臆病は大人(ローズ)
10.
あの鳳橋隊長が、自分を卑下するか……。
ローズの意外な一言に、吉良は疑問を感じた。
「隊長でも、ご自分をそんなふうに言うんですね」
「アハハ。若く、カッコよく在りたいとは思うけどね」
ローズは立ち上がり、吉良の横をすり抜けた。
「僕は、歳を取りすぎた」
すれ違いざまにそう呟き、ローズは執務室から出て行った。
お節介だったとは思ったが、吉良は後悔はしていなかった。ローズのあの様子からして、陸に気持ちがあると思ったからだ。一度乗っかった船なら、何か協力がしたかった。
いたたまれなくなって執務室から出たはいいが、ローズは行き場に困っていた。
どうしよう……。真子か拳西の所にでも行こうかな……。
連絡を取ろうと伝令神機を開けると、メールが一軒入っていた。
陸からだった。
『お昼休みに、会いに行ってもいいですか?』
昼までには後30分……。ローズは直ぐに返信をした。
『今からそっちに行くよ。門の前で会おう』
伝令神機を閉じて、ローズは六番隊に走った。
門の前で待っていると、正午丁度に陸がやって来た。初対面の時につけていた眼鏡をかけていた。
「時間ピッタリだね」
ローズはにこやかに言ったが、陸の顔は浮かなかった。気まずさと悲しさが伝わって来た。陸が、こんなにも感情が顔に出やすいとは思わなかった。
「場所を、移してもいいですか?」
悲しげな顔のまま、陸はローズの顔を見ないで言った。
「……うん」
ローズが承諾すると陸が歩き出し、二人は少し離れて歩いた。
陸は人気のない入り組んだ通路に入り、ローズに向き直った。今まで見たことの無い、真剣な顔つきだった。
「鳳橋隊長が好きなんです」
唐突に、陸は告白をした。言われるんじゃないかと、予想はしていたが、こんなにも直球に言われるとは思わなかった。
もしかして、また、遮られると思ったのかな。
ローズは相変わらず、穏やかな顔で陸を見ていた。
「……うん。知ってた。知ってて、側にいて、ごめんね」
陸の顔が引きつったが、ローズは構わず言葉を続けた。
「君があまりにも健気で、一途だったから、僕は君に心を持っていかれて、離れられなかったんだ」
陸は涙を堪えるかのように、眉間にシワをよせた。
「……仰っている意味が分かりません……矛盾してる………」
「そうだね。その通りだ。説明するよ」
ローズは一回深呼吸をした。
「君が思っている以上に、僕は『オジサン』なんだ」
陸の目は、まだ疑問を持っている。
「君より沢山の経験をして、そこから沢山学んだ。だから、言わせてもらうけど……君は若い」
「年齢差……?」
ローズは首を横に振った。
「君は、若さ故に、健気で、一途だ。瞬発力がある」
「瞬発力?」
「そう。若い恋ほど、瞬発力があって、脆いものは無い………。僕はそれが、恐い」
ローズの顔が憂いを帯びた。
「僕が君に本気になったとして、いつか君の心が揺らいだら、もう僕には、立ち直る若さが無いんだ。若い時は、ドラマの様に感じた失恋も、今じゃただの失態だ。若い子に振られる程、辛いものも、ないしね……」
陸は言葉を探した。
何て言えばいいか…。だってこの人、私の事が好きだ…。
「ついでにもう一つ……。恋人になるって事は、欠点をさらけ出すと同義だ。失望が、もれなく付いてくる。僕は、君に失望されるくらいなら、このまま、終わらせたいんだ。君の憧れでいられる今のまま、終わらせてほしい………」
「やだ!!!!!!」
通路に陸の声が響き、ローズは口をつぐんだ。
「終わらせない!!!!!離れたくない!!!!!」
気付いた時には、陸がローズの懐に飛び込んで、羽織の背を握りしめていた。
「どうして自分1人が傷つくと思っているんですか!!!!!私だって、恐い!!!!」
「………陸ちゃん………」
