羽化にはまだ早い(弓親)
21.怖いもの知らず
織姫がソウルソサエティに来て暫くすると、破面が現世に現れた。
そして、現世に行くはずだった織姫は、行方不明になり、ウェコムンドに行った事が発覚した。
総隊長は先遣隊の帰還を指示し、朽木白哉と更木が強制帰還の為に現世に行った。
一角と弓親が帰って来た。
隊士達は二人の元に集まって、無事を喜んだが、二人は浮かない顔だった。
「限定解除が降りても、手が出やしねえ」
十刃の強さを一角が語ると、隊士達は静かになり、生唾を飲んだ。
集団を避けて、真が会計処理をしていると、弓親が後ろから声をかけた。
「それ、僕たちの破損処理?」
真の耳元に顔を近づけて、弓親は書類を覗き込んだ。真は驚いて、思わず耳を手で覆った。
「……ほ、殆ど、斑目三席、ですっ……」
声が上ずり、真は恥ずかしくなって口も塞いだ。慌てる真を見て、弓親が笑った。
「何、その反応。かわいいね」
弓親は、口を塞いでいる手を、そっと剥がした。真は、抵抗はしないが、顔を下げて見られないようにしようとした。弓親は、そんな真も愛おしそうに見つめた。
「もう、一回フラレたら、怖いものなんて無いんだよ?」
弓親の、大胆不敵な声が頭上からしたと思ったら、真の頬に柔らかいものが当たった。
弓親の、唇だ。
固まる真に向かって、弓親はまた耳元で囁いた。
「絶対、僕の事、好きにさせるから」
弓親の唇が、耳に当たるか当たらないかの距離で言われ、真の顔が沸騰した。そんな真を見て、弓親は喜んでいた。
するとその時、更木が隊舎に帰ってきた。目で一角と弓親を確認すると、来い、と顎で合図し、二人を何処かに連れて行った。
隊士が、あれこれ推測して、更木が何の用だったか話していると、数分で二人が帰って来た。内容が知りたい隊士を尻目に、一角と弓親は真に外に出るように言った。
「更木隊長は、何て……」
暫く歩いた所で、真が切り出すと、二人は止まり、弓親が振り向いた。
「転界結柱の守護を任された」
弓親は、もし自分達が駄目だったら、今までの引き続きを…と話始めたが、話の途中で、真は後ろを振り向き、来た道を走った。
一角が後を追おうとしたが、弓親が止めた。
「大丈夫。きっと、自分でケジメ付けて、戻ってくるさ…」
真は更木の霊圧を探していた。
どうして、大事な任務に、四席の自分では無く、五席の弓親を行かせるのか。誰が決めたのか。自分では駄目なのか。頭の中で、聞きたいことが沢山駆け巡った。
「更木隊長!」
更木を見つけ、呼び止めた。更木はゆっくり振り向き、面倒くさそうにため息をついた。
「何だ。一角と弓親から聞いたろ…」
「何故、私じゃ無いんですか?!」
真の強い声に、更木の目が大きく開いた。真は、怒られるのを承知で続けた。
「転界結柱の守護を、何故、四席の私では無く、五席の弓親さんが行くんですか?!!誰が…」
「うるせえぞ!!!」
更木の怒鳴り声が響いた。覚悟をしていた筈なのに、真は恐怖に口をつぐんだ。
「お前の目は何時から腐った?弓親とお前、強えのはどっちだ」
悔しさで、真は答えられなかった。更木は呆れたように鼻を鳴らし、真に背を向けた。
「俺と、あいつらが居ねえ間は、お前が仕切れよ」
更木は励ましも同情も無く、たったそれだけ言って、歩いて行ってしまった。
残された真は悔しくて、その場から動けずにいたが、数分後には気持ちを切り替えて、一角と弓親の元に戻って行った。
元居た場所にいくと、まだ二人とも居てくれたが、真は二人を直視できず、俯いた。
「………すみません……私……」
落ち込む顔で、真が喋ろうとすると、一角が近づいて、真の頭に手を乗せた。
「…悔しい…よな」
