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東仙編

 東仙の刃は更木に届く前に止められた。
 東仙は自分の刀を受け止めた相手を見て、言葉を失った。
 それは、自分が庇おうと、守ろうとした相手だった。
「何故…何故君が出てくるんだ……真君………」
「刀をお引きください。東仙隊長……。どんな理由であれ、更木隊長に刀を向ける者を、私は許すことはできません」
真の冷たい声が東仙を刺した。
 彼女は…怒っている。声も、霊圧も、彼女の全てがそう言っている。
「……刀を引かないのでしたら、私がお相手いたします」
真の手に力が籠もり、抑えていた霊圧を放出した。
「刀を引くのはお前だ、霧島」
気がつくと、真の首に切っ先が当たっていた。檜佐木が、知らないうちに刀を抜いて真に刀を向けていた。
「…東仙隊長は、お前をかばったんだぞ?何でそんな事ができる……」
「それはコッチのセリフだ、檜佐木。霧島から離れろ」
今度は檜佐木の首に、二本の刀が当たっていた。一角と弓親だ。
「真が悪いみたいな言い方だけど…先に刀を抜いたのは君の隊長だろう?どっちが悪い?」
暫くの沈黙のあと、東仙が刀を収めた。それを見届けた、真、檜佐木、一角と弓親の順番に刀を降ろしていった。
「……相応しくない行動をとって、すまなかった」
東仙は謝罪をすると、踵を返して、真達に背中を向けた。
「だが、更木の言葉は認められない」
「弱い死神が席官につけないのは、当たり前の話です。馴れ合いじゃないんですから」
反論したのは真だった。更木を含めた他の者は黙って見ていた。檜佐木だけは、真の肩を掴んで腹立ちを露わにした。
「東仙隊長の思いやりがわかんねえのか……!」
「……私は、十一番隊四席だ」
真の言葉にも苛立ちが籠もった。
「馴れ合いや感情で判断されたくない。私が十一番隊にいるうちは、更木隊長の判断に従います。それを否定しないでいただきたい。たとえ、東仙隊長であっても」
東仙の想いを、少なからず知っていた檜佐木は、今まで二人が築いてきた関係は何だったのかと、悔しさで真の肩を掴む手に力が籠もった。
「何でそんな簡単に、東仙隊長を見限れる……今までのは、何だったんだ……」
真の目は冷たく、檜佐木は、真の感情が分からなかった。
「それとこれとは別の話です。誰であろうと、自分の隊長に刀を向ける者は許さない。あなたもそうではないですか?檜佐木副隊長…」
淡々と感情を込めず話す真に、檜佐木は言い返せず、乱暴に手を離した。
「お前は、見込み違いだったみてえだな。もう少し、気持ちの分かる奴だと思っていたが」
「真に理想を押し付けないでくれる?」
弓親が出て来て、真の肩を抱いた。汚いものを見るかの様な目で檜佐木を睨み、真に近寄らせないように体で真を隠した。
「修兵、いいんだ、私が悪かったんだから」
檜佐木の後ろから東仙が言い、足早に歩いて行った。檜佐木は、弓親と真を一瞥すると、東仙を追って走って行った。
「訳わかんねえ奴だな。斬りてえなら、斬りゃいいのによ」
更木が東仙を見ながら面倒くさそうに言った。
「真に反論されてカッコついて無かったですけどね」
冷たい口調で弓親が言った。
 真は無表情で東仙と檜佐木を見つめていた。
「そーいや、霧島。お前、東仙隊長と何か関わりあんのか?」
一角が頭に手を当てて、真に聞いた。
「いえ、深くはないですか、時々一緒にご飯に行くくらいです」
「それは深いって言うんじゃねえの……?」


 東仙は黙って歩き続けた。檜佐木は、東仙を慰める言葉を探していた。
「……所詮、十一番隊です。東仙隊長の気持ち何て分からないんですよ」
東仙は、歩みを緩めて額に手を当てた。
「…私は……分かっていたんだ。更木に手をあげれば、彼女が怒る事くらい。私は愚かで、感情に振り回された……」
東仙の声はかすかに震えていた。後悔の念が嫌程檜佐木に伝わってきた。
「……もし、あれが、十一番隊でなければ、ちゃんと伝わったと思います」
「いや……私が大切に想うのは、十一番隊の彼女なんだ……だが、もう終わった。すまなかった、修兵、巻き込んで」
「そんなこと……」
東仙は檜佐木を見ることなく謝り、黙って歩き続けた。

 それから、東仙から真への連絡はピタリと止んだ。真からも連絡する事は無かった。
 九番隊で東仙の様子が変わることは無く、檜佐木以外、東仙に何かあったなんて考える者すらいなかった。
 だが、ある日檜佐木が隊主室に入ると、ボンヤリと考え込む東仙の姿があった。それ以来檜佐木は、自分に何かできないかと思うようになった。


 飲み会の帰り道、隊舎の机の上に原稿を置いたままだと思い出した檜佐木は、九番隊へ向かった。
 その途中、酔のせいで気が大きくなり、霧島に直接会いに行こうと思って、十一番隊に足を向けた。もし霧島が居なかったら、諦めよう、と。
 真はまだ居た。静まり返った十一番隊に一部屋だけ明かりがついており、中から真の霊圧が感じられた。
 檜佐木は酒の力を借りて、臆することなく歩を進め、明かりのつく部屋のドアを開けた。
「…………檜佐木副隊長………?」
部屋の中ではたった一人机に向かっていた真が、驚いて檜佐木を見た。
 檜佐木は座った目で真を見て、突然土下座した。
「悪かった!!!」
真はびっくりして立ち上がり、檜佐木に駆け寄った。檜佐木は頭を地面につけたまま、動かなかった。
「やめてください。突然どうしたんですか」
真も膝をついて、檜佐木の顔を覗き込んだ。
「この前、どう考えても、俺と東仙隊長が悪かった。お前を悪く言っちまって……」
「もう、済んだ事ですよ…十一番隊の私が、いちいち喧嘩を気にする訳無いじゃないですか」
「……なら、東仙隊長に連絡してあげてくれ」
頼む!と檜佐木は改めて地面に頭をつけた。真は、ポカンと口を開けて黙った。
「…私から連絡を差し上げた事はありません」
「東仙隊長はまだ気にしているんだ、お前に嫌われたと思っている」
「私からはできません。私はただの四席です。隊長に私から連絡なんて……」
「なら、霧島はもう気にしてないって、言ってもいいか?」
檜佐木は顔をあげて、悲痛な顔で真を見た。
「……え、ええ、構いませんが……」
「そうか!なら良かった!!!」
檜佐木は嬉しそうに立ち上がると、颯爽と部屋を後にした。
 真は過ぎ去った嵐を、ポカンと見ていた。
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