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羽化にはまだ早い(弓親)

 乱菊に髪を結んでもらい(凄くキレイに)、真達が風呂場から出ると、廊下に正座した平子、京楽、檜佐木がいた。周りでは、他の男性達が、冷やかし、笑っていた。話し声から察すると、総隊長が来て、3人に正座するよう言ったらしい。
 女性陣がその間を通ろうとすると、視線が真に集まった。それに気づいた乱菊と七緒が、ズイっと前に出て無言で睨むと、視線は地に落ち、サッと道が出来た。
 ルキアは通りすがりに、恋次を叩いていた。
 通り過ぎたあと、真は申し訳なくなり、謝った。
「気を使わせて、ごめんね………」

 
 各部屋に荷物を置きに解散し、真はやちると弓親を探した。
 二人は、売店前のベンチでジュースを飲んでいた。
「あ!まこまこ〜!!髪かわいい!!」
やちるがベンチから手を振った。ありがとうございます、と言いながら近づくと、やちるが、あれ?と言った。
「剣ちゃんと、つるりんは?」
「隊長は知りませんが、三席は男湯の前にいましたよ」
「何してたの?」
弓親が聞いた。
「男湯の前で正座してる人達を笑ってました」
それを聞いたやちるが、ちょっと見てくる!と飛び出した。弓親と真が二人きりで残された。
 弓親は何故か何も話さなかった。真も、風呂での出来事を話題にしていいのか悩み、喋りださずにいた。沈黙に耐えられなくなり、真は売店に向かった。
「私も…飲み物買ってきます」
すると、弓親が立ち上がった。
「買ってあげる」
弓親はそう言って真を追い越し、梅ジュースを買ってくれた。真はお礼を言って受け取り、気まずさを隠すために一気に飲んだ。弓親は外の景色を見ながら、また黙っていた。真は、もう、部屋に帰ろうかと考えた。
「……嫌な、気になっただろ?」
突然弓親がポツリと呟いた。真は一瞬、何の事かと思ったが、すぐに風呂での出来事だと分かった。
「まあ…多少は…」
「馬鹿だろ、男って…本当に」
悔しそうに、弓親の顔が歪んだ。何故弓親が、そんなに心を痛めるのか、真には理解出来なかった。
「弓親さんは、止めてくれたんですよね?」
「止めれなかったよ。止めたのも、総隊長に言ったのも、日番谷隊長だ」
弓親は真に近づいて、真の髪に触れた。
「弓親さんが、自分を悪く言うなんて、珍しいですね」
「好きな女の体を、他の男が想像してるって思うと、全員殺したくなる…」
弓親の目が冷たくなる。
「醜い………独占欲だよ…」
弓親の指が降りてきて、真の鎖骨に触れた。真の心臓の音が早くなる。弓親が触れている部分が熱を持った。
 私、この人に、触れたい。出来れば、抱きしめたい。
 真の心に、今まで無かった欲求が出てきた。
 だが、真は躊躇した。抱きしめたら、きっと弓親は喜ぶ、しかし、その先は?男と女として、しっかり弓親に向き合えるのか、真には自信が無かった。恋を認めて、心が乱れるのも、醜い感情に支配されるのも怖かった。
 抱きしめたい気持ちを押し殺して、真は弓親の手を握り、ゆっくり降ろした。
「私は、大丈夫ですから、弓親さんは、そんな事思わないでいいですよ」
苦し紛れにそれっぽい事を言って、真はその場をやり過ごそうとした。
「僕に優しくするって事は……期待していいのかな?」
弓親が真の手を握り返した。
 真の頭に、乱菊の言葉が蘇る。期待させる態度を取った自分を呪った。
 弓親にスイッチが入るのが、目付きで分かった。こうなってしまうと、真は弓親から逃げる術を知らない。
「来て」
弓親が真の手を引いて、外に向かった。真は手を引かれるまま、付いて行った。
 外は日が落ち、薄暗くなっていた。二人は、旅館の庭を歩き、建物から離れた。近くに小川があるのか、水の音が聞こえた。
 紫陽花が咲く花壇の前で、弓親が止まり、真も側で止まった。
 弓親が振り返り、熱を帯びた目で真を見つめた。真の理性は逃げろと言うが、本能が弓親の次の行動を求めた。真は目を泳がせ、自分の矛盾に戸惑った。
「なんで付いてきたの?」
真に近づきながら、弓親が妖しく笑った。真に何かを言わせようと、誘導してくる。この人は……
「……逆に言うと、なんで逃げないの?」
何か自信があるのか、弓親が真の左頬から耳をなぞるように手を滑らせた。耳を指で撫でられ、真の肩がビクつく。呼吸が早くなり、体は熱を帯びた。これは、駄目なやつだ…懐柔させられる……。それでも、真の体は動かなかった。
 真が耳で感じた事に、弓親の中の男が完全に抑えられなくなった。まだ先ができる確信が、弓親の行動に拍車をかけた。
 真は体を丸めて、顔を伏せるが、弓親の手をどけるどころか、嫌がる素振りも見せない。弓親は、それをいい事に、更に真の耳をイヤらしい手付きでなぞった。それに合わして、真の口から吐息が漏れる。
「ッン………」
自分の口から、女の声が漏れた事に驚き、真は真っ赤な顔で口を覆った。
 弓親も、自分でしておきながら、意外ないい反応に驚き、思わず手を離した。真は片手を口に当て、もう片方は拳にして胸に当てて、鼓動を抑えようとしているようだった。
 弓親が意を決して、真を抱きしめ、唇を耳に当てながら、最後の理性を振り絞った。
「……いい?」
真の体が、息に反応しているのが、感触で分かった。だが、真は何も言わない。待てない弓親は耳を噛んだ。
「アッ」
真の声が、弓親の欲望を膨らませる。弓親は一度耳から顔を離し、真の顎を手で支えた。真の熱を帯びた、夢の中にいるような、とろけた目が見えた。
 弓親はそのまま、真の唇に自分の唇を重ね、求めるように何度も合わせた。真が空気を求めて口を開けると、弓親はその隙に舌をいれ、真の舌を絡めとった。
 弓親はいつの間にか、真を力任せに抱きしめ、真は弓親に寄りかかるように、浴衣をぎゅっと握りしめていた。
 ヨダレが垂れるのも気にせず、弓親は夢中で真を求めた。真は初めて与えられた快楽に、何も考えられず、弓親を受け入れた。
 唇では満足できなくなった弓親が、真の浴衣の合わせを開きながら、首に舌を這わせようとした時、弓親の動きがピタリと止まった。
「……今日は、ここまでみたい…………」
残念そうに真の浴衣を直しながら、弓親が小さな声で言った。我に返った真の神経にも、一角の霊圧が近づいて来るのが感じられた。
「……期待して、いいんだよね?」
真の口の周りを拭きながら、弓親が笑った。真は顔から火が出そうな程赤くなっていたが、弓親をしっかり見ていた。
「……私は……初めてでした………」
その言葉の意味を前向きに捉えるよ、と弓親は冷静な態度で言ったが。愛する人の初めてが、自分に与えられた喜びで、胸が震え、顔は緩んだ。
「じゃあ、また、後で……落ち着いたら来なよ」
名残惜しそうに、真の指の先をそっと握って、弓親は一角の元へ向かって行った。
 真は一人になっても、顔の熱が取れずに、旅暫く一人で立っていた。
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