東仙編
ある日、東仙は狛村を個室の料亭に誘った。
「貴公が食事に誘うとは珍しいな」
席につきながら狛村が言った。まだ鉄笠は被ったままだ。
「すまない狛村。君にしか話せない事なんだ」
「つれない事を言うな。貴公と儂の仲ではないか」
「…そうだな」
二人は飲み物と料理を一通り頼むと、女中に部屋の扉を開けないようにとよくよく言い聞かせ、食事を始めた。
「して、話とはなんだ」
東仙のお猪口に酒を注ぎながら、狛村が聞いた。東仙は言い淀んでいるのを隠すように、狛村に注ぎ返した。
「……笑わないでほしいんだ」
「儂が貴公を笑ったことがあるか」
東仙は口元をあげて軽く笑うと、酒を一気に飲み干した。
「私は………年甲斐も無く、恋……をしてしまったようなんだ…」
東仙は気まずそうに俯き、お猪口を持つ手に力を入れた。言い訳の言葉が口から次々と出た。狛村は黙ったまま、東仙を見ていた。
「だが、どうこうしようなんて思っていないんだ、今のまま良好な関係のままでいたいと思っている。ただ、自分一人で抱えるのが辛くなってきてしまって……君に聞いてもらいたかっただけなんだ」
「東仙、何も恥ずかしい事では無いではないか」
東仙を落ち着かせるように、狛村は落ち着いた口調で東仙に言い聞かせた。
狛村の言葉に東仙の言い訳が止み、ありがとう、と小さく呟いた。
「貴公をそんなにもおもい悩ます女性だ、よっぽどの人物なのだろうな」
狛村は酒を一口飲み、料理を一口つまんだ。東仙が話し出すのをゆっくりと待っていた。
「彼女は、聞き上手なんだ。それに、聡明で優しくて、人の為に動けるし…」
「もったいぶるな。誰なんだ。死神か?」
すると、東仙の顔がここに来て初めて曇った。
「……思いが敵わない相手か?」
「……いや、そうじゃない。彼女は……十一番隊なんだ」
狛村の手が止まった。今までの東仙と十一番隊の関係を思い出し、困惑した。
「それは驚いたな。貴公が、更木の部下に気を許すか」
「自分でも驚くよ。だが、彼女は特別だ」
「あまり理想化するのは良くないが、そう思わせるモノがあるのだろうな。名は何という?」
「第四席の、霧島真君だ」
「霧島か。ああ、それなら頷ける」
「知っているのかい?」
東仙は狛村がいる場所に顔を向けた。狛村は笑顔で、東仙に相槌をうった。
「鉄左衛門が、十一番隊時代に目をかけてやっていたそうでな。時々七番隊に来るんだが、礼儀正しく、気持ちの良い少女だな。何故更木の元にいるのか不思議なくらいだ」
私もそう思う、と東仙も笑って共感した。東仙は憂いを帯びた表情で、空のお猪口に目を向けた。
「なあ……狛村、彼女はどんな姿をしている?」
ハッとして狛村は東仙を見た。
東仙はゴーグルを取り、盲目の目を手で覆った。
そうか、愛する女性の姿を見る事が叶わぬのは、貴公にはよほど辛い事なのだな、東仙………。
狛村は目をつぶり、霧島真の姿を思い出した。
「丈は、およそ5尺半程か……綺麗な黒髪を前髪から後ろで引っ詰めている。とても整った顔をしているが、姿だけで言えば女性らしいとは言えないな。だが、所作にはどこか気品がただよっている」
「ああ、そうか……ありがとう」
「……いつか、見えるとよいな、その目で」
「そうだな」
狛村に話した事で、東仙の心は随分楽になった。 しかし、自分はとんだ茶番をしたものだと思う。裏切る相手に心中を吐露するとは……。良いように利用したな……。
それからも、東仙と真の関係は変わらなかった。だが、気持ちを秘めれば秘めるほど、東仙の心は真を求めた。
