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羽化にはまだ早い(弓親)

 

 隊長格数名が霊王宮へ上がって行って一時間近く経った。
 その間に怪我人の搬送、死体の回収が慌ただしく行われた。
 しかし十一番隊の生き残りと真達5人は、やちるの捜索を止める事はなく、精霊艇内を忙しなく歩き回っていた。

「…もうやめましょう…この人数でこれだけ探したんだ…」
ウンザリした顔で、鬼道衆の一人が足を止めて真に言った。真は返事をする事なく、瓦礫を退かし続けた。
 痺れを切らした彼が、真の肩を掴んだ。
「霧島さん!もうやめましょう!我々も怪我人の搬送を手伝った方が有益だ!何時までも、こんな事して居られない!」
真は瓦礫を置いて、ゆっくり彼の方を向いた。
「……どうぞ、行ってください……私は、草鹿副隊長を見つけるまで、続けます」
「だから!!!居ないんですよ!!それに、草鹿副隊長は、あんたの隊じゃないじゃないか!!!」
「何だと…?」
鬼道衆の言葉にカチンときた真が、肩を掴んでいる彼の手首を力の限り握り、彼に向き直った。やちるを蔑ろにされた怒りを、目で訴えていた。
「止めましょう。我々が争ってどうする」
一番年長の鬼道衆が二人の間に入り、仲裁した。目が疲れたと訴えているが、冷静な声だった。
「みんな疲れて冷静じゃないんだ。一度休みましょう……救護に向かいながら、怪我人を運んで、草鹿さんも探す、救護に着いたら休んで、一息ついたらまた探す。そうしましょう」
彼はそう言って、真の手を鬼道衆の手首からそっと離した。行き場の無い感情を抑える為に、真は大きく深呼吸をした。
「………すみません………救護へ行きましょう」
真は伏せ目がちに謝り、言い争った男にも、頭を垂れた。彼も、真に謝った。
「隊長達が帰られるまで、私達がしっかりしないと、ね」
年長者が笑いながら二人の背中を押した。残りの二人の鬼道衆も、やれやれと言いながら着いてきた。

 3歩程歩いた時、空から何かが降って来た。

 その何かは、真達の数十メートル先に降り立ち、何か叫んでいた。建物で隠れて、全体は見えなかったが、複数の強大な霊圧は分かった。
「またクインシーだ!!!」
鬼道衆が叫び、真達が急いで現場に行くと、もう既に何人もが死体になっていた。
「何だあれ……!?鳥…?」
目線の先には、首の長い鳥の様な形をしたクインシー達が、光線で死神を貫いていた。逃げ惑う死神達を追いかけて、そこら中に散らばった。
「霧島さん」
左から名前を呼ばれて振り向くと、体に空いた穴を、つっかえ棒で支えている吉良がいた。
「……き…吉良副隊長…?」
あまりの光景に、真は言葉を失った。
「僕の説明は後だ。あの鳥、何でも貫通させる。物理攻撃は難しいぞ」
吉良は真の横に立ち、鳥の説明をした。こんなにも近くにいるのに、吉良の霊圧は感じられ無かった。
「………一箇所に集めてください。私が殺ります」
自信に満ちた目で、真が吉良に言った。真の目を見た吉良は、疑わなかった。
「分かった。でも、僕一人であの数を一箇所に引きつけるのは……」
吉良が考えを巡らせていると、後ろから数人が走って来た。
「班長!!班長、私達がいます!!!」
「私達がその役やります」
見れば、十一番隊時代の班員達だった。体はボロボロだが、元気な声を上げていた。
 彼女達は真にすがり、懇願した。
「お願いします!班長と戦わせてください!」
「班長と戦える日の為に、三席の指導に耐えてきたんです!」
必死な彼女達を見て、真は困ったように笑った。
「そんな必死に言わなくても、頼るよ。ありがとう」
やった!と彼女らはガッツポーズをして、鳥のクインシーを目で追った。真の補佐をしていた女が、全員を見据えた。
「二人一組で追うよ。タイミング合わせて」
全員が返事をして散らばった。その様子を見ていた吉良が、口を半開きにして真を見た。
「随分、慕われているんだね」
「彼女達の人柄ですよ」
君の人柄だよ、と吉良は言って、鳥を追って行った。
 鬼道衆達もそれぞれ散らばって、周りを見渡せる建物に登った。

 真はその場に立って目を瞑った。神経を集中させて霊圧を追うと、クインシーの居場所が分かった。同時に、部下たちの安否も分かってしまった。
 クインシー達は、挑発する彼女らを追ってこちらに向かっているが、クインシーの光線が一人、また一人と彼女達を貫いていった。
 部下の命の危機に駆けつけられない悔しさで、真は拳を握り、唇を噛んだ。
 必ず……必ず私が殺る………。

