親友の好きな人(京楽 浮竹)
64.体術の専門家
「今回の騒動、夢魔の仕業で間違いないでしょうネ」
元柳斎から指示があり、涅マユリが嬉々として喋り始めた。
「夢魔は男の生気を餌にする。本来は知能の低い、そこらへんの猿と殆ど違わない存在ダヨ。死神が、しかも隊長格が夢にまで侵入される事などありえ無いネ」
「ならばどうして、ここまで被害が広がった」
「知恵をつけたのデスヨ。総隊長殿」
涅マユリは指を絡め、首を傾けながら、ニンマリと笑った。
「やはり知恵こそ武器ダヨ。あの猿は、長い時間をかけて言葉を覚え、人間の社会のルールを覚え、とうとう死神の生気の味を覚えて、御艇内にまでテリトリーを広げ、淡々と隊長格と張り合える力を蓄えた。さながら、ここは奴にとってビュッフェのようなものだろうネ。男共は夢である事にも気づかず、夢魔とよろしくやっているだろうヨ」
その時突然バキッと音がして、全員の視線がそちらに向くと、千草が無表情のまま伝令神機を握りつぶしていた。
「……で、肝心の夢魔は今どこにいて、どうすれば、男達は目覚めるのかな?涅隊長」
京楽が話を戻し、話の主導権を奪われた涅マユリは不満そうだが、渋々懐からなにやらボタンを取り出した。
涅マユリがボタンを押すと、空中に御艇の地図が現れ、隅のほうが赤く点滅しており、その周りには黄色い点が無数に散らばっていた。
「やたら死神が動いていると思ったら、夢魔は男共を使って肉の壁を作っているヨウダ。男共は夢遊病のような状態で意識は無イ。近づけば一斉に襲ってくるだろうネ」
「これって、僕や更木が近づくとどうなるの?」
「今の夢魔の力なら、確実に術に落ちるだろうネ。特に更木が夢遊病にでもなったら厄介ダ。柱にでも縛っておくことをオススメするヨ」
涅マユリの言葉にカチンときた更木が、足を一歩出した所で卯ノ花が話しだした。
「ならば、女性なら問題ないという事でしょうか」
「術に落ちる事は無いガネ、斬魄刀や鬼道を使った攻撃はできないヨ。今の夢魔は、死神の生気である霊力を活動エネルギーにしているからネ。霊力の塊である斬魄刀や鬼道ごと取り込まれるのがせきの山ダ」
「斬れねえのかよ、つまんねえな」
興ざめしたように、更木は話を聞くのをやめた。
「なら、砕蜂ちゃんがいないのはイタイねぇ。彼女がいれば、体術で一発だったのに」
京楽が笠をかぶり直そうとすると、視線の端で涅マユリがニヤリと笑ったのが見えた。
「二番隊以外でも、体術の専門家がいるじゃあないカ」
涅マユリは部屋の端に目線を向けた。
「そうでしょう。総務官殿」
千草は涅マユリには返答せず、まず元柳斎に確認するように視線を送った。
「…総務官をやすやすと出すわけにはいかん。隊長副隊長だけで治めよ」
「緊急事態ですヨ、総隊長殿。他に適任がイナイ」
「涅隊長、総務官をけしかけて何をするつもりだい?女性の副隊長がこれだけいて、全員それなりに体術はできる筈だ」
京楽が一歩出て涅に反対すると、涅は苦々しく京楽を仰ぎ見た。
「貴様の方こそ腹の中で何を考えていル?京楽。分かっている筈だヨ、ここにいる副隊長が束になろうと、総務官殿には適わないという事ヲ」
「総務官は最後の砦だろう」
「負けるハズが無イ」
「ならば、勝率は?涅隊長」
京楽と涅のやりとりに千草が割り込み、京楽は不服そうに笠をかぶり直し、涅はまたニヤリと笑った。
「99.9%でしょうね。何かあっても、あなたの脳からデータのバックアップは取りますから、ご安心を」
「…………元柳斎様」
