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親友の好きな人(京楽 浮竹)

49.最終日

 かつて、人間でありながら死神の力を得た者がいた。
 彼は有益と判断され、死神代行として力を持ち続ける事を許された。だが彼は死神を裏切り、あろう事か死神に刃を奮った。
 その時、一度彼を追い詰めた事がある。代行証で彼の位置を捕捉し、彼の行動を監視していたからだ。彼には逃げられたが、代行証の機能は変えないまま、予備を千草が保管していた。
 代行証の機能を発案したのは、浮竹十四郎だった。
「………彼は、裏切るとは思えないけど……」
千草が浮竹に向かって、弱々しく言った。確信は無いからだ。前死神代行も、裏切るとは千草も浮竹も思っていなかった。
 浮竹も、自身の感情と葛藤するように、眉間にシワを寄せた。
「……彼は、人間だ。そして若い。若くして力を持った者は、不安定だ」
 力は人の心を惑わし、権力を誤認させる。それは、千草だって理解している。
「何も無ければ、それでいいんだ。一人の大人として、彼の行く末を見守りたい」
千草はしばらく考えた後、一度目をつぶり、もう一度浮竹を見た。
「分かった。一緒に恨まれましょう、浮竹君」
「悪いな」
「謝らないで。私が……総務官が、自分で判断したんだから」
浮竹は困ったように笑い、二人で総務に向かった。

 総務に戻ると、センカイ門の準備がほぼ出来たと連絡が来て、旅禍組の帰る目処がついた。
 千草がそれを伝えに客室棟に行くと、一護以外の3人が集まっていた。石田は、死覇装を脱いで滅却師の衣装を着ていた。
「あら、凄いわね。もう作ったの」
「はい。千草さんがいろいろ揃えてくださったおかげです」
石田は満足そうに千草にお礼を言った。後ろには、現世の服を持った茶渡と織姫がいた。
「間に合って良かったわね。明日、帰れるわよ」
千草が伝えると、3人は嬉しそうに顔を見合わせた。すると織姫が、小さめのワンピースを抱きかかえて、扉に向かった。
「私、朽木さんに渡しついでに伝えてくるね!」
