親友の好きな人(京楽 浮竹)
55.何から話そうか
「藍染の所に行くわ」
千草が七緒に向かって言うと、咄嗟に七緒が千草の手首を掴んだ。
「駄目です…総務官……」
「大丈夫。『本体』は行かないわ」
パチン、と千草が指を鳴らすと、別室から二人の千草が姿を現し、総務から出ていった。
「七緒さん、回道使える?『あれ』は霊力の消費が激しいの」
「え、あ、はい……」
「霊力の補給をし続けて」
七緒に指示をすると、千草は椅子に座り、目を瞑った。
千草の『絵』の二体は、共に藍染と一護のいる場所に向かった。強大な霊圧に隠れているが、浦原も向かっているようだった。道の途中で、一護の透明な霊圧は消えた。
かなり急いでその場に行くと、一足先に浦原が到着していた。彼の見つめる先に、白い結柱が浮いている。藍染の姿は無かった。
「浦原君」
千草がその名を呼ぶと、浦原が振り返った。安堵なのか、後悔をしているのか分からない、複雑な表情に、千草は足を止めた。
浦原は千草から目線を戻し、結柱を見つめた。
「今……今ようやく、終わりました………」
100年の後悔を吐き出すような、重くか弱い声で、浦原はそう呟いた。
千草は浦原の横に並び、結柱と一護を交互に見た。
「…あれが、藍染なの…?」
「そうッス。動きは封じましたが、何が起こるか分かりません。技局に、運んでいただけませんか」
「分かった」
千草達は結柱に行く前に、一護の元に行った。
「千草さん………それ、本物の千草さんか?」
「偽物よ。大丈夫。安心して」
千草はしゃがんで、一護と目線を合わせた。
「……………ありがとう」
真っ直ぐ目を見て千草が感謝を述べると、一護はハハッと笑い、眉を下げた。
「いいよ、お礼なんて。家族や仲間を守れたんだし、自分の為だ」
「私の大切なもの達を、守ってくれてありがとう」
千草は一護の頬をそっと触れてから、頭を撫で、立ち上がった。
二人で結柱を挟むように立つと、斬魄刀を解放し、筆を出した。
「あれが、千草さんの斬魄刀………」
一護が見守る中で、結柱を中心にして、地面に龍を描くと、龍がむくむくと出てきて、前足で結柱を掴んだ。だが、掴んだ瞬間に腕が焼けただれた。
「………やはり、無害とはいきませんか……」
浦原が残念そうに呟いたが、一人の千草が直ぐに龍の手を直した。
「よろしくお願いします。総務官」
浦原は膝まづいて千草に頭を垂れた。
「ええ。お疲れ様、浦原君」
一人の千草が龍に飛び乗ると、龍は舞い上がり、精霊艇を目指して飛んでいった。
「黒崎君、立てる?」
残った千草は一護に向き直り、心配そうに顔を見た。
「ん、ああ………大丈夫だよ」
一護は膝を支えにして立ち上がろうとしたが、ふらついてしまい、浦原に助けられた。
「反動が大きいみたいッスね。休みましょ。黒崎さん」
「いや、皆がどうしてるか心配なんだ。町に行きてえ………」
無理矢理立とうとする一護を浦原が押しとどめたが、一護は聞こうとしなかった。足を引きずり、前に進もうとしている。千草は呆れるようにため息をついた。
「私が先に行って見てくるから。ゆっくり来なさい」
子どものワガママを諭すように、優しい口調で千草が伝えると、一護の表情が少し和らいだ。
「……わりぃ、千草さん」
「確認ついでよ」
千草は踵を返し、空座町に走った。
一護の友人達は、最後に一護と別れた場所から動かずにいた。一護の帰りを待っているのだろうか。
千草が近寄ると、黒髪の女の子が警戒したように千草を見た。
「あんた………何者?」
黒い着物に刀を差した姿に、全員が困惑しているようだった。
「一護の、知り合いですか?」
小さな男の子が冷静に尋ねた。千草は止まらず、彼等に近づいた。
「ええ。その通りよ。冷静ね。感心するわ。もう動いても大丈夫よ。危険は無くなったから」
千草が答えると、黒髪の女の子が駆け寄ってきて、千草の肩を掴んだ。
