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羽化にはまだ早い(弓親)

13.今日は休みます

 朝、真が目を覚ますと、猛烈な気持ち悪さと、頭痛に襲われた。
 弓親がお粥を作ってくれたが、食べる事ができず、むしろ起き上がる事もままならず、弓親にも乱菊にも出勤を止められた(何で乱菊がいるかは、起きたときに聞いた。)
「じゃあ、僕達は行くけど、お昼に一回くるから」
枕元に水を置きながら、弓親が言った。
「弓親さん…何もかも、すみません…」
「いいから。ちゃんと休むんだよ」
「更木隊長には私からも言っとくから、安心しなさい。今度饅頭奢ってよ〜」
二人はそう言って出勤して行った。残された真は、目を瞑り、直ぐに入眠した。


 弓親と乱菊が十一番隊舎に着くと、京楽が入り口にいた。
 京楽は二人を見つけると、バツが悪そうに近づいてきた。
「おはようございます。京楽隊長」
弓親が先に挨拶した。
「やあ、おはよう。昨日は迷惑かけたね。真ちゃんは、ヤッパリ駄目そうかい?」
「ダメダメですよ。結局、動かせないから、私も一緒に弓親の部屋に泊まったんですよ。目を覚ましても、起きれないから、置いてきちゃいました」
乱菊が説明する。
「昨日二次会来ないと思ってたら、泊まったの?」
いいなー、と京楽が弓親を見ながら言うが、弓親は何も良くありませんよ、と返す。
「一応、隊長さんには言わなきゃと思って来たけど、まだ出勤前だねえ」
京楽が出直そうかと言っていると、京楽の後ろから更木がやって来た。肩にいるやちるが、3人に手を振っている。
「何だ。珍しい奴がいるじゃねえか」
「よかった。丁度君を探していたんだよ、更木」
京楽が言うと、更木は、あ?と眉を潜めた。
 京楽が真の事を説明して、乱菊が私がムリヤリ連れて行ったんです、と付け足し、二人で謝った。しかし更木は、何だそんな事か、と気にしていなかった。
「結局、飲んだのはアイツだろ。霧島の責任だ。そんな事でワザワザ来んな」
更木は如何にも面倒だ、という顔だ。
「更木、君の方が彼女の性格を知ってるだろう。断れなかったんだよ。だから、真ちゃんを、責めないであげてよ」
京楽があくまで穏やかに、更木を諭す。
「そこが、アイツの弱さだろ」
更木はそう言い捨て、隊舎に入ろうとしたが、ピタっと足を止めて、京楽と乱菊に向き直った。
「霧島が来れねえのが、お前らの責任なら、霧島の抜けた穴を埋めるのはお前らだな?」
意地悪そうな笑みを浮かべて、更木が二人に問う。京楽と乱菊は、固まって、更木の視線を受け止める。
「弓親、八番隊と十番隊に連絡しろ。今日1日コイツラが霧島の代わりに仕事するってな」
弓親は返事をして、伝令神機を取り出した。京楽と乱菊は、明らかに嫌そうな顔をしている。
「いやあ、僕、隊長だから…八番隊に居ないと〜」
「あたしも〜…副隊長だしぃ…」
「何でー?二人とも、あんまりお仕事しないでしょー?!
やちるが、更木の肩から、無垢な顔で二人を覗き込んだ。
「やちる。そいつらを連れてこい」
「はーい!行くよー!二人ともー」
更木から降りたやちるに袴の裾を掴まれて、二人は渋々十一番隊舎に入って行った。


