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羽化にはまだ早い(弓親)

7.役立たず

 地獄蝶が来て、急いで靜霊廷に戻った時には、ほぼ全てが終わっていた。
 部下が教えてくれたのは、藍染隊長と東仙隊長と市丸隊長が謀反したこと。朽木ルキアの処刑は、乗っ取られた四十六室の支持で、朽木ルキアは生きていること。数名の隊長、副隊長が重傷なこと。そして、十一番隊のほとんどと、隊長、三席、五席が旅禍に負けたことだった。
 今は双極周辺で四番隊が怪我人の救護を行っているらしい。
 真は自分が情けなくて、部下に深く頭を下げた。
「済まない。本当に…。私、何もできなくて」
「四席、謝らないでください!四席は悪く無いです!」
「そうですよ。結果的に旅禍は悪く無かったし、誰も謀反に気づけなかったし。隊長達もよく分からない行動するし」
はっとして頭を上げる。
「そうだ。隊長は?」
「それがあ、隊長は狛村隊長と東仙隊長と戦ったっぽくて、三席は射場さんと遊んでるし、五席は檜佐木副隊長と戦ってたっぽいよね?」
霊感探知に長けた部下が周りに確認する。周りも、うん、と頷く。
「今は隊長と五席が一緒にいます」
そうか、ありがとう、と告げ、更木の霊圧を探して走った。
 
 更木の霊圧のおかげで、わりかし早く二人を見つけられた。
「霧島か。何やってんだ。お前はまだ休みだろ」
駆けつけた真を見て更木が言った。更木は体に包帯をしており、更に新しい傷もあった。弓親は…何故か肌がツヤツヤしている。
「隊長…すみません。私、こんな時に…」
「馬鹿野郎。お前が居たところで、何も変わらねえ」
「………」
頼りにされていないと言われて悔しくなった真は、何も言い返せずに黙った。
「真、あのね。旅禍には、一角も、更木隊長も、朽木隊長も負けたんだ。それでも何か出来たって言える?」
弓親が座ったまま、真を見上げて言った。
「…言えません…」
「ごちゃごちゃ考えんな、めんどくせぇ。オラ、帰るぞ。今日はもう仕事もねえだろ」
更木がよいしょと立ち上がり、隊舎に向かって歩き出した。弓親も更木に付いていく。真も仕方なく、二人に付いて行った。
「全く。真は真面目過ぎるんだよ。真の字は真面目の真だもんね」
弓親が真の頭をぐちゃぐちゃにした。真は前にツンのめり転びそうになった。
「あー!剣ちゃん達みーけっ!」
上から声がして、更木の肩にやちるが乗った。
「副隊長…よかった。ご無事で」
「やちるは見てただけだ」
「ひどーい!いっちー探したじゃん!」
「いっちー?」
「旅禍の少年だ。黒崎一護」
弓親が答えてくれた。
「やちる。一護は生きてるか?」
「うん!お腹パッカーンて切られたけど、ぷるるんが治してくれたよ」
「そうか、治った時が楽しみだな」
更木はニヤッと笑った。それを見た真は、隊長の満足いく戦いが出来たんだな、と羨ましく思った。ぷるるんは誰かは、もうどうでも良くなっていた。
 4人で隊舎までの道程を歩いていると、砕蜂隊長が追ってきた。
「更木!!」
「あ?」
「貴様!何故双極まで来ない!空羅が聞こえただろう!」
もの凄く怒っていらっしゃる。
「聞こえても、場所がよく分からねえから行かなかったんだよ。悪いか」
「悪いわ!!!」
二人のやり取りが終わるまで待とうとしたが、弓親が行くよ、と合図したため、喧嘩に第三者が入れない事を確認して、真もその場を後にした。
 
 その後、弓親とご飯を食べながら詳しい事を色々聞いた。聞けば聞くほど、黒崎と一戦交えられなかったのが悔やまれた。
「多分今はもっと強くなっているだろうね」
斑目三席が羨ましいです、と言うと、弓親も、僕もだよと笑った。聞けば、弓親の相手は、どうにも好きになれないタイプだったらしく、弓親は苦々しく語っていたが、どう負けたかまでは頑なに言わなかった。
 弓親と別れて、真は部屋に行き、風呂に入った。そして本棚から、指南書数冊と、席官や隊長格の戦いを記したノートを取り出し、夜遅くまで読んだ。隊長や一角がどんな戦いをしたのか想像したが、どれも知っている戦いをなぞるばかりだった。そして本を広げたまま寝てしまった。
 朝になり、着替えて隊舎に行くと、机の数歩前で嫌な隊士に道を塞がれた。
「あれ〜?緊急時に居なかった役立たずが、何でまだ隊舎にいるんだ?」
「隊長達が命張ってたのに、自分はご旅行とは良い身分だな」
囲まれ、口々に嫌味を言われ続けた。こいつらにも、僅かだが怪我の跡がある。こいつらも、旅禍と戦えたのか。
「緊急時に居なかったのは、私の判断間違いだ。休暇を貰う時期を誤った。何も出来なくて悪かった」
 謝罪をして席につこうとしたが、肩を捕まれてしまった。
「悪いと思ってんなら、体で払って貰おうかぁ?」
ニヤニヤと笑いながら、弱みに付け込もうとしてくる。この男達は真が反論しない事を知っている。
「…分かった。全員いっぺんに相手出来るか分からないが、努力しよう」
真はそう言い、場所を移そう、と隊舎から出ていった。男達は、流石に隊舎じゃな、とか言いながら、まだニヤついて、真について言った。
 
