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親友の好きな人(京楽 浮竹)

59.ヴァイザード

 千草は義骸に入って現世にいた。
 廃屋倉庫の前で佇んでいると、扉が開いた。
「何の用ですかいな。わざわざ総務官が」
平子真子が扉の隙間から顔を出した。その後ろから、ローズや拳西やラブがこちらを見ていた。
 平子の話し方はぶっきらぼうだが、目は攻撃的ではなかった。後ろの3人にしてもそうだった。
「元気そうで良かった。あなた達を勧誘しに来たの」
「勧誘……?」
平子達は訝しげに千草を見たが、平子が扉を全開にすると、後ろの3人は何も言わず倉庫の中に消えていった。
「中で聞きますわ」
平子は千草を中に招き入れ、千草は平子について中に入った。
 2階から上の床が抜けた倉庫は暗く、小さなまどからわずかに光が差すだけだった。
 拳西、ローズ、ラブがソファの前に行き、そこには、リサ、白にひよりもいた。
 腰から下が切り落とされたひよりは、何もなかったかのように座っていた。
「いらっしゃいませ。総務官」
後ろから声がしたかと思ったら、ハッチがお盆にお茶を乗せて持ってきた。千草は驚いたようにハッチを見上げ、ハッチはフフフッと言いながら微笑んだ。
「……もてなしてもらえるのは、予想外だわ」
お茶を受け取りながら、千草はハッチに言った。
「総務官の事は、夜一さんから聞いてマス」
お盆を脇に抱えながら、穏やかにハッチが言った。ハッチに抱えられると、お盆が小皿のように見える。
「……で、勧誘ってなんすか」
ソファの背に肘を置きながら、平子が千草に聞き、千草は改めてヴァイザードのメンバーを見た。
 100年、何を思って生きてきたのかと思うと胸が痛んだ。気が済むまで謝罪したい気持ちを抑えて、千草は地面に膝をつけ、お茶を横に置いた。
「お、おい、総務官…」
拳西が驚いて声を出した。
「今までの事は、本当にごめんなさい。あなた達が、死神にどんな気持ちを持っているか汲まずに言うわ。御艇に戻ってきてほしいの」
「なんや都合のええ事言いよるな」
ひよりがソファから立ち上がり、地面に座る千草を指差した。
「うちらが虚になりかけたら殺そうとして、今度は戻ってこいやと!?大概にしろよ!!」
怒りをあらわにするひよりを、千草はじっと見た。ひよりの怒りはおさまらない。
「うちらが戦っとった時、お前何しとった!!?部屋でぬくぬく茶ぁしばいとったんと違うか!!??んな奴がどの面下げてここに来とんねん!!」
「ひより、落ち着きなよ。傷が開くよ」
ローズが後ろからひよりの肩に手をおいて宥めようとしたが、ひよりはその手を振りほどいた。
「だいたい!!!お前らは何やねん!!!結界解いてコイツ中に入れて!!!!」
「藍染は封印されて、無間に投獄されたわ」
ひよりの言葉を遮るように、千草が話しだした。ひよりは不満そうに千草を睨んだが、千草は無視して続けた。
「藍染の謀反は御艇中に伝えられたけど、下には未だに実感の無い者がたくさんいる。こんな事になっても、藍染を慕う者が後を絶たないの」
ヴァイザード全員が黙って千草の話を聞いた。
「私が危惧しているのは、藍染の神格化よ」
千草は言葉に力を入れた。
「藍染が裏切るはずない、何か理由があった筈だ、きっと大義があったに違いない。………隊長格の目が届かない場所で、隊士達が話しているのは事実なの。そこから藍染を盲信して後に続く者、もしくは藍染を脱獄させようとする者が出ないとは言い切れない」
千草は懇願する目でヴァイザード達全員の目を見つめた。
「だから、あなた達が必要なの。藍染の罪を知っているあなた達が御艇に戻ってくるだけで、抑止力になる。お願い。力を貸してほしいの」
千草は手をついて頭を下げた。
「結局うちらは道具やないか」
ひよりはソファに座り直し、足を組んで頬杖をついた。
