羽化にはまだ早い(弓親)
22.別れ
決戦の最中は、真達一隊士達が出来る事は無く、全員で隊舎に集まり報告を待った。
流魂街の外れに、強大な霊圧が現れたと思ったら、消え、戦いの終わりが知らされた。
この戦いで、黒崎は霊力を無くし、総隊長は片腕を無くした。藍染は収監、東仙と市丸両名は死亡が伝えられた。そして、市丸が藍染に挑んで破れた事も、隊士達の知る所となった。
一角は重傷、弓親は腕を骨折しているだけだが、気絶した状態で戻ってきた。
隊士達は代わる代わる二人を見舞ったが、真は隊舎を離れられず、お見舞いに行けたのは夜になってからだった。
一角は怪我をしていても元気そうで、少し話しただけで、もう帰れ、と追い出された。
弓親のいる部屋に入ると、弓親はまだ眠っていた。ベッドの周りに、沢山の花や酒や菓子等が置かれていた。
真は近くの椅子に腰掛け、弓親の寝顔を見た。
「…弓親さん……」
小さな声で呼んだが、弓親は応えない。布団から、治療を終えたらしい左腕が出ているのに気が付き、真はそっと手を握った。
「……怪我は治っていますよ……どうして、起きないんですか…」
真が力を抜くと、弓親の手はダランと垂れた。
「……僕がやったんだ」
後ろから、吉良が入って来た。手には花を持っている。
「吉良副隊長……」
「斑目三席がやられた時、気が動転したように敵に向かって行ったから、仕方なく…ね」
近くの机に花を置き、吉良も椅子を引き寄せて、真の横に座った。
「ちょっと強すぎたみたいだね」
弓親の顔を覗き込みながら、吉良は頬をかいた。こういうのは、十一番隊の流儀に反するかな?怒られるかな?と吉良は、気まずそうに真に聞いた。
「…私は、感謝しています…」
「そう。よかった」
「…吉良副隊長。聞いてもいいですか?」
「なに?」
「市丸隊長の遺体は、どうなるのですか?」
吉良の顔が曇り、悲しそうな顔をした。
「精霊艇内で供養することは出来ないと言われたらしくて、松本さんが墓を建てるって言ってる」
「松本副隊長が…?」
「あの二人は、幼いころからの付き合いがあるらしいんだ」
「そう…ですか」
乱菊には、まだ一度も会っていない。市丸の事で、いろいろ動き回っているのだろう。乱菊が今どんな状態か心配すると同時に、乱菊の心を思うと胸が傷んだ。
「教えていただいて、ありがとうございます。吉良副隊長」
「ううん。市丸隊長の事、気にかけてくれて嬉しいよ」
二人は、一緒に弓親の部屋から出て、それぞれの帰路についた。
数日後、久しぶりの非番の日に、真は花屋にいた。乱菊が建てたという市丸の墓の場所を事前に吉良に教えてもらい、そこに向かっていた。
乱菊とは、未だに会えていなかった。
墓に着くと、キレイな着物を来た女性がいた。乱菊だ。花を飾り、線香をあげている。
真が近づくと、乱菊は足音に気が付き、こちらを見た。
「……真………」
「久しぶり。乱菊」
二人で花を飾り、少し離れた所で、並んで座った。
「…怪我はもういいの?」
「ん…もう大丈夫。ありがと」
乱菊は何だか、ぎこちなかった。市丸の事で、憔悴しているのかと思った。
「…ギンがね、何も残してくれなかったの」
足元を見ながら乱菊が話しだした。真は乱菊を見て、黙って聞いた。
「悲しかったけど…前を向けって言われてる気がして……」
決意した目で、乱菊が真を見た。自分の決断に、乱菊自身が苦しんでいるように、唇を噛み締めていた。その様子で、乱菊の言葉の続きを、真は悟った。言わないで欲しいとも、思ったが、最善の選択かも知れないとも、思った。想像が外れて欲しいとも願った。
「…もう、真には、会わない………」
最悪の予想が当たってしまい、真の顔が歪んだが、必死に笑顔を作った。
「………それが、いいと…思うよ。私達は………歪んでる…………」
言葉を言い終えて、耐えられなくなった真は、膝に顔をうずめた。乱菊は、辛そうに真を見た。
「真……ずっと、利用して、ごめん……」
乱菊からの謝罪に、真は驚いて顔をあげた。
「それは違う!!私は、乱菊に救われてた!!市丸隊長の代わりでよかった!!!」
真は悲痛な声で乱菊に訴えた。
「乱菊がいたから…私はやってこれた……乱菊には返しきれない恩があるんだよ………?」
真は乱菊の手を握った。乱菊も、真の手を握り返した。
「……真、あんた、弓親を振ったんでしょ?」
「何で、それを…」
突然話題が変わり、真は動揺したが、乱菊は構わず続けた。
「弓親が言ってるのを聞いちゃったの。その時、私…真が取られなくてよかったって…思っちゃったの……酷いよね」
乱菊は涙を必死に耐えながら、話し続けた。
「ギンが居ないから、真を代わりにして独占しようとして……あんたの幸せを願えない私は、最低よ…」
「違う…乱菊は最低じゃない。酷くない……私が」
「こんな歪んだ関係、やめよ…」
乱菊は真から手を離し、真の頬を包んだ。
「あんたが大好きよ…真。幸せになって」
乱菊はそう言うと、立ち上がり、真を置いて行ってしまった。乱菊は、最後まで泣かなかった。もう、涙を受け止める必要は無い、と言われているみたいだった。
私も大好きだと、言い返せない程、真の胸は痛み、止めように無い涙が溢れ出した。暫く真は、声を殺して一人で泣き続けた。
たった一人の、かけがえの無い存在を失った穴は、泣くことでは到底、埋まらなかった。
