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羽化にはまだ早い(弓親)

 「今すぐ、天領を解放できるようにせえ。お前の気持ちを気にしてられる状況やない」
隊葬の後、平子が緊迫した様子で真に言った。解放出来るまで来なくていいとも言われ、真は人の居ない丘で、天領と語らいの時間を取った。
 どれだけ話しかけても、天領は応じず、真は焦りだけが募った。
「何でだ……」
真は斬魄刀を握りしめ、額に当てたが、何も感じられなかった。
 しばらくそうしていると、懐かしい霊圧が近付いて来た。真は顔をあげ、そちらを向いた。早く忘れたかったのに、忘れられなかった……。
「……弓親さん」
「やあ、久しぶり」
二人は1ヶ月以上振りに再会した。もっと長い間離れていたような、固い空気が二人の間に流れた。 弓親は、真の隣には来ず、少し離れた所で真に話かけた。
 真は、弓親の霊圧が近付いて来た時から、胸が高鳴っていた。頭の考えとは裏腹に、また会えるのが、たまらなく嬉しかった。
「五番隊に行ったんだけど、居ないって言われたから探したんだ」
「……どうして」
「何か……会いたくて………」
弓親の言葉に、真の期待が膨らんだ。まだ、自分を思ってくれているんじゃないか、と。
 弓親は気まずそうに、髪を耳にかけた。自分から来といて、真の反応を見るのが怖かった。
 真はゆっくり立ち上がり、弓親に近づいた。それに気づいた弓親は、驚いたように真を見た。
「……大丈夫なの?」
真は何も言わず、弓親の30センチ手前まで来た。体に異変は起きなかった。良かった……、と弓親に話しかけようとした瞬間、頭の中に声が聞こえた。

  盛ってばかりだな、小娘

 いきなり現れた天領の声に、真は驚き、眉間にシワを寄せた。今までの雰囲気と大分違う天領に、不信感を抱いた。
 真の様子がおかしい事に気づいた弓親は、ゆっくり真から後退した。真が、あ、っと言いかけたら、また天領が真を毒づいた。

  男の事ばかり考えてるから、軟弱になるんだ

 真は天領の悪意ある言葉に心が乱れた。ようやく出てきた天領と話さなければと焦り、弓親と話したかった気持ちが、かき消されてしまった。何で今出てくるんだ……。
「…無理しないでいいよ。僕はもう行くから。ありがとう」
弓親は寂しそうな笑顔を残して、帰ろうとした。真が、引き止めたくても引き止められず、葛藤していると、弓親は真を見て、真剣な眼差しを向けた。
「この戦争が終わったら、また会いに来ていい?」
「……はい」
真が返事をすると、弓親はふんわりと笑って帰って行った。
 ゆっくりと、幸せな余韻に浸りたかったが、真は斬魄刀を握りしめ、目の高さに掲げた。
「……どうしたんだ、天領」

 お前には愛想が尽きた

 声と共に天領が具象化して出てきた。だが、いつもは黒い山羊だった天領が、何故か首から腰までは人間の形になって、蹄のある山羊の足で立っていた。
「何だその姿は…。西洋の悪魔みたいな…」
「可愛いヤギだと、お前は全く警戒しなかったな。子どものワガママに付き合うように、お前はよく戦ってくれた…」
天領は真を脅すように見下ろし、真の顎を大きな手で持ち上げた。
「だが、今はどうだ!部下を人質に取られたくらいで、戦いを放棄し、みすみすやられておいて……もう戦いは必要ないだと!?私の持ち主でありながら……!!」
天領の鼻息が真の顔にかかった。真は思わず顔を背けたが、天領は無理矢理、真を自分の方に向かせた。
「昔のお前は良かった……、夕霧を殴った男を殺したかっただろ?自分を見捨てた夕霧を、殺したかっただろ?お前を認めない男達を殺したかっただろう?その憎悪が、私を満足させていたというのに…………」
真は驚いて、目を見開いた。自分の斬魄刀が、こんなにも危ない思想をしていた何て……。
「殺しが目的だったのか……?」
真は天領を睨んだ。だが天領は気にも止めず、真をあざ笑った。
「何故私を軽蔑する。私はお前の殺意から産まれたんだぞ?」
「私は、殺意なんて無かった」
「カマトトぶるなよ、小娘」
天領は真の顎を手放し、その手で真の頬を叩いた。真は体がぐらつき、足を踏ん張って体を支えた。叩かれた頬を触ると、じんわりと熱かった。
「あれだけ戦いを求めておいて、殺意は無かっただと?お前は根っからの殺人鬼だよ。そうで無ければ、十にも満たない子どもが大人を刺すか?夕霧を守りたいなんて、よく取り繕ったな。ただ、戦いたかっただけだろう?」
天領は長く鋭い爪で、真の胸の中心を指差した。真は天領を見上げ、力強い目で天領を捉えた。
「殺しなら……今から戦争がはじまる」
天領は、ほう、と目を細め、首をかしげた。
「お前が望むまで、敵を殺そう……だから、力を貸してくれないか」
天領はいやらしく笑い、真の首に指をかけた。
「いいだろう。ただし、敵に情けをかけるな。相手が戦意を失おうが、殺せ。いいな?お前が情けをかけた瞬間、私がお前を焼き尽くす」
「……分かった……」
真が了承すると、天領は高笑いをしながら斬魄刀に戻った。真が鞘から少しだけ抜くと、天領の声がした。
「お前に、卍解を教えてやる」


 「お時間いただき、ありがとうございました」
隊舎に戻ると、隊主室に平子はおらず、雛森だけがいた。
「真さん、斬魄刀は…?」
「解放、できました」
良かった、と雛森が安堵の声を漏らした。すると、ちょうど平子が隊主室に帰ってきた。
「解放できたんか、そうか、間におうたな」
椅子に座りながら、平子も真に笑いかけ、手に持っていた紙を机に広げた。
「明日の各隊の持ち回りや。五番隊は南西地区。俺は前線に出て主力を探してたたくさかい、桃は俺に着いて来い」
「はい」
地図を指差したまま、平子は真を見上げた。真は、戦えと言ってもらえる事を期待していた。
「真、お前は、ここにおれ」
「え…?」
予想とは違った平子の言葉に、真は返事を忘れて聞き返してしまった。
「待ってください、平子隊長……私も」
「アホ。お前、何を学んできたんや」
平子が言葉に力を入れた。いつもは平子に意見できる真も、こうなった平子には何も言えなかった。
「俺と桃は絶対出なあかん戦いなんや。それで、二人共死んでみ?誰が隊をまとめるんや?四席か?五席か?ちゃうやろ」
「……はい。すみませんでした」
真は引き下がり、頭を下げた。平子は、やめえ、と言い、頭を上げた真をしっかりと見た。
「隊舎はお前が絶対守れよ。ほんで、お前は絶対死ぬな」


 そして、とうとう、クインシーが攻めてきた。
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