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親友の好きな人(京楽 浮竹)

52.どいつもこいつも

 井上織姫は、一護を治療してから虚圏に移動していた。
 織姫の裏切りが考えられる行動だった。
 恋次とルキアが、元柳斎の帰還命令に背こうとしたが、更木と白哉によって止められ、日番谷先遣隊は帰還した。
 そこから、慌ただしく空座町の転移準備が進められた。
 千草は総務で、黒崎一護の霊圧の監視を行っていた。日中は大人しく、学校に行っているようだった。
 日が落ちかけた時、総務に恋次とルキアがやってきた。神妙な、不安げな顔をしていた。
「……彼が心配?」
タブレット型の観測機を持ち上げながら、千草は二人に聞いた。
「一護は、今どこにいますか?」
ルキアは心配そうに千草に聞き返した。
「今は家にい…………ちょっと待って。石田雨竜が浦原商店にいるわ。どうやって出たの。誰か、石田雨竜の残留霊子探って」
千草は立ち上がり、観測機を構い出した。ルキアも恋次も、心配そうに総務の動向を見守った。
「総務官、石田雨竜が外を歩いた形跡がありません。実家から、突然浦原商店に移動したなんて……」
石田の残留霊子を探っていた部下が、千草に報告をすると、千草の顔が一気に怖くなった。
「浦原君ね……許せないあの男……また子ども達を使うつもりだわ」
千草が歯を噛み締めていると、一護の霊圧が移動を始めた。
「総務官、黒崎一護が浦原商店に接近しています!」
「最悪。あの子達、虚圏に行かされるわ。浦原商店に警報鳴らして」
「…………回線、切断されています……!」
千草は眉間にシワを寄せ、伝令神機を取り出して、浦原商店に電話をかけた。
 だが、電話が既に変えられていたのか、プープープーと、使用不可の音しか鳴らなかった。
 千草は愕然として伝令神機を睨みつけた。
「あ、あの男……………」
怒れる千草を、全員が固唾を飲んで見守っていると、千草はまたどこかに電話をしだした。
「……………もしもし?涅隊長、『あなたに繋げてもらった』浦原商店への回線が繋がらない上、警報も鳴らないんだけど………。そんな訳ないわ。繋がらないのよ。ハッキングされてるわよ、それ。………そう言う回りくどい事はいいから、早く回線繋げて」
千草は乱暴に電話を切ると、自分を落ち着かせる為に深呼吸をした。
「黒崎一護、浦原商店に到着、浦原喜助と接触しました………二人の…いえ、石田雨竜の霊圧も消えました」
部下の報告に、全員がそちらを見た。
「こちらのガルガンタの開通具合は?」
「95%です」
「補佐官、総隊長に黒崎以下2名の人間が、虚圏に向かっていると伝えて」
「はい」
補佐官の女が席を立ち、部屋から出て行った。千草はまた電話をかけ出した。
「…………涅隊長、浦原喜助が現世の3名を虚圏に送り込んだわよ。こっちはどうなっているの?97%?3%も遅れを取ってるの?あなたらしくないわ。………回線も同時にやるのよ。寝ぼけた事言わないで。浦原への補助金をあなたに回すから。………浦原に出来た事が出来ないっていうの?………ええ。期待しているわ」
涅を煽りに煽って、千草は電話を切った。
 ふと顔を上げると、ルキアも恋次も既にいなかった。
「あの二人はどうしたの?」
「さっき、補佐官が出るのと一緒に出ていきましたけど……」
その時の千草は、ルキアと恋次が虚圏に向かおうと思いはしても、実行に移すとは、夢にも思わなかった。

 夜が更けたとき、白哉が総務にやってきた。一度現世に行き、千本桜が使いやすい場所を探したいと言い出した。
「こんなギリギリに何を言っているの。無理よ。隊長が精霊艇から出るなんて」
「ならば、副隊長ならよいか」
「隊長格は駄目よ。もう、その時に探して」
「………下の者でも駄目か」
「やけに引きが悪いのね。脅しているの?そんなに霊圧を出して……」
その時、部下が窓の外を指さして叫んだ。
「何者かが、センカイ門を突破しました!2名です!!!」
「なんですって!!」
千草が声を出した途端、白哉は踵を返して出口に向かった。
 白哉のせいで二人の霊圧に気づけず、見逃してしまったのだ。
「……謀ったわね」
「なんの事か」
そう言って、白哉は出て行ってしまった。残された総務部員達は、ポカンとして扉を見ていた。
「どいっつも、こいっつも………馬鹿ばッッッッかりだわ………!!!!!!」
千草は力の限り机を叩き、元柳斎に報告をする為に総務から出て行った。机は壊れていた。
 元柳斎に、二人の…おそらく恋次とルキアの命令無視を伝えると、元柳斎もため息をついた。
「クソ餓鬼共め………明日にでも決戦じゃというのに、勝手な事を……。千草、隊首会を開く。収集をかけよ」
「はい」
 総務に戻ると、部下の一人が受話器を持って千草の所に来た。
「浦原喜助さんです」
「……分かった。悪いけど、隊長達に収集かけて」
部下か代わりに収集の放送をかけたのを見て、千草が受話器を取ると、神経を逆撫でる悠長な声がした。
「すいませーん。お電話いただいていたの気づかなくて〜」
「わたしが怒っているのはそこじゃない」
棘のように刺さる声で、千草は浦原に怒りをぶつけた。
「何でまた子ども達を使うの?!前だってそうよ、あんな年端もいかない子達を、命の危険に晒さないで!!!私達大人の尻拭いは、あの子達の仕事じゃないわ!!!!」
珍しく声を荒げて怒る千草に、周りは驚き、息を飲んだ。
「………確かに、黒崎さん達は子どもですが、幼稚ではありませんよ、横山総務官」
電話の向こうの浦原の声は落ち着いており、冷静だった。
「仲間の為に何かしたい、と言う想いを虐げられる辛さは、戦えないあなたには良く分かるんじゃないッスか?若者の意思を尊重するのは、大人の役目じゃないんスかねえ……少なくとも、アタシはそう思って、彼らを送り出しました」
浦原の言葉に、千草は唇を噛み締め、拳を握った。
「………もう、若者が理不尽に消えていくのは見たくないの………。あなたは生きていたから良いものを……………。子どもは、守りたいのよ……」
千草の声は震えていた。
 自分では、決して作る事は出来ない命が消えてしまうのが、千草には辛くて仕方がなかった。子どもの数だけ、親がいる。あんなに大きくなるまで育てたのなら、愛があっただろうに……。なぜ、親から子を奪うような事をするのか、甚だ理解が出来なかった。
「……アタシにも、あなたのような優しさが欠片でもあれば良かったんですがね…………」
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