臆病は大人(ローズ)
5.
元々能力の高い陸は、席次試験で直ぐに七席になった。だが、それでは満足せず、翌年には四席になった。
それも全て、ローズに近づきたいが為だ。
あれ以来、陸の頭の中にローズが住み着き、何をしてもローズと関連付けてしまう様になった。
鳳橋隊長は、どんな能力だろう。
好きな食べ物は何だろう。
どんな音楽を聞くだろう。
映画は好きだろうか。
どんな女のコが好きだろう……。
そんな事を永遠と考え、恋愛映画を見る頻度が上がった。
こんなにも考えているのに、陸は遠くにローズを見つけても、自信が無くて話しかける事は愚か、近づく事も出来ずに逃げてしまっていた。
あの日の羞恥心を忘れられずにいるのだ。
恥ずかしくて近づけないクセに、ローズを探してしまう陸は、度々あの居酒屋に足を運んでいた。もしかしたら、また会えるかも知れないと期待をして。
陸は、今日も一人で居酒屋にいた。
「会えないもんだよねー……会ってもしょーが無いけど………」
はあ、とため息をついていると、肩を叩かれた。
あの日と同じシチュエーションに期待した陸が振り向くと、そこには吉良では無く、雛森がいた。後ろには、デカパイの綺麗な女性がいた。
「声でまさかとは思ったけど……ソラちゃんだよね?」
「桃ちゃん」
「わー!ソラちゃん!!全然面影ないから人違いだったらどうしようかと思ったよー!!」
雛森はピョンピョンとんで、陸に抱きついてきた。
「どうしたのー!?それに四席になったんでしょ!?あんなに昇進嫌がってたのに!」
陸は雛森の話は聞いておらず、雛森の後ろにいる綺麗な女性をジッと見ていた。
「……綺麗な人」
陸の声で雛森は離れ、首を傾げて陸を見た。
「何言ってるのソラちゃん。十番隊副隊長の松本乱菊さんでしょ」
「あ……ごめんなさい。私、人の顔と名前覚えるの苦手で」
陸が謝ると、乱菊も陸をジッと見てきて、腰を屈めて陸と視線を合わせた。
「……何か、面白そうな匂いがするじゃない。話聞かせなさいよ」
乱菊はそう言って陸の横に腰掛けた。雛森は初めはアワアワしていたが、結局陸の向かいに腰掛けた。
「で、ソラちゃんはどうして席次試験受けたの?」
雛森と乱菊の酒が届くと、雛森がズバリ聞いてきた。陸は対して照れもせず答えた。
「ある人に近づきたくて……」
陸の答えを聞いた乱菊が、頬杖をついて、ハハーンとニヤけた。
「恋ね?」
「はい」
「ええ!!!??」
陸はアッサリ認めたが、逆に雛森が動揺していた。
「どうしたのよ雛森」
「あ、いえ、えと……びっくりしたと言うか、意外だったと言うか……」
学生時代の陸を知っている雛森には、水中の魚が陸を歩き出すくらいのギャップに感じた。
『あの』ソラちゃんが、他人に興味を持つなんて…。
「で?誰なのよ、その相手は、何番隊?」
「三番隊…」
乱菊と雛森は頭の中で三番隊の男をピックアップした。
昇進してまで近づきたいって事は、上位席官ね。
吉良君?……は、今更ありえないかしら?
片倉?いや、戸隠?以外にゴリラ?
