羽化にはまだ早い(弓親)
23.自暴自棄
乱菊を失った穴を、真は仕事で埋めようとガムシャラに働いた。虚の討伐の仕事は、特に率先して行った。いつもは部下を優先させて戦わせていたが、自分から戦いに入って行った。
任務が無い日は、一角に挑んだ。大抵ボコボコにされるが、気を失うまで向かって行った。一角がいない時は、周りの静止を振り切って更木に挑んだ。毎回何処かを串刺しにされるが、真はやめなかった。
痛みがあるうちは、乱菊の事を忘れられたが、痛みは一瞬で消えて、真は直ぐに現実に引き戻された。
夜は特に、孤独が真を蝕んだ。心を乱す自分自身に腹が立ち、真は自分を責めた。酒もタバコも出来ない真は、夜の御艇を走るか、本を読んで紛らわせたが、不眠が続き、ある日とうとう、倒れてしまった。
四番隊に運ばれて気がついた真は、起き上がり、帰ろうとした。慌てて四番隊士が止めるが、真は荒々しく振切ろうとした。すると、騒ぎを聞き付けた卯ノ花が真の正面に立ち、行く手を塞いだ。
「最近は無茶が過ぎますよ。霧島四席」
「卯ノ花隊長…無茶なんて。私は大丈夫ですから………」
真が、卯ノ花の横をすり抜けようとした時、何かが真の頬に当たった。その瞬間、真は気を失って倒れた。卯ノ花が、牙点を付けたのだ。
「これ位の牙点で倒れるほど弱っているのに、無茶していないですか…」
倒れた真の脈を取りながら、卯ノ花が呟いた。
卯ノ花は隊士に言って、真を病室に寝かせると、十一番隊に連絡を取った。
真が目を覚ますと、弓親が枕元に座っていた。ナイフでリンゴを剥いていた。
「おはよう。と言っても、もう夜だけどね」
食べる?とリンゴを差し出したが、真は首を横に振った。弓親は、そう、と自分でリンゴを食べた。
「一週間、真を働かせるなって言われちゃったよ」
優しい笑顔で弓親が言ったが、真は気に入らないように眉間にシワを寄せた。
「誰がそんなこと…」
「卯ノ花隊長。怪我でボロボロだし、霊圧も弱ってるって。更木隊長が叱られちゃったんだよ」
「更木隊長は、関係無いじゃないですか」
苛ついた口調で真が言うと、弓親は困った様に眉を下げた。
「どうしたの?最近変だよ…?」
弓親が、真の頭を撫でようと手を差し出したら、真はその手を勢いよく弾いた。
「私に、これ以上…構わないでください」
獣が威嚇するような目つきで、真は弓親を睨んだ。それでも、弓親は冷静だった。
「そう。じゃあ、真が構って欲しくなるまで、僕は待つよ」
真は、弓親を無視してそっぽを向いた。すると、一角が乱暴に扉を開けて入って来た。
「てめえ、いい加減にしろよ」
弓親との一連のやり取りを聞いていたらしく、怒りが目つきに現れていた。
「てめえの都合で、ボコられるのは構わねえ。だが、仕事に穴あけたあげく、構うなってどういう事だ。調子乗んじゃねえぞ」
一角は勢いよく、真の胸ぐらを掴んで、拳を振り上げた。真は抵抗するでも、驚くでも無く、一角に殴られるのを待った。それに気づいた一角は、振り上げた拳をおろした。
「…どうして止めるんですか」
胸ぐらを掴まれたまま、誘うように真が言った。一角は舌打ちして、真を乱暴にベッドに放った。ドサリ、と力なく真はベッドに倒れた。
「殴られてえ奴を殴っても意味がねえ…」
真を見下ろして、一角が悔しそうに言った。真は、ボンヤリとベッドを見て、一角の方を見ようともしなかった。弓親は、特に何もしようとせず、二人を見守っていた。
「…お前の自虐癖、どうにかしろよ。それが治るまで、仕事に来んな」
一角はそう告げると、弓親に行くぞ、と言って出ていった。弓親は、一角が出ていくのを確認してから、真に向き直った。
「何があったか知らないし、詮索もしないけど…。待ってる」