 お昼前になると、真の体調も大分良くなった。真は着替えると、弓親の部屋を出て隊舎に向った。
 隊舎に近づくと、何やら賑やかな声が聞こえた。不思議に思って、ソロソロと隊舎を覗くと、京楽と乱菊が十一番隊士達と、酒盛りをしていた。
 真は状況が掴めず、中に入るのを躊躇した。部屋には、酒とタバコの匂いが籠もっている。真が鼻を押さえても、匂いが迫って来るため、後ずさりして部屋から離れた。
「おっと…」
誰かが、真の背中を押さえた。振り向くと、真の背中に日番谷の頭があった。どうやらぶつかってしまったらしい。
「すみません、日番谷隊長」
体を日番谷から離して頭を下げると、日番谷は気にすんな、と言ってくれた。
「昨日は、ムリヤリ酒飲まされて大変だったらしいな。もう大丈夫なのか?」
「どうして、その事を…」
「お前を駄目にした代わりに、松本が十一番隊で仕事するって、綾瀬川から連絡が入ってな」
「え…」
「言っても聞かねえから、うちの仕事もやれって、書類持って行かせたんだがな。一枚も回ってねえみたいだから、様子見に来た」
今は見ない方が、と言おうとしたが、それより前に日番谷が真の横を通り過ぎた。
 中を覗いた瞬間、日番谷の体が固まった。日番谷は、大きく息を吸い込み、力の限り叫んだ。
「てめーら!!何やってんだ!!!!!」
真が日番谷の後ろから、中を見ると、中にいる全員日番谷を見て、動きを止めていた。
「あー!日番谷隊長じゃないですかー!?」
既に出来上がっている乱菊が、陽気な口調で、日番谷に手を振った。
「京楽!!!お前がいて、これは何だ!!!!」
日番谷の矛先が、ソファでマッタリしている京楽に向いた。
「いやあ。僕と乱ちゃんの1日入隊の歓迎会開いてもらっちゃってねえ」
十一番隊隊士達が、イエーイと腕を振り上げた。更木と一角も、当然だという顔をしている。それが更に、日番谷を怒らせた。
 真は日番谷の後ろで、何もできずに、オロオロしていた。すると、右側から、よく知った声がした。
「真?」
見ると、弓親がいた。
「何でいるの?今日は休んでいなきゃ」
弓親は真に近寄ると、真の額に手を当てた。真の顔を覗き込んで、顔色を確認したが、部屋の中の混乱が目に入り、真の手を引いて隊舎から離れた。
「おいで、こんな所にいちゃいけない」
「でも…」
「君には関係ないよ」
弓親は静かな場所まで、真を連れて行った。

「…弓親さん、私、もう大丈夫です。だから…」
真の手を引きながら先を行く弓親に、真は戻らせて欲しいという気持ちを込めて言った。しかし、弓親の足は止まらない。真は思い切って、腕に力を込めて、足を止めた。ようやく、弓親の足が止まり、真を振り返って見た。
「お気持ちは嬉しいです。でも、これ以上空けるわけには…」
弓親の眉間にシワが寄る。真には初めての、弓親の怒った顔だった。真は、言葉に詰まり、それ以上言えなかった。弓親の見たことの無い表情に、肌がピリピリした。
 弓親が無言で真の肩を掴み、建物の壁に押し付けた。
「君は…何でそうやって…」
弓親の語気が強くなる。真は、喉に何かが詰まっているような感覚がして、何も言えなかった。弓親の真の肩を掴む力が強くなった。弓親の細い指が、真の肩に食い込む。女性みたいな指だと思っていたが、感触は確かに男だ。骨ばって、筋肉を感じる。
 弓親が真の顔に自分の顔を近づけたと思ったら、首に顔を埋めた。乱菊がよくやるが、弓親にやられたのは始めてだ。息づかいも、体温も、感触も何もかもが乱菊と違った。
 突然、真の首に痛みが走った。
「イタッ…っ…」
思わず弓親を手で押し返し、手で首を覆った。
 真から離れた弓親は、鼻をフン、と鳴らした。
「自分を大事にしない悪い子には、お仕置きだよ」
どうやら弓親が噛み付いたようだ。真は突然の出来事に、息が上がり、不安な表情で弓親を見た。
 弓親は真の表情に気づき、突然自分のした事を後悔したような、バツの悪そうな顔をした。
「…ごめん………ごめん真…」
真の視線を避けるように、弓親は真の頭を自分の肩に抱えた。
「ちょっとイライラした。僕は、今日は真に休んで欲しかったんだ。でも、君の行動が僕の気持ちと違って、それで…」
弓親がため息をつく。
「ガキみたいな事をした。…許してほしい…」
そう言い終えて弓親は真を離した。真が弓親の顔を見上げると、悲しそうな顔をした弓親が、真を見ていた。
 真は、困惑してはいたが、弓親が心底怒っている訳では無いと分かり安心した。そして、自分の事を大切に思っている人の気持ちを、無視していたと反省した。
「弓親さん……。私、弓親さんの気持ちを無視していました…ごめんなさい」
弓親が、え?と真の目を見つめた。
「もし逆の立場だったら、私も休めと言ったと思います」
真は弓親の両手を持ちながら、弓親に笑いかけた。
「今日はこのまま、休みます」
弓親は嬉しそうに笑うと、真の手を握り返し、ありがとう、と言った。
 それから、二人は並んでご飯を食べに行った。
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