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親友の好きな人(京楽 浮竹)

65,5 少しヤサグレていた時期の京楽春水

 京楽が、浮竹、千草と共に御艇に入隊してすぐ、京楽は千草の優しい残酷さに耐えられなくなり、千草への恋心に見切りをつける事を決めた。
 だが、人の心とは天邪鬼なもので、忘れようとすればするほど、千草への想いは京楽をがんじがらめにした。
 縋って泣いた時の千草の匂いや感触は、時を経ても消え失せる事はなく、京楽を惑わし狂わせた。その矛先は、大して好きでもない女に向いた。
 何度も、情事の最中に千草の名前を呼んでしまう失態を冒した。その度に、女に泣かれたり、引っ叩かれたり、それなりの仕打ちを受けた。
 そんな事を繰り返しても千草への想いは捨てきれず、京楽は何度も千草の夢を見た。
 夢の中の千草は、浮竹の事など最初から知らなかったかのように、京楽だけを愛した。けれど、不思議な事に、その愛情を言葉にする事は無く、ただ時間の限り、情事を続けるだけだった。
 目が覚めてからが地獄だった。
 自分の下劣さに嫌気が差し、夢であろうと愛情を言葉にしてくれない千草の存在が虚しかった。
 何十回、何百回と夢を見て、同じ数だけ絶望し、とうとう千草に触れられるのは夢の中だけだと理解できるようになった。

 「まさかこんな所で役にたつとはねえ」
 夢魔の卵鞘があった場所を眺めながら、京楽はポツリと呟いた。
「人生に無駄な事は無いとはいうけど、案外本当なのかもしれないな」
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