羽化にはまだ早い(弓親)
9.親友
真と乱菊は秘密の親友だった。どちらかが辛くなった時に、この場所で会う。お互い以外の存在に泣いている事を知られたくなかった二人は、あえてお互いの仲を隠していた。
乱菊は、真の袖を強く握り、嗚咽を漏らしながら泣いた。
「ギンを…引き止め…られな…かった」
真は、そっか、と言い、優しく乱菊の体を包むだけだった。乱菊は後悔の言葉を吐き出し続け、真は何も言わず受け止めるだけだった。
二人の暗黙の了解は、アドバイスも慰めの言葉もかけない事だった。寂しさや孤独を吐き出したいだけ吐き出して、片方はずっと付き合う。そんな関係を二十年以上続けてきた。
どちらかが異性だったら良かった、とお互いに表に出さなくても、何度も思った。肌を合わせられれば、言葉を掛けられない苦しみも少しは和らぐと思った。だが、二人は同性で、同性と体は合わせられなかった。それでも、お互いに離れる事はできずに、代わりを探す事もなく、関係は続いた。本当はただの女友達に成りたかったが、泣く場所が無いと、お互いに潰れてしまいそうで、人前で泣けなかった二人は、ただの友達に成れなかった。
30分程して乱菊の呼吸が落ち着いてきた。しかし、いつも綺麗に化粧をされた目は、真っ赤に腫れていた。
「あー、目が熱い…」
化粧を気にして、乱菊は舌まぶたを中指で拭いた。だが、一度決壊した涙腺はなかなか修復されないようだ。
「乱菊…座ろう」
木を背もたれにして真が座ると、乱菊は真の膝を枕に横になった。真から顔が見えないように、背を向けて。二人で同じ景色を見た。
「夜までに、目、治るといいね…」
「…そうね」
乱菊は真の手を取り、自分の目の上に乗せた。
「真、夜飲み会来てよ」
「大勢の中で話すの好きじゃないんだよ」
「ね、お願い。私がムリヤリ連れてきたって形にするから」
「そういう‘’体‘’もう止めよう。乱菊が悪く思われる」
「真がいないと、泣いちゃいそうなのよ」
私じゃなくて、市丸隊長だよ、と思ったが、言わない。二人の間にアドバイスは不要なのだ。真が乱菊の顔にある手を退かすと、涙が浮かぶ乱菊の目があらわになった。
「…今日だけだよ…」
「ありがとう、真。大好きよ」
乱菊が横になったまま、真の腰に抱きついた。どうしてその言葉を、市丸隊長に言えないのだろう。男女の関係は真には分からないが、複雑で難しいものだと思った。
「ねえ、最近、あんた、ここに来ないじゃない?」
真の腰から少し顔を離して、乱菊が聞いた。
乱菊、私、君以外に涙を受け止めてくれる人が出来たんだよ。もう、乱菊だけに感情を押し付ける必要無くなったよ。そう言いたかったが、言えなかった。自分は乱菊に押し付けられている何て、思っていない。
「私はもう必要無い?」
乱菊が真の顔を見上げた。真は悲しそうな顔をした。
「そんな事無いよ」
乱菊は真の顔を見て、言ってはいけない事を言ってしまったと後悔した。
「ごめん…泣かなくていいのは、良いことよね」
乱菊は起き上がり、真の隣に座り直した。真の肩に頭を乗せると、大きく息を吸った。
「十一番隊は、真を認めてくれたのね」
乱菊の顔は見えなかったが、きっと寂しい顔を
していると思った。逆の立場だったら、真は置いて行かれた気分になったと思ったからだ。
「全員じゃないけどね」
「副隊長になってもそんなもんよ」
それから二人は話さず、乱菊の目が治るのを待った。何となく、今までの関係から変わってきたのをお互いに感じていた。
乱菊の目が治って、化粧を直した所で、お昼ご飯を食べに行った。その時には、からかう乱菊と嫌がる真を演じた。お互いの居場所を守る為に、二人は嘘を付き続けた。