千草は冷静な声だが、燃えるような目線を元柳斎に送り、戦いに出る意志を伝えた。
元柳斎はしばらく黙っていたが、千草の強い目を見て、しばらくしてからため息をついた。
「死ぬ前に、引き上げるのじゃぞ」
「はい」
「これより、浮竹千草を班長に据え、女性死神による討伐隊を結成する。卯ノ花隊長は救護にて待機せよ」
千草は壊れた伝令神機を握ったまま、副隊長達の和の中に入っていった。
「総務官と戦えるなんて新鮮ー!指示お願いしますね」
乱菊は嬉しそうに千草を迎え入れ、千草も嬉しそうに笑顔になった。
「ええ、皆、よろしくね。あのクソビッチメス猿を挽肉にしましょう」
「千草、言葉遣い」
京楽はやれやれといった感じで、千草を窘めた。
涅マユリの指示があった場所に向かうと、卵鞘のようなモノが壁に張り付いていた。よく見ると、卵鞘から腕や足が飛び出しており、その周りには、虚ろな顔をした男達が斬魄刀を持ってウロウロしている。
千草達は建物の上からその様子を見ていた。
「マユリ様、巣と思われる卵鞘を発見しました。周りには隊士が多数います」
ネムが涅に連絡をとると、伝令神機の向こうからご機嫌な涅の声が返ってきた。
「隊士達には斬魄刀を使っても構わないが、卵鞘には斬魄刀を触れさせてはいけないヨ。鬼道も駄目ダ。夢魔に餌を与えるようなものだからネ」
「涅隊長、卵鞘は素手で触るのは大丈夫なの?」
千草が、ネムの持っている伝令神機に向かって話しかけた。
「即死はしないと思いますが、オススメはしませんネ」
「じゃあさ、試してみようよ!」
やちるが建物の瓦を一枚剥ぎ取り、卵鞘に向かって投げつけると、卵鞘に穴が空いたが、すぐに塞がってしまった。
「ありゃりゃ」
「ありゃりゃじゃないですよ!草鹿副隊長!!今ので見つかってしまいましたよ!!!」
七緒が叱ったが、時すでに遅し、男達が一斉に襲いかかってきた。
「涅副隊長は私ときて、他のみんなは隊士達の足止めを」
千草はネムを連れてその場を離れ、副隊長達は一斉に抜刀した。
「総務官殿!攻撃はどの程度許されますか!?」
ルキアが抜刀しながら千草に聞いた。
「殺さなきゃいいわ。私が責任とるから」
「わーい!私、総務官のそういうところ大好きでーす!!あ、アイツ私をホルスタイン呼ばわりしたヤツ!!フルボッコにしてやる!!」
「乱菊さーん!私情が入ってますよー!!」
「今日は剣ちゃんがいないから、斬り放題だー!」
「皆さん!あくまで足止めですよ!!」
まとまりの無い副隊長達を置いて、千草は卵鞘に向かった。途中何人も襲いかかってきたが、全てネムが排除した。
「総務官殿、卵鞘をどうなさいますか?」
「私が、埋まってる隊士を取り出すから、火でもつけてみましょうか」
「御意」
卵鞘に着くと、千草は飛び出している足を掴んで引き抜いてみた。出てきた隊士はカラカラに干からびており、かろうじで息をしている状態だった。
「猿というより、メス蜘蛛ね」
千草が目視できる限りの隊士を引き抜き、ネムが卵鞘に火を放つと、叫び声と共に、夢魔である落合撫子が飛び出してきた。
「無駄だぞ、メスの死神共」
火傷を負った夢魔の体は、またたく間に癒えていき、元の美しい顔に戻った。だが、落合撫子として潜んでいた時のしおらしさは消え失せ、妖艶で危険な雰囲気が漂っていた。
「私は夢の中に閉じ込めた全ての男達から、生気を吸い取る事ができるからな。私を傷つければ、その分男達は死に近づくぞ」
夢魔が笑った瞬間、目の前には千草の拳があった。
「で?」
氷のような冷たい目で、千草は殴り飛ばした夢魔を見下ろした。