それでも真は、弓親を見なかった。真からの反応は無いと悟った弓親は、ゆっくりと歩いて出ていった。
弓親が居なくなると、真はベッドの上で膝を抱えて座り、顔を膝の間にうずめた。
乱菊は、真に幸せになってと言ったが、真にはそれが出来なかった。乱菊と同じだけ傷つく事が、友情だと思っていたからだ。痛みで孤独を紛らわせて、傷ついて自分の中の友情を確認しては、乱菊と離別した孤独に蝕まれた。それ程までに、真は長い間乱菊に支えられていた。
「……かっこワル……こんなの、乱菊に見せれないよ……バカみたい」
一人で呟いて、真は布団を頭から被った。しかし、寝ようとすると、乱菊と過ごした日々を思い出して、涙が布団を濡らした。
そのままほとんど寝られず、朝を迎えた。
仕事をしないと言う約束をして、真は帰宅が許された。
特にする事もなく、趣味も無い真は、なんと無く精霊艇を散歩した。
乱菊もいない、弓親も突っぱねて、いよいよ一人になってしまったと、真はボンヤリと思った。
30年前は、それが当たり前だったのに、手に入れたモノを失うと、元々無かった時より傷が深かった。
真が考えに耽っていると、今までに来たことが無い場所まで、歩いて来ている事に気がついた。もう使われず、物置の様になっている建物ばかりだ。珍しく思い、奥の方まで進んで行くと、どこかから音楽が聞こえた。聞いた事の無い、不思議な音楽だった。
暇つぶしにと思い、その音楽が何処から聞こえるのか探すと、一番高い建物の屋根から聞こえる事が分かった。
どうやら誰かがサボっている様だが、知らない霊圧だ。しかし、この霊圧は異様に強い。隊長格以外で、こんな霊圧の人いただろうかと考えていると、上から声がした。
「さっきからウロウロしとんの、誰やねん。コソコソして、みっともないのぉ」
金髪のオカッパ頭の男が、屋根の上から真を見下ろした。
乱菊を失った穴を、真は仕事で埋めようとガムシャラに働いた。虚の討伐の仕事は、特に率先して行った。いつもは部下を優先させて戦わせていたが、自分から戦いに入って行った。
任務が無い日は、一角に挑んだ。大抵ボコボコにされるが、気を失うまで向かって行った。一角がいない時は、周りの静止を振り切って更木に挑んだ。毎回何処かを串刺しにされるが、真はやめなかった。
痛みがあるうちは、乱菊の事を忘れられたが、痛みは一瞬で消えて、真は直ぐに現実に引き戻された。
夜は特に、孤独が真を蝕んだ。心を乱す自分自身に腹が立ち、真は自分を責めた。酒もタバコも出来ない真は、夜の御艇を走るか、本を読んで紛らわせたが、不眠が続き、ある日とうとう、倒れてしまった。
四番隊に運ばれて気がついた真は、起き上がり、帰ろうとした。慌てて四番隊士が止めるが、真は荒々しく振切ろうとした。すると、騒ぎを聞き付けた卯ノ花が真の正面に立ち、行く手を塞いだ。
「最近は無茶が過ぎますよ。霧島四席」
「卯ノ花隊長…無茶なんて。私は大丈夫ですから………」
真が、卯ノ花の横をすり抜けようとした時、何かが真の頬に当たった。その瞬間、真は気を失って倒れた。卯ノ花が、牙点を付けたのだ。
「これ位の牙点で倒れるほど弱っているのに、無茶していないですか…」
倒れた真の脈を取りながら、卯ノ花が呟いた。
卯ノ花は隊士に言って、真を病室に寝かせると、十一番隊に連絡を取った。
真が目を覚ますと、弓親が枕元に座っていた。ナイフでリンゴを剥いていた。
「おはよう。と言っても、もう夜だけどね」
食べる?とリンゴを差し出したが、真は首を横に振った。弓親は、そう、と自分でリンゴを食べた。
「一週間、真を働かせるなって言われちゃったよ」
優しい笑顔で弓親が言ったが、真は気に入らないように眉間にシワを寄せた。