真と乱菊は秘密の親友だった。どちらかが辛くなった時に、この場所で会う。お互い以外の存在に泣いている事を知られたくなかった二人は、あえてお互いの仲を隠していた。
乱菊は、真の袖を強く握り、嗚咽を漏らしながら泣いた。
「ギンを…引き止め…られな…かった」
真は、そっか、と言い、優しく乱菊の体を包むだけだった。乱菊は後悔の言葉を吐き出し続け、真は何も言わず受け止めるだけだった。
二人の暗黙の了解は、アドバイスも慰めの言葉もかけない事だった。寂しさや孤独を吐き出したいだけ吐き出して、片方はずっと付き合う。そんな関係を二十年以上続けてきた。
どちらかが異性だったら良かった、とお互いに表に出さなくても、何度も思った。肌を合わせられれば、言葉を掛けられない苦しみも少しは和らぐと思った。だが、二人は同性で、同性と体は合わせられなかった。それでも、お互いに離れる事はできずに、代わりを探す事もなく、関係は続いた。本当はただの女友達に成りたかったが、泣く場所が無いと、お互いに潰れてしまいそうで、人前で泣けなかった二人は、ただの友達に成れなかった。
30分程して乱菊の呼吸が落ち着いてきた。しかし、いつも綺麗に化粧をされた目は、真っ赤に腫れていた。
「あー、目が熱い…」
化粧を気にして、乱菊は舌まぶたを中指で拭いた。だが、一度決壊した涙腺はなかなか修復されないようだ。
「乱菊…座ろう」
木を背もたれにして真が座ると、乱菊は真の膝を枕に横になった。真から顔が見えないように、背を向けて。二人で同じ景色を見た。
「夜までに、目、治るといいね…」
「…そうね」
乱菊は真の手を取り、自分の目の上に乗せた。
「真、夜飲み会来てよ」
「大勢の中で話すの好きじゃないんだよ」
「ね、お願い。私がムリヤリ連れてきたって形にするから」
「そういう‘’体‘’もう止めよう。乱菊が悪く思われる」
「真がいないと、泣いちゃいそうなのよ」
私じゃなくて、市丸隊長だよ、と思ったが、言わない。二人の間にアドバイスは不要なのだ。真が乱菊の顔にある手を退かすと、涙が浮かぶ乱菊の目があらわになった。
「…今日だけだよ…」
「ありがとう、真。大好きよ」
乱菊が横になったまま、真の腰に抱きついた。どうしてその言葉を、市丸隊長に言えないのだろう。男女の関係は真には分からないが、複雑で難しいものだと思った。
「ねえ、最近、あんた、ここに来ないじゃない?」
真の腰から少し顔を離して、乱菊が聞いた。
乱菊、私、君以外に涙を受け止めてくれる人が出来たんだよ。もう、乱菊だけに感情を押し付ける必要無くなったよ。そう言いたかったが、言えなかった。自分は乱菊に押し付けられている何て、思っていない。
「私はもう必要無い?」
乱菊が真の顔を見上げた。真は悲しそうな顔をした。
「そんな事無いよ」
乱菊は真の顔を見て、言ってはいけない事を言ってしまったと後悔した。
「ごめん…泣かなくていいのは、良いことよね」
乱菊は起き上がり、真の隣に座り直した。真の肩に頭を乗せると、大きく息を吸った。
「十一番隊は、真を認めてくれたのね」
乱菊の顔は見えなかったが、きっと寂しい顔を
していると思った。逆の立場だったら、真は置いて行かれた気分になったと思ったからだ。
「全員じゃないけどね」
「副隊長になってもそんなもんよ」
それから二人は話さず、乱菊の目が治るのを待った。何となく、今までの関係から変わってきたのをお互いに感じていた。
乱菊の目が治って、化粧を直した所で、お昼ご飯を食べに行った。その時には、からかう乱菊と嫌がる真を演じた。お互いの居場所を守る為に、二人は嘘を付き続けた。