決戦の最中は、真達一隊士達が出来る事は無く、全員で隊舎に集まり報告を待った。
流魂街の外れに、強大な霊圧が現れたと思ったら、消え、戦いの終わりが知らされた。
この戦いで、黒崎は霊力を無くし、総隊長は片腕を無くした。藍染は収監、東仙と市丸両名は死亡が伝えられた。そして、市丸が藍染に挑んで破れた事も、隊士達の知る所となった。
一角は重傷、弓親は腕を骨折しているだけだが、気絶した状態で戻ってきた。
隊士達は代わる代わる二人を見舞ったが、真は隊舎を離れられず、お見舞いに行けたのは夜になってからだった。
一角は怪我をしていても元気そうで、少し話しただけで、もう帰れ、と追い出された。
弓親のいる部屋に入ると、弓親はまだ眠っていた。ベッドの周りに、沢山の花や酒や菓子等が置かれていた。
真は近くの椅子に腰掛け、弓親の寝顔を見た。
「…弓親さん……」
小さな声で呼んだが、弓親は応えない。布団から、治療を終えたらしい左腕が出ているのに気が付き、真はそっと手を握った。
「……怪我は治っていますよ……どうして、起きないんですか…」
真が力を抜くと、弓親の手はダランと垂れた。
「……僕がやったんだ」
後ろから、吉良が入って来た。手には花を持っている。
「吉良副隊長……」
「斑目三席がやられた時、気が動転したように敵に向かって行ったから、仕方なく…ね」
近くの机に花を置き、吉良も椅子を引き寄せて、真の横に座った。
「ちょっと強すぎたみたいだね」
弓親の顔を覗き込みながら、吉良は頬をかいた。こういうのは、十一番隊の流儀に反するかな?怒られるかな?と吉良は、気まずそうに真に聞いた。
「…私は、感謝しています…」
「そう。よかった」
「…吉良副隊長。聞いてもいいですか?」
「なに?」
「市丸隊長の遺体は、どうなるのですか?」
吉良の顔が曇り、悲しそうな顔をした。
「精霊艇内で供養することは出来ないと言われたらしくて、松本さんが墓を建てるって言ってる」
「松本副隊長が…?」
「あの二人は、幼いころからの付き合いがあるらしいんだ」
「そう…ですか」
乱菊には、まだ一度も会っていない。市丸の事で、いろいろ動き回っているのだろう。乱菊が今どんな状態か心配すると同時に、乱菊の心を思うと胸が傷んだ。
「教えていただいて、ありがとうございます。吉良副隊長」
「ううん。市丸隊長の事、気にかけてくれて嬉しいよ」
二人は、一緒に弓親の部屋から出て、それぞれの帰路についた。
数日後、久しぶりの非番の日に、真は花屋にいた。乱菊が建てたという市丸の墓の場所を事前に吉良に教えてもらい、そこに向かっていた。
乱菊とは、未だに会えていなかった。
墓に着くと、キレイな着物を来た女性がいた。乱菊だ。花を飾り、線香をあげている。
真が近づくと、乱菊は足音に気が付き、こちらを見た。
「……真………」
「久しぶり。乱菊」
二人で花を飾り、少し離れた所で、並んで座った。
「…怪我はもういいの?」
「ん…もう大丈夫。ありがと」
乱菊は何だか、ぎこちなかった。市丸の事で、憔悴しているのかと思った。
「…ギンがね、何も残してくれなかったの」
足元を見ながら乱菊が話しだした。真は乱菊を見て、黙って聞いた。
「悲しかったけど…前を向けって言われてる気がして……」
決意した目で、乱菊が真を見た。自分の決断に、乱菊自身が苦しんでいるように、唇を噛み締めていた。その様子で、乱菊の言葉の続きを、真は悟った。言わないで欲しいとも、思ったが、最善の選択かも知れないとも、思った。想像が外れて欲しいとも願った。
「…もう、真には、会わない………」
最悪の予想が当たってしまい、真の顔が歪んだが、必死に笑顔を作った。
「………それが、いいと…思うよ。私達は………歪んでる…………」
言葉を言い終えて、耐えられなくなった真は、膝に顔をうずめた。乱菊は、辛そうに真を見た。
「真……ずっと、利用して、ごめん……」
乱菊からの謝罪に、真は驚いて顔をあげた。
「それは違う!!私は、乱菊に救われてた!!市丸隊長の代わりでよかった!!!」
真は悲痛な声で乱菊に訴えた。
「乱菊がいたから…私はやってこれた……乱菊には返しきれない恩があるんだよ………?」
真は乱菊の手を握った。乱菊も、真の手を握り返した。
「……真、あんた、弓親を振ったんでしょ?」
「何で、それを…」
突然話題が変わり、真は動揺したが、乱菊は構わず続けた。
「弓親が言ってるのを聞いちゃったの。その時、私…真が取られなくてよかったって…思っちゃったの……酷いよね」
乱菊は涙を必死に耐えながら、話し続けた。
「ギンが居ないから、真を代わりにして独占しようとして……あんたの幸せを願えない私は、最低よ…」
「違う…乱菊は最低じゃない。酷くない……私が」
「こんな歪んだ関係、やめよ…」
乱菊は真から手を離し、真の頬を包んだ。
「あんたが大好きよ…真。幸せになって」
乱菊はそう言うと、立ち上がり、真を置いて行ってしまった。乱菊は、最後まで泣かなかった。もう、涙を受け止める必要は無い、と言われているみたいだった。
私も大好きだと、言い返せない程、真の胸は痛み、止めように無い涙が溢れ出した。暫く真は、声を殺して一人で泣き続けた。
たった一人の、かけがえの無い存在を失った穴は、泣くことでは到底、埋まらなかった。