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羽化にはまだ早い(弓親)

15.欲求不満


 一護達が帰った翌日、真の機嫌は珍しく悪かった。
 真が虚の討伐に行って留守にしている間に、一護が手合わせの約束を果たさず帰ったからだ。
 不機嫌な真が隊舎に入って来た瞬間、禍々しい霊圧に、中にいた隊士達のお喋りが止んだ。そんな時でも、空気の読めない隊士が真を茶化す。
「旅禍に相手して貰えなかったんだって?!お前なんか眼中にねえーんじゃ、ガッ…!」
いつもは穏やかな真が、口よりも先に手が出た。 真に溝落ちを殴られた男は、お腹を抑えながら倒れ、一瞬ザワついた部屋はまた直ぐに静かになった。
「今は…余計な事は、言うな」
真は拳をグッと握りしめながら吐き捨て、自分の机に座った。隣の席の一角が、呆れた顔をして真に話しかけた。
「そんな怒るなよ。怒ったところで、一護がくるわけでも…」
一角が口を噤んだと思ったら、更木が入ってきた。全員が立ち上がり、更木に挨拶すると、更木がジロリと真を見た。
「何だ、霧島。欲求不満か?随分物欲しそうな霊圧出すじゃねえか」
「黒崎に相手して貰えなかったもので…」
黒崎と戦えた更木を、恨めしそうな目で真は見た。更木は初めて見る真の鋭い目に、ほお、と感嘆の声を漏らした。
「いい目じゃねえか。俺が相手してやろうか?今のお前ならいいぜ」
真の目が大きく開き、勢いよく椅子から立ち上がった。
「来い」
更木が隊舎から出て、外に向かった。その後を、真が追おうとしたが、一角が腕を掴んだ。
「八つ当たりで隊長とやるんじゃねえよ」
一角の目からは真剣さが伝わってきたが、真は血のたぎりを抑えられなかった。
「血を…流したほうが、落ち着けると思うので」
真は一角の腕を振り切り、更木の後を追った。残された隊士達がザワザワ騒ぎ、一角が後を追うと、数人が野次馬で付いてきた。
 
 更木と真は、屋外の武道場に行き、お互いに斬魄刀を抜いた。
「始界しろ、霧島」
更木に言われるまま、真は解放の姿勢になった。
 刀を鞘に戻し、目の前に掲げ、一度深呼吸をした。
「…踊れ、天領」
声と共に刀を抜くと、一対の鎖の付いた火の玉が現れた。真は抜いた軌道に火の玉を乗せて、鎖を回し始めた。炎の熱気が一体を包んだ。
「久しぶりだな、お前の始界を見んのは」
更木が楽しそうに笑った。真は、更木を見据えて霊圧を探った。更木の暴力的な霊圧に、全身の毛が逆立つような、体の高揚を感じた。
「隊長、ありがとうございます」
「うるせえ、早く来い」
 真は地面を蹴り、更木に向かった。更木が剣を振るったが、気がつくと真は上にいた。体を捻り、火の付いた鉄球を更木の頭に向け、振り下ろした。更木は腕で止めようとしたが、鉄球に触れる直前に真が叫んだ。
「打てっ!!!」
その瞬間爆発が起き、更木が後ろに吹っ飛んだ。
 焦げた体を見て、更木が眉間にシワを寄せた。真は地面に降りると、更木から距離を取った。
「…見たことねえ技だな」
「最近覚えました」
「……やるじゃねえか」
更木の言葉に、今まで胸に渦を巻いていた不満が、スッと腹に落ちた。
 この人に認められる為に、私は……。
 真の口元が緩む。
「たった一回で満足してんじゃねえ」
「隊長に褒めていただけたのが、嬉しくて」
「ヌリィ事言ってんじゃねえ」
更木が真に向かっていった。

