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羽化にはまだ早い(弓親)

24.新しい出会い

 「なんや、お前もサボリかいな」
オカッパ男が、馴れ馴れしい口調で真に聞いてきた。真は黙って首を横に振った。
「…音楽が聞こえて…」
「おお!お前もこの良さが分かるんやなあ!ちょっとコッチ上がってきい。聞かせたるわ」
そう言って、オカッパ男は顔を引っ込めた。断るのも悪いかと思って、真は屋根まで登った。
 屋根に登ると、オカッパ男が手のひらサイズの機械ををかまっていた。隊長羽織を着ており、背中に五の字があった。真は、新しく隊長が来たという話を思い出した。
「…平子、隊長…?」
「せや。俺が平子真子や。で、お前は誰やねん」
機械から音楽が鳴り出して、平子は座りながら聞いた。真は手を足の横に持っていき、礼をした。
「十一番隊、第四席、霧島真です」
「あーーー!!!」
突然、平子が真を指差しながら叫んだ。真は驚いて、後退った。
「お前か!!「死神イケメンランキング」で3位に入っとったんわ!!同じ‘’真‘’の字やのに、俺は10位にも入ったことないねんで!??どんな男かと思っとったら、こんなチンチクリンかいな!」
「チンチクリン…」
「で、そのモテ男様が、なんの用やねん。音楽をたしなんで、更にモテようってか?けっ!いっやらしいわあ!!」
真に恨みでもあるかの様に、平子は真に辛辣な態度を取った。真は、初対面の、しかも隊長にこんな態度を取られ、困ってしまった。
「……平子隊長……」
「なんやねん」
「私、女です……」
沈黙。
「はあああああああああああ!!!!????」
平子の大声に、真は耳を塞いだ。
「女ぁ!?嘘やろ?!」
「本当です」
「何でイケメンランキングに入っとんねん!?」
「それは知りません」
「知らんのかい!!!」
平子は手の甲を真に向け、突っ込んだ。真はやはり反応に困り、黙っていると、平子がため息をついた。
「何や、反応うっすいのお。おもんないわ」
「……すみません」
「まじめかっ」
平子は初対面の真に遠慮なく、言いたい事を言った。この壁が無い感じが、乱菊に似ているなと思った。
「…で、真面目ちゃんは、何の用やねん」
「…音楽が気になって」
「そおいや、そう言うてたな。音楽が好きなんか?」
平子は自分の横に座れと、屋根を叩きながら聞いた。真は、遠慮がちに平子の隣に座った。
「好きというか、平子隊長が聞かれてたのが、初めて聞く音楽で、綺麗だと思ったんです」
「お前、なかなかええセンスしとるやんけ」
平子はニヤリと笑って、何やら透明なケースを真に渡した。そこには英語で何か書かれており、真には読めなかった。
「Beatlesや」
「びー、とるず……」
「何や、Beatlesも知らんのかい」
平子は、いかにBeatlesが凄いかを真に説明した。真は初めて聞く異国文化に、時間を忘れて傾聴した。
 平子は説明が上手かった。その語り口に、真は辛かった事を忘れる事が出来た。話を聞いている間流れていた音楽も、真の心を癒やした。
 「隊長ー!平子隊長どこですかー!!」
近くで平子を呼ぶ声が聞こえて、平子は話すのを止めた。
「っちい。追手が来よった」
「戻られるんですね」
話も終わりだと思い、真が立ち上がろうとすると、平子が待ちい、と止めた。
「これ貸したるわ。気に入ったんなら、何曲か聞いてみ」
平子はそう言って、音楽が流れる機械と、円盤が入っている透明な箱を真に押し付けた。
「そんな、悪いですよ…」
「やる、言うて無いで。貸したる言うてんねん。それに、俺にはまだもう一台あるしな」
「…あ、ありがとうございます。でも、使い方が…」
「あーもー!しゃあないなあ!!一回しか言わへんからな!」
平子はそう言って、一通り使い方を見せて説明してくれた。それを終えると、平子は自分を呼ぶ声の方に向かった。
「平子隊長!ありがとうございます!」
足早に立ち去る平子に向かって、真は大きな声でお礼を言った。平子は足を止めて振り向くと、真に向かって指を指した。
「やらへんぞ!絶対返しにこいよ!!」
そう言うと、平子は屋根から降りて行った。
 真は、自分の心が、少し軽くなっているのに気がついた。

 さて、これからどうしようと考えたが、人がいる所には行く気がおきず、自分の部屋に帰った。
 部屋で平子に借りた機械を動かし、音楽を流すと、今まで部屋に帰ると襲ってきた孤独感は現れなかった。
 ベッドに座って聞いていると、一枚目が終わり、真は円盤を入れ替えると、ベッドに横になった。そのまま横になって聞いていると、久方ぶりに眠気がきて、気づけば朝になっていた。
 
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