親友の好きな人(京楽 浮竹)
65.殺意、そして初めての夫婦喧嘩
隊士達を足止めしていた副隊長達は、尋常じゃない殺気を感じ、やちる以外全員が咄嗟にそちらに目をやった。
焼け焦げた卵鞘の前で夢魔が地面に突っ伏し、息が止まりそうな程冷たい目をした千草が夢魔を見下ろしていた。
「ば…、貴様!聞いていたのか!!私の傷は………」
夢魔が言い終わる前に、千草の渾身の一発が夢魔の脳天に直撃し、夢魔と共に石畳を粉砕した。
それを見ていた乱菊が、雛森に話しかけた。
「…もしかして、総務官、めちゃくちゃ怒ってる……?」
雛森は青ざめ、静かに頷いた。
夢魔は焦り、急いで体を癒やして逃げようとしたが、後ろから迫ってきた千草に髪の毛を掴まれ、ヒッと小さく声をあげた。
「………こ、殺すぞ!!私は今すぐ、男共を殺せる………」
またしても千草は夢魔の言葉を遮り、腹に穴をあけた。
「…隊士の保護が目的じゃないのよ」
次は足を折った。
「討伐よ」
顔面を殴った。鼻が折れた。
「何が起きようと」
顎を砕いた。
「あなたを殺すの」
首が折れた。
夢魔は恐怖し、千草に命乞いをしようとしたが、顎が砕かれ、それは叶わなかった。体を再生しようにも、千草の猛攻は止むことを知らず、夢魔はただされるが儘、紙くずのように横たわるしか無かった。
最後に夢魔の子宮を潰した瞬間、グズグズだった夢魔の体が塵のように消え失せ、男性隊士達は操り糸が切れたかのように気を失った。
「虫ケラが」
夢魔がいた場所を見ながら千草が吐き捨て、一連の騒動は終結した。
「あまりにも呆気ないから分からないでしょうが……死神の霊力を何百人分も吸収した妖怪の体を素手で壊せるのは本当に異常ですからね」
ポカンとしている副隊長達を見て、七緒が困ったように説明した。
翌日、回復した隊長達が一番隊に集められ、元柳斎から説教を受けた。全員ぐうの音も出ないようで、俯いて頷く事しかできないようだった。
3時間に及ぶ説教が終わり、全員がやつれた様子で各隊に戻って行ったが、浮竹だけがまだ開放されずにいた。
「浮竹十四郎!!!!」
「はい!」
元柳斎の前に正座をして、浮竹は元気よく返事をした。京楽と千草は、壁にもたれながらその様子を見ていた。
「お主、男の隊長の中で最年長じゃろうが!!」
「はい!!」
「何じゃこの体たらくぶりは!!あの春水だろうと自力で脱出したぞい!!!」
「すみません!!!千草の夢を見ていました!!!」
浮竹の言葉に、千草の体がピクリと反応した。
「新婚旅行に行く夢で!!楽しくて!!つい!!!」
「……は?」
始めて向けられた千草の凍るような声に、浮竹は驚いて千草を見た。千草は学生の頃を彷彿とさせるような冷たい目で浮竹を一瞥した後、そっぽを向いて部屋から出ていった。
「…え!?ち、千草!?あ、ちょっ……」
「まだ話は終わっとらんぞ十四郎!!!」
「先生!!でも、千草が…!!」
元柳斎に杖で叩かれ千草を追うことが叶わない浮竹に代わり、京楽が苦笑いしながら千草を追いかけた。
千草は早足で隊舎を出て、人気のない庭まで来た。楓の木に手を添えると、幹に額をコツンとつけた。
「何に怒ってるか、当ててあげようか」
後ろから声をかけられ、千草は困った顔でゆっくりと振り返った。
「浮竹が、自分以外の女と、夢の中とはいえ、仲良くしていたのが許せないのと、それに怒ってる自分が許せないんでしょ」
京楽はゆったりと千草に近寄り、頭にポンと手を置いた。
「…京楽君には敵わないわね」
「どれだけ一緒にいると思ってるの。親といた時間より長いよ」
「………そうね。でも、浮竹君は、気づいていない様子だった………」
京楽は笑いながら木の下に座り、千草もつられるようにして京楽の横に座った。
「アイツは、人の優しさを信じて疑わない所あるじゃない。だから、怒りの面は理解できない時があるんだよ、きっと」
「……自分の器がこんなにも小さいなんて、嫌になるわ」
「普通だよ。そんなの」
千草は眉間にシワをよせ、京楽の肩に顔を埋めた。京楽は笑いながら千草の肩を抱き、しばらく二人はそうしていた。
少しすると、浮竹が千草を呼ぶ声が聞こえ、京楽は千草に目配せをしたあと、浮竹を呼んだ。
「おーい!浮竹ぇ!!ここだよ!!」
