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羽化にはまだ早い(弓親)

 刀を折るか折らないかは、今決めるなと言われ、真は平子と共に隊舎に戻った。
 それから暫くは、どの隊士も鍛錬に励んだ。隊長も席官も関係なく技を磨いた。真は指導に回っていたが、暇を見て天領と話した。天領はスッカリ大人しくなっていた。
 天領の事はあまり信用出来なかったが、今は当てにするしかなかった。
 
 平子に呼ばれ隊主室に行くと、新しく総隊長に就任した京楽が七緒と共に来ていた。
「京楽隊長……?」
「コラ、真、総隊長やぞ」
椅子に座っている平子に叱られ、真が言い直すと、京楽は優しく、いいよいいよ、と笑った。
「平子隊長から聞いたよ、卍解習得おめでとう」
その事か、と真は納得した。
 京楽は片方だけになった目で真をしっかり見据えた。今までの優しく穏やかな京楽とは違い、総隊長らしい威厳と圧力があった。真の背筋が自然に伸びた。
「随分、頼もしい卍解みたいだね。だが、その分危険だ……」
使用許可が降りないかも、と少し思ったが、心の片隅で、使用許可が降りない方がいいかも知れない、とも思った。
「次の戦いでは、団体行動は避けて貰うよ。その代わり、君に鬼道衆を4人つけよう」 
鬼道衆…?と思って京楽を見ていると、京楽は手を叩いて鬼道衆を呼んだ。
 ドアを開けて、4人の死神が入ってきた。それぞれが真に自己紹介をした。
「結界の手練だ。君が敵さんと戦うときは、彼らが君と敵さんを閉じ込めるから、その中で卍解してちょうだいね」
頼りにしているよ、と京楽は真の頭に手をポンっと置くと、七緒と出て行った。
「霧島殿、早急で申し訳ありませんが、今から訓練をしましょう」
鬼道衆の一人が真を誘った。真は了承して、平子にでは、と言うと、平子が真、と名前を呼んだ。
「どんだけシンドクなっても、躊躇すんなよ」
はい、と言って、真は隊主室を出て行った。

 

 鬼道衆と訓練をした次の日、精霊艇が消えた。


「訓練した次の日で良かった」
鬼道衆の4人と、変わってしまった精霊艇内を走りながら真が呟いた。
「ええ、霧島殿が兵法に精通していらっしゃったお陰で、一日で動きを合わせられました」
「いや、説明が上手いからですよ」
そんな会話をしながら走ると、直ぐに敵の集団を見つけた。
 死神の集団と衝突しており、圧倒的に死神が劣勢だった。
 鬼道衆が四散し、死神達に引くよう声をかけた。撤退が完了すると、4人は手を地面につけ結界の中にクインシー達と真を閉じ込めた。
「一人か?死神。捨て駒にされたか……」
その集団の長のような男が進み出た。哀れみの目を真に向けた。
「無駄な事を……」
男が手を構えると、真も斬魄刀を目の前で抜いて、体の横で手を離した。クインシー達は、刀を手放した真を疑うように見ていた。
「卍解」
下に落ちた刀と鞘から空間に穴が広がり、黒い炎が上がったかと思うと、炎の中から天領が姿を表した。
「天領八熱地獄…その一、等活」
真の声と共に、クインシー達から悲鳴があがった。
 ある者は体から火が上がり、ある者は体が引き裂かれ、またそうで無くてもお互いに殺し合った。
「な…!何だこれはあああああ!!!!!」
炎に焼かれながら長の男が叫び、黒い塊になった。
 全員死んだ所で、天領が指をさしながら唱えた。
「活きよ活きよ」
その瞬間全員が元の様に生き返ったが、真に攻撃する暇もなく、また死んでいった。
「等活は、殺生を行ったものが逝く地獄だ。虫一匹殺しても、地獄は許さない」
生き死にを繰り返すクインシー達を見ながら、真は説明をした。だが、説明をした所でクインシー達には届いていなかった。
 5回程繰り返した所で、耐えられなくなった者が、自分から死を乞うようになった。
「生き返りたくない…!!このまま殺してくれ!!!」
その言葉を受けた天領が、歯を剥き出して笑顔になった。
「よしよし、かわいそうにかわいそうに」
天領は死を願った者を引き寄せ、大きく口を開けたと思ったら、首から上を食いちぎった。
 無惨な光景のはずが、死ぬ事が出来た男を周りの者たちは羨み、我も我もと天領に縋った。
「分かった分かった、順番だ、順番」
優しい言葉をかけながら、天領はゆっくり味わった。順番を待つ間にも、生き死には繰り返され、クインシー達は、我先にと争った。
「うっ……うぇっ……」
惨状に耐えられなくなった鬼道衆の一人が嘔吐した。
「耐えろ!!もうすぐだ!!」
声に、真がハッとして、鬼道衆達を見ると、全員青い顔をしていた。あれが普通の反応だ。だが、自分はどうだ……今、何を考えていた?
 
 5回で降参か、私は17回死んだぞ。
 とか、
 何だ、体は喰わないのか。
 なんて事を、ボンヤリ考えていただけだ。

 自分の考えに背筋が凍り、立ち尽くしている間に、天領が最後の一人を食べ終えた。
 天領は真を見てニヤリと笑い、舌なめずりをして消えた。真の足元に、元の刀と鞘が転がっていた。
 その直後、真は血を吐き、その場にうずくまった。
「霧島殿!!!!」
鬼道衆が結界を解き、真に駆け寄った。真は痛みに呻きながら、落ちている刀を握った。
「天領……!お前…………謀ったな……!!」
刀に向かって叫ぶと、刀から天領の声がした。

 謀ってなどいない。あれだけの能力だ、見返りがあると何故思わなかった?全て自分の霊力でまかなえると思ったか?自惚れすぎだぞ、主よ。

「お前………、お前!!!!」
真はうずくまった状態で、刀を地面に打ち付けたが、刃こぼれすらしなかった。
「霧島殿、落ち着いてください。内蔵が損傷しています。治療いたしますので、体を楽に………」
鬼道衆の一人が真を仰向けに寝かせると、治療を始めた。二人が結界を張り、一人が周りの警護に着いた。
 
 そう怒るな。私を屈服させたお前は、特別に内蔵から血を取るだけにしたんだぞ。普通だったら、臓器その物を取っていた。

「私の感情まで取っただろ」

 それは違う。主の感情が死んだのは、防衛本能だ。私の卍解は、普通の理性で使えば気が狂う。主は無意識に自分で感情を殺したんだ。

 真は湧き上がる怒りを抑える為に、天領を無視した。この卍解は、体にも心にも負担がかかりすぎる……。でも…
「……内蔵の傷が塞がったら、次の敵を探しましょう…」
仰向けに寝たまま、真が治療をしている鬼道衆に言った。鬼道衆は、信じられないと言う顔をした。
「やめましょう、もう。使うべきじゃない」
「隊長からの命令なんです。シンドクなっても躊躇するな、と………」
彼は葛藤を振り払うように歯を食いしばり、分かりました、と小さく呟いた。

 5人はまた、クインシーの集団を見つけた。
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