「隊長」
そう、陸の意中の相手は、金髪ヒラヒラナルシスト野郎、鳳橋楼十郎なのである。
「えええええええええ!!!???」
流石に予想の斜め上の答えで、雛森だけで無く、乱菊も叫び、店中の視線を集めた。
「あ、すみませーん………」
乱菊が周りにペコペコ謝り、陸の方に向き直ると、身を乗り出した。
「………隊長って、鳳橋隊長……?」
「はい」
陸の目には一点の曇が無かった。雛森は手を口に当てて顔を引つらせた。
「……ソラちゃん……何で?」
あの人の何がいいの、と言わんばかりの声色だった。
「………カッコいいから………」
陸は照れながらボソリとつぶやいた。
あ、この子、美的感覚がおかしいんだ。
そう思えば、雛森も乱菊も納得可能で、心の乱れも落ち着いた。
「…で、鳳橋隊長とはどうなの。話したりしてるの?」
乱菊の質問に、陸は首を横に振った。
「何も…。まだ遠くから見てるだけで…」
「えー、そうなの?ソラちゃん可愛くなったのに、勿体ない」
すると陸は驚いて、雛森を凝視した。
「ほ、本当?ちゃんと可愛くなれてる?ずっと不安だったの、誰にも聞けなくて」
あんなにも容姿に無頓着だった陸が、自分の容姿をこんなにも気にしていて、陸が本気なのが雛森に伝わった。
雛森は身を乗り出して、陸の両手を掴んだ。
「ソラちゃん!!!私、応援するからね!!!頑張ってね!!!」
雛森の真剣な目を見て、陸の目が潤んだ。
「桃ちゃん………!」
すると乱菊が伝令神機を取り出し、何処かに電話をかけた。
「あ、もしもし?吉良?アンタ今どこよ。………ならソイツら連れて、山カカシ来なさいよ。今すぐ。10分以内に、じゃあね」
言いたい事だけ言って、乱菊は電話を切った。
そして乱菊の言いつけ通り、10分以内に吉良が、恋次と檜佐木を連れて現れた。
「突然過ぎますよ松本さん!!僕ら乾杯したばかりで………」
吉良がふとテーブルを見ると、雛森の向かいに知らない女が座っていた。
「あれ、何でソラがインだよ」
陸を見た恋次が、吉良も知っている名を呼び、乱菊の隣に座っているのが、旧友だとようやく気がついた。
「え!?荻野目さん!!?」
吉良は目を丸くし、陸をまじまじと見た。
最後に見たのは、隊長を無視して逃げ出したあの時だ。あれから何があったんだ、と吉良は不思議に思った。
まさかそれが、自隊の隊長が関わっているとは露ほども考えなかった。
元々能力の高い陸は、席次試験で直ぐに七席になった。だが、それでは満足せず、翌年には四席になった。
それも全て、ローズに近づきたいが為だ。
あれ以来、陸の頭の中にローズが住み着き、何をしてもローズと関連付けてしまう様になった。
鳳橋隊長は、どんな能力だろう。
好きな食べ物は何だろう。
どんな音楽を聞くだろう。
映画は好きだろうか。
どんな女のコが好きだろう……。
そんな事を永遠と考え、恋愛映画を見る頻度が上がった。
こんなにも考えているのに、陸は遠くにローズを見つけても、自信が無くて話しかける事は愚か、近づく事も出来ずに逃げてしまっていた。
あの日の羞恥心を忘れられずにいるのだ。
恥ずかしくて近づけないクセに、ローズを探してしまう陸は、度々あの居酒屋に足を運んでいた。もしかしたら、また会えるかも知れないと期待をして。
陸は、今日も一人で居酒屋にいた。
「会えないもんだよねー……会ってもしょーが無いけど………」
はあ、とため息をついていると、肩を叩かれた。
あの日と同じシチュエーションに期待した陸が振り向くと、そこには吉良では無く、雛森がいた。後ろには、デカパイの綺麗な女性がいた。
「声でまさかとは思ったけど……ソラちゃんだよね?」
「桃ちゃん」
「わー!ソラちゃん!!全然面影ないから人違いだったらどうしようかと思ったよー!!」
雛森はピョンピョンとんで、陸に抱きついてきた。
「どうしたのー!?それに四席になったんでしょ!?あんなに昇進嫌がってたのに!」
