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羽化にはまだ早い(弓親)

 真が入院している間、真の斬魄刀である天領は特別な箱に入れられ、十二番隊に預けられていた。
 
 入院最終日、平子が病室にやって来た。真はベッドの端に腰掛けて、平子を迎えた。
「これからどうする気や。斬魄刀」
「……やっぱり、折らせてください。いつまた、私を含め、誰かを傷つけかねないので」
平子は、そうかあ、と視線を落し、何か考える仕草をした。真が答えを待っていると、誰かが、病室のドアをノックした。
 返事をすると、京楽が手を振りながら入ってきた。
「やあ、元気そうで良かった。明日退院だって?」
「お気遣いありがとうございます」
京楽は椅子を引き寄せ、立っている平子の横に腰をかけた。きっと、先程の会話を聞いて、入ってきたのだろう。
「真ちゃんには申し訳ないんだけど、君の斬魄刀は折らせる訳にはいかないんだ」
真をしっかり見据えて、京楽は単刀直入に伝えた。
 真と平子は、訝しげに京楽を見た。平子は不満を顕にするように、眉間にシワを寄せた。
「総隊長、あの斬魄刀は、こいつを…」
「だとしても、必要な斬魄刀だ」
優しい口調だが、京楽の言葉には圧があった。
「真を…生贄にする言うんですか」
平子も負けじと、口調を強めた。真は二人のやり取りに入れず、心配そうに二人を見つめた。
「いつか必要な時まで、十二番隊で保管をする。それまでに、臓器の問題を解決させる。だから、ね、折らないでいてくれるかい?」
京楽は優しい表情で、真と平子を交互に見た。平子は、ハアー、と長いため息をつき、頭をガシガシとかいた。
「解決策がちゃんとできるまで、使わせない言うて貰えるんなら、俺はええです」
お前は?と、平子は真を見た。
「は、はい。私も、それでいいです……」
真は京楽を見て頷いた。すると京楽が真の手を取って、ニコニコ笑った。
 すると京楽は、それと、と言って真の手を両手で包んだ。
「真ちゃんを暫く、一番隊預かりにしたいんだけど、いいかな?」
首をかしげて、京楽が笑いながら真に聞いた。真も平子も、は?と素っ頓狂な声を出した。
「今、御艇は深刻な人材不足なんだ。なるべく多くの採用を取っても、実戦に出せる人材はごく僅かだ。それで」
京楽は真の手をあげて、手の甲にキスをした。
「指導能力の高さに定評がある真ちゃんに、新人教育主任をお願いしたいんだ」
京楽はバチンとウィンクして、真の反応を待った。真は、主任という言葉に呆然として、困った様に平子を見た。
「別にええとちゃう?俺も適任やと思うわ」
真は京楽に視線を戻すと、言葉を探すように口をパクパクした。
「つ、謹んで、お受けいたし、ます」
吃りながら応えると、京楽の顔がパッと明るくなり、真の手にまたキスをして立ち上がった。
「よし!ありがとう!良かった良かった!!十二番隊には僕から言っておくし、移動の件は七緒ちゃんがやってくれるから、明日一番隊舎においで」
京楽が笑顔でじゃあ、と立ち上がり扉を見ると、殺意の籠もった目で京楽を睨む弓親が立っていた。


 なんとか真が弓親をなだめて、京楽は病室を後にした。
 平子も、俺も行くわ、と足を進めた時、弓親が平子を呼び止めた。
「平子隊長」
あ?と平子が振り返り、弓親を見た。弓親は真の横で、深く頭を下げていた。
「真を、ありがとうございました」
頭を下げたまま、弓親は平子に礼を言った。真は驚いて、弓親の顔を上げさせようと、腕を掴んだが、弓親は顔を上げなかった。
 平子は止まって、弓親を見下ろしていた。
「アホ。お前の為ちゃうわ。御艇の為や」
「それでも、真が救われたなら、あなたに感謝します」
平子は、ハア〜?と言ってから、ハハッと笑った。
「真、お前、ええ彼氏持ったなあ」
ほなな、と後ろ向きに手を振って、平子も出て行った。
 扉が閉まる音がして、ようやく弓親が顔を上げた。
 弓親は髪をかきあげて、真の隣に座った。真は困ったように、弓親の顔を覗き込んだ。
「どうしてあんな事……」
弓親は、扉をまっすぐ見つめていた視線を、真に移し、クシャっと笑った。
「自分の気持ちを、整理したかったから」
そう言うと、弓親は真の肩を抱いて真を引き寄せた。真は、されるがままに、頭を弓親の肩に乗せた。
「正直に言うと、まだ平子隊長への嫉妬はあったんだ。でも、感謝もしてる。本当だよ?」
「整理、できた?」
弓親の肩に顔を埋めながら、真が聞いた。
「良い彼氏って言ってもらえて、整理してもらえた感じかな」
頭の上から聞こえる声に、真は思わずフフッと笑った。弓親は、ん?と真の顔を見た。
「私も、そう。いつも見破られて、整理してもらってた」
真は笑い続けた。弓親は、何となく、両手で真を包んだ。
「これからも、さ」
「?」
「いろいろ、すれ違ったり、喧嘩もするかも知れないけど」
弓親は、真を抱きしめる腕に力を入れた。
「言葉にして、お互いを理解し合っていこ」
弓親の腕の中で、真は目を見開いた。まさしく、自分がしたいと思っていた事、欲しかった言葉を、弓親が言ったからだ。真の胸が嬉しさで震えた。真は、はい、と静かに返事をした。
「弓親さん……私、今、幸せです」
真は弓親の背中に手を回して、抱き合った。弓親も、僕もだよ、と真の頭にキスをした。
 雰囲気に流されるまま、二人は見つめ合い、目を伏せて口づけした。
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