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羽化にはまだ早い(弓親)

 次の日の昼過ぎ、卯ノ花が面会希望の人がいると言ってきた。
「誰ですか?」
「平子隊長です」
「平子隊長?…まあ、平子隊長なら…大丈夫、です」
卯ノ花は、分かりました、と言って部屋から出ていった。
 しばらくすると、足音がして、平子が開けた扉から顔を半分だけ覗かせた。
「元気か〜〜?」
おかしな登場のし方に、真は思わず笑った。
「なんですか、それ?」
「今から近寄るぞ。ええか?」
何を言っているんだと思いながら、平子を見ていると、平子はゆっくりと一歩ずつ進む毎に、真の顔を確認してきた。
 次第に、真は平子の真意が分かって来た。平子が、あと1メートルと言う所まで近づいた時に、真はまた冷や汗を流し、顔色が悪くなって固まった。平子は、それに気づくと、さっと真から離れた。平子が遠のくと、汗は止まり、体は楽になった。
「何で…………?」
平子は離れた所で椅子を引き寄せ、座り、真面目な目で真を見た。真は、不安そうに平子に聞いた。
 卯ノ花が近づいても大丈夫だったのに、平子は駄目だった。平子が近寄ると、あの時の恐怖が蘇った。何で?平子隊長は関係ないのに……
「これ、治りますよね?」
「専門外や。俺には分からん」
「そんな………」
絶望の顔をした真に、平子は慰めの言葉も無く、話を続けた。
「お前、復帰できるんか?」
「……します。時間かかっても、絶対、十一番隊に戻ります」
「時間かかっても、か………」
平子は腕を組み、んーと何か考えているようだった。自分の状況に不安と焦りを感じている真は、平子の様子にイライラした。
「何がいいたいんですか」
「いやー、お前が好きにしたらええと思うねんけど……直ぐに更木んとこ戻らんでも、ええと思うねん……あそこ、男ばっかやろ?お前、その感じで、耐えられるんか?」
「耐えます。そのうち慣れますよ……きっと」
出来る自信は無かったが、真は嘘をついた。平子の目が真に刺さった。平子には、虚勢なんて通用しないのは分かっていたが、弱音を吐きたく無かった。
「………しばらく、五番隊にこんか?」
今まで聞いた事の無い、真面目な口調で、まっすぐ真を見ながら平子が言った。真は、突然の誘いに、返事が出来ずに固まった。
「ずっとおらんくてええねん。お前が大丈夫になったら、いつ戻ってもええ。3日後でも、1週間後でも、10年後でもええ。そんで、その間、桃のサポートしたり、若手に指導して欲しいねん」
何で私を誘うのか、真は疑問に思った。平子は、そんな真の気持ちを察してか、言葉を続けた。
「今は、友達やからとか、私情や無いで。御艇十三隊の隊長として、お前を潰させる訳にはいかんねん。
 いろんな隊長から、お前の指導力の高さは聞いとるさかい。更木は、そういうの気にせんやろうけど、他の隊からしたら、お前の能力は希少なんやぞ?」
真の胸が嬉しさで締め付けられた。そんな風に見て貰えてたなんて、知らなかった。嬉しくて、平子の顔を見れなくなった。
「うちは、十一番隊みたいにゴリラみたいな男は少ないしな。そこでリハビリしたらええ。お前が来てくれるんなら、三席を空けとくわ。ほんで、桃に着いてサポートしたってくれ」
平子は立ち上がり、扉に向かった。手をヒラヒラ降ると、振り向かずに言った。
「まあ、ゆっくり考え。考えすぎんなよ?1日の1分くらいでええわ」
平子はそう言うと、部屋から出ていった。
 平子の誘いは嬉しかったが、真は迷った。十一番隊が好きだし、部下はどうしたら?腰抜けだと言われないか…?いろんな考えが頭を巡ると、平子の言葉を思い出し、真は考えるのを止めるために、隊舎内を散歩した。

