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羽化にはまだ早い(弓親)

 鬼道衆が真に近寄ると、出血は多いものの、意識はしっかりしていた。
 結界を張ると、真は自分から仰向けになった。
「傷はすぐ塞がりますからね」
「こっちの方が軽症なんですけど……精神的にキツイです……」
真は苦笑いしながら言った。結界の外では部下たちが泣いていた。吉良は、どこか遠くを見ていた。
「どうやら、あっちも終わったみたいだね」
「あっち…?」
寝転がっだまま、真が吉良の言葉を問うと、治療していた鬼道衆が、ああ、と応えた。
「黒崎さんと、ユーハバッハがこっちに降りてきて戦ってたみたいですね。凄い霊圧だったんですが、我々も霧島さんもそれどころじゃ……」
「ど、どっちが勝ったんですか?!」
焦る真を見て、鬼道衆がハハッと笑った。
「黒崎さんですよ。でないと、我々も助かっていないでしょうね」
良かった…と、真はホッとして、上を向いたまま目を瞑った。
 皆どうしているだろう…。生きているかな。
 更木隊長、平子隊長、桃さん、三席、乱菊、そして……弓親さんは………。
 次弓親さんに合ったら、気持ちを伝えよう。もう、自分を誤魔化すのはやめよう。今回でよくわかった。いつ死んでもいいように生きないと、後悔するって……。もし、この戦争でどちらかが死んでいたら、後悔だけが残った……。


 部下達は、鳥に殺された仲間の死体を回収すると行って真の元をはなれた。
 吉良も、自隊の隊員達の安否確認の為に、去っていった。
 真は鬼道衆に支えられながら、救護へ行った。
 救護は今大変だろうから行かなくていいと言ったが、無理矢理連れて行かれた。
 

 精霊艇に降りてきた弓親は、一角と共に怪我をした更木の治療に付き合い救護に来ていた。
 治療室は寿司詰め状態で、無傷の二人は追い出されてしまった為、廊下で待っていた。
 すると、一人の鬼道衆が慌ただしく救護に入ってきて、弓親達の前を通り過ぎて、奥に消えた。その光景を見た弓親は、ふと、顎に手を当てて、先程の鬼道衆の顔を思い浮かべた。
「さっきの鬼道衆、どっかで見なかった?」
「あ?知るかよ、んなもん」
一角はそう言うが、絶対にどこかで見たと思った弓親が考えていると、先程の鬼道衆が戻ってきて、弓親達の前で入口に向かって叫んだ。
「部屋確保できたぞ!早く霧島さんを連れてこい!」
霧島と言う名前を聞いた弓親が、え?!と声を出すと、目の前の鬼道衆が弓親を見て目を見開いた。
「あ!あなたは……!」
 扉が大きく開かれて、3人が横に並んで入ってきた。よく見ると、両脇を抱えられた真だった。片目と片手を包帯で巻かれており、青い顔をして俯いた状態で、引きずられる様に連れて来られた。
「部屋はどこだ!早く休ませないと、内臓の傷が開いた!血が足りない!」
真を支えている鬼道衆が焦ったように言った。救護へ歩いている途中で、疲労から傷が開いたのだ。
 ゴホゴホと真が咳をすると、血が床に飛び散った。
「真!!」
弓親が名前を呼びながら駆け寄ると、真が顔をあげて弓親を見た。生気の無かった目に光が灯った。
「弓親……さん……」
真は、鬼道衆から腕を離し、弓親の方へ自力で歩こうと手を伸ばしたが、痛みに耐えられず膝から崩れた。
 真が倒れかけた所を、弓親が間一髪で受け止め、抱きしめた。
「良かった………!!生きてた………!!!」
真の存在を確かめるように、弓親は真の肩や背中を何度もさすった。真は自力で立つことがままならず、弓親にもたれるようにして、弓親の肩に顔を埋めた。
「無茶して……こんな………」
「弓親さん」
真は弓親の肩に顔を埋めたまま、一度だけ深呼吸をした。
「…私…あなたが好きです」
真はゆっくりと、弓親の背中に片手を回し、弓親の背中を包んだ。
「こんな事にならないと………ちゃんと言えない私を許してください。臆病で、ズルくて、ごめんなさい………ずっとあなたが好きでした」
言えた。やっと言えた。真が安堵していると、弓親は真を強く、しかし労るように、抱きしめる手に力を込めた。
「…どうしよう。幸せすぎて、言葉が見つからないよ……」
弓親は、真の頭をそっと撫でて、耳元で囁いた。
「愛してるよ」
「あのー……お取り込み中申し訳ないんですが………」
二人が浸っている所へ、勇気を振り絞った年長の鬼道衆が声をかけた。
「霧島さんの治療をしないといけないのと、あと、皆見てますよ」
真と弓親がハッとして、顔を上げて周りを見渡すと、呆れた顔の一角や鬼道衆に加えて、治療室から多くの死神が覗いていた。
 我に返った真が、恥ずかしさのあまり、また血を吐いて倒れた。
「真ーーーー!!!!!」
倒れた真を受け止めながら、弓親が叫んだ。鬼道衆達も大慌てで駆けて来た。
「お前が変な事言うから真が吐血したじゃないか!!!」
弓親が真を抱えながら鬼道衆にキレた。
「いや、自業自得だろ。こんな所でおっぱじめやがって」
一角がため息をつきながら言った。
「そんな事より、霧島さんの治療を!!!綾瀬川さん!!そのまま運んでください!!!」
そうだ!治療室!と弓親が真を抱えて廊下を通ると、治療室から沢山祝いの声が聞こえた。
「おめでとう!お幸せに!」
「大切にしてやれよ!」
「良いもの見せてくれてありがとう!」
「霧島さんを泣かせたら殺すわよ!!!」
弓親は治療室の死神達に向かって、フッと笑って奥に消えていった。


