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羽化にはまだ早い(弓親)

 弓親と一角が、クインシーの集団と死神5人がぶつかる霊圧を感知し、そちらに向かうと、大きな結界が目の前に現れた。
「何だ……何が起こってやがる……」
結界の中で起こる惨状に、二人は息を飲んだ。
「あれ……真………?」
結界の中の化け物の後ろで、虚ろな表情をした真が立っていた。
 化け物が最後のクインシーを食べ終えると、真が血を吐き倒れた。周りには、首の無い死体が山の様に転がっていた。
 結界を張っていた4人が真に駆け寄り、真用に結界を張り直すと、中で治療を始めた。
 弓親と一角は、真を守っている結界に近寄った。
「あなた方は……!」
周りの警護をしていた一人が、弓親と一角を見つけると、安堵の顔になった。
「あの化け物は…何なんだ」
弓親が不安な顔で彼に尋ねると、彼の顔が曇った。
「あれは、霧島殿の卍解です」
「真が…?」
鬼道衆は、弓親と一角に真の卍解の説明をした。卍解後に起こる、真の体への負担も言った。
「何でやらせてるんだよ!!止めろよ!」
弓親が鬼道衆の襟を掴んだ。
「止めました!でも、彼女が卍解をしたら、結界を張らざるを得ないんです……私達が死んでしまう」
追い詰められているのは自分達なんだと、彼は訴えた。言い返す言葉が見つからず、弓親は襟を掴んだまま、鬼道衆を睨んだ。
「弓親、やめろ。戦争なんだぞ」
一角が弓親を引き離したが、弓親の気持ちは収まらず、クソッ、と地面を蹴った。
「お二人も、ここから離れた方がいいです。巻き込まれますよ」
鬼道衆が、襟を直しながら二人に忠告した。一角が、分かったと言って足を進めたが、弓親は動かなかった。
「おい弓親」
一角がイライラした口調で促したが、弓親は一角を無視して真の方へ向かった。
 結界の中で、真は焦点の合わない目で宙を見ていた。鬼道衆達が不信な目で弓親を見たが、弓親は気にも止めず、片膝をついた。
「真、聞こえる?」
弓親が声をかけたが、真は聞こえていないのか、反応しなかった。
「聞こえませんよ、今回は鼓膜が破裂しています」
結界を張っている鬼道衆が弓親に言った。弓親は、真の悲惨な姿に眉を潜めた。
「終わったら、必ず迎えに来る……。もう、こんなふうに傷つかなくて済むように、僕がする」
だから…と弓親は続けた。
「死ぬな」
弓親が立ち上がると、横になっている真の目が、弓親の方を向いた気がした。弓親は真から目を離す事なく、見つめた。
「愛してる」
そう言うと弓親は踵を返し、一角の元に駆けて行った。
 弓親が突然、死にかけている真に告白した事に、鬼道衆達はあっけに取られてポカンとしていた。
 治療を行っていた鬼道衆が真に目を向けると、真の目から涙が1滴こぼれた。
「鼓膜…治りましたよ。聞こえますか?」
「はい…」
真は空を見たまま、静かに応えた。鬼道衆は静かに微笑み、他の箇所の治療を始めた。
「…彼は恋人ですか?」
「いいえ…」
真の意外な答えに、彼は反応に困り、そうですか、とだけ言って黙ってしまった。真は彼の方は見ずに、空を見上げたまま、でも、と続けた。
「でも、あの人は……私の好きな人です」
鬼道衆は真の方を見て、目を見開いたと思ったら、ハハッと笑った。
「彼の言葉、聞こえてましたか?」
「いいえ…分かりませんでした」
「そうですか……じゃあ、意地でも死ねませんね」
また聞かないと!と、彼は元気に笑ってくれた。真も、笑顔を返した。

 5人が暫く休み、交代で仮眠を取っていると、遠くで大きな雷が落ちた。
「あれは……」
先日戦った女の雷だ。
「行きましょう」
真が立ち上がろうとしたら、鬼道衆の一人が真の腕を掴んだ。
「お待ちください。霧島さん……気づいていませんか?」
真剣な面持ちで、彼は真を必死に止めた。他の3人も真を行かせまいという顔つきだ。真は分からず、彼らの顔をじっと見た。
「更木隊長がやられました」
その言葉を聞いた瞬間、真は手を振り払い、痛む体に鞭打って走った。鬼道衆達も走って追いかけてきた。
「無理ですよ!更木隊長が勝てなかった相手に!!こんな体で…!!」
「更木隊長は死なない……助けないと!!」
鬼道衆達は力づくで真を止めようとしたが、真は止まらず、必死で鬼道衆達の手を振り切って走った。
 するとその時、そらから何かが降ってきて、建物に墜落した。その巨大な霊圧に、5人は動きを止めて見入った。
「……黒崎……?」
壊れた建物を見ながら真が言った。
「ええ……これは、黒崎さんの霊圧です!!」
鬼道衆が、期待に満ちた声で言った。真は彼らに向き直り、お願いした。
「戦わないので、更木隊長の救援に向かわせてください。お願いします」
それなら…と、鬼道衆は合意し、一緒に更木の元に向かった。

 空中で、一護とクインシーの女が戦っていた。圧倒的に一護が強かった。真はその戦いを眺めたい気持ちを抑えて、更木を探した。
 近くに数人のクインシーがいたが、一護に気を取られてこちらには見向きもしなかった。
 そこら中に、顔見知りの十一番隊士達の死体がゴロゴロ転がっていた。
 目を背けたくなる光景の筈なのに、真は何も感じなかった。そんな自分に失望して体が震えた。
「いたぞ…!」
一人が小さな声で言った。全員急いでそこへ向かうと、全身に火傷を負った更木が横たわっていた。
「隊長……!」
真が更木の元にしゃがんで、体を起こすと、朦朧とした更木が呻いた。
「……真か………」
「ああ、良かった……隊長は生きていると思っていました……」
鬼道衆二人が、両脇から更木を支えると、残った二人が結界で更木を包んだ。
「瀕死でも、更木隊長の霊圧では敵に気付かれます。少し時間がかかりますが、このまま救護へ連れていきます」
「私が先を歩きます」
真が先に立ち進むと、一護の周りに複数の死神とクインシーが集まってきた。大きな爆発が起きたと思ったら、皆が散り散りになった。
 真が立ち止まり、爆発の起きた方を向いたが、鬼道衆が背中を押した。
「駆けつけたい気持ちは分かりますが、今は更木隊長を」
真は気持ちを抑えて、救護へ到着した。
 治療室に運ばれる前に、更木がかすれた声で真を呼んだ。
「やちるがいねえ……探してくれ」 
「副隊長が…?分かりました」
真は更木の手を握り、回復を願った。
 真も治療を勧められたが、無理矢理断ってやちるを探しに出て行った。
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