想像していなかった言葉に、真は驚き、目が潤んだ。
「……私も、戦いたかった………」
おう、それでこそ更木隊だ、と一角は笑い、真の頭をグシャグシャとかき乱すと、強くなれよ、と言って帰って言った。
一角に優しくされた記憶の無い真は、不思議な顔で頭を押さえて、一角の背中を見送った。
「……遺言のつもりかもね……」
真の後ろで、弓親が言った。真は振り返り、弓親を見た。
「……君に会うのが、最後だと思いたくないけど」
外の風景を見ながら、弓親は続けた。真は、弓親の横顔を見ながら聞いた。
「…でも、本当に、最後になるかも……」
弓親が真を見た。風で髪の毛が揺れた。弓親は強い目つきで、真を見つめて離さなかった。
「死んでも後悔しない為に…」
弓親が、ゆっくり真に近づいてきた。
「思い出を、くれないかな」
真とつま先が触れそうになるほど、弓親は近くに来た。
「思い……出……?」
「キスしたい」
弓親の手が真の後頭部に触れた。真の目が一瞬泳いだが、決意したように弓親を見た。
「嫌なら、拒んで…」
身を屈めながら、弓親は最後の逃げ道を作ったが、真は逃げなかった。
弓親は、唇に柔らかな物が当たるのを感じると、目を閉じた。
数秒経って、目を開けると、放心状態の真が居た。弓親は笑って、真の頬に手を当てた。
「ありがとう。これで、いつ死んでも…」
言い掛けて、手に温かいものが当たり、黙った。真が静かに泣いていた。
「…死なないで、ください…………」
絞り出すような声で、真は言った。弓親は両手で真の頭を包み、額を合わせた。真は、弓親の腕に触れた。
「……ズルいよ………それでも、僕とは付き合えないんだろ……」
弓親は静かに真から手を離し、真の横を通り過ぎて行った。
真は、暫く一人で立っていた。
自分のズルさに嫌気がさした。
程なくして、藍染との戦いの火蓋が切られた。
織姫がソウルソサエティに来て暫くすると、破面が現世に現れた。
そして、現世に行くはずだった織姫は、行方不明になり、ウェコムンドに行った事が発覚した。
総隊長は先遣隊の帰還を指示し、朽木白哉と更木が強制帰還の為に現世に行った。
一角と弓親が帰って来た。
隊士達は二人の元に集まって、無事を喜んだが、二人は浮かない顔だった。
「限定解除が降りても、手が出やしねえ」
十刃の強さを一角が語ると、隊士達は静かになり、生唾を飲んだ。
集団を避けて、真が会計処理をしていると、弓親が後ろから声をかけた。
「それ、僕たちの破損処理?」
真の耳元に顔を近づけて、弓親は書類を覗き込んだ。真は驚いて、思わず耳を手で覆った。
「……ほ、殆ど、斑目三席、ですっ……」
声が上ずり、真は恥ずかしくなって口も塞いだ。慌てる真を見て、弓親が笑った。
「何、その反応。かわいいね」
弓親は、口を塞いでいる手を、そっと剥がした。真は、抵抗はしないが、顔を下げて見られないようにしようとした。弓親は、そんな真も愛おしそうに見つめた。
「もう、一回フラレたら、怖いものなんて無いんだよ?」
弓親の、大胆不敵な声が頭上からしたと思ったら、真の頬に柔らかいものが当たった。
弓親の、唇だ。
固まる真に向かって、弓親はまた耳元で囁いた。
「絶対、僕の事、好きにさせるから」
弓親の唇が、耳に当たるか当たらないかの距離で言われ、真の顔が沸騰した。そんな真を見て、弓親は喜んでいた。
するとその時、更木が隊舎に帰ってきた。目で一角と弓親を確認すると、来い、と顎で合図し、二人を何処かに連れて行った。
隊士が、あれこれ推測して、更木が何の用だったか話していると、数分で二人が帰って来た。内容が知りたい隊士を尻目に、一角と弓親は真に外に出るように言った。
