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親友の好きな人(京楽 浮竹)

58.ずっと一緒に歳を取ろう

 浮竹と千草は式は挙げず、ひっそりと結納だけ行った。
 浮竹の方は老齢の両親が、千草の方は京楽と元柳斎が出た。千草の養父母の横山夫妻は、もう故人になっていた。
 結納が終わり解散すると、浮竹と千草は浮竹の両親と実家の方に行った。
 京楽は、元柳斎と歩いて帰っていた。
「山じい、今、どんな気持ち?」
薄暗い道で、京楽は横にいる元柳斎を横目で見た。元柳斎は京楽を見ずに、淡々と歩き続けた。
「行き遅れの末息子が心配じゃわい」
「ちょっと待ってよ、それ、僕のこと?」
「早う身を固めんか。これじゃ何時まで経っても死ねんわ」
京楽は苦笑いをしながら、笠をかぶり直した。
「山じいが死ねないように、ずっと独身でいないとなあ」
「たわけが」
 京楽は元柳斎を誘って、二人で居酒屋に入っていった。
 京楽が元柳斎の盃に酒を注いでいると、元柳斎が懐から手ぬぐいを取り出した。深草色に染められ、斜め十字に白抜きされていた。
「何それ」
「『父の日』になあ、千草がくれたんじゃ。儂の額の傷を模様にして」
傷を模様にするってどんなセンスだ、と京楽は心の中で突っ込んだが、黙って話を聴いた。
「二人の父を亡くしたが、儂を3人目の父だと思っておると言ったんじゃ」
「僕も浮竹にも、あんたが育ての親だよ」
元柳斎はグッと顔をしかめて、一気に酒を煽った。京楽は笑って、また酒を勧めた。
「長生きしてよ。山じい。僕らはまだ、あんたに追いつけないんだから」
「…………バカタレが。そんな志だから、追いつけんのだ」
「今説教するの?また今度にしようよ。はいはい、飲んで飲んで」
京楽は無理矢理酒を注ぎ、元柳斎に飲ませた。
 その日は夜が耽るまで、京楽は元柳斎と飲んで、昔話に花を咲かせた。

 籍をいれても、千草は横山姓を名乗った。いきなり変わると周りが混乱するから、と言っており、浮竹も特に何も言わなかった。だから、二人の結婚を知っている者は少なかった。
 変わった事といえば、千草と浮竹が同棲を始めたくらいだった。
 だから、京楽もよく浮竹邸に遊びに行き、そのまま泊まって3人で出勤する事が度々あった。
 本人達より、千草と浮竹の結婚を知っている周りが気にしていた。
 その日の朝も3人で歩いていると、十字路で檜佐木と合流した。
「おはよう!檜佐木副隊長」
「おはよう」
「おはよー」
浮竹と千草と京楽が挨拶をすると、檜佐木は訝しげに3人を見た。
「………あの、噂で聞いたんですけど、御三方は、一緒に住んでいるんですか?」
檜佐木の質問に3人は顔を見合わせ、京楽がハハハッと笑った。
「いや、僕がお邪魔してるだけで、一緒に住んでるのはこの二人だよ」
「半同棲よね」
「そうだな。もう住んでしまえばいいんじゃないか?」
「いや、流石にそれはいいよ。女の子連れ込めないし」
そこかよ!と檜佐木は突っ込みたかったが、和やかに喋る3人を見ていたら、口を挟めなくなった。 新婚なのに、当たり前に京楽を混ぜる浮竹と千草の神経がわからなかった。
 3人は周りの目は知っていたが、気にしなかった。理解されなくても良かった。3人でいられれば。

 ある日、千草に指令がきた。
「ヴァイザードを御艇に連れ戻せ」
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