える可能性があったからだ。
そのまま二人は会うこと無く、東仙は消えた。
東仙の謀反は真にとってショックではあったが、それ以上にいろんな事で心が乱れ、東仙の事は頭の片隅にあるぐらいだった。
決戦が終わり、乱菊との関係が戻った時、真は頭を整理して、東仙の墓参りに行く事にした。
花を買って、聞いた場所に行くと、大きな影があった。
「…狛村、隊長……?」
狼の、澄んだ鋭い目が真を捉えた。
「霧島か。東仙の墓参りに来てくれたのか」
狛村は場所を空けて、真が花を置けるようにしてくれた。
真は花を手向け、手を合わせた。
「…来るのが遅くなって、申し訳ありません。東仙隊長……」
生前、謀反を起こす前の東仙の人柄を思い出しながら、真は拝んだ。
「……裏切った東仙に、手を合わせてくれるのか……」
狛村が小さく震える声で、真に向かって呟いた。真は立ち上がり、狛村を見た。
「私は、裏切る東仙隊長を実際に見ていないので、実感が無いのです。だから、裏切る前の東仙隊長しか知りません…」
「……お主がそう言うてくれれば、東仙も喜んでいるだろう」
「そんな事は…」
狛村は考えていた。
そうか…この娘は、東仙の気持ちを知らんのだな……。
狛村は、東仙が初めて真への気持ちを吐露した時の事を思い出した。
「……東仙は、我々を裏切った。だが、東仙の全てが嘘では無かった事を、覚えていてくれ」
「……はい」
真は狛村に一礼して、東仙の墓を後にした。
最後まで、真が東仙の気持ちを知ることは無かった。
終わり。
〜サイドエピソード、「バレンタイン」〜〜〜
料亭にて
「東仙隊長は、料理がお得意なんですね」
「ああ、好きなんだ」
「お菓子なども作られるんですか?」
「作るよ。何故だい?」
「お恥ずかしながら、私料理ができないんです」
「へえ、意外だね」
「もうすぐバレンタインなので、今年こそ挑戦してみたくて……」
(心中穏やかではない東仙)
「も、もし、ご迷惑でなければ、教えていただきたいのですが……」
「あ、ああ、いいよ。今度九番隊舎においで」
「あ!ありがとうございます!!」
〜次の日〜九番隊舎
「修兵、来てくれないか」
「はい。どうしました?」
「ガトーショコラを作って見たんだが、どれが美味しいか、食べて見てくれないか」
机に並ぶ、5種類のガトーショコラ。
「な…何でこんな、ガトーショコラが…?!」
「いや、今度、お菓子作りを教えてほしいという子がいてね。どのレシピにしようか悩んでいるんだ」
「へ、へえ……」
「これはバター入り、これはバターとメレンゲ、これは卵黄、これは………………」
(ゲンナリする檜佐木)
〜更に3日後〜九番隊舎
前掛けをした真「今日はよろしくお願いします」
深々とお辞儀。
「霧島!?」
「檜佐木副隊長…」
「お菓子作り教えてほしいって、お前なのか?!」
「あ、はい…。私、壊滅的に料理ができないので……」
「私と修兵でサポートするから、安心していいからね」
「ありがとうございます、東仙隊長」
(何となく東仙の心中を察する檜佐木)
〜調理開始〜
卵が割れない真。
「…………また潰れた……」
「真君、卵は机の角に当てて、割れ目に親指をいれるといいよ」
「机の角……」ゴシャッ
「「……………」」
「(力加減ができないゴリラかよ………)」
メレンゲが飛び散るキッチン。
「おい霧島!泡立て器はボールの中に入れとかないと、飛び散るだろうが!」
「中に……」
ガガガガガガ(先端が曲がる)
「何やってんだよ!!馬鹿力かよ!!!」
「…すみません」
「(ゴリラかよ………)」
「型にクッキングシートをつけようか」
グシャグシャグシャグシャグシャグシャ(最早型にゴミを入れているだけの真)
「真君、ほら、ハサミで切ると上手くつけれるよ」
既に切ったシートを渡す東仙。
「ホントだ……凄いです、東仙隊長」
「(人間の文化を知らないゴリラかよ……)」
なんとかオーブンに入れる所まで来たガトーショコラ。
「焼き上がるまで、お茶にしようか」
「………はい」疲れ切っている真。
「(人間界に疲れたゴリラ……)」
「霧島がこんか不器用なんてな、意外だぜ」
「……本当に不器用なんです。針に糸を通せないんです……」
「そんな事できなくても、真君は立派だよ」
「むしろ、何ならできるんだよ」
「………イノシシの、解体………」
「何でそこ!?」
「じゃあ今度、イノシシを狩りに行こうか」
「東仙隊長!?」
焼き上がり、冷ましたガトーショコラを切り分け、小袋に入れた真。
「できた………!」
「完成したね、真君」
「ありがとうございました、東仙隊長、檜佐木副隊長」
「それは、誰に贈るんだい?」
「これは………」
真は2つを手に取り、東仙と檜佐木に渡した。
「私に…?」
「いつも良くしてくださる東仙隊長と、今日お世話になった檜佐木副隊長へ」
真は照れながら笑った。
「いつもありがとうございます。渡す方に教わるのは、悩んだんですが…」
東仙は手に持っている小袋を、大事そう両手で包んだ。
「サプライズだね」
東仙も真に笑い返した。
「…で、あとのヤツは誰に渡すんだよ」
「あとは、更木隊長と草鹿副隊長と斑目三席と弓親さんと狛村隊長と射場副隊長と阿近さんにあげます」
では、と真はガトーショコラを抱えて颯爽と出ていった。
東仙と檜佐木は、渡された小包を持ったまま、真が出ていった扉を見ていた。
「一番目は、東仙隊長でしたね」
「そうだね…」
東仙は小袋を開く事なく、大切にしまったままにした。
「狛村隊長、先生。ハッピーバレンタイン、です」
「なんじゃ、ボン。お前が作ったんか?美味そうじゃのう……うん、美味い美味い。ありがとうよ」
「ふむ……ハイカラな物だ。ありがとう、霧島。後で美味しくいただくよ」
「更木隊長、草鹿副隊長、いつもありがとうございます。これ………」
「わーい!!ケーキだ!やったー!!まこまこありがとうーーー!!!」
「……おう」
「剣ちゃん!!ちゃんとありがとうって言うんだよ!」
「三席、弓親さん。バレンタインなので、これ」
「ま、真が作ったの?僕に?僕だけに?」
「馬鹿野郎、1つは俺んだ。ありがとな、霧島」
「大切に食べるよ!!ありがとう」
「阿近さん、これ、いつものお礼です」
「坊っちゃんが作ったのか?食えるんだろうな?」
「手伝って貰ったので、食べれますよ」
「冗談だ。ありがとな」
「乱菊には、これを…」
いつも乱菊に会う場所にて。
「こ…これ、あたしが欲しがってた帯……!!!」
「乱菊にきっと似合うよ。また、着て見せて」
「真ーーー!!」
乱菊は真に抱きついた。
「大好きよ!!!」
「私も、乱菊が大好きだよ」
「で、他の人には何あげたの?」
「作ったガトーショコラ」
「へー!すごいじゃない。で、アンタは何個もらったの?」
「……ダンボール2箱分」
「相変わらず凄いわね」
「皆律儀だよね。私も見習って作って見たんだけど、疲れた……もう二度とやらない」