 更木と真の霊圧がぶつかるのを感じた弓親は、直ぐに霊圧の元に向かった。到着すると、更木を相手に真が健闘していたが、見るからに真は重傷だった。右頬、左腕が大きく切れている。更木は火傷を負い、数か所切れてはいるが、かすり傷のようなものだった。
 端の方には、何人かの隊士と共に一角がいた。弓親は、大股で近寄ると、焦りと混乱にまかせて、強く一角の肩を掴んだ。
「二人は、何をしているんだ…!止めろよ!死ぬぞ!!!」
一角は怪訝な顔をして、弓親の手を振り払った。
「そんなもん、最初に言った!あいつが聞かねえから、こうなってんだよ!」
一角が弓親に怒鳴ると同時に、真の叫び声も響いた。
 二人が見ると、真は仰向けに倒れ、右ももに更木の刀が刺さっていた。
「…終いだな」
更木が力任せに刀を引き抜くと、血が勢いよく飛び出した。
「っ…ぐっぁ…!!!」
真が傷口を押さえたが、血は止まらなかった。
 弓親は飛び出して、真を支えた。
「弓親か、いつから居た。まあいい、連れていけ」
真は弓親の腕の中で、更木に向けて嬉しそうな笑顔を向けた。更木は真の笑顔を横目で見ると、踵を返し、その場を去った。一角と弓親以外の隊士は、更木の怪我を心配する言葉を掛けながら付いて行った。弓親は死白装の裾を破り、真の足に縛り付けて止血をした。
「…弓親さん…」
「喋るな」
縛り終えると、弓親は真を抱き上げ、四番隊舎に向かった。


「何で、所属先の上司と殺し合いしたんですか」
 救護に着くと、弓親は、腿の怪我があるから女性が処置して欲しいと言ったが、八席の荻堂しか真の重傷を治せないと言われ、渋々荻堂に頼んだ。
「…私の八つ当たりに、隊長が付き合ってくださったんです…」
頬の傷口が塞がっていくのを鏡越しに見ながら、真が答えた。
「おい、お前。無駄口叩いてないで、とっとと真の傷治せよ」
壁に持たれながら、弓親がイライラした口調で荻堂に文句を付けた。荻堂は表情を変える事なく、弓親の方を見た。
「綾瀬川五席、霧島四席の傷は治しますので、もうお帰りいただいても大丈夫ですよ」
荻堂の慇懃無礼な態度に、弓親は更にいらついた。
「お前みたいな、何を考えてるか分からない奴と、うちの四席を二人きりにさせる訳ないだろ」
「霧島四席、次は腕を見せてください」
「聞けよ!」
弓親を無視して、荻堂は治療を進めた。
「綾瀬川五席と霧島四席は、特別なご関係なんですか?」
腕の傷を治しながら、荻堂が真に聞いた。弓親は端で、体を固くさせた。
「おい、何を「違います。弓親さんは、隊長に言われて私を連れてきてくださったんです」
荻堂の目は見ず、自分の傷を見ながら、真が弓親の言葉を遮った。荻堂が勘違いしたら、弓親の恋路の邪魔になると思ったのだろう。
「ああ、あの隊長には逆らえませんよね」
荻堂が笑った。弓親は何か言うのを諦め、また壁に背中を預け、腕を組んだ。
「お二人がそういう関係じゃないのなら、誘ってもいいですか?」
腕の傷の治りを確かめるように、真の手を持ち上げた状態で荻堂が真の目を捉えた。真は、いきなりなんだ?という顔をしている。
「もしよければ、今度二人で食事でも…」
弓親が舌打ちして、割込もうと一歩進んだが…
「ムリです」
今度は荻堂の目をしっかり見据えて、真はハッキリ断った。荻堂はまさか、こんなハッキリ断られるとは思っていなかったようで、目が点になっている。
「すみません。慣れない人と、ご飯食べるの苦手なんです。なので、行けません。ごめんなさい」
真は頭を下げ、謝った。弓親は手で口を押さえて、笑いを押し殺している。
 真は気まずい空気になった事に気が付き、早く帰りたくなった。
「あー…あと、足ですね。お願いします」
自分の斬魄刀で布を切ると、更木に刺された箇所を荻堂に見せた。荻堂は、明らかに会話の量が減ったが、しっかり治してくれた。
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