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東仙編

「前に聞きそびれたんだが、君はどうして、十一番隊で班を作りたかったんだい?」
切子ガラスのお猪口を傾けながら、東仙が聞いた。
 真は何かを思い出すような仕草をしてから、フッと笑った。
「私がしてもらった事をしているだけです」
「してもらった事?」
「……十一番隊は、未だに強い男尊女卑があります。そんな中で、私に目をかけて鍛えてくださった方、私を見つけてくれた方がいます。だから、同じように、十一番隊にいる彼女達に機会を与えたかった……私が鍛えるなんて、思い上がりなのは、分かっていますが」
真は静かに、だがハッキリとした声で語った。だが、東仙は納得出来なかった。
「なぜ、君も、君の班員も十一番隊にこだわる?他の隊なら、そんな苦労もしなくて済むだろうに……」
真の目が自分を見たのが、東仙にもわかった。真っ直ぐで、鋭く、迷いの無い目だ。
「他の十一番隊士と同じですよ。戦いが好きなんです。強くなりたい」
真は、東仙がどう返事をするか待っているようだった。東仙は、頭の中で言葉を整理した。疑問と、真への好感を的確に伝えるために。
「……君は、少し話しただけだが……聡明で、優しさのある人だと感じた。強くなるには、何か、理由があるように思えるが、違うかい?」
真は黙った。真の霊圧が複雑に絡み合い、東仙は真の感情が読み取れなくなった。
「理由なんてありません。私は、更木隊長のように強くなりたい。それだけです」
東仙には、真がワザと自分から嫌われようとしている様に思えた。自分は、何かこの子に嫌われる様な事をしでかしたのだろうか?
「霧島君……私は更木とは反りが合わない」
真の視線が東仙から外れた。緊張しているのが分かった。
「だが、だからと言って、それに追従する者全てを悪だとは思わない」
まだ真は東仙を見ない。敬愛する人間を悪く言われれば、そうだろう。東仙は言葉を続けた。
「私は……その、君と友人になりたいんだ」
嫌われたくない一心で、間抜けな事を言ったと、自分に呆れた。丁寧で礼儀正しく、優しさに溢れた彼女に嫌われたくなかった。
「東仙隊長は、隊長です。私は、ただの四席です……それは……」
真は口籠った。直接的に突き放すのは、憚られるのだろう。
「何か気に触る事を言ってしまったかな……更木の事は申し訳無いが、嘘を言うのも悪いかと……」
「いえ、更木隊長は敵の多い方ですから……。その……すみません。私はてっきり、東仙隊長は更木隊長の元にいるのを辞めろと言われるかと………」
少し混乱しています、と真は続けた。緊張を解くように、彼女は息を吐いた。
 東仙としては、真を更木の元に置いておくのは宝の持ち腐れだと思っていたが、本人がこう言っては勧誘できなくなった。
「でも、友人は、ちょっと難しいです」
真は困ったような、でも嬉しそうな笑顔で笑った。心が温かくなるような霊圧だった。
「いや、そうだな……いきなりすまない。だが、私は、君を尊敬している」
「お世辞だとしても……勿体ないお言葉です。」
「お世辞じゃない。君といると心が落ち着くんだ」
真は流石に困って、肩を縮込めて下を向いた。返答に困って黙ってしまった。
「……長話で手が止まってしまったね。さあ、食べよう、冷めてもきっと美味しい」
そうして、二人はまた食事を再開した。
 それからは、休日に何をしているかとか、食べ物は何が好きかとか、何でも無い話をして終わった。
 真は少なからず畏まって緊張していたが、東仙の優しさのおかげで、少なからず楽しい時間になった。
 東仙は、真の言葉や気遣い、時折見せる女性らしい柔らかな雰囲気に、彼女への興味が大きくなった。更木には、彼女を大切に扱ってほしいと、強く願った。
 食事を終えた二人は帰路についた。
「ご馳走していただいて、ありがとうございました」
「いや、私から誘ったんだ。それに、上の者が下の者に奢るのは当然だ」
「……楽しかったです」
「そう思ってくれたのなら、良かった」
「…私、友達が少ないので、気の利いた話ができなくてすみませんでした」
「そんな事は無い、君は聞き上手だった」
真は黙った。だが霊圧は変わらず温かな感じのままだった。
 彼女は今、どんな表情なんだ。笑ってくれているだろうか……。
 東仙は自分の盲目が悔しかった。真の顔が見たかった。
 暫く歩いた所で真が立ち止まった。
「私、こちらですので……今日は本当にありがとうございました」
真が深くお辞儀をした。
「もう一度言うが、私は君を尊敬しているし、友達になれたらと思っている。もし君が嫌でなければ、また一緒に食事をして話をしてくれないか」
東仙は真っ直ぐ真を見て、ハッキリとした口調で言った。
 真は、返答を迷うように視線を泳がせてから東仙を見た。
「……私といても、つまらないと思いますが、隊長と話す機会をいただけるのは、光栄です」
「君はもう少し、自分に自信をもった方がいい」
東仙に言われ、真は小さく、頑張ります、と言った。
 二人は連絡先を交換して、別れた。

 それから二人は、たまに食事をするようになった。全て東仙からの誘いだったが、真は快く応じた。
 ただ食事をして解散するだけだが、東仙には幸せな時間だった。真の優しさに、毎度心がほぐれた。好感が好意に変わるのに時間はかからず、東仙はしばらくして自分の恋心に気がついた。
 だが、気持ちが膨れ上がるにつれて、罪悪感が胸を焦がして行った。

 私は裏切るのだ。彼女も、御艇も全て……。
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