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羽化にはまだ早い(弓親)

 あれから、更に日にちが経った。弓親との関係は穏やかな平行線のままで、真も弓親もこの関係を壊す勇気を持てずにいた。
 

 ある日、真達の班が虚討伐の帰りに四番隊に寄ると、奥で騒ぎが起きていた。
 聞いた事のある声がしたため、真と部下たちが様子を見に行くと、十一番隊士4名が四番隊士1人に暴行を加えていた。顔を見ると、よく真に突っかかって来ていた男達だった。
「やめないか!」
真が飛び出して間に入り、男達をねじ伏せた。部下たちも来て、真が倒した男を取り押さえた。
 部下の一人が、四番隊士を起こして支えた。だいぶ殴られたのか、顔は腫れ上がり、片目は開かなくなっていた。
「何があったんですか?」
真が四番隊士に聞くと、四番隊士は息も切れ切れに、床に落ちているタバコを指差した。
「てめえ!!チクんじゃねえよ!!!」
床に押さえつけられている男が喚いたが、部下が頭を殴って黙らせた。
「これは、ウチの隊士が吸ったんですか?」
真が聞くと、四番隊士は頷いた。真は十一番隊士達に向き治り、あれはお前たちが吸ったのか、と聞いた。
「うるせえな!!!おめえに関係ねえだろクソ女!殺すぞ!!!」
「でしゃばんな!!!」
「隊長に言ったら殺すからな!!!」
男達は口々に真を罵った。取り付く島もない男達に、真はため息を漏らし、部下に四番隊士を治療に連れて行くように言った。
「お前達は、事情聴取の為にニ番隊に移送する」
男達に向き直り、真が言うと、男達は更に騒いだ。
「誰が行くかボケェ!!!!」
「偉そうに言うな!!殺す!!!」
大人しくついて来る気が無い男達は、部下たちの手を振りほどこうと暴れた。真をはじめ、縛道が使える人間が班におらず、男達は手を無理矢理振り解いて部下たちに拳をあげた。
 その一瞬、真が視界から消えたかと思ったら、男達が気を失って倒れた。少し離れた場所に真が現れ、ゆっくり向き直った。
「班長…!班長がやらなくても、私達でやれましたよ」
倒れた男達を見ながら、部下が不満そうに言った。
「騒ぎを、大きくしたくなかったから」
部下は、も〜、と言いながら男達を担ぎ、二番隊に向かった。そこで、男は留置所に入れられた。
 喫煙を注意された腹いせに暴行を行った男達には、暫く謹慎が命ぜられ、処分は追って通達すると言われた。
 真が留置所に行き、謹慎を告げると、男が一人近づいて来て、牢屋の格子を握り締め、憎悪の目で真を睨んできた。
「俺はな、ずっとテメェが気に入らねえんだよ……殺すからな……何をしても、テメェを殺す………女の癖にでしゃばりやがって!!」
男は真の顔に向けてツバを吐いてきたが、真は無言で交わし、それ以上何も言わずに留置所を後にした。
 男に言われた事は、誰にも言わなかった。



 2日後、真達の班は、また虚の討伐に出掛けた。ちょうどその時、二番隊から十一番隊に使者が来た。
 聞けば、謹慎していた4人全員が消息を絶ち、同時に暴行を受けて入院していた四番隊士が、何者かに誘拐されたという。四番隊士がいた部屋には、争った跡と思われる血痕が残っていた。
 監督責任者代理として一角が呼ばれ、警羅隊と共に弓親と捜索にあたった。
「逃走するだけなら、何で四番隊士を誘拐したんだ?逆恨みなら、その場で何とでもできたはずだ……」
一角は立ち止まって考えた。逆恨み?なら、対象は四番隊士だけじゃない……
「おい、弓親」
「なんだい?」
「霧島達はどこに行ってる?」
「西流魂街の外れの谷だ」
「行くぞ。あいつらの狙いは霧島だ」


 二番隊士が一角と話している頃、真達は帰路についていた。
「今日も楽勝っしたねー」
「どこがよ、途中休憩したじゃない」
「バーカ、あれは休憩じゃねーよ。指導っすよね!?班長!」
「そうだね」
皆でワイワイ話して帰っていると、突然木の上から声がした。
「縛道の三十、嘴突三閃」
突如、真の部下たちが地面に張り付けにされた。何が起こったのか分からずにいると、部下達は全員気絶し、頭を地面に横たえた。
「誰だ!!!」
真が叫ぶと、木の上から男が5人降りてきて、部下達を踏みつけにした。
 4人は、先日真達が捕らえた十一番隊士だ。しかし、もう一人は、暴行を受けていた四番隊士だった。
 彼はまた殴られたのか、鼻から血を流し、頬は腫れていた。涙を流し、震える手で牙点が入っているビンを握っていた。
「ごめんなさい…霧島さん……ごめんなさい」
脅されて、無理矢理連れて来られた四番隊士は、何度も真に謝った。
「さっきからうるせえ!!」
苛ついた男が彼を殴り、四番隊士は地面に倒れた。
「やめろ!!」
「おっと!動くなよ、部下を殺すぞ」
真が構えると、一人の男が部下の髪を鷲掴みにして、顔を持ち上げた。
 斬魄刀を取り上げられた男達は、どこから持ってきたのか、包丁や千枚通し等、隠せる大きさの刃物を持っていた。
 男は気絶している部下の目に、千枚通しを当て、部下の瞼から少しだけ血が流れた。真の背筋が凍った。
「一緒に来たら、お前の部下は助けてやる。抵抗したら、殺す」
真は血が出るほど唇を噛み締め、握った拳は震えた。男達の卑劣さと、無力な自分に腸が煮えくり返った。
 血管が切れそうな目で男達を睨みつけ、真は両手を頭上に掲げた。
「おい、あの女の斬魄刀を取れ」
一人の男が四番隊士に命令し、地面にしゃがんでいた彼は、怯えながら真に近づき、真の斬魄刀を腰から抜き出し、地面に置いた。
「ごめんなさい…やらないと、僕が殺されるんです……ごめんなさい、霧島さん……」
「………そうですね。あなたの事は、恨みません」
四番隊士にそう言うと、真は諦めの顔で、目を瞑った。
「おい、早くやれ」
「ごめんなさいごめんなさい………ば、縛道の六十ニ鎖条鎖縛」
鎖に縛り付けられた真は、衝撃で地面に膝を着いた。四番隊士は泣きながら、ヘナヘナと膝から崩れた。
 男達はニヤニヤといやらしく笑った。一人が足元に落ちていた大きめの石を拾い、真に近づいて来た。
「いいザマだな、霧島四席……!」
男は石を振り上げ、力いっぱい真の頭に打ち付けた。鈍い音と共に血しぶきがあがり、真は地面に倒れた。
「ああああああ!!!霧島さん!!!霧島さん!!!」
四番隊士が真に近寄るが、真は血を流したまま動かない。男は石を投げ捨て、四番隊士の背中を蹴った。四番隊士は前のめりに倒れた。
「おい、血を止めろ。足がつく」
四番隊士は言われるままに、真の治療をした。
 治療が終わると、男達は四番隊士に真を担ぐよう言いつけ、二人を空き家まで連れて行った。
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