臆病は大人(ローズ)
7.
それをきっかけに陸の緊張はややほぐれ、ローズと会話できるようになった。だが、終始気を使って貰っている感じは否めなかった。
話を振ってくれるのは常にローズで、陸は答える事しかできなかった。だがそれも、あれこれ考えすぎて、上手く喋れなかった。
吉良君や阿散井君が相手なら、受け答えに何も考えないのに……。
「……陸ちゃんは、休みの日は何してるの?」
「あ、えと、現世に映画見に…」
「へえ、映画好きなんだ。僕も現世にいた頃は良く見に行ったよ」
そこから映画の話になり、映画の音楽の話になり、ローズの好きなヘヴィメタルの話になった。
陸はヘヴィメタルは知らなかったが、楽しそうに話すローズの顔が見れて幸せだった。
楽しい時間はあっという間に終わり、飲み会はお開きになった。
「僕の話ばっかりしちゃって、ごめんね」
帰り際に、ローズは陸に耳打ちをして帰って行った。頭が沸騰しそうになった。
居酒屋の出入り口で立ち尽くしていたら、肩を叩かれた。振り向くと、雛森がニコニコしていた。
「ソラちゃん、良かったねえ!」
「桃ちゃん……皆さん……本当に、ありがとうございました……」
陸は涙目になって、乱菊、檜佐木、吉良、雛森に頭を下げた。
「あれでこんな喜んでもらえるなら、やって良かったよ」
吉良が苦笑いしながら言った。
「後は自分で頑張りなさいよ」
乱菊が肘で陸をつついた。
翌日陸は、ローズに教えて貰ったヘヴィメタルをタブレットで聞きながら、精霊艇を歩いていた。頭の中は、昨日のローズの顔や声を反芻しており、普段通りの上の空だった。
やさしかったな……。気を使って会話してくれて……。皆何で、鳳橋隊長の何がいいのなんて言うんだろう…。あんなにもカッコよくて、優しいのに。
そんな事を考えていると、人にぶつかった。だが、陸はぶつかった事すら気づいていなかった。
「オイ!テメエ!人にぶつかっておきながら、何も無しかよ!」
陸の背中に向かって男が怒鳴ったが、イヤホンをしている上に、頭の中がローズでいっぱいの陸は、怒鳴り声にも気づかず歩き続けた。
男は痺れを切らし、陸を追いかけて、肩を掴んだ。
陸はそこで初めて男の存在に気付いた。
男は有無を言わさず陸を壁に押し付け、襟を掴んだ。
「チョーシ乗んなよ!」
怒っている男を見て、また自分は何かやらかしたのか、と陸は何となく予想がついた。
「あの……何をしたか知りませんが、すみませんでした」
謝りはしたが、形ばかりの謝罪が気に入らなかったらしく、男の顔つきが更に渋くなった。
「何したか分かってねえのか?!ああ?!」
男の両手が陸の襟を掴み、持ち上げた。
そんな事されても、分からないものは分からないから謝るしかないじゃないか……。
そう考えていると、男が拳を振り上げるのが見え、陸は観念して目を瞑った。
だが、男の拳は陸に届かなかった。
「男が女の子に手を上げるなんて、アートじゃ無いね」
昨日からずっと、頭の中で反芻していた声が聞こえて、陸は目を開けた。
ウェーブのかかった金髪に、三の字を背負った隊長羽織……。
ローズは陸の前に立ちはだかり、男と対峙していた。ローズの顔は、陸から見えなかった。隊長格が現れた事で怯んだ男は、舌打ちをして去っていった。
「大丈夫だった?」
振り向いたローズの顔は、昨日と同じく優しかった。
「あり、ありがとう…ご、ざいました」
お礼を言いたいのに、口は思うように動いてくれなかった。陸は顔を真っ赤にして俯いた。ローズは笑いながら、いやいや、と謙遜した。
「遠くから、陸ちゃんが胸ぐらを掴まれるのが見えたんだ。大変だったね」
「……ボーとしてるから、よく人にぶつかるんです……多分、それで」
「うーん……それでも、あれはやり過ぎだよねぇ」
すると、精霊艇に正午を告げる鐘がなった。
「そういえば、僕お昼ご飯行く途中だったんだ」
これは……これはチャンスなのでは?お礼にかこつけて、二人でご飯行けるのでは……!?