浮竹はいつもはしないのに、窓から飛び出し、走って二人の所までやってきた。千草は浮竹と目を合わせようとはせず、京楽の後ろに隠れた。
「ち、千草………、その、すまない……」
「なにが」
「やーい、浮竹ー。学生の頃の僕の気持ち分かったかい?氷の淑女に怒られると怖いんだぞー?」
京楽にからかわれ、浮竹は困ったように頭をガシガシかいた。
「何に怒っているか分からなくて、本当にすまないと思ってる。緊急事態に役に立てなかったのも……でも、その、千草と二人で旅行に行く夢は、本当に楽しかったんだ。いつもと違うお前が見れたようで」
千草は京楽の後ろから顔を出したが、その顔は真っ赤で、目には少し涙が滲んでいた。
「えっ!ち、千草…?」
千草は唇を噛み締めて、浮竹の肩にパンチをした。
「その旅行の相手は私じゃないじゃない」
千草はまたパンチを繰り出し、浮竹は黙ってやられていた。
「私より先に、クソビッチ妖怪と旅行を楽しんだんでしょ」
「千草ー。言葉遣い」
京楽に窘められたが、千草は無視して浮竹に肩パンし続けた。
「あんな虫ケラ、私一人で十分よ、助けなんかいらないわ。そんなことより、そんなことよりね…」
浮竹の肩に拳を当てたまま、千草は俯き、言葉を探しているのか、しばらく黙っていた。
「…………こんなことで嫉妬する自分が嫌………」
千草がポツリと呟くと、少しだけ沈黙が続き、その後浮竹が千草を力強く引き寄せて抱きしめた。
「………えと、こう言うのが正しいか分からないが、俺は、嬉しく思う!千草の気持ちが!」
浮竹は顔を千草の頭に埋め、千草は浮竹の胸の中で目をパチクリさせていた。
「それで……悲しいおもいさせて、ごめんな」
「…………ううん。私こそ、ごめん」
二人の仲直りを見届けると、京楽は笑顔になって浮竹と千草を抱きしめ、包み込んだ。
「はいはいお二人さん、仲直りできたんなら、今から山ジイの所行って、有給休暇もらっておいで」
そういうと優しく二人の背中を押し、照れながら戸惑う浮竹と千草を、早くいけというジェスチャーと共に送り込んだ。
「やれやれ……まったく、昔から本当に手のかかる……」
京楽は腰に手をやりため息をつくと、遠回りをして八番隊に帰って行った。
隊士達を足止めしていた副隊長達は、尋常じゃない殺気を感じ、やちる以外全員が咄嗟にそちらに目をやった。
焼け焦げた卵鞘の前で夢魔が地面に突っ伏し、息が止まりそうな程冷たい目をした千草が夢魔を見下ろしていた。
「ば…、貴様!聞いていたのか!!私の傷は………」
夢魔が言い終わる前に、千草の渾身の一発が夢魔の脳天に直撃し、夢魔と共に石畳を粉砕した。
それを見ていた乱菊が、雛森に話しかけた。
「…もしかして、総務官、めちゃくちゃ怒ってる……?」
雛森は青ざめ、静かに頷いた。
夢魔は焦り、急いで体を癒やして逃げようとしたが、後ろから迫ってきた千草に髪の毛を掴まれ、ヒッと小さく声をあげた。
「………こ、殺すぞ!!私は今すぐ、男共を殺せる………」
またしても千草は夢魔の言葉を遮り、腹に穴をあけた。
「…隊士の保護が目的じゃないのよ」
次は足を折った。
「討伐よ」
顔面を殴った。鼻が折れた。
「何が起きようと」
顎を砕いた。
「あなたを殺すの」
首が折れた。
夢魔は恐怖し、千草に命乞いをしようとしたが、顎が砕かれ、それは叶わなかった。体を再生しようにも、千草の猛攻は止むことを知らず、夢魔はただされるが儘、紙くずのように横たわるしか無かった。
最後に夢魔の子宮を潰した瞬間、グズグズだった夢魔の体が塵のように消え失せ、男性隊士達は操り糸が切れたかのように気を失った。
「虫ケラが」
夢魔がいた場所を見ながら千草が吐き捨て、一連の騒動は終結した。
「あまりにも呆気ないから分からないでしょうが……死神の霊力を何百人分も吸収した妖怪の体を素手で壊せるのは本当に異常ですからね」
ポカンとしている副隊長達を見て、七緒が困ったように説明した。
翌日、回復した隊長達が一番隊に集められ、元柳斎から説教を受けた。全員ぐうの音も出ないようで、俯いて頷く事しかできないようだった。
3時間に及ぶ説教が終わり、全員がやつれた様子で各隊に戻って行ったが、浮竹だけがまだ開放されずにいた。
「浮竹十四郎!!!!」
「はい!」
元柳斎の前に正座をして、浮竹は元気よく返事をした。京楽と千草は、壁にもたれながらその様子を見ていた。