 着いた先は道場だった。中には一角がおり、数人相手に稽古をしていた。
「斑目三席、稽古中にすみません」
真が中にいる一角に声をかけた。男達は、意味が違う、まずい、など言っているが、真には届いていなかった。
 一角が最後の一人をふっ飛ばして、真に向き直った。
「霧島か、帰ってくるには早えんじゃねーか」
「昨日役に立てなかった謝罪に、今から後ろにいる全員を相手したいんですが、道場使っていいですか?」
 一角は真を見、視線を移して後ろの男達を見た。男達は一角に睨まれて(睨んでない)、体を硬直させ、冷や汗をかいていた。
「…あいつらから申し出たのか?」
「はい。体で払えと言われたので」
いや、こいつアホか。と思ったが、一角はそれについては何も言わず、使え、と言って、自分は道場の隅にドカッと座り汗を拭いた。一角にやられた隊士達も、ヨロヨロと隅に集まった。あいつら馬鹿だな、とコソコソ言っている。
 真は木刀を持って、道場の中央に向かった。しかし、男達はまごついて、入って来ない。見かねて、一角が恫喝した。
「早く入れ!!更木隊が勝負に躊躇すんじゃねえ!!」
男達は、ひっと言って、重い足取りで道場に入って来た。
「い、一気に行くぞ…どうせ女一人だ…」
一人がそう言うと、全員が一斉に真に襲いかかった。だが、襲うタイミングの少しのズレから、ほんの一瞬のスキをついて、真は次々と刀を奮っていった。
 一人にじっくり時間を掛けられないため、長期戦になった。しかし、長期戦は真の得意な戦いだったため、次第に一人、また一人と倒れていった。
 真が戦っているとき、道場の扉が開いて、少年と少女が入ってきた。少年は、死白装を着ているから死神らしいが、少女は着物を着ている。恋人だろうか?
「おう、一護に、織姫ちゃんじゃねーか」
一角に挨拶した二人に対して、一角が名前を呼んだ。その名を聞いて、真の顔がそちらを向く。真の視線が逸れているのに気づいた三人が、死角を狙って攻撃してきたが、真は後ろを見ないでさっさと片付けた。あの少年が、黒崎一護なのか知りたい。しかし、残りの男達が真を離さなかった。くそっまだ続けるのか、早く終われ、と真の腕に力が入った。
「今は何やってんだ?」
「稽古だ。あの女がうちの四席だ」
「女が?」
一護は驚き、織姫はすごーいと言った。その時弓親が道場に入ってきて、三人に合流した。一護と織姫に挨拶をすると、真を見て、また一護を見た。
「真は朝からの元気だねえ?黒崎は怪我もういいの?」
「ああ、もう元気なんだけどよお、井上が許してくれねーんだよ」
「黒崎君目を離すと、すぐ稽古しようとするから、見張りに来ましたー!」
やっぱりあれが黒崎一護か。このチャンスを逃せないと思った真は、落ちていた木刀を拾い、二本を使って最後の四人を全員気絶させた。
 一角が終わったようだな、と言うと、一護と織姫は床に転がっている強面の男達を見てから、真をマジマジと見た。
 息を乱さない真が、一護に近づいてきた。目がギラギラしており、一護は少し気圧された。
「君が、黒崎一護か?」
「お、おお…」
「私と…」
「待て霧島」
真の気持ちを感じた一角が、真を止めた。
「一護はまだ全開じゃねえんだ。まだ止めとけ」
そうなのか、駄目なのか…。これじゃあ、生殺しだ。あの黒崎が目の前にいるのに。
「君たちは、まだこっちにいますか?」
ジリジリする気持ちを押さえて、真が一護と織姫に聞いた。
「ああ、穽界門ができるまではいるぜ」
「もし、それまでに、黒崎君、君の体が万全になったら、私と手合わせしてくれませんか」
一護は、は?と焦っていた。織姫は心配そうに見ている。
「女と行っても、剣八の隊員ってこんななんだな」
いいぜ、と一護は真に手を差し出した。真はほっとして、ありがとうと言いながら手を差し出した。楽しみができた。
「自己紹介が遅れたね。私は霧島真、四席だ」
「黒崎一護だ」
「井上織姫です。よろしくね、まことちゃん」
織姫が屈託の無い笑顔で手を差し出した。

まこと、ちゃん…?

今まで呼ばれた事の無い呼称に、固まった真と、吹き出す一角と弓親がいた。
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