 数分後に、続々とクインシーが集まって来た。
「何故死人が生きている〜〜〜!!!罪深いぞぉ!!!」
首をグネグネさせながら走る鳥は、絶妙にきみが悪かった。
「何だ?こんなに集まって……何の真似だ!?」
鳥が周りをキョロキョロ見ていると、最後の一匹が来た。
「いまだ!!」
掛け声と共に、鬼道衆が結界を張った。
 鳥たちはざわめき、結界を破ろうと光線を出したが出られなかった。
「卍解」
鳥たちの足元で、真が刀を落し卍解をした。鳥たちが声に気が付き下を向くと、黒い炎から天領が出て来た。
「…天領八熱地獄、そのニ、黒縄!!」
真が叫ぶと、結界の中の地面から黒い炎が上がり、クインシーを焼いた。
「ぎゃあああああ!!!!何故!!何故地獄の炎があああああ!!!」
クインシー達はのたうち回って、炎から逃れようとしたが、炎は結界全体に走り、逃げ場は無かった。その中で真と天領だけが、涼しい顔をして立っていた。
「黒縄は、殺しと盗みを行った者が、辿り着く場所だ!お前達は、数え切れない程仲間を殺し、精霊艇を奪った!!!絶対に許さない!!」
真がクインシーに叫び、自分の人差し指を掴んだと思ったら、自分で折った。痛みで冷や汗をかき、歯を食いしばっていた。
「足りるか!?天領!!」
「まずは一回…」
真が人差し指を差し出すと、天領が噛みちぎり飲み込んだ。結界の外でその光景を見ていた吉良達は、ゾッとして息を飲んだ。
 天領が指を動かすと、クインシー達を包んでいた炎から縄がシュルシュルと出て、クインシー達はを縛った。縄は体に食い込み、少しずつクインシー達の体を引き裂いていった。
 輪切りになったクインシーが結界の中に散らばり、辺りは一瞬静まり返ったが、天領が直ぐに破った。
「活きよ活きよ」
「もう一度だ!!」
クインシー達が蘇ると同時に、真が中指を折り、天領に差し出した。クインシー達はまた同じように死んでいった。
「霧島さん!!!やめるんだ!!!指が無くなるぞ!!!」
結界の外から吉良が叫んだが、真はクインシーから目を離さなかった。
 三回、四回、五回……と繰り返し、真の片手から指が無くなった。
「片手では指は折れんなあ」
クインシーを蘇らせながら天領が言った。目がいやらしく光った。
「耳か…目か…臓器か、好きな物を選べ。自分から差し出すんだ、でないと意味がない」
「班長!!もうやめてください!!」
部下達が結界に張り付き叫んだが、真は無視した。
「おい!!結界を解けよ!!班長を出せ!!」
彼女達は鬼道衆に掴みかかったが、彼らは結界を解かなかった。
「解いたらあんた達も死ぬぞ!!霧島さんの犠牲が無意味になるのが分からないのか!!」
鬼道衆が彼女達を怒鳴りつけると、彼女らの目に涙が浮かんだ。
「あたしたち……何も出来ないのかよ!」
「班長!!班長ー!!!やめてください!!!」
 外で部下達が叫ぶ声は聞こえたが、真は引けなかった。
 決心したように、大きく息を吐き、グッと息を止めた瞬間に、指を自分の目に突っ込んだ。
「ああああああああああ!!!!」
叫び声と共に、自分の目を引き抜き、天領に投げつけた。天領はニンマリと舌なめずりをした。
「いい叫び声だ!!!特別に五回オマケしてやろう」
真は膝をつき、血が吹き出る目を手で押さえた。
 クインシー達は段々我慢が出来なくなってきたのか、弱音を吐き出した。
「もうやめろ!!!」
「殺すなら殺したままにしろ!!!」
 天領は雄叫びの様な笑い声をあげ、両手でクインシー達を握りしめた。
「おお、よく耐えたなあ。辛かっただろう」
優しい声をかけ、天領はクインシー達を食いちぎった。今回は、体まで食べた。
「美味いなあ。実に美味い。こんなにも濃い味の餌は初めてだ」
天領は満足そうに喉を鳴らしながら、最後の一匹を飲み込んだ。
「片手の指と片目だけで済んで良かったな、主よ」
天領は振り返り、うずくまっている真に笑いかけて消えた。今回は内臓は傷つかなかった。
 すぐに鬼道衆達と部下と吉良が駆け寄ってきた。
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