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羽化にはまだ早い(弓親)

28.慰安旅行、2

 昼休み、乱菊と真は技術開発局を訪れた。
「阿近いるー?」
乱菊が遠慮無しに進んで行くと、奥から阿近が顔を出した。
「なんだ、松本副隊長か…なんスか?」
タバコを灰皿に押し付けて、阿近は乱菊に近づいてきた。
「前に、女性死神協会から、傷跡を消す方法考えてって要望あったでしょ?あれ、どうなったの?」
「ああ、あれか、出来てますよ」
阿近は一度奥に戻り、怪しい色のチューブを持ってきた。
「液状疑似皮膚です」
塗った所に皮膚を作り、傷を隠す物だと説明された。
「大体3日は付いたままです。試しますか?」
阿近が乱菊にチューブを差し出した。
「私じゃ無いわよ。真が使うの」
阿近が乱菊越しに真を見て、今気づいたと言わん顔つきをした。
「なんだ、坊っちゃんじゃねえか。ようやく、傷を気に出来るようになったか。女らしくなったな」
技術開発局の人達は昔から、射場の要請で、真が一人で修行出来るように力を貸してくれていた。射場が、ボンだの坊っちゃんだのと呼ぶため、ここの人員達も、釣られてそう呼ぶようになった。
「もう、その、坊っちゃんはやめてください」
チューブを受け取りながら、真が苦々しく言った。でも、ありがとうございます、と付け加えて。
「お前が、もっと女らしくなったら止めてやるよ」
タバコに火をつけて、阿近が意地悪に笑った。
「そこのカーテンの所で試してみろ」
阿近に言われた場所で、乱菊に手伝ってもらい、背中や腕に塗ってみると、傷跡がキレイに消えた。
「すごーい!!全然分かんない!!!」
真の背中をまじまじ見ながら、乱菊が驚いた。
「皮膚を皮膚にくっつけてるんでね。動いても違和感無いだろ?坊っちゃん」
真は試しに体を反らしたり、捻ったりしたが、何かが体に付いている感じは何も無かった。
「全然無いです。凄い…」
「でも、真の体じゃ、一本で足りるかしら?」
「怪我しすぎだぞ、坊っちゃん。あと2本持っていくか?」
結局3本もらい、真と乱菊は技術開発局を後にした。

 2日後、乱菊と真と七緒の3人で水着を買いに現世に来た。
「草鹿副隊長のお守りなんて、大変ですね」
水着を見ながら、七緒が哀れみの目をして言った。真も、その横で見ながら、そうなんです…とため息をついた。
「射場副隊長が、どうしてもって言うので…」
「でも、前は最悪だったわよねー」
乱菊が記憶を思い起こすように、斜め上を見ながら言った。
「女部屋は、お菓子やら、木の実でグチャグチャにされるし、温泉入ろうとしたら鯉浮かんでるし……行方不明になった時、正直ホッとしたわよ。そーいや、旅館のいろんな弁償代、総隊長がはらったんでしょ?」
「そうでしたね」
七緒が頷いた。
「そりゃあ、狛村隊長が今回は黙って無いわよね。総隊長大好きだもん。」
思案する狛村の為に射場が動いたのかと、真は納得した。それにしても、やちるを止められるか、ただただ不安だった。
 そんな真を見て、乱菊は慰める様に真の肩に手を乗せた。
「ま、やちる、早く寝るし。やちるが寝てから、楽しも」
「そーする…」
 いろいろ水着を見ていると、どれもこれも露出が高くて、いつも肌を隠している真には辛かった。
「真さん、選びましたか?」
七緒が自分の物を手にとって、真に聞いた。
「これ…早く泳げるってあるんで」
真が選んだのは、二の腕も、太ももも隠れる競泳用の水着だった。乱菊はとっさに、真が選んだ水着を奪った。
「何で慰安旅行で早く泳ぐ必要があるのよ!!!」
「競争するかもしれないし……」
バカッ!と言って、乱菊は競泳水着を元の場所に戻した。
「肌が出るの恥ずかしいんだよ…もう、泳がないで荷物番する」
「何言ってんの!海に来たのに水着を着ないなんて、飲み会行って酒飲まないのと同じよ?!」
それ私だ、と思ったが、怒られそうなので言わなかった。
「真はいつもサラシで、オッパイツルンペタンにしてるけど、意外とあるんだぞって見せつけなきゃ!!!」
「え……やだよ…」
意外とあるんだ、と七緒は思ったが言わなかった。
「もう、私が似合うやつ選ぶから!紺色ならいいでしょ?」
結局乱菊がこれにしなさい、と渡してきた。
 紺色の地に、肩紐を首に回すタイプの物で、谷間に金色のチャームが付いていた。下は、短パンを重ね履き出来るようになっており、足が全部出るよりはマシだと思えた。
 真は渋々、それを買った。

 帰り道、3人でカフェに寄り、お茶をしていると、七緒が突然カメラを取り出して、真を撮った。
 突然の事に、真が目をパチクリさせていると、七緒が乱菊に写真の確認をした。
「いーじゃなーい!イケメンに撮れてる!」
嬉しそうに、乱菊がカメラの画面を覗き込んだ。
「…何して……」
「真!あんたの写真集作ってあげるからね!」
「は?」
「今回の慰安旅行で、浴衣、水着、寝姿など撮り放題ですね」
七緒がメガネをクイッと上げながら、目を光らせた。
「何で私の…」
「何言ってんのよ、イケメン死神3位のくせに」
そういえば、平子隊長が何か言っていたな、と思い出した。そもそも何で自分が入っているのか、と二人を問いただした。
「何でって言われても、ねえ」
乱菊は何と言えばいいか迷っていた。
「古来から女性は、男装の麗人が好きですからね」
七緒が、ズバリ、とでも言うように、自信ありげに言った。
「男装なんて、してないじゃないですか」
真が弁解する。
「でも、髪型もワイルドで素敵ですよ」
七緒はフォローのつもりなのか、真の髪型に触れた。その途端、真の顔が明らかに曇り、七緒は言ってはいけない事を言ったと自覚した。
「七緒〜。それは、禁句よ」
七緒は落ち込む真に困ったが、フォローできずにいた。乱菊がやっちゃった、と額に手を当てた。
「この子、頑張っても、こうなっちゃうのよ、超絶不器用なの」
「言わないで、乱菊…」
「ホント真って、仕事以外ポンコツよね。そこが好きなんだけど!」
真は顔を覆って、旅行行きたくない…と呟いた。
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