「一護は?織姫は?他のみんなは?どうなったんだ?!アレはなんだったんだ!!!この町はなんだ!!?」
軽いパニックのように、女の子は千草に質問を立て続けに浴びせた。千草は冷静に彼女を見ていたが、車谷が焦って駆けてきた。
「うおおおい!!!やめんかあ!!!この方は御艇十三隊の総務官様だ!!!」
車谷は女の子の腕を掴んで千草から引き離そうとしたが、千草がそれを止めた。
「この子達には関係ないわ。車谷君、手を離しなさい」
「え!?俺が悪いの!?あれ?!」
車谷は困惑したように手を離し、後退った。
千草は改めて女の子を見据えて、腕を掴む彼女の手を優しく包んだ。
「あなた達の友人は皆無事よ。安心して」
そういうと、女の子は脱力したように崩れ、千草の足元で肩を震わせた。
「………よかった……………」
千草は辛そうに顔をしかめると、しゃがんで彼女を抱きしめた。
「井上さんの友人の有沢たつきさんね?心配だったわね。本当にごめんなさい。死神の代表として、謝るわ………巻き込んで、怖い思いをさせて………」
たつきは何も言わずただ泣くだけだった。千草はたつきの頭に手を置き、軽く撫でると、立ち上がった。
「詳しく説明するから、ちょっと待っていてね」
「じゃあ、続きはアタシから話しましょう」
「浦原君」
千草の後ろに、浦原が立っていた。一護はいない。
「黒崎君は?」
「何を話していいか分からないって。一人になりたいみたいだったので」
「そう。この子達を、お願いね」
千草は浦原にまかせて、瓦礫の方に向かった。
一枚のコンクリートの上に、泣きじゃくる乱菊がいた。足元に、白い服を赤く染めた市丸ギンが横たわっている。千草が近づく間も、ピクリとも動かなかった。
「………この子なのね。市丸君」
千草は乱菊の後ろから市丸に話しかけた。返事はない。
「何もかもを騙したのは、この子を守るため?」
涙で真っ赤に腫らした目で、乱菊が千草を見上げた。
遠くから四番隊がやってくる音がした。
「藍染の所に行くわ」
千草が七緒に向かって言うと、咄嗟に七緒が千草の手首を掴んだ。
「駄目です…総務官……」
「大丈夫。『本体』は行かないわ」
パチン、と千草が指を鳴らすと、別室から二人の千草が姿を現し、総務から出ていった。
「七緒さん、回道使える?『あれ』は霊力の消費が激しいの」
「え、あ、はい……」
「霊力の補給をし続けて」
七緒に指示をすると、千草は椅子に座り、目を瞑った。
千草の『絵』の二体は、共に藍染と一護のいる場所に向かった。強大な霊圧に隠れているが、浦原も向かっているようだった。道の途中で、一護の透明な霊圧は消えた。
かなり急いでその場に行くと、一足先に浦原が到着していた。彼の見つめる先に、白い結柱が浮いている。藍染の姿は無かった。
「浦原君」
千草がその名を呼ぶと、浦原が振り返った。安堵なのか、後悔をしているのか分からない、複雑な表情に、千草は足を止めた。
浦原は千草から目線を戻し、結柱を見つめた。
「今……今ようやく、終わりました………」
100年の後悔を吐き出すような、重くか弱い声で、浦原はそう呟いた。
千草は浦原の横に並び、結柱と一護を交互に見た。
「…あれが、藍染なの…?」
「そうッス。動きは封じましたが、何が起こるか分かりません。技局に、運んでいただけませんか」
「分かった」
千草達は結柱に行く前に、一護の元に行った。
「千草さん………それ、本物の千草さんか?」
「偽物よ。大丈夫。安心して」
千草はしゃがんで、一護と目線を合わせた。
「……………ありがとう」
真っ直ぐ目を見て千草が感謝を述べると、一護はハハッと笑い、眉を下げた。
「いいよ、お礼なんて。家族や仲間を守れたんだし、自分の為だ」
「私の大切なもの達を、守ってくれてありがとう」
千草は一護の頬をそっと触れてから、頭を撫で、立ち上がった。
二人で結柱を挟むように立つと、斬魄刀を解放し、筆を出した。
