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羽化にはまだ早い(弓親)

 真が救護に運ばれた、と連絡が入り、弓親と一角は急いで四番隊舎に向かった。
 四番隊舎の門の前で平子にすれ違ったが、二人は簡単に挨拶だけして、通り過ぎようとした。
「綾瀬川」
平子が弓親を呼び止めた。不意を突かれた弓親が、驚いて足を止めた。弓親が止まった事に気がついた一角も、足を止めた。
 弓親の頭に、平子と真の関係がよぎった。この人、もう真に会ったのか…?
「中に織姫ちゃんがおる。織姫ちゃんが、真を助けたさかい。怪我も、治っとるよ」
弓親は複雑な気持ちになったが、平子にお辞儀だけして真の元に走った。

 真の病室は扉が閉ざされ、面会謝絶になっていた。扉の前で織姫がうなだれるように立っていた。
「…織姫ちゃん………」
少し離れた所から弓親が声をかけると、織姫がこっちを向いた。憔悴した顔をしていた。
「弓親さん……、一角さんも…」
「真を、助けてくれたんだって……?」
弓親はゆっくり近寄った。織姫は、赤く腫らした目に、また涙を溜めた。
「私は…怪我を治しただけなんです」
織姫が俯くと、涙が溢れ、床にシミを作った。
「心までは、治せなくて……怪我は治った筈なのに………真ちゃん、起きないんです……」
織姫は涙を拭い、病室の扉を見た。弓親も扉を見つめて、何も出来ない自分を責めた。   
 真自身が、起きるのを拒んでいるのだろうか。それだけ、辛い事が、真の身に起きたのか。どうして、僕は、何もできなかったのだろう……。
 弓親は一回考えるのをやめ、織姫に向き直った。
「……でも、真が生きていてくれて、僕は嬉しいよ……ありがとう……」
「………はい」
 しばらくすると、一護が来た。二番隊に事情聴取に行っていたらしい。
 一護は、霊力のお礼を一角と弓親に言うと、落ち込む織姫を連れて帰って行った。
 二人は、しばらく病室の前で真が起きるのを待ったが、起きる気配が無いため帰って行った。
 次の日から、弓親は時間が許す限り病室を訪れたが、真は起きなかった。


 3日後、勇音が真に届いた花を花瓶に挿して持っていくと、体を起こして外を見ている真がいた。
 勇音は、思わず花瓶を落として割ってしまったが、それは気にもせず、真に駆け寄って、ベッドに手をついて涙を流した。
「…霧島さん………!良かった……!」
「虎徹副隊長………」
勇音は涙を拭い、良かった、と繰り返しながら、真の脈や血圧を計った。
「異常ないです…気分は、どうですか?」
「…お腹が、空きました…」
「そうですよね!3日も寝てたから…!今、お粥作って貰ってきますね」
勇音はそう言うと、割れた花瓶と花を拾って、部屋から出ていった。 
「3日………?」
そんなにも寝ていたのかと、驚いた。部下は、織姫は、四番隊士は、男達はどうなったのか…知りたい事が沢山あった。
 勇音が居なくなり静かになると、真の頭にあの惨状が蘇った。
 治った筈の足に痛みが走り、布団をめくって足を確認したが、傷は綺麗に治っていた。
 だが、今まで縛られていたような感触が、未だに体に残り、恐怖で体がすくんだ。
 両手で体を擦り、感触を消そうとしたが、なかなか消えなかった。あんな奴らに恐怖している自分が情けなく、真は、歯を噛み締めた。
「霧島さん。入っていいですか?」
ドアの向こうで卯ノ花の声がした。真は手を体から離し、返事をすると、卯ノ花と共に二番隊警羅隊長が入って来た。
「霧島四席、今回の件でお話をお聞きしたい」
「私がついてます。無理なようでしたら、お止めしますが、できますか?」
真は体に力を入れて、痛みを我慢した。
「はい。大丈夫です」
 卯ノ花が真の側に寄り添いながら、警羅隊長は今まで聞いてきた話が合っているかを真に確認した。話の中で、部下の名前や、四番隊士の名前が出てきたことで無事が分かり、安心した。
 だが、話が、真が頭を砕かれ、空き家に移動した所で、真の全身から汗が吹き出し、顔が真っ青になった。卯ノ花はそれを見て、警羅隊長を下がらせた。
 真は顔を押さえて、悔しさに震えていた。
「………大丈夫ですよ。あの方々は、牢屋の中です」
卯ノ花は真の背中をさすりながら、優しく慰めた。だが、牢屋にいる相手に、体がすくむ自分があまりにも情けなく感じて、真は卯ノ花にすがりついた。
「……悔しい…!あんな…あんな奴らに……こんな怖がるなんて………!!!」
卯ノ花は真をしっかりと抱き止めた。
「部下を守ったあなたは、勇敢でした。あなたが死ななかったのも、あなか自身の強さですよ。胸を張りなさい。大丈夫。あなたは弱くない」
じゃあ私はどうしたらいいんだ、と真は言いかけたが、言葉を飲み込んで卯ノ花に身を預けた。
 卯ノ花は、真が落ち着くまでは、面会謝絶にしてくれると言った。

 その夜、真に睡眠薬が渡されたが、恐怖から背を向けたく無い真は、飲まずに寝ようとした。だが、暗い中で目を瞑ると、あの時の光景が余りにもリアルに蘇ってしまい眠れなかった為、結局睡眠薬を飲んだ。眠りに落ちながら、自分の中のあらゆるモノを壊された理不尽さに、また涙を流した。
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