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羽化にはまだ早い(弓親)

19.宣言

 集合場所に一番最初に来たのはルキアだった。その後、日番谷、一角、恋次と来て、数分遅れて乱菊が来た。
「あれ?私が一番最後だと思ったら、弓親が来てないじゃない。駄目ねー!」
乱菊が、悪びれも無く言った。
「あいつが遅れるなんて、そんな無いけどな…」
一角は、何かあった事を悟った。
 そのすぐ後、弓親が来た。来てすぐに、日番谷に謝った。
「ごめんなさい〜、昨日、肌のお手入れに時間かけ過ぎちゃいました〜」
「そんなもん、やってんじゃねえ!」
「もー、初めて制服着るから、楽しみで楽しみで!」
さっさと行くぞ、と弓親を無視して日番谷が義魂丸を貰いに進んだ。全員が日番谷についていく中、一角は弓親に近寄り、顔を見た。
「…見ないでよ。今、ひどいから…」
弓親は俯いて、手で顔を隠した。
「言ったのか?」
「……フラレた」
弓親は一角の肩に軽く手を置き、行くぞ、と言って歩いて行った。
 

 乱菊は、後ろから聞こえる二人の話し声を、コッソリ聞いていた。弓親から、フラレたと言う声を聞いたとき、思わず笑ってしまった。
「何笑ってんだ松本。遊びじゃないんだぞ」
日番谷に怒られたが、気にもならなかった。
 
 真は、誰にも奪われなかった。私だけのものだ。


 日番谷先遣隊が旅だってから、隊士全員に、破面の存在と、先遣隊の事、これからの計画が伝えられた。
 十一番隊士達は動揺するよりも、自分も戦いたかったと言う者の方が多かったが、更木はその隊士達に一喝した。
「戦いに行きたきゃ、強くなれ」
その一言で、十一番隊は仕事を投げて、訓練する事にした。いつもだったら、他隊に叱られるが、今回は何も言われなかった。
 訓練の先頭に立って、指揮をとったのは真だった。今までは指示が通り難かった男達とも、更木との一戦で、かなり柔和になった。
 この一日で、真は四席として大分自信が持てた。だが、いつもだったら褒めてくれる存在が、永遠に失われたと実感して、胸が苦しくなったが、忙しさで隠した。
 
 夜になり、稽古をつけた隊士達を帰して、自分は隊舎に行った。まだ何人か残っていた。
 真は自分の席につくと、両脇がイヤに寂しく感じた。向こうは今何をしているだろうと、物思いにふけっていると、地獄蝶が入ってきた。
 嫌な感じがして、地獄蝶を見ていると、声が隊舎に響いた。
「斑目三席が殉職。十一番隊は、直ちに隊葬の準備を。繰り返す……」
そこから先は、隊士達の叫び声で聞こえなかった。
 隊士達は狼狽え、叫び、一角の死を受け入れようとしなかった。
 真も、頭が真っ白になり、机にもたれボンヤリと、叫ぶ男達を見ていたが、一角の顔が頭に浮かび、拳を握って隊士達に怒鳴った。見苦しい姿を、最後に見せてはいけない…。
「狼狽えるな!!泣くな!!…斑目三席が誇り高く、戦いの中で死んだんだ!!敬意を持って、隊葬の準備にあたれ」
真の言葉に、叫びはすすり泣きに変わり、隊士達は真の指示を仰いだ。
「部屋に戻った隊士を連れ戻そう、手分けして連絡を。あと、火葬の場所を確保もするように。残った者は……」
「まだ、死んだと決まってねえだろ」
真の言葉を遮るように、更木が隊舎に入ってきた。全員の動きが止まり、視線が更木に集まった。
「死体を見るまでは、死んだと思うな。準備は、死体が来てからにしろ」
伝令神機を持っていた隊士達は、ゆっくり腕をおろし、一角の無事を祈った。
 真は、更木の一言で、隊士達の目が生き返り、冷静さを取り戻したのを感じた。これが、隊長の力だと、驚愕した。自分も、もうどこかで一角の無事を信じている。
 静まり返った隊舎に、また地獄蝶が来た。全員が注目し、地獄蝶の伝達を待った。
「斑目三席、生還。破面一体撃破」
その一言に、隊舎が湧いた。
 皆が涙を流しながら、一角の無事を喜んだ。お互いに肩を抱きながら、よかったよかったと繰り返す。
 真は力が抜けて、後ろに倒れそうになった所を、更木に支えられた。
「何やってんだ」
「すみません、隊長」
 二人で喜ぶ隊士達を眺めていると、真の前にまた地獄蝶が来た。
「斑目三席の治療に、四番隊第三席伊江村を派遣します。十一番隊第四席霧島は、伊江村の警護に当たってください。場所は〜…」
真は更木を見据えて、斬魄刀を握った。
「行ってまいります。隊長」
「ああ」
稽古で疲れていたが、真は全力で走った。