朽木ルキアが行方不明になり、藍染が崩玉の在り処を探し始めたあたり、別れの日が近いと確信してからは更に思いは強まった。
ある日、東仙が檜佐木と外を歩いていると、前から更木の一行がやってきた。
最近は、更木を見ると腹の底が燻るようになってしまった。真を囲っている更木への嫉妬だと分かってはいたが、感情はコントロールできなかった。ただ黙って、更木が視界から消えるのを待つしか無かった。
ふと見ると、いつも後ろにいる斑目と綾瀬川に加えて真がいるのが分かった。更木が真に何か話しをしている。東仙は二人の会話を聞かないように、軽く会釈だけして通り過ぎようとした。
すれ違いざまに、斑目と綾瀬川と真が東仙に挨拶をし、やちるが友達のように声をかけてきたが、東仙は軽く対応だけして早足に歩いた。
だが、真が更木と話す声が無意識に耳に入ってきた。
「あんな弱えやつらに時間ばっかり割くんじゃねえよ。お前が弱くなったら、代わりなんざいくらでもいるからな」
東仙の足が止まった。
それは、真君の部下の事か?彼女がどんな思いで班を作り、稽古をしているのか、奴は知っているのか……?
「…待て更木」
東仙が振り返り、怒りの表情で更木に向いた。
「あ?何だよ。テメェから話しかけてくるなんて珍しいな、何の用だ」
更木も喧嘩腰に東仙を見据えた。他の部下たちも東仙を見た。
「今の会話はなんだ。それが、自分を慕う部下への言葉か?」
「テメェが口を出す事じゃねえよ。霧島は俺の部下だ。俺が好きなようにして何が悪い」
真が自分のモノだと言う発言に、東仙の腸が煮えくりかえった。自分にはどうしようも無い感情が、東仙を突き動かした。
「奢りがすぎるぞ更木!!!それが上に立つ者の言葉か!!」
気づけば東仙は刀を抜き、更木に向かって振り下ろしていた。
だが、東仙の刃は更木に届く前に止められてしまった。
「貴公が食事に誘うとは珍しいな」
席につきながら狛村が言った。まだ鉄笠は被ったままだ。
「すまない狛村。君にしか話せない事なんだ」
「つれない事を言うな。貴公と儂の仲ではないか」
「…そうだな」
二人は飲み物と料理を一通り頼むと、女中に部屋の扉を開けないようにとよくよく言い聞かせ、食事を始めた。
「して、話とはなんだ」
東仙のお猪口に酒を注ぎながら、狛村が聞いた。東仙は言い淀んでいるのを隠すように、狛村に注ぎ返した。
「……笑わないでほしいんだ」
「儂が貴公を笑ったことがあるか」
東仙は口元をあげて軽く笑うと、酒を一気に飲み干した。
「私は………年甲斐も無く、恋……をしてしまったようなんだ…」
東仙は気まずそうに俯き、お猪口を持つ手に力を入れた。言い訳の言葉が口から次々と出た。狛村は黙ったまま、東仙を見ていた。
「だが、どうこうしようなんて思っていないんだ、今のまま良好な関係のままでいたいと思っている。ただ、自分一人で抱えるのが辛くなってきてしまって……君に聞いてもらいたかっただけなんだ」
「東仙、何も恥ずかしい事では無いではないか」
東仙を落ち着かせるように、狛村は落ち着いた口調で東仙に言い聞かせた。
狛村の言葉に東仙の言い訳が止み、ありがとう、と小さく呟いた。
「貴公をそんなにもおもい悩ます女性だ、よっぽどの人物なのだろうな」
狛村は酒を一口飲み、料理を一口つまんだ。東仙が話し出すのをゆっくりと待っていた。
「彼女は、聞き上手なんだ。それに、聡明で優しくて、人の為に動けるし…」
「もったいぶるな。誰なんだ。死神か?」
すると、東仙の顔がここに来て初めて曇った。
「……思いが敵わない相手か?」
「……いや、そうじゃない。彼女は……十一番隊なんだ」