「私はブスだし!コミュニケーション能力も無いし!映画オタクだし……!それでも、あなたと一緒にいたいと願うのは自由のはずだ!無理な恋愛をしたと思ったら、諦めないといけないんですか!!!」
ローズは黙って、陸の頭頂部を見つめた。陸の息がかかって、お腹が熱い……。
「………私じゃ駄目ですか。あなたの恋人には、なれませんか?………こんなに好きなのに……」
絶対離れないと言わんばかりに、陸は抱きしめる腕に力を込めた。
ローズが、折れた。
「………君の言うとおりだ。諦めなきゃいけない恋愛なんて無いよ……」
陸の背中に骨ばった腕が回された。
「………歳をとって、臆病になってた僕を許してほしい」
ローズは陸の頭に唇をつけた。
「君が好きだよ」
後は、陸の泣き声だけが、通路に響いた。
後日。
陸は、協力してくれた人達に結果報告をする為に、陸の奢りで居酒屋に来ていた。
「……無事、お付き合いをさせていただける事になりました」
皆はそれぞれ喜んでくれて、陸を褒めてくれた。
「いやあ、一時は隊長が消極的でどうなるかとおもったけど………」
吉良が苦笑いしながら言った。
「そうなの。だから、結構無理矢理、ガッといったらOKだった」
「あんた、案外肉食よねえ」
乱菊が酒を飲みながら、感心したように陸にもたれかかった。
「私、ほら、一回好きになると、周りが見えなくなるタイプなんで。なんにでも」
「そーいや、前に映画見れなくて泣いたもんな……」
恋次が呆れたように言った。
「ソラ、あんた重い女にならないよう、気をつけなさいよ」
「乱菊さん、その点は大丈夫ですよ……」
吉良が顔を引つらせて言った。
「今は隊長の方が、禁断症状出てるんで…」
陸と付き合いだしてからと言うもの、ローズは仕事中に作曲しだすわ、仕事抜け出して六番隊に行くわで、全く自制が出来ていなかった。
「荻野目さん。ちゃんと仕事するよう言ってよ…」
「ん?アハハハハッ」
「荻野目さん!」
何だかんだで、バカップルになった。
あの鳳橋隊長が、自分を卑下するか……。
ローズの意外な一言に、吉良は疑問を感じた。
「隊長でも、ご自分をそんなふうに言うんですね」
「アハハ。若く、カッコよく在りたいとは思うけどね」
ローズは立ち上がり、吉良の横をすり抜けた。
「僕は、歳を取りすぎた」
すれ違いざまにそう呟き、ローズは執務室から出て行った。
お節介だったとは思ったが、吉良は後悔はしていなかった。ローズのあの様子からして、陸に気持ちがあると思ったからだ。一度乗っかった船なら、何か協力がしたかった。
いたたまれなくなって執務室から出たはいいが、ローズは行き場に困っていた。
どうしよう……。真子か拳西の所にでも行こうかな……。
連絡を取ろうと伝令神機を開けると、メールが一軒入っていた。
陸からだった。
『お昼休みに、会いに行ってもいいですか?』
昼までには後30分……。ローズは直ぐに返信をした。
『今からそっちに行くよ。門の前で会おう』
伝令神機を閉じて、ローズは六番隊に走った。
門の前で待っていると、正午丁度に陸がやって来た。初対面の時につけていた眼鏡をかけていた。
「時間ピッタリだね」
ローズはにこやかに言ったが、陸の顔は浮かなかった。気まずさと悲しさが伝わって来た。陸が、こんなにも感情が顔に出やすいとは思わなかった。
「場所を、移してもいいですか?」
悲しげな顔のまま、陸はローズの顔を見ないで言った。
「……うん」
ローズが承諾すると陸が歩き出し、二人は少し離れて歩いた。
陸は人気のない入り組んだ通路に入り、ローズに向き直った。今まで見たことの無い、真剣な顔つきだった。
「鳳橋隊長が好きなんです」
唐突に、陸は告白をした。言われるんじゃないかと、予想はしていたが、こんなにも直球に言われるとは思わなかった。
もしかして、また、遮られると思ったのかな。
ローズは相変わらず、穏やかな顔で陸を見ていた。
「……うん。知ってた。知ってて、側にいて、ごめんね」