「お主、男の隊長の中で最年長じゃろうが!!」
「はい!!」
「何じゃこの体たらくぶりは!!あの春水だろうと自力で脱出したぞい!!!」
「すみません!!!千草の夢を見ていました!!!」
浮竹の言葉に、千草の体がピクリと反応した。
「新婚旅行に行く夢で!!楽しくて!!つい!!!」
「……は?」
始めて向けられた千草の凍るような声に、浮竹は驚いて千草を見た。千草は学生の頃を彷彿とさせるような冷たい目で浮竹を一瞥した後、そっぽを向いて部屋から出ていった。
「…え!?ち、千草!?あ、ちょっ……」
「まだ話は終わっとらんぞ十四郎!!!」
「先生!!でも、千草が…!!」
元柳斎に杖で叩かれ千草を追うことが叶わない浮竹に代わり、京楽が苦笑いしながら千草を追いかけた。
千草は早足で隊舎を出て、人気のない庭まで来た。楓の木に手を添えると、幹に額をコツンとつけた。
「何に怒ってるか、当ててあげようか」
後ろから声をかけられ、千草は困った顔でゆっくりと振り返った。
「浮竹が、自分以外の女と、夢の中とはいえ、仲良くしていたのが許せないのと、それに怒ってる自分が許せないんでしょ」
京楽はゆったりと千草に近寄り、頭にポンと手を置いた。
「…京楽君には敵わないわね」
「どれだけ一緒にいると思ってるの。親といた時間より長いよ」
「………そうね。でも、浮竹君は、気づいていない様子だった………」
京楽は笑いながら木の下に座り、千草もつられるようにして京楽の横に座った。
「アイツは、人の優しさを信じて疑わない所あるじゃない。だから、怒りの面は理解できない時があるんだよ、きっと」
「……自分の器がこんなにも小さいなんて、嫌になるわ」
「普通だよ。そんなの」
千草は眉間にシワをよせ、京楽の肩に顔を埋めた。京楽は笑いながら千草の肩を抱き、しばらく二人はそうしていた。
少しすると、浮竹が千草を呼ぶ声が聞こえ、京楽は千草に目配せをしたあと、浮竹を呼んだ。
「おーい!浮竹ぇ!!ここだよ!!」
浮竹はいつもはしないのに、窓から飛び出し、走って二人の所までやってきた。千草は浮竹と目を合わせようとはせず、京楽の後ろに隠れた。
「ち、千草………、その、すまない……」
「なにが」
「やーい、浮竹ー。学生の頃の僕の気持ち分かったかい?氷の淑女に怒られると怖いんだぞー?」
京楽にからかわれ、浮竹は困ったように頭をガシガシかいた。
「何に怒っているか分からなくて、本当にすまないと思ってる。緊急事態に役に立てなかったのも……でも、その、千草と二人で旅行に行く夢は、本当に楽しかったんだ。いつもと違うお前が見れたようで」
千草は京楽の後ろから顔を出したが、その顔は真っ赤で、目には少し涙が滲んでいた。
「えっ!ち、千草…?」
千草は唇を噛み締めて、浮竹の肩にパンチをした。
「その旅行の相手は私じゃないじゃない」
千草はまたパンチを繰り出し、浮竹は黙ってやられていた。
「私より先に、クソビッチ妖怪と旅行を楽しんだんでしょ」
「千草ー。言葉遣い」
京楽に窘められたが、千草は無視して浮竹に肩パンし続けた。
「あんな虫ケラ、私一人で十分よ、助けなんかいらないわ。そんなことより、そんなことよりね…」
浮竹の肩に拳を当てたまま、千草は俯き、言葉を探しているのか、しばらく黙っていた。
「…………こんなことで嫉妬する自分が嫌………」
千草がポツリと呟くと、少しだけ沈黙が続き、その後浮竹が千草を力強く引き寄せて抱きしめた。
「………えと、こう言うのが正しいか分からないが、俺は、嬉しく思う!千草の気持ちが!」
浮竹は顔を千草の頭に埋め、千草は浮竹の胸の中で目をパチクリさせていた。
「それで……悲しいおもいさせて、ごめんな」
「…………ううん。私こそ、ごめん」
二人の仲直りを見届けると、京楽は笑顔になって浮竹と千草を抱きしめ、包み込んだ。
「はいはいお二人さん、仲直りできたんなら、今から山ジイの所行って、有給休暇もらっておいで」
そういうと優しく二人の背中を押し、照れながら戸惑う浮竹と千草を、早くいけというジェスチャーと共に送り込んだ。
「やれやれ……まったく、昔から本当に手のかかる……」
京楽は腰に手をやりため息をつくと、遠回りをして八番隊に帰って行った。