 夕方、面会謝絶を取って貰うと、沢山の人が来てくれた。
 乱菊は真の顔を見ると、泣きながら抱きついて来た。周りに人がいるのも気にせず、真をもみくちゃにした。
 恋次と一緒にルキアも来てくれたし、射場や、七緒や、京楽も来た。部下達も怪我なく保護されたようで、元気な顔を見せてくれた。
「四席〜〜!!!!ごめんなさい!!」
皆泣きながら真の周りを囲み、口々に謝った。
「あたし達のせいで、班長がこんな目に……」
「違うよ。元々私が恨みを買ってたから…巻き込んで、ごめんね」
「私達が弱かったんです……!!」
その場は、謝罪大会のようになった。
 少し落ち着いた時、部下の一人が真剣な面持ちで切り出した。
「班長……私達、班長に復帰して欲しいと思うんですけど。ゆっくり、して欲しいとも、思うんです」
皆、その子を見てから、真を見て頷いた。
「四席の事だから、自分が弱いせいで、って自分を責めてないかと、思って。そうなると、四席、無茶しやすいし…」
「だから、悩みや不安があるんなら、解決するまで、十一番隊から離れてもいいんじゃないかって……」
「四席がいなくても、私達やっていけるように、三席に指導お願いしました!」
それまだナイショ!と皆が止めたが、真は聞いてしまい、可笑しくて苦笑いした。部下の気持ちが嬉しくて、真はありがとう、と笑顔で返した。
「班長、今は、自分を1番に考えてください。それが、私達の願いです」
部下達はそう言い残し、帰って行った。
 部下の言葉を受けて、真の心が揺れた。

 夜には、更木とやちると一角と弓親が来たが、男性ばかりの入室は止められ、更木だけが部屋に入り、3人は廊下で待った。
「よう。ひでえやられ方したらしいな」
更木がベッドの横に椅子を引っ張って座ると、真の様子がおかしい事に気づいた。
 いつもは感情をあまり表に出さない真の顔が、見るからに青ざめ、額には汗が垂れていた。更木は、フンと言って、少し真から離れた。
「……男が怖えか?」
「……すみません………」
真の目が怯えているのに、更木は眉をしかめた。
「どうした、俺に向かってきた奴はお前じゃねえぞ」
真は悔しさで目を瞑った。こんな情けない自分を隊長に見られるのが、堪らなく嫌だった。
「これからどうすんだ」
「戻って、鍛え直します。前みたいに…」
「馬鹿野郎、時間が戻るわけねえだろ。今のお前は今のお前だ」
真は、更木の言葉にハッとして、更木の顔を見た。更木は表情を変えずに真を見ていた。
「……隊長、私は弱いですか……」
「ああ、弱えから負けたんだろ。今のままじゃ、また負けるぞ」
「……はい」
真は決心したように、深呼吸をして、更木に向き直った。更木は黙って、真の言葉を待った。
「実は、五番隊から誘いがきました」
廊下にいた3人は、真の言葉に驚いて、扉に耳をあてた。
「…ああ。平子から聞いた。行ってこい」
更木は力強い言葉で、真を押した。まさか、更木の方から送り出されるとは思わなかった真は、少し驚いた。
「……ありがとうございます。必ず、強くなって、戻って来ます」
「俺を倒せるようになるまで、戻って来んなよ」
 いつになるんだ、と真が苦笑いすると、突然扉が開いて、3人が入って来た。弓親は明らかに動揺していた。
「……何で?!うちで鍛えたらいいじゃないか……!何でワザワザ……四席がいなくなるんだよ?」
真に近づきながら、弓親が焦ったように言ったが、更木が弓親の肩を掴んで止めた。
「やめろ、弓親。真が決めた事に口出すな」
「でも、隊長…!」
「うるせえ。真を潰す気か?」
一角も後ろから弓親の肩を掴み、真から離した。
「今のあいつには、十一番隊は辛えだけだ。離してやれ」
弓親は諦めきれない目で真を見た。だが、男性が3人いるこの状況に、固まり、汗をかき、浅く息をする真を見て、受け入れる他無かった。
「もう、行くぞ。霧島、明日詳しい話しにくるからな」
一角は弓親を引っ張って出ていった。やちるも更木の肩に乗って、バイバーイ、と言って帰った。弓親は、部屋から出る時も、せつな気な目で真を見ていた。
 真は、弓親を悲しませた罪悪感と、好きな人を受け入れられない自分の状況を呪い、心を痛めた。
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