「ああああ、あの、た、助けて頂いたお礼に、ご飯……奢らせてください」
精一杯の勇気を振り絞って、陸がお誘いをすると、一瞬ローズは固まったが、直ぐに笑顔になった。だが、笑顔とは逆にお誘いには、遠慮がちだった。
「えーそんなぁいーのにー。若い女の子に奢らせるなんて出来ないよ」
やんわり断られてる…………。迷惑だったのかな…。そうだよね、昨日初めて喋ったような女とは、行きたくないよね………。
そうとう悲しげな顔をしていたのか、ローズが慌ててフォローした。
「あ!で、でも、一人でご飯行くの寂しかったから、話し相手になって貰えると、嬉しいなぁ!……なんて……」
その途端、陸の顔がパアッと明るくなり、胸の前で手を合わせて、ローズを見上げた。
「ほ、本当ですか!?ご一緒しても、お邪魔じゃありませんか?」
「うん。お邪魔なんかじゃないよー。僕から誘ったし」
「………!!!!」
言葉にならない程嬉しかったのか、陸は頬を両手で覆って、潤んだ目でローズを見つめた。
流石にそれで、ローズも気付いた。
この子……かなり僕の事、好きな気がする………。
それをきっかけに陸の緊張はややほぐれ、ローズと会話できるようになった。だが、終始気を使って貰っている感じは否めなかった。
話を振ってくれるのは常にローズで、陸は答える事しかできなかった。だがそれも、あれこれ考えすぎて、上手く喋れなかった。
吉良君や阿散井君が相手なら、受け答えに何も考えないのに……。
「……陸ちゃんは、休みの日は何してるの?」
「あ、えと、現世に映画見に…」
「へえ、映画好きなんだ。僕も現世にいた頃は良く見に行ったよ」
そこから映画の話になり、映画の音楽の話になり、ローズの好きなヘヴィメタルの話になった。
陸はヘヴィメタルは知らなかったが、楽しそうに話すローズの顔が見れて幸せだった。
楽しい時間はあっという間に終わり、飲み会はお開きになった。
「僕の話ばっかりしちゃって、ごめんね」
帰り際に、ローズは陸に耳打ちをして帰って行った。頭が沸騰しそうになった。
居酒屋の出入り口で立ち尽くしていたら、肩を叩かれた。振り向くと、雛森がニコニコしていた。
「ソラちゃん、良かったねえ!」
「桃ちゃん……皆さん……本当に、ありがとうございました……」
陸は涙目になって、乱菊、檜佐木、吉良、雛森に頭を下げた。
「あれでこんな喜んでもらえるなら、やって良かったよ」
吉良が苦笑いしながら言った。
「後は自分で頑張りなさいよ」
乱菊が肘で陸をつついた。
翌日陸は、ローズに教えて貰ったヘヴィメタルをタブレットで聞きながら、精霊艇を歩いていた。頭の中は、昨日のローズの顔や声を反芻しており、普段通りの上の空だった。
やさしかったな……。気を使って会話してくれて……。皆何で、鳳橋隊長の何がいいのなんて言うんだろう…。あんなにもカッコよくて、優しいのに。
そんな事を考えていると、人にぶつかった。だが、陸はぶつかった事すら気づいていなかった。
「オイ!テメエ!人にぶつかっておきながら、何も無しかよ!」
陸の背中に向かって男が怒鳴ったが、イヤホンをしている上に、頭の中がローズでいっぱいの陸は、怒鳴り声にも気づかず歩き続けた。
男は痺れを切らし、陸を追いかけて、肩を掴んだ。
陸はそこで初めて男の存在に気付いた。
男は有無を言わさず陸を壁に押し付け、襟を掴んだ。
「チョーシ乗んなよ!」
怒っている男を見て、また自分は何かやらかしたのか、と陸は何となく予想がついた。
「あの……何をしたか知りませんが、すみませんでした」
謝りはしたが、形ばかりの謝罪が気に入らなかったらしく、男の顔つきが更に渋くなった。
「何したか分かってねえのか?!ああ?!」
男の両手が陸の襟を掴み、持ち上げた。
そんな事されても、分からないものは分からないから謝るしかないじゃないか……。
そう考えていると、男が拳を振り上げるのが見え、陸は観念して目を瞑った。
だが、男の拳は陸に届かなかった。
「男が女の子に手を上げるなんて、アートじゃ無いね」
昨日からずっと、頭の中で反芻していた声が聞こえて、陸は目を開けた。
ウェーブのかかった金髪に、三の字を背負った隊長羽織……。
ローズは陸の前に立ちはだかり、男と対峙していた。ローズの顔は、陸から見えなかった。隊長格が現れた事で怯んだ男は、舌打ちをして去っていった。
「大丈夫だった?」
振り向いたローズの顔は、昨日と同じく優しかった。
「あり、ありがとう…ご、ざいました」
お礼を言いたいのに、口は思うように動いてくれなかった。陸は顔を真っ赤にして俯いた。ローズは笑いながら、いやいや、と謙遜した。
「遠くから、陸ちゃんが胸ぐらを掴まれるのが見えたんだ。大変だったね」
「……ボーとしてるから、よく人にぶつかるんです……多分、それで」
「うーん……それでも、あれはやり過ぎだよねぇ」
すると、精霊艇に正午を告げる鐘がなった。
「そういえば、僕お昼ご飯行く途中だったんだ」
これは……これはチャンスなのでは?お礼にかこつけて、二人でご飯行けるのでは……!?
「ああああ、あの、た、助けて頂いたお礼に、ご飯……奢らせてください」
精一杯の勇気を振り絞って、陸がお誘いをすると、一瞬ローズは固まったが、直ぐに笑顔になった。だが、笑顔とは逆にお誘いには、遠慮がちだった。
「えーそんなぁいーのにー。若い女の子に奢らせるなんて出来ないよ」
やんわり断られてる…………。迷惑だったのかな…。そうだよね、昨日初めて喋ったような女とは、行きたくないよね………。
そうとう悲しげな顔をしていたのか、ローズが慌ててフォローした。
「あ!で、でも、一人でご飯行くの寂しかったから、話し相手になって貰えると、嬉しいなぁ!……なんて……」
その途端、陸の顔がパアッと明るくなり、胸の前で手を合わせて、ローズを見上げた。
「ほ、本当ですか!?ご一緒しても、お邪魔じゃありませんか?」
「うん。お邪魔なんかじゃないよー。僕から誘ったし」
「………!!!!」
言葉にならない程嬉しかったのか、陸は頬を両手で覆って、潤んだ目でローズを見つめた。
流石にそれで、ローズも気付いた。
この子……かなり僕の事、好きな気がする………。