「……行かへんぞ。うちは。お前らの道具になんかならへん」
「…………」
千草が残念そうに眉をしかめると、平子が一歩前に出た。
「俺は行くで。千草サン」
平子の申し出に、ヴァイザード全員が驚いて平子を見た。
「真子!!このハゲ!!!!何で……!!」
「もともと俺のせいやし」
平子がひよりの言葉を遮った。
「藍染が何か企んどるの知っとって、抑制できんとここまで来たんは俺のせいや。最後まで片付けンと、気持ち悪いねん」
平子は更に足を進めて、千草の前まで来た。
「行くわ。顔、あげてくれや。千草サン」
平子は千草に手を差し出し、千草を立たせた。
「それなら、俺も行かないわけにはいかねえな」
後ろから拳西も出てきた。
「俺が東仙のヤロウにやられたせいで、皆に迷惑かけちまったしな。元部下の謀反に気づけなかった俺にも原因はある」
「拳西がそういうならアタシも行かなきゃじゃん!!」
白も出てきた。ひよりの顔はドンドン険しくなる。
「藍染はもともと三番隊だったからね。僕にも責任はある」
ローズが出てきて、結局4人が死神に戻る事を了承してくれた。
 ラブとハッチは現世に残ると言った。
「アッチには漫画がねえからよ。つまんねえし」
「ワタシは、猫の世話があるノデ」
 リサは最後までハッキリせず、千草にどうするか聞かれて、うーん、と悩んでいた。
「……向こうで、商売始めたいんやけど」
「商売?どんな?」
「本屋。資金出してくれるんなら、急時に手貸すよ」
「持ち帰らせてもらえないかしら」
「ええよ」
千草は嬉しそうだったが、他の皆は変な顔でリサを見ていた。
 「じゃあ、また1週間後に来るわね。荷物やいろいろもあるだろうし、人手を連れてくるわ。荷造りやら、お別れ会に入用なら、これを………」
千草は懐から封筒を取り出し、平子に渡した。平子がそれを受け取って中を見ると、現世のお札がビッシリと入っていた。
「こんないらんて」
「もらって。特別賞与よ」
千草は平子に笑いかけ、その後ろにいるヴァイザード達に視線を送った。みんな笑いかけたり手を振ってくれたが、ひよりだけは横を見つめて、千草を見なかった。
 出口に向かうと平子が見送りに来てくれた。
「すんませんな、千草サン。ひより、あんなで」
「いいのよ。むしろ、あなた達が達観しすぎだと思うわ」
「俺らにとって、千草サンは別枠やから」
平子の真剣な目が、千草の目を捉えた。
「喜助も言うたと思うけど、あんたが俺らを見捨てようとせんかったから、ここまで生きてこれてん。ホンマ、感謝してます」
平子は千草に向かって頭を下げた。千草は平子の気持ちが逆に辛くなり、眉をひそめた。
「………私はあなた達に謝罪しかないから、感謝されても辛いだけだわ」
「そないな事言わんといてくださいよ。結果はどうであれ、俺ら生きとるし」
「本当に、生きていてくれて良かった。私、あなた達が生きていたら、やりたいことがあったの」
平子は、ん?と首をかしげた。
「みんなで、飲みに行きたいの」
100年前の千草からは絶対に想像もつかない言葉に、平子は口も目も開いた。
「ほ、ホンマに言うてます!!?千草サンが!!?」
「本当よ。あなた達ともっと関わりたかったと、後悔していたの」
すると平子は倉庫に戻り、中にいるメンバーに声をかけた。
「おおーい!!!!千草サンが、飲みに行きたいと!!!!!」
倉庫の中から驚愕の声が上がった。
「奢りって言って」
「奢りやとーーーーー!!!!!!!!!」
中から、行くーーーーー!!!!!と声が聞こえて、白を先頭に皆が出てきた。一番後ろからひよりがついてきて、千草を見るとプイッと顔をそらした。
「焼き肉以外行かへんからな」
「じゃあ、焼き肉行きましょうか」
千草が微笑むと、今度はひよりが先頭に立って歩き出した。 
 千草は初めて焼き肉に行った。
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