 伊江村と現世に行くと、横になる一角の横で弓親が座っていた。その奥で、人間の少年が青い顔をして震えながら立っていた。
 無傷の弓親を見て、伊江村は訳がわからないという顔をした。
「…言いたい事は分かるけどね、早く一角を治してくれるかい?」
弓親は伊江村の気持ちを読んで、あえて無視した。伊江村は、どうしてこの隊は…などブツブツ言いながら、一角の治療を始めた。その様子を確認すると、真は一度深呼吸をしてから弓親に近づいた。
「……弓親さん、あの人間は?」
まさかこんな早く真の方から話しかけて来るとは思わなかったのか、弓親は戸惑いの表情を見せた。
「あ、ああ…今夜僕達を泊めてくれるんだよ」
「私達が見えるんですね」
「…らしいね」
弓親の話し方はぎこちなく、いつもの饒舌は見られなかった。自分が傷つけたのだという事実に、真は苦しくなったが、弓親にかける言葉は無かった。
 二人が黙って一角の治療を見守っていると、人間の少年が近づいてきた。
「あ、あの〜…新しくみえた、あのオジサンと、こちらのお兄様もお泊りになるんでしょうか……」
お兄様と言われ、真が自分かと指をさすと、少年は頷いた。
「少年…申し訳無いが…私は女だよ」
「え、ええ!?失礼しました!!?」
「馬鹿かお前!どう見たら男になるんだ!!」
弓親がとっさに少年に怒ったので、真が止めた。「いいんですよ、弓親さん。よくある事なので」
「良くないよ!だって、こんな美しい真を、男と間違われるなんて!」
言った途端に、弓親がハッとして、口をつぐんだ。二人の間に気まずい空気が流れる。少年は二人の顔を交互に見ている。
「………簡単に、ふっきれないよ………」
真から顔を反らして、弓親が独り言の様に呟いた。真も、弓親を見れずに俯いた。
「……私の事は、早めに忘れてください」
ちょうどその時、一角がもういい、止めろと、伊江村の静止を振り切り立ち上がった。一角は、少年の襟首を掴むと、案内しろ、と引きずって行った。
「…じゃあ、僕達行くから…」
弓親が名残惜しそうに、一角の方へ向かった。
「ご武運を……」
弓親の背中に向かって真が言うと、弓親は立ち止まり、振り向いて真を見つめた。
「僕は、まだずっと、好きでいる。君が僕を好きになるまで、ずっと、ね…」
瞳の奥に、燃え上がる感情を見せて、弓親は真の元から去った。
 残された真は、弓親の視線にクラクラして、心臓が異様に早く打つ音を感じた。どうしよう。覚悟が揺らいでしまいそうだ…
「……き、霧島様…」
気まずそうな伊江村の声に、真はようやく我に返った。先程の、弓親とのやり取りを見られていたと思ったら、顔から火が出そうだった。
「あ…ああー………伊江村三席………あの………」
何をどう説明したらいいのか混乱して、真は手をバタバタした。
「誰にもいいませんよ!大丈夫です!霧島様が、綾瀬川様を、振ったなんて、誰にも!!」
「……えー……はい。よろしくお願いします…」
あんまり信用出来そうに無かったが、真は改めてお願いした。
「霧島様は、十一番隊の良心ですから!霧島様がいなければ、我々は十一番隊なんてとっくに見捨て……嫌、違います。霧島様が我々と十一番隊の架け橋で〜……」
「…行きましょう。伊江村三席……お疲れ様でした」
真が大きくため息を付き、門を開くと、伊江村はお喋りを止めて、慌てて付いてきた。
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