「更木隊長は、何て……」
暫く歩いた所で、真が切り出すと、二人は止まり、弓親が振り向いた。
「転界結柱の守護を任された」
弓親は、もし自分達が駄目だったら、今までの引き続きを…と話始めたが、話の途中で、真は後ろを振り向き、来た道を走った。
一角が後を追おうとしたが、弓親が止めた。
「大丈夫。きっと、自分でケジメ付けて、戻ってくるさ…」
真は更木の霊圧を探していた。
どうして、大事な任務に、四席の自分では無く、五席の弓親を行かせるのか。誰が決めたのか。自分では駄目なのか。頭の中で、聞きたいことが沢山駆け巡った。
「更木隊長!」
更木を見つけ、呼び止めた。更木はゆっくり振り向き、面倒くさそうにため息をついた。
「何だ。一角と弓親から聞いたろ…」
「何故、私じゃ無いんですか?!」
真の強い声に、更木の目が大きく開いた。真は、怒られるのを承知で続けた。
「転界結柱の守護を、何故、四席の私では無く、五席の弓親さんが行くんですか?!!誰が…」
「うるせえぞ!!!」
更木の怒鳴り声が響いた。覚悟をしていた筈なのに、真は恐怖に口をつぐんだ。
「お前の目は何時から腐った?弓親とお前、強えのはどっちだ」
悔しさで、真は答えられなかった。更木は呆れたように鼻を鳴らし、真に背を向けた。
「俺と、あいつらが居ねえ間は、お前が仕切れよ」
更木は励ましも同情も無く、たったそれだけ言って、歩いて行ってしまった。
残された真は悔しくて、その場から動けずにいたが、数分後には気持ちを切り替えて、一角と弓親の元に戻って行った。
元居た場所にいくと、まだ二人とも居てくれたが、真は二人を直視できず、俯いた。
「………すみません……私……」
落ち込む顔で、真が喋ろうとすると、一角が近づいて、真の頭に手を乗せた。
「…悔しい…よな」
想像していなかった言葉に、真は驚き、目が潤んだ。
「……私も、戦いたかった………」
おう、それでこそ更木隊だ、と一角は笑い、真の頭をグシャグシャとかき乱すと、強くなれよ、と言って帰って言った。
一角に優しくされた記憶の無い真は、不思議な顔で頭を押さえて、一角の背中を見送った。
「……遺言のつもりかもね……」
真の後ろで、弓親が言った。真は振り返り、弓親を見た。
「……君に会うのが、最後だと思いたくないけど」
外の風景を見ながら、弓親は続けた。真は、弓親の横顔を見ながら聞いた。
「…でも、本当に、最後になるかも……」
弓親が真を見た。風で髪の毛が揺れた。弓親は強い目つきで、真を見つめて離さなかった。
「死んでも後悔しない為に…」
弓親が、ゆっくり真に近づいてきた。
「思い出を、くれないかな」
真とつま先が触れそうになるほど、弓親は近くに来た。
「思い……出……?」
「キスしたい」
弓親の手が真の後頭部に触れた。真の目が一瞬泳いだが、決意したように弓親を見た。
「嫌なら、拒んで…」
身を屈めながら、弓親は最後の逃げ道を作ったが、真は逃げなかった。
弓親は、唇に柔らかな物が当たるのを感じると、目を閉じた。
数秒経って、目を開けると、放心状態の真が居た。弓親は笑って、真の頬に手を当てた。
「ありがとう。これで、いつ死んでも…」
言い掛けて、手に温かいものが当たり、黙った。真が静かに泣いていた。
「…死なないで、ください…………」
絞り出すような声で、真は言った。弓親は両手で真の頭を包み、額を合わせた。真は、弓親の腕に触れた。
「……ズルいよ………それでも、僕とは付き合えないんだろ……」
弓親は静かに真から手を離し、真の横を通り過ぎて行った。
真は、暫く一人で立っていた。
自分のズルさに嫌気がさした。
程なくして、藍染との戦いの火蓋が切られた。