「あれが、千草さんの斬魄刀………」
一護が見守る中で、結柱を中心にして、地面に龍を描くと、龍がむくむくと出てきて、前足で結柱を掴んだ。だが、掴んだ瞬間に腕が焼けただれた。
「………やはり、無害とはいきませんか……」
浦原が残念そうに呟いたが、一人の千草が直ぐに龍の手を直した。
「よろしくお願いします。総務官」
浦原は膝まづいて千草に頭を垂れた。
「ええ。お疲れ様、浦原君」
一人の千草が龍に飛び乗ると、龍は舞い上がり、精霊艇を目指して飛んでいった。
「黒崎君、立てる?」
残った千草は一護に向き直り、心配そうに顔を見た。
「ん、ああ………大丈夫だよ」
一護は膝を支えにして立ち上がろうとしたが、ふらついてしまい、浦原に助けられた。
「反動が大きいみたいッスね。休みましょ。黒崎さん」
「いや、皆がどうしてるか心配なんだ。町に行きてえ………」
無理矢理立とうとする一護を浦原が押しとどめたが、一護は聞こうとしなかった。足を引きずり、前に進もうとしている。千草は呆れるようにため息をついた。
「私が先に行って見てくるから。ゆっくり来なさい」
子どものワガママを諭すように、優しい口調で千草が伝えると、一護の表情が少し和らいだ。
「……わりぃ、千草さん」
「確認ついでよ」
千草は踵を返し、空座町に走った。
一護の友人達は、最後に一護と別れた場所から動かずにいた。一護の帰りを待っているのだろうか。
千草が近寄ると、黒髪の女の子が警戒したように千草を見た。
「あんた………何者?」
黒い着物に刀を差した姿に、全員が困惑しているようだった。
「一護の、知り合いですか?」
小さな男の子が冷静に尋ねた。千草は止まらず、彼等に近づいた。
「ええ。その通りよ。冷静ね。感心するわ。もう動いても大丈夫よ。危険は無くなったから」
千草が答えると、黒髪の女の子が駆け寄ってきて、千草の肩を掴んだ。
「一護は?織姫は?他のみんなは?どうなったんだ?!アレはなんだったんだ!!!この町はなんだ!!?」
軽いパニックのように、女の子は千草に質問を立て続けに浴びせた。千草は冷静に彼女を見ていたが、車谷が焦って駆けてきた。
「うおおおい!!!やめんかあ!!!この方は御艇十三隊の総務官様だ!!!」
車谷は女の子の腕を掴んで千草から引き離そうとしたが、千草がそれを止めた。
「この子達には関係ないわ。車谷君、手を離しなさい」
「え!?俺が悪いの!?あれ?!」
車谷は困惑したように手を離し、後退った。
千草は改めて女の子を見据えて、腕を掴む彼女の手を優しく包んだ。
「あなた達の友人は皆無事よ。安心して」
そういうと、女の子は脱力したように崩れ、千草の足元で肩を震わせた。
「………よかった……………」
千草は辛そうに顔をしかめると、しゃがんで彼女を抱きしめた。
「井上さんの友人の有沢たつきさんね?心配だったわね。本当にごめんなさい。死神の代表として、謝るわ………巻き込んで、怖い思いをさせて………」
たつきは何も言わずただ泣くだけだった。千草はたつきの頭に手を置き、軽く撫でると、立ち上がった。
「詳しく説明するから、ちょっと待っていてね」
「じゃあ、続きはアタシから話しましょう」
「浦原君」
千草の後ろに、浦原が立っていた。一護はいない。
「黒崎君は?」
「何を話していいか分からないって。一人になりたいみたいだったので」
「そう。この子達を、お願いね」
千草は浦原にまかせて、瓦礫の方に向かった。
一枚のコンクリートの上に、泣きじゃくる乱菊がいた。足元に、白い服を赤く染めた市丸ギンが横たわっている。千草が近づく間も、ピクリとも動かなかった。
「………この子なのね。市丸君」
千草は乱菊の後ろから市丸に話しかけた。返事はない。
「何もかもを騙したのは、この子を守るため?」
涙で真っ赤に腫らした目で、乱菊が千草を見上げた。
遠くから四番隊がやってくる音がした。