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羽化にはまだ早い(弓親)

25.メンタリスト

 昨日と同じ時間に平子と出会った場所に行ってみると、また平子は同じ屋根の上で、寝転がって音楽を聞いていた。
「…何や、昨日の今日やないか」
寝転がったまま平子が言った。真は平子を頭の方から覗き込み、円盤の入れ物と機械を差し出した。
「今ちょうど暇なんで、何回も聞きました」
平子は受け取らず、体を起こして真に向き直った。
「暇て何やねん。仕事しろ、仕事ぉ」
「…仕事、禁止になって……」
「はあ?何やそれ。羨ましっ!」
真は昨日同様、平子の隣に座った。円盤の入れ物の背面を見せて、これ、と曲の題名を指差した。
「この曲が、特に好きです」
「ああ、これな、俺もこれすっきゃねん。ええよな。幻想的で」
「…はい」
平子は真から円盤を受け取ると、脇からまた別の円盤を差し出した。
「次はな、スティビー・ワンダー」
「また、借りていいんですか?」
「ええよ。俺んとこ、CDもレコードもぎょうさんあるさかい。同じ趣味で話せる仲間ができるんも、嬉しいしな」
真は、お礼を言って受け取った。平子は、真の顔をジッと見ると、息をフーッと吐いた。
「お前…だいぶマシんなったなあ」
「……え」
「お前昨日、死にそうな顔しててんで」
真は心を見透かされていた様な気になり、恥ずかしくなって俯いた。平子は今度はハァーとため息をついた。
「難儀なやっちゃなあ、お前。友達おらんやろ?!」
図星を突かれた真は、目を見開いて平子を凝視した。言い返そうとしたが、魚のように口をパクパクするだけで、言葉は出て来なかった。
「はっはーん。図星やな。何や、俺が友達第一号か!贅沢やな〜」
「いっ居ました…!友達…。居ましたよ………」
真っ赤になって反論したが、言っていて虚しくなった。自分で言いながら落ち込む真を見て、平子は首を傾けた。
「何で過去形やねん」
平子は遠慮なしに、ズバズバ聞いてくる。真は、言い訳を探すように、目線を動かした。平子は分かった、と真に指を指しながら、体を乗り出した。
「お前、数少ない友達と何かあったな?」
「は?」
真の眉間にシワがよる。
「それで、自暴自棄になって働きすぎて」
「ちょ……」
「叱られたタチやろ?せやろ?合っとるやろ?!」
「ちょっと黙ってください!!!」
遠慮の無い平子に、思わず真は怒鳴った。真は悲痛な顔して、乱れた呼吸を整えようと深呼吸していた。隊長である平子に無礼を働いた後悔と、平子がズケズケと立ち入ってきた怒りで葛藤していた。昨日会ったばかりなのに、失礼過ぎないか?いや、でも相手は隊長だ…。
「おーおー。お前、他人に本心から怒るの、慣れてへんな」
「だから何ですか…」
湧き上がる怒りを抑えるように、真が小さな声で言った。
「あんなあ。俺はこれでも、100年前にも隊長やっててんで?」
真は、え?と顔を上げた。最近隊長になったばかりだと思い込んでいた。平子はあぐらをかいて、前傾姿勢で真を正面から捉えた。
「しゃーから、お前みたいに周りの目ばっかり気にして、遠慮して本心言えへん奴をぎょーさん見てきてん。そういう奴ほど、いざと言うとき脆いわ」
平子は頭をボリボリかいた。真は姿勢を直して、平子に対峙した。数時間会っただけで、何でこうも見破られるか、不思議だった。
「……何か溜め込んどるんなら、言ってええんちゃう?てかな、お前の場合、言う練習した方がええよ。知らんけど」
「知らんのですか」
「この知らんは、知らないの知らんちゃうねん」
真は黙った。腹は立つが、壁の無い平子と話すのは楽だった。平子と話している間に、胸に溜まっていた膿みたいな感情がほとんど消えていた。後は、自分が行動しないと、この膿は消えないと感じた。
 平子も黙って真を見ていたが、沈黙に耐えられなくなり、真の頭を鷲掴みにした。
「とりあえず!!俺に言えたんは合格や!謝らへんけどなっ!」
「え…謝ってください」
頭を鷲掴みにされた状態で、地面を見ながら真が言った。
「嫌ですー!友達作れないお前が悪いんじゃ、このボッチ!!!」
ざまーみろ、ボッチ!と、平子は真の頭をグチャグチャにした。
 真は抵抗したが、本気では無く、地面を見ている顔は笑っていた。友達とふざけるのは、こんな感じかと思った。
「……平子隊長は凄いですね」
グチャグチャにされた髪を抑えながら、真が平子に言った。
「あん?」
「誰とでも、こんな風に打ち解けられるんですか?」
羨望の眼差しで、真は平子を見た。平子は横目で真を見て、フフン、と鼻を鳴らした。
「まあの。ちゅーか、真、お前はもっと頑張り。でないと、彼氏の一人もできひんぞ」
からかうつもりで、平子は言ったが、真は頬を赤らめて、真面目に考え込んでいた。平子が焦る。
「イヤイヤイヤイヤ!お前、ほんまか!!!」
「何も、言ってないじゃないですか…」
「その反応で、何で騙せる思てんねん。アホちゃうか?!」
「ぐっ……」
真の顔がまた赤くなり、汗をかいた。
「お前…恋してんのに、そのナリは致命的やぞ……見向きもされへんやろ…」
平子が本気で心配するように、声のトーンが低くなった。真は奇異の目で見てくる平子に、またイライラした。
「違います…」
「違うて…何や」
平子が一瞬固まる。真はしまった、と思った。
「お前、恋されてる側なんか?!!は?それで、ちょっと、ソイツん事、ええな思てるんか?!!!おまっ…やっすい女やなあ!」
「静かにしてください!!」
今度は手が出た。

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