狛村の手が止まった。今までの東仙と十一番隊の関係を思い出し、困惑した。
「それは驚いたな。貴公が、更木の部下に気を許すか」
「自分でも驚くよ。だが、彼女は特別だ」
「あまり理想化するのは良くないが、そう思わせるモノがあるのだろうな。名は何という?」
「第四席の、霧島真君だ」
「霧島か。ああ、それなら頷ける」
「知っているのかい?」
東仙は狛村がいる場所に顔を向けた。狛村は笑顔で、東仙に相槌をうった。
「鉄左衛門が、十一番隊時代に目をかけてやっていたそうでな。時々七番隊に来るんだが、礼儀正しく、気持ちの良い少女だな。何故更木の元にいるのか不思議なくらいだ」
私もそう思う、と東仙も笑って共感した。東仙は憂いを帯びた表情で、空のお猪口に目を向けた。
「なあ……狛村、彼女はどんな姿をしている?」
ハッとして狛村は東仙を見た。
東仙はゴーグルを取り、盲目の目を手で覆った。
そうか、愛する女性の姿を見る事が叶わぬのは、貴公にはよほど辛い事なのだな、東仙………。
狛村は目をつぶり、霧島真の姿を思い出した。
「丈は、およそ5尺半程か……綺麗な黒髪を前髪から後ろで引っ詰めている。とても整った顔をしているが、姿だけで言えば女性らしいとは言えないな。だが、所作にはどこか気品がただよっている」
「ああ、そうか……ありがとう」
「……いつか、見えるとよいな、その目で」
「そうだな」
狛村に話した事で、東仙の心は随分楽になった。 しかし、自分はとんだ茶番をしたものだと思う。裏切る相手に心中を吐露するとは……。良いように利用したな……。
それからも、東仙と真の関係は変わらなかった。だが、気持ちを秘めれば秘めるほど、東仙の心は真を求めた。
朽木ルキアが行方不明になり、藍染が崩玉の在り処を探し始めたあたり、別れの日が近いと確信してからは更に思いは強まった。
ある日、東仙が檜佐木と外を歩いていると、前から更木の一行がやってきた。
最近は、更木を見ると腹の底が燻るようになってしまった。真を囲っている更木への嫉妬だと分かってはいたが、感情はコントロールできなかった。ただ黙って、更木が視界から消えるのを待つしか無かった。
ふと見ると、いつも後ろにいる斑目と綾瀬川に加えて真がいるのが分かった。更木が真に何か話しをしている。東仙は二人の会話を聞かないように、軽く会釈だけして通り過ぎようとした。
すれ違いざまに、斑目と綾瀬川と真が東仙に挨拶をし、やちるが友達のように声をかけてきたが、東仙は軽く対応だけして早足に歩いた。
だが、真が更木と話す声が無意識に耳に入ってきた。
「あんな弱えやつらに時間ばっかり割くんじゃねえよ。お前が弱くなったら、代わりなんざいくらでもいるからな」
東仙の足が止まった。
それは、真君の部下の事か?彼女がどんな思いで班を作り、稽古をしているのか、奴は知っているのか……?
「…待て更木」
東仙が振り返り、怒りの表情で更木に向いた。
「あ?何だよ。テメェから話しかけてくるなんて珍しいな、何の用だ」
更木も喧嘩腰に東仙を見据えた。他の部下たちも東仙を見た。
「今の会話はなんだ。それが、自分を慕う部下への言葉か?」
「テメェが口を出す事じゃねえよ。霧島は俺の部下だ。俺が好きなようにして何が悪い」
真が自分のモノだと言う発言に、東仙の腸が煮えくりかえった。自分にはどうしようも無い感情が、東仙を突き動かした。
「奢りがすぎるぞ更木!!!それが上に立つ者の言葉か!!」
気づけば東仙は刀を抜き、更木に向かって振り下ろしていた。
だが、東仙の刃は更木に届く前に止められてしまった。