「今回の騒動、夢魔の仕業で間違いないでしょうネ」
元柳斎から指示があり、涅マユリが嬉々として喋り始めた。
「夢魔は男の生気を餌にする。本来は知能の低い、そこらへんの猿と殆ど違わない存在ダヨ。死神が、しかも隊長格が夢にまで侵入される事などありえ無いネ」
「ならばどうして、ここまで被害が広がった」
「知恵をつけたのデスヨ。総隊長殿」
涅マユリは指を絡め、首を傾けながら、ニンマリと笑った。
「やはり知恵こそ武器ダヨ。あの猿は、長い時間をかけて言葉を覚え、人間の社会のルールを覚え、とうとう死神の生気の味を覚えて、御艇内にまでテリトリーを広げ、淡々と隊長格と張り合える力を蓄えた。さながら、ここは奴にとってビュッフェのようなものだろうネ。男共は夢である事にも気づかず、夢魔とよろしくやっているだろうヨ」
その時突然バキッと音がして、全員の視線がそちらに向くと、千草が無表情のまま伝令神機を握りつぶしていた。
「……で、肝心の夢魔は今どこにいて、どうすれば、男達は目覚めるのかな?涅隊長」
京楽が話を戻し、話の主導権を奪われた涅マユリは不満そうだが、渋々懐からなにやらボタンを取り出した。
涅マユリがボタンを押すと、空中に御艇の地図が現れ、隅のほうが赤く点滅しており、その周りには黄色い点が無数に散らばっていた。
「やたら死神が動いていると思ったら、夢魔は男共を使って肉の壁を作っているヨウダ。男共は夢遊病のような状態で意識は無イ。近づけば一斉に襲ってくるだろうネ」
「これって、僕や更木が近づくとどうなるの?」
「今の夢魔の力なら、確実に術に落ちるだろうネ。特に更木が夢遊病にでもなったら厄介ダ。柱にでも縛っておくことをオススメするヨ」
涅マユリの言葉にカチンときた更木が、足を一歩出した所で卯ノ花が話しだした。
「ならば、女性なら問題ないという事でしょうか」
「術に落ちる事は無いガネ、斬魄刀や鬼道を使った攻撃はできないヨ。今の夢魔は、死神の生気である霊力を活動エネルギーにしているからネ。霊力の塊である斬魄刀や鬼道ごと取り込まれるのがせきの山ダ」
「斬れねえのかよ、つまんねえな」
興ざめしたように、更木は話を聞くのをやめた。
「なら、砕蜂ちゃんがいないのはイタイねぇ。彼女がいれば、体術で一発だったのに」
京楽が笠をかぶり直そうとすると、視線の端で涅マユリがニヤリと笑ったのが見えた。
「二番隊以外でも、体術の専門家がいるじゃあないカ」
涅マユリは部屋の端に目線を向けた。
「そうでしょう。総務官殿」
千草は涅マユリには返答せず、まず元柳斎に確認するように視線を送った。
「…総務官をやすやすと出すわけにはいかん。隊長副隊長だけで治めよ」
「緊急事態ですヨ、総隊長殿。他に適任がイナイ」
「涅隊長、総務官をけしかけて何をするつもりだい?女性の副隊長がこれだけいて、全員それなりに体術はできる筈だ」
京楽が一歩出て涅に反対すると、涅は苦々しく京楽を仰ぎ見た。
「貴様の方こそ腹の中で何を考えていル?京楽。分かっている筈だヨ、ここにいる副隊長が束になろうと、総務官殿には適わないという事ヲ」
「総務官は最後の砦だろう」
「負けるハズが無イ」
「ならば、勝率は?涅隊長」
京楽と涅のやりとりに千草が割り込み、京楽は不服そうに笠をかぶり直し、涅はまたニヤリと笑った。
「99.9%でしょうね。何かあっても、あなたの脳からデータのバックアップは取りますから、ご安心を」
「…………元柳斎様」
千草は冷静な声だが、燃えるような目線を元柳斎に送り、戦いに出る意志を伝えた。