陸の顔が引きつったが、ローズは構わず言葉を続けた。
「君があまりにも健気で、一途だったから、僕は君に心を持っていかれて、離れられなかったんだ」
陸は涙を堪えるかのように、眉間にシワをよせた。
「……仰っている意味が分かりません……矛盾してる………」
「そうだね。その通りだ。説明するよ」
ローズは一回深呼吸をした。
「君が思っている以上に、僕は『オジサン』なんだ」
陸の目は、まだ疑問を持っている。
「君より沢山の経験をして、そこから沢山学んだ。だから、言わせてもらうけど……君は若い」
「年齢差……?」
ローズは首を横に振った。
「君は、若さ故に、健気で、一途だ。瞬発力がある」
「瞬発力?」
「そう。若い恋ほど、瞬発力があって、脆いものは無い………。僕はそれが、恐い」
ローズの顔が憂いを帯びた。
「僕が君に本気になったとして、いつか君の心が揺らいだら、もう僕には、立ち直る若さが無いんだ。若い時は、ドラマの様に感じた失恋も、今じゃただの失態だ。若い子に振られる程、辛いものも、ないしね……」
陸は言葉を探した。
何て言えばいいか…。だってこの人、私の事が好きだ…。
「ついでにもう一つ……。恋人になるって事は、欠点をさらけ出すと同義だ。失望が、もれなく付いてくる。僕は、君に失望されるくらいなら、このまま、終わらせたいんだ。君の憧れでいられる今のまま、終わらせてほしい………」
「やだ!!!!!!」
通路に陸の声が響き、ローズは口をつぐんだ。
「終わらせない!!!!!離れたくない!!!!!」
気付いた時には、陸がローズの懐に飛び込んで、羽織の背を握りしめていた。
「どうして自分1人が傷つくと思っているんですか!!!!!私だって、恐い!!!!」
「………陸ちゃん………」
「私はブスだし!コミュニケーション能力も無いし!映画オタクだし……!それでも、あなたと一緒にいたいと願うのは自由のはずだ!無理な恋愛をしたと思ったら、諦めないといけないんですか!!!」
ローズは黙って、陸の頭頂部を見つめた。陸の息がかかって、お腹が熱い……。
「………私じゃ駄目ですか。あなたの恋人には、なれませんか?………こんなに好きなのに……」
絶対離れないと言わんばかりに、陸は抱きしめる腕に力を込めた。
ローズが、折れた。
「………君の言うとおりだ。諦めなきゃいけない恋愛なんて無いよ……」
陸の背中に骨ばった腕が回された。
「………歳をとって、臆病になってた僕を許してほしい」
ローズは陸の頭に唇をつけた。
「君が好きだよ」
後は、陸の泣き声だけが、通路に響いた。
後日。
陸は、協力してくれた人達に結果報告をする為に、陸の奢りで居酒屋に来ていた。
「……無事、お付き合いをさせていただける事になりました」
皆はそれぞれ喜んでくれて、陸を褒めてくれた。
「いやあ、一時は隊長が消極的でどうなるかとおもったけど………」
吉良が苦笑いしながら言った。
「そうなの。だから、結構無理矢理、ガッといったらOKだった」
「あんた、案外肉食よねえ」
乱菊が酒を飲みながら、感心したように陸にもたれかかった。
「私、ほら、一回好きになると、周りが見えなくなるタイプなんで。なんにでも」
「そーいや、前に映画見れなくて泣いたもんな……」
恋次が呆れたように言った。
「ソラ、あんた重い女にならないよう、気をつけなさいよ」
「乱菊さん、その点は大丈夫ですよ……」
吉良が顔を引つらせて言った。
「今は隊長の方が、禁断症状出てるんで…」
陸と付き合いだしてからと言うもの、ローズは仕事中に作曲しだすわ、仕事抜け出して六番隊に行くわで、全く自制が出来ていなかった。
「荻野目さん。ちゃんと仕事するよう言ってよ…」
「ん?アハハハハッ」
「荻野目さん!」
何だかんだで、バカップルになった。
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