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親友の好きな人(京楽 浮竹)

54.絶望と

 胸が引き裂かれそうとは、よく言った比喩だと思った。

 浮竹の胸が貫かれた。

 総務に設置されたモニターで、千草は七緒や部下達と共にそれを目の当たりにした。
 
 だが、千草は総務官としての立場を崩さなかった。
 張り裂けそうな胸の痛みを無視して、眉一つ動かさず、行く末を見守った。
 首から下は、別のものの様に感じた。
 
 戦争が決まった時点で、死は避けられない。誰かは死ぬ。それがたまたま浮竹だっただけだ。隊長として前線に出たのなら、いつかは迎える運命だ。
 そう思っていた。

 だが、恋人が死んだかもしれないというのに、涙を流す事も、うろたえる事もしなければ、表情を一切変えない千草に、周りの方が不信感を抱いた。
 千草には本当は感情が無いのではないかとすら思った。
 周りの視線に気づきはしたが、千草は無視を決めた。
 
 すぐに京楽もやられた。
 
 ああ、私だけ残される……。

 諦めが頭を過ぎった瞬間、彼らは来た。
 
 「矢胴丸さん………」
 沈黙を破ったのは七緒だった。
 100年前と、髪型が少し変わっただけの、あの頃と変わらない彼ら……。
 そう思ったのも束の間で、彼らは白い仮面を被った。
 虚と同じ仮面を被った彼等は、目を見張る強さを携え、帰ってきた。
 またたく間にメノス達を制圧したのを見て、勝利への希望が見えたと思った。

 浅はかな考えだった。

 
 鏡花水月にかかっていない黒崎一護も、平子達も、元柳斎も、浦原も、夜一も、一心も敵わず、藍染が市丸ギンを引き連れて、ソウルソサエティにやってきたのが、映像と霊圧で分かった。彼が足を踏み入れただけで、霊子計が振り切れた。
 千草は、決断をしなければならなかった。
「各隊に、部隊を出させて。藍染の進行を、少しでも遅らせるように、と。きっと、隊長達が、駆けつけるから、それまで時間を稼いで」
捨て駒を出せと、言った。自分は戦わないくせに。
 三席以外の上位席官で編成された部隊が着く前に、藍染は空座町に到着した。だが、直ぐには目的を果たさなかった。
「目を覚ましている住人がいます」
部下が映像を拡大して、住人の顔を見ると、千草の知っている顔だった。
「黒崎一護の学友だわ……」
目を覚ますまで霊力が上がっていたのは盲点だった。
 彼等は目を覚ましたもの同士で集始めたが、藍染は虫をもてあそぶように、彼らと鬼ごっこを始めた。
 まただ、また、子ども達が犠牲になっている。
 胸が張り裂けそうな悲しみから、今度は腸が煮えるような怒りに変わった。
 許さない、藍染………。
 すると画面に松本乱菊が入り、市丸ギンが彼女をどこかに連れて行った。
「市丸ギンを追って」
千草の指示で、監視虫の一つが市丸ギンの霊圧を追った。松本乱菊の霊圧はほとんど感じられなくなっていた。
 二人は何か話していたようだが、市丸が乱菊に近づくと、乱菊が倒れた。それを見て動揺したのは七緒だった。
「松本さん……!!」
「よく見て七緒さん」
千草は画面から目を離さず七緒を落ち着かせた。
 乱菊は、倒れてはいるが、血が一滴も流れていなかった。
「白伏よ」
「………な、何故………何故殺さないんですか?」
「あとから何時でも殺せるからか……何故かしらね。見ましょう、今から起こる事を」
市丸を追っていた監視虫は、また藍染の所に戻った。
 千草達が無言で画面を見ていると、市丸が藍染の刀に触れた。

 刹那、市丸の刀が藍染の胸を刺した。

 全員が言葉を失った。

 だが頭で理解をしていた。

 彼は、本物の裏切り者では無かったのだ。

 藍染の胸から崩玉を無理矢理奪い、市丸は逃走した。崩玉を失った藍染は、一度は倒れたが、直ぐに復活し、市丸を追った。

 そして市丸が斬られた。

 「……終わりだ…………」
 部屋の誰かがポツリと呟いた。
 その言葉は波紋のように広がり、部屋の全員が絶望した。
 千草も覚悟していた。
 全てを受け入れるように目を瞑じた瞬間、突然不思議な霊圧を感じた。
 余りの霊圧に千草が立ち上がると、全員が不思議そうに千草を見た。
「どうされました?総務官……?」
「何、この、霊圧……」
だが、みんな分かっていないように、霊圧?と首を傾げて、互いに目配せをしていた。
 その霊圧は透明だった。透き通り、澄んだ霊圧だが、大地を押しのける湧き水の様に力強く、辺りに充満していた。普通では感知出来ないのだと、ようやく理解した。
「く、黒崎一護……?」
画面に目を戻した部下が呟いた。千草もその画面を見ると、やや髪が伸びてはいるが、確かに黒崎一護がいた。
 彼だ。この霊圧は……。
 様変わりが激しいが、充満する霊圧の中に、かすかに一護の面影を残していた。
 一護は藍染の顔を掴むと、姿を消した。
 離れた場所から藍染の霊圧を感じた為、場所を移動したのが分かった。一護が、藍染を動かしたのだ。
 全員が呆然としていると、千草の伝令神機が鳴った。見ると、浦原喜助と出ている。
 無言で出ると、息を切らした浦原の声がした。
「横山総務官。今すぐ、藍染と黒崎さんの所に来てください」
「………何が起こっているの」
「藍染を封印します。彼に触れられるのは、今はあなたしかいない」
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