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羽化にはまだ早い(弓親)

 目を覚ました真は、五番隊士から、総隊長の殉職と精霊艇の被害規模、そして4名の隊長が卍解を失った事を知らされた。
「更木隊長は?」
「重態ですが、生きておられます」
そうか、良かった…と安堵し、お礼を言って下がらせた。
 十一番隊、五番隊と、多くの知り合いが死んだ。真は窓から崩れた精霊艇を見て、黙祷した。
 廊下で、多くの人が行き交う音が聞こえた。怪我人で溢れかえっている状況なのに、一人部屋を与えられ、真は申し訳なく思った。
 すると、誰かがドアをノックした。
「真、起きとるか?」
平子がドアの向こうから聞いた。。真はどうぞと言って、平子を中に招き入れた。
「生きとったな」
平子は笑い、椅子に座った。真は、生き恥だと感じていたが、言わなかった。
「聞いたで。卍解、習得したんやってな。おめでとさん」
「涅隊長に、止められました」
悔しそうに、真が顔をしかめた。
「まあ、正しいわ。俺でもそうした」
平子はベッドを手で叩き、ここに座れと合図した。真がベッドに腰掛けると、平子は椅子を引き寄せて、真に近づいた。
「隊士から聞いたんやけど、お前の卍解、周りを巻き込むんか?」
「はい……」
そうか、と平子は、何か考える様に腕を組んだ。
「今は、一人でも戦力を欠きたくない。お前の卍解は、使用許可を取らなあかんかもしれへん」
使うな、とは言わないんだな、と真は思った。
「俺が説得したるさかい。卍解の能力、知っとるだけ俺に話せ」
平子がそう言うと、真は知っている限りの情報を平子に伝えた。

「そうか。卍解を止められて、天領はブチギレたんやな」
「おかげで、こんなですよ」
両腕を広げて、真は腕の包帯を見せた。天領のワガママのせいで、と苦々しく言った。
「キサマの斬魄刀は、何とも性格が悪いネ」
涅マユリが、ノックも無しに扉を開けて入ってきた。真と平子は驚いて、涅を見た。
「女子の部屋にノックもせんと入るなや、マユリ」
「おや、キサマはこのスジまみれの体に興奮するのカネ。随分とイイ趣味じゃないか。ワタシには理解出来ないガネ」
「アホ。そんなん言うてるとちゃうやろ」
涅は平子を無視して真の横まで来ると、透明なケースに入った天領を差し出した。
「キサマの斬魄刀を調べようとしたんだが、持ち上げた瞬間にウチの研究員を燃やしたヨ。死んでは無いガネ」
「えっ……」
「キサマも、自分の斬魄刀に焼かれるナンて、躾が行き通っていないのカネ」
真は暗い顔で天領を見つめ、焼かれた研究員に申し訳無さそうに、頭を垂れた。
「すみません……」
「まったく…屈服もさせないで、卍解を使おうとするんじゃないヨ!斬魄刀に使われるなんて、死神失格だヨ!次にクインシー共が来るまでに、必ず屈服させるんだヨ、いいネ?!」
涅は天領の入ったケースを真に押し付け、部屋から出ていった。
「阿近!後はお前がやれヨ!」
「ハイハイ。ありがとうございます、局長」
廊下で涅が叫ぶと、包帯まみれの阿近が顔を出し、真を見てから、平子を見た。
「話…終わってます?坊っちゃん連れて行って、いいスか?」
「何や、最初から阿近がこればええやないか。何でワザワザマユリ何かと話さなあかんかってん」
「すいませんね。俺じゃ斬魄刀が暴発したら……こんななんで」
阿近は頭の包帯を指さして、苦笑した。
「防火壁の部屋を用意してある。坊っちゃんは、そこで斬魄刀を屈服させろ」
阿近が顎で真を呼び、着いて来い、と言った。真は斬魄刀が入ったケースを抱えて、平子を見た。
「行ってきます、隊長」
「待て待て、屈服させんなら、俺が精神世界入れたるわ」
平子はそう言って着いてきた。