陸は雛森の話は聞いておらず、雛森の後ろにいる綺麗な女性をジッと見ていた。
「……綺麗な人」
陸の声で雛森は離れ、首を傾げて陸を見た。
「何言ってるのソラちゃん。十番隊副隊長の松本乱菊さんでしょ」
「あ……ごめんなさい。私、人の顔と名前覚えるの苦手で」
陸が謝ると、乱菊も陸をジッと見てきて、腰を屈めて陸と視線を合わせた。
「……何か、面白そうな匂いがするじゃない。話聞かせなさいよ」
乱菊はそう言って陸の横に腰掛けた。雛森は初めはアワアワしていたが、結局陸の向かいに腰掛けた。
「で、ソラちゃんはどうして席次試験受けたの?」
雛森と乱菊の酒が届くと、雛森がズバリ聞いてきた。陸は対して照れもせず答えた。
「ある人に近づきたくて……」
陸の答えを聞いた乱菊が、頬杖をついて、ハハーンとニヤけた。
「恋ね?」
「はい」
「ええ!!!??」
陸はアッサリ認めたが、逆に雛森が動揺していた。
「どうしたのよ雛森」
「あ、いえ、えと……びっくりしたと言うか、意外だったと言うか……」
学生時代の陸を知っている雛森には、水中の魚が陸を歩き出すくらいのギャップに感じた。
『あの』ソラちゃんが、他人に興味を持つなんて…。
「で?誰なのよ、その相手は、何番隊?」
「三番隊…」
乱菊と雛森は頭の中で三番隊の男をピックアップした。
昇進してまで近づきたいって事は、上位席官ね。
吉良君?……は、今更ありえないかしら?
片倉?いや、戸隠?以外にゴリラ?
「隊長」
そう、陸の意中の相手は、金髪ヒラヒラナルシスト野郎、鳳橋楼十郎なのである。
「えええええええええ!!!???」
流石に予想の斜め上の答えで、雛森だけで無く、乱菊も叫び、店中の視線を集めた。
「あ、すみませーん………」
乱菊が周りにペコペコ謝り、陸の方に向き直ると、身を乗り出した。
「………隊長って、鳳橋隊長……?」
「はい」
陸の目には一点の曇が無かった。雛森は手を口に当てて顔を引つらせた。
「……ソラちゃん……何で?」
あの人の何がいいの、と言わんばかりの声色だった。
「………カッコいいから………」
陸は照れながらボソリとつぶやいた。
あ、この子、美的感覚がおかしいんだ。
そう思えば、雛森も乱菊も納得可能で、心の乱れも落ち着いた。
「…で、鳳橋隊長とはどうなの。話したりしてるの?」
乱菊の質問に、陸は首を横に振った。
「何も…。まだ遠くから見てるだけで…」
「えー、そうなの?ソラちゃん可愛くなったのに、勿体ない」
すると陸は驚いて、雛森を凝視した。
「ほ、本当?ちゃんと可愛くなれてる?ずっと不安だったの、誰にも聞けなくて」
あんなにも容姿に無頓着だった陸が、自分の容姿をこんなにも気にしていて、陸が本気なのが雛森に伝わった。
雛森は身を乗り出して、陸の両手を掴んだ。
「ソラちゃん!!!私、応援するからね!!!頑張ってね!!!」
雛森の真剣な目を見て、陸の目が潤んだ。
「桃ちゃん………!」
すると乱菊が伝令神機を取り出し、何処かに電話をかけた。
「あ、もしもし?吉良?アンタ今どこよ。………ならソイツら連れて、山カカシ来なさいよ。今すぐ。10分以内に、じゃあね」
言いたい事だけ言って、乱菊は電話を切った。
そして乱菊の言いつけ通り、10分以内に吉良が、恋次と檜佐木を連れて現れた。
「突然過ぎますよ松本さん!!僕ら乾杯したばかりで………」
吉良がふとテーブルを見ると、雛森の向かいに知らない女が座っていた。
「あれ、何でソラがインだよ」
陸を見た恋次が、吉良も知っている名を呼び、乱菊の隣に座っているのが、旧友だとようやく気がついた。
「え!?荻野目さん!!?」
吉良は目を丸くし、陸をまじまじと見た。
最後に見たのは、隊長を無視して逃げ出したあの時だ。あれから何があったんだ、と吉良は不思議に思った。
まさかそれが、自隊の隊長が関わっているとは露ほども考えなかった。