「誰がそんなこと…」
「卯ノ花隊長。怪我でボロボロだし、霊圧も弱ってるって。更木隊長が叱られちゃったんだよ」
「更木隊長は、関係無いじゃないですか」
苛ついた口調で真が言うと、弓親は困った様に眉を下げた。
「どうしたの?最近変だよ…?」
弓親が、真の頭を撫でようと手を差し出したら、真はその手を勢いよく弾いた。
「私に、これ以上…構わないでください」
獣が威嚇するような目つきで、真は弓親を睨んだ。それでも、弓親は冷静だった。
「そう。じゃあ、真が構って欲しくなるまで、僕は待つよ」
真は、弓親を無視してそっぽを向いた。すると、一角が乱暴に扉を開けて入って来た。
「てめえ、いい加減にしろよ」
弓親との一連のやり取りを聞いていたらしく、怒りが目つきに現れていた。
「てめえの都合で、ボコられるのは構わねえ。だが、仕事に穴あけたあげく、構うなってどういう事だ。調子乗んじゃねえぞ」
一角は勢いよく、真の胸ぐらを掴んで、拳を振り上げた。真は抵抗するでも、驚くでも無く、一角に殴られるのを待った。それに気づいた一角は、振り上げた拳をおろした。
「…どうして止めるんですか」
胸ぐらを掴まれたまま、誘うように真が言った。一角は舌打ちして、真を乱暴にベッドに放った。ドサリ、と力なく真はベッドに倒れた。
「殴られてえ奴を殴っても意味がねえ…」
真を見下ろして、一角が悔しそうに言った。真は、ボンヤリとベッドを見て、一角の方を見ようともしなかった。弓親は、特に何もしようとせず、二人を見守っていた。
「…お前の自虐癖、どうにかしろよ。それが治るまで、仕事に来んな」
一角はそう告げると、弓親に行くぞ、と言って出ていった。弓親は、一角が出ていくのを確認してから、真に向き直った。
「何があったか知らないし、詮索もしないけど…。待ってる」
それでも真は、弓親を見なかった。真からの反応は無いと悟った弓親は、ゆっくりと歩いて出ていった。
弓親が居なくなると、真はベッドの上で膝を抱えて座り、顔を膝の間にうずめた。
乱菊は、真に幸せになってと言ったが、真にはそれが出来なかった。乱菊と同じだけ傷つく事が、友情だと思っていたからだ。痛みで孤独を紛らわせて、傷ついて自分の中の友情を確認しては、乱菊と離別した孤独に蝕まれた。それ程までに、真は長い間乱菊に支えられていた。
「……かっこワル……こんなの、乱菊に見せれないよ……バカみたい」
一人で呟いて、真は布団を頭から被った。しかし、寝ようとすると、乱菊と過ごした日々を思い出して、涙が布団を濡らした。
そのままほとんど寝られず、朝を迎えた。
仕事をしないと言う約束をして、真は帰宅が許された。
特にする事もなく、趣味も無い真は、なんと無く精霊艇を散歩した。
乱菊もいない、弓親も突っぱねて、いよいよ一人になってしまったと、真はボンヤリと思った。
30年前は、それが当たり前だったのに、手に入れたモノを失うと、元々無かった時より傷が深かった。
真が考えに耽っていると、今までに来たことが無い場所まで、歩いて来ている事に気がついた。もう使われず、物置の様になっている建物ばかりだ。珍しく思い、奥の方まで進んで行くと、どこかから音楽が聞こえた。聞いた事の無い、不思議な音楽だった。
暇つぶしにと思い、その音楽が何処から聞こえるのか探すと、一番高い建物の屋根から聞こえる事が分かった。
どうやら誰かがサボっている様だが、知らない霊圧だ。しかし、この霊圧は異様に強い。隊長格以外で、こんな霊圧の人いただろうかと考えていると、上から声がした。
「さっきからウロウロしとんの、誰やねん。コソコソして、みっともないのぉ」
金髪のオカッパ頭の男が、屋根の上から真を見下ろした。