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羽化にはまだ早い(弓親)

 日の光で真が目を覚ますと、もう既に朝だった。隣には乱菊が寝ていて、やちるは見当たらなかった。
 また酒で倒れてしまったと、情けなく思っていると、前の様な頭痛と吐き気が無いのが分かった。不思議に思いながらも、備え付けのお茶を沸かして飲んでいたら、乱菊が起きた。
「ごめん。起こしたね」
「……いいのよ。それ、私にもちょうだい」
目を擦りながら、乱菊が手を伸ばしたので、湯呑にお茶をついで渡した。
「どう、体の調子は?」
お茶を飲みながら、乱菊が聞いた。
「凄く調子が良い。何で?」
「卯ノ花隊長よ。あんたが倒れて直ぐ、治療してくれたの」
迷惑かけてしまった、と思っていると、乱菊が真の頬をつねった。
「いひゃい」
「総隊長に言われようが、飲んじゃだめでしょ!?」
「ごめんなひゃい」
「心配かけないで」
乱菊は手を離し、またお茶を飲んだ。真は、つねられた頬をさすりながら、反省した。
「ずっと乱菊がいてくれたんだね」
「当たり前よ、他の奴に任せるもんですか」
真が笑うと、何笑ってんのよ、と小突かれた。

 着替えて朝食を食べに行くと、卯ノ花と勇音がおり、真は昨晩のお礼を言いに行った。
「昨日、素敵な歌を聞かせていただいたお礼ですよ」
卯ノ花は優しく微笑んだ。改めてお礼を言う真を卯ノ花は止めて、意味深な笑顔をした。
「霧島さん、だいぶ表情が良くなりましたね」
「…あっ…。あの時は、すみませんでした」
「私達は、体の傷や病気は治せても、心は治せませんから。良かったです」
卯ノ花の優しさに心洗われていると、やちるが元気よく部屋に入ってきた。
「まこまこ〜!!元気になった〜!!?」
後ろから、更木、一角、弓親が来た。真の元気そうな姿を見て、3人共、安心した顔をした。
「みんなまこまこを心配してたよ!おじいちゃんは、卯ノ花さんが叱ったからね!」
総隊長を叱ったのかと、真は驚いた。卯ノ花は平然と微笑んでいる。すると、一角が来て真の頭を小突いた。
「またやったなお前」
「すみません」
「仕方ないよ一角。総隊長からの盃だ」
弓親が入ってきた。真は少し緊張したが、いつも通りな弓親にホッとした。
「あたし、剣ちゃんと寝たの!皆で同じ部屋楽しかったよ!」
「そりゃ、あんだけ、騒いだら楽しいだろうな」
一角が呆れて言った。何をしたのか真が弓親に聞くと、枕投げだと返ってきた。

 皆で朝食を食べ(正座3人男も復帰した)、旅館を出ると、一向は海に向かった。
 女と男に分かれて、更衣室で水着に着替えた。真はやちるを着替えさせ、自分も乱菊が選んだ水着に着替えた。やっぱり肌が出るのが気になって、上にパーカーを着て、ファスナーを上まで上げた。
「何してんの真?!それじゃ水着の意味無いじゃない」
乱菊が不満そうに言った。乱菊は、豊満な胸がほとんど出ている白の水着だった。よくそんな格好で歩けるな、と真は思ったが、いつもそんなだっなと思い出した。
「私はこれでいい」
やちるの浮き輪を膨らましながら、真はそっぽを向いた。何言ってんのよ!と乱菊がパーカーをはぎ取ろうとしたが、真はやちるを連れて逃げた。
 やちると手を繋いで浜辺を歩いていると、男性陣がパラソルを立てていた。
「あれ、早いね真、他のみんなは?」
水着の弓親がシートを敷きながら言った。いつも、首巻きで首まで完全に隠れている弓親の上半身が、今日は露わになっていた。細身だが筋肉がしっかりと付いており、男性として意識せざるを得なかった。
「………遅いんで、先にきました」
弓親の体から目を反らして、浮き輪を膨らませ、真は気持ちを誤魔化した。
「つるりん!ゆみちー!見てみて!!」
突然やちるが、真の目の前でジャンプしたと思ったら、ファスナーを下まで一気に下げた。
 開いたパーカーから、真のたわわな胸が露わになった。一角も、弓親も、びっくりしたまま目は真の胸に釘付けになった。真は驚きと、羞恥心で頭が真っ白になり固まった。
「ね!?まこまこのオッパイおっきいでしょ!??」
やちるはそう言うと、瞬歩で真の後ろに回り込み、どうやったのか、真のパーカーを剥ぎ取って逃走した。真は、返せー!と言いながら、走って追いかけて行った。
「昨日言ってたのは、これか…」
一角が、走って行くやちると真を目で追いながら、ボソッと呟いた。
「たとえ一角でも、真をそーゆー目でみたら……殺すから」
「今のは事故だろ」


 結局、パーカーはやちるによって、海に流され、沈んで行った。やちるは一角や他の人達とビーチバレーをしに行き、真は諦めて、パラソルで休む事にした。
 パラソルの下には弓親がいた。遊んでいる人達を眺めて笑っていた。真は、弓親の隣に座るか悩んだが、ちゃんと話そうと思って、弓親に近づいて行った。
「隣…いいですか?」
弓親が真を見上げて、笑顔でどうぞと、場所を空けた。
「混ざらないんですか?」
遊んでいる人達を真も見ながら、弓親に聞いた。
「焼けるから、嫌なんだ。真こそ、行かないの?」
「……パーカー……海に沈められたんです」
弓親が真の露出した肌をジッと見て、残念だったね、と言った。
「真の肌が、他の奴に見られるから、僕にとっても残念だよ」
弓親は軽く舌打ちした。真は照れから返答に困り、黙って膝を抱えた。
 暫く沈黙が続いた。弓親も何故か喋らないし、真も何をどう切り出せば良いか分からず、黙っていた。
「……か、かき氷!かき氷、買ってきます」
真は沈黙を破りたくて、立ち上がった。
「弓親さんは、食べますか?」
「うん、ありがとう。じゃあ、イチゴがいいな」
「わかりました」
真は逃げるように歩いて言った。

 何で弓親さんは喋らないんだろう……私もちゃんと返事しようと思ったのに、意気地なしだな…戻ったら言おう…
 いろいろ考えながらかき氷を買い、戻ろうとした時、振り向きざまに誰かにぶつかりそうになり、思わずよろけた。
「何や、誰かとおもたら、真やんけ。なんやそれ、生えたんか?」
胸を指差しながら、平子がふざけて言った。真は、指ささないでくださいよ、と呆れた声で言った。
「そういや、お前が前に好きや言うてたバンドのアルバムあったで」
「ホントですか」
「また今度かしたる」
「ありがとうございます」
二人はそこで立ち話を始めた。
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