 それから3週間、真はチューブに繋がれ、絶対安静と言われ寝たきりになった。
 鬼道衆が治してくれたと思っていた内臓は、所々傷ついたままで、中には原型を留めていないものもあった。十二番隊に臓器や指や目を新しく作ってもらい移植したりと、大変な日々を過ごした。
 弓親は毎日真に会いに行った。ただ何気ない会話をしているだけだが、二人にとっては幸せな日々だった。
 ただ、二人きりになるのは難しかった。十一番隊や五番隊の隊士だけで無く、真のファンがひっきりなしに見舞いに来るのだ。
 中には、弓親を見つけると暴言を吐くファンもいた。そう言う場合は、真が絶対咎めてくれた。
 真は、弓親の事を恥ずかしがる事もなく、好きな人なのだと誰にでも言った。
「真は、僕と恋仲になったのを公にするの、嫌がるかと思ったよ」
ある日の夜、見舞いに来た弓親が、寝たままの真に向かって不思議そうに言った。僕は嬉しいけど、と。
「弓親さんの事を隠したり、恥ずかしがったりして、あなたが不安になったり、寂しい思いをするほうが、私は嫌なんです」
臆する事なく、真がハッキリと言い切り、弓親は思わず赤面した。弓親が照れ隠しに口を隠したのを、真は笑って、弓親の手を引っ張って顔を露にした。
「顔を、よく見せて。私は、あなたに散々心を乱された。次はあなたの番ですよ」
真の迷い無い口調に、弓親は目を細め、掴まれた手とは逆の手をベッドについて、真の顔に自分の顔を寄せた。
「随分強気な言い方をするね」
「もう、迷わないって決めたんで」
「また困った顔を見せてよ」
鼻と鼻が触れるほど近づいても、真は狼狽えなかった。 
「なーん、だ、んっ」
弓親の言葉を遮って、真が弓親の頭を押さえ、唇を奪った。
 弓親の唇を吸うように離すと、驚きで固まる弓親がいた。真はクスリと笑い、弓親の髪を耳にかけた。
「かわいい」

入口で、平子、雛森、一角、乱菊が固まっているのも知らずに。
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