元柳斎はしばらく黙っていたが、千草の強い目を見て、しばらくしてからため息をついた。
「死ぬ前に、引き上げるのじゃぞ」
「はい」
「これより、浮竹千草を班長に据え、女性死神による討伐隊を結成する。卯ノ花隊長は救護にて待機せよ」
千草は壊れた伝令神機を握ったまま、副隊長達の和の中に入っていった。
「総務官と戦えるなんて新鮮ー!指示お願いしますね」
乱菊は嬉しそうに千草を迎え入れ、千草も嬉しそうに笑顔になった。
「ええ、皆、よろしくね。あのクソビッチメス猿を挽肉にしましょう」
「千草、言葉遣い」
京楽はやれやれといった感じで、千草を窘めた。
涅マユリの指示があった場所に向かうと、卵鞘のようなモノが壁に張り付いていた。よく見ると、卵鞘から腕や足が飛び出しており、その周りには、虚ろな顔をした男達が斬魄刀を持ってウロウロしている。
千草達は建物の上からその様子を見ていた。
「マユリ様、巣と思われる卵鞘を発見しました。周りには隊士が多数います」
ネムが涅に連絡をとると、伝令神機の向こうからご機嫌な涅の声が返ってきた。
「隊士達には斬魄刀を使っても構わないが、卵鞘には斬魄刀を触れさせてはいけないヨ。鬼道も駄目ダ。夢魔に餌を与えるようなものだからネ」
「涅隊長、卵鞘は素手で触るのは大丈夫なの?」
千草が、ネムの持っている伝令神機に向かって話しかけた。
「即死はしないと思いますが、オススメはしませんネ」
「じゃあさ、試してみようよ!」
やちるが建物の瓦を一枚剥ぎ取り、卵鞘に向かって投げつけると、卵鞘に穴が空いたが、すぐに塞がってしまった。
「ありゃりゃ」
「ありゃりゃじゃないですよ!草鹿副隊長!!今ので見つかってしまいましたよ!!!」
七緒が叱ったが、時すでに遅し、男達が一斉に襲いかかってきた。
「涅副隊長は私ときて、他のみんなは隊士達の足止めを」
千草はネムを連れてその場を離れ、副隊長達は一斉に抜刀した。
「総務官殿!攻撃はどの程度許されますか!?」
ルキアが抜刀しながら千草に聞いた。
「殺さなきゃいいわ。私が責任とるから」
「わーい!私、総務官のそういうところ大好きでーす!!あ、アイツ私をホルスタイン呼ばわりしたヤツ!!フルボッコにしてやる!!」
「乱菊さーん!私情が入ってますよー!!」
「今日は剣ちゃんがいないから、斬り放題だー!」
「皆さん!あくまで足止めですよ!!」
まとまりの無い副隊長達を置いて、千草は卵鞘に向かった。途中何人も襲いかかってきたが、全てネムが排除した。
「総務官殿、卵鞘をどうなさいますか?」
「私が、埋まってる隊士を取り出すから、火でもつけてみましょうか」
「御意」
卵鞘に着くと、千草は飛び出している足を掴んで引き抜いてみた。出てきた隊士はカラカラに干からびており、かろうじで息をしている状態だった。
「猿というより、メス蜘蛛ね」
千草が目視できる限りの隊士を引き抜き、ネムが卵鞘に火を放つと、叫び声と共に、夢魔である落合撫子が飛び出してきた。
「無駄だぞ、メスの死神共」
火傷を負った夢魔の体は、またたく間に癒えていき、元の美しい顔に戻った。だが、落合撫子として潜んでいた時のしおらしさは消え失せ、妖艶で危険な雰囲気が漂っていた。
「私は夢の中に閉じ込めた全ての男達から、生気を吸い取る事ができるからな。私を傷つければ、その分男達は死に近づくぞ」
夢魔が笑った瞬間、目の前には千草の拳があった。
「で?」
氷のような冷たい目で、千草は殴り飛ばした夢魔を見下ろした。