 壁が崩れかかっている建物の地下に、その部屋はあった。
「防火壁で出来てるから、延焼する事は無いが、一応外にも人工結界も張るから、遠慮なくやれ」
阿近は部屋から一歩出て、出口に立った。
 真は窓も何も無い、真っ白な部屋をぐるりと見回し、平子と共に中央に進むと、ケースを置いて、斬魄刀を取り出した。
「……天領。話をしよう………」
真は平子に向き直ると、平子が手を伸ばし、真の顔に当てた。
「そおーれ、タンマ落しや」
平子がそう言うと、真は気を失った。
 平子は、崩れ落ちた真の体を支えると、ゆっくりと斬魄刀の横に寝かした。真の顔を確認すると、平子は出口まで歩いて行き、阿近に並んだ。
「じゃあ、結界張りますよ」
阿近はそう言って、手に持っていたボタンを押すと、部屋を結界が包んだ。
「阿近、もうええで。ありがとさん。後は俺が見とくわ、俺の部下やしな」
平子がそう言うと、阿近は遠慮なく帰って行った。
 

 「何の用だ」
精神世界で、真は天領に向き合った。天領は威圧的に腕を組んで、真を見下ろした。
「卍解を教えてやったと言うのに……使わないお前なんぞ、もう用は無い」
「使ったら盗られていた」
真は天領を見上げたが、天領はハッと鼻で笑った。
「盗られた方が良かったぞ、お前よりあの女の方が強く、残酷だ」
自分の斬魄刀だと言うのに、ここまで反抗的なのかと、真は痺れを切らした。口で言うだけ無駄だと思い、刀を抜いた。
「お前を、屈服させる」
「思い上がるな。私がお前を使っていたんだぞ」
真は天領に向かって刀を振り下ろした。

 真が精神世界に入って、一時間が経った。平子は結界の外で見守っていたが、その間真は何度も痙攣を起こしては収まる、を繰り返していた。

 精神世界で真は何度も死んだ。燃やされ、体を引き裂かれ、頭を潰され……その度に天領に生き返らせられた。
「活きよ活きよ」
天領の二言で、どんな状態になっても真の体が元通りになった。
「まだ諦めんか」
「まだだ」
真は刀を構えた。天領は面倒臭そうにため息をつき、指を出して振ると、真の刀が割れて崩れた。
 真は柄だけになった刀を見て、舌打ちをして捨てた。
「それでどうすると?」
天領が言うか言わないかの間に、真が天領の懐に飛び込んだ。
 咄嗟に天領が真の足を掴んで引き離そうとしたが、真は天領の首に噛み付いて離さなかった。
「獣だな………」
天領が呟くと、真は天領の首の肉を引きちぎった。天領の首から勢いよく血が吹き出た。
 天領は地面に音を立てて倒れ、真は口から天領の肉片をプッと吐き捨てた。天領は倒れたまま、ギョロリと真を見た。
「アハッ…ハハハハハハ!!!そうだ!!これでこそ、我が主だ!!!!血は美味いだろう?血は、美しいだろう?肉の歯ごたえはどうだ!?」
「五月蝿いな」
真は天領の傷口から手を突っ込むと、気管支を引きちぎった。

 
 真が目を覚まし、起き上がると、出口にいた平子が結界を破り入ってきた。
「……隊長……」
「どうや、気分は」
真の横にしゃがんで、平子が聞いた。
「最悪です……」
真が、ふと、腕に違和感を感じて包帯を取ると、火傷が綺麗に治っていた。
「……ホンマに屈服させたようやな」
腕の包帯を取りきり、斬魄刀を手に取ると、真は少し考える目つきをしてから、平子を見た。
「隊長…。この戦争が終わったら、私、斬魄刀を折ります…」
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