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羽化にはまだ早い(弓親)

3.埋没

〜弓親Side〜

 真は埋もれていた。
 実力はあっただろうに、愚鈍な男達に機会を潰されていた。だから、何十年も無名のままで、弓親も顔も名前も知らなかった。
 5年前のある日、十一番隊隊士4名で、虚の討伐に向かった。男性隊士3名に混ざって真もいた。
 報告では、大した虚では無かったため、日帰りで終わる任務のはずだったが、翌日になっても4人は帰らず、正午を過ぎた時に弓親と一角が追加で派遣された。
 着いた時には目を疑った。
 虚がいたのは、深い谷の底、四方を崖に囲まれた巣だった。
 一人は頭を食われ死亡。二人は瀕死の重傷で倒れており、二人を守るように、ボロボロの真が孤軍奮闘していた。
 真の始界は、一対の鎖のついた鉄球が炎を纏っていた。後から分かった事だが、真の能力は鉄球を回し続けないと、自身が炎に焼かれてしまう、危険な能力だった。その為、真は弓親達が来るまでのまる一日、ずっと鉄球を回し続け、飲まず食わずで戦っていた。腕はもう限界だった。
 真の髪は乱れ、体のあちこちに傷があり、息は上がり、目は虚ろだったが、腕は鎖を離さず攻撃の手は緩めなかった。
「あいつ、昨日からずっと戦ってんのか?」
一角が真を見ながら言った。
「そろそろ限界だろう。早く助けよう、一角」
二人が谷底に降りようとした時、大きな影が二人を追い越した。
「何チンタラしてやがる」
更木の剣が虚の首を切り落とした。
「た、隊長。どうして」
一角が更木の後に続いて来たが、更木は一角には目もくれず、消えていく虚をつまらなさそうに見ていた。
「手のかかる獲物が出たと聞いたが、ザコじゃねえか」
チッと舌打ちして地面を蹴った。
 虚が消えたのを無意識に感じたのか、緊張の糸が切れたかのように真の意識は飛び、真の始界は解け、体が倒れかかった所を弓親が腕を伸ばして支えた。
「こんな子、知らなかったな」
ダランと自身の腕に身を委ねる真を見下ろしながら、弓親が言った。
「一角は知ってる?」
「知らねえな。イチイチ覚えねえよ」
弓親は何か考える表情をしながら、真を背負い、地面に落ちた真の斬魄刀を拾った。
「僕はこの子を救護に連れて行くよ。もうすぐ四番隊が来るから、怪我人はよろしく」
さっさと帰ってしまった更木を追うように、弓親も崖を登り、靜霊廷に向かった。
 残された一角は、隅に倒れている怪我人に近づいた。
「よう。話せるか?」
しゃがんで顔を見ると、一人はまだ意識があった。
「斑目三席…すみません」
「最後を倒したのは隊長だ」
「それは、親玉じゃありません…全部で7体いましたが、最初の囮に騙されて全員ここに落ちました。そのスキに一人喰われました」
奥で転がっている死体を見た。この班の班長だった死神だ。
「恐ろしく強い虚が一体いて、俺もそいつにヤラれました。あいつも…。それを、霧島が一人で」
「一人で?」
「はい。7体を相手にしながら、次々倒していきました。更木隊長がやったのは、霧島が倒しそこねていた最後です」
「あいつ…霧島が強いと知っていて連れてきたのか?」
「いえ…正直、荷物持ちくらいに思っていました。俺達は霧島を見くびって…」
「それを俺に言えたんなら、いいだろ」
はい。と言って、その隊士は空を見上げた。一角はその隊士が考えている全ては分からないが、霧島が埋もれていた事は分かった。
 暫くして四番隊が到着し、けが人も救助された。

 一角からの報告を電話で受けたあと、治療室で治療を施される真を、弓親は離れた場所から眺めていた。
 整った顔をしているが、髪型も服装も女性らしさからは程遠い。まるで、自分が女である事を否定しているようだった。
 弓親は椅子に座ると足を組み、頬杖をつきながら戦う真を思い返した。
 彼女の、ギラギラした目が、頭について離れない……。彼女は、何者だ。どうして無名だ。何故あんな強さを持っているんだ。何故十一番隊にいる……。
 考えれば考えるほど真に強い興味を持ち、弓親はいても立ってもいられなくなり、フラリと部屋から出ていった。
 一角が救護に赴くと、廊下で弓親に会った。
「霧島は?」
「霧島?ああ、あの子の事か。両手の骨折と、腕の筋肉断裂だって。あの状態でよく戦ったよ。今は寝てる」
弓親は何やら話したりなさそうにソワソワして、手で口を覆いながら、試すような目を一角に向けた。
「ねえ、一角。もし、彼女の実力が本物なら、彼女が四席…どうだろう?」
「いきなりは無理だろ」
「じゃあ、席管と戦わせてみようか」
どうして弓親が霧島にそんなにこだわるのか、一角には不思議だった。
「何でそんな、霧島にこだわる?」
弓親は至極真面目表情のままだ。
「四席がずっと空席じゃないか」
「お前が誰も認めねえからな」
「霧島真がいいんだ」
「だから、どうして」
「この結果だよ、他に理由はある?」
弓親の目に熱がこもる。弓親は真っ当な理由の様に言うが、そんな理由では霧島が四席になる理由にはならない。他の奴でも可能な事かもしれない。
「じゃあさ、今度阿散井と戦わせようよ。六席の彼に勝ったら四席、いいだろ?」
「阿散井が負けるような言い方だな」
「多分ね」
一角は弓親と付き合いは長いが、イマイチ考えが読めない時がある。
 阿散井に言ってくる、と弓親は一角の脇を通り過ぎ、救護詰所を出て行った。一角は未だに納得しておらず、とりあえず隊長に進言しようと十一番隊隊舎に戻って行った。
 弓親は阿散井恋次を探して歩いていた。事の成り行きが楽しくて、つい足が弾む。
 弓親は強い者が好きだ。美しければ尚更。ただ、今回は自分でもどうしてこんなにも惹かれてしまうのか分からないでいた。近くに置きたくて仕方がないのだ。それに、きっと彼女は阿散井に勝つだろう。
 彼女が四席になったら、周りからは反感を買うだろう。だが、弓親にとってはそれすら楽しみだった。苦しんで、泣くだろうか、力で制圧するだろうか、どれも見てみたいと思った。
 あれこれ考えていたら、阿散井がいた。弓親はおーいと、手を振り近づいて、真の話をした。

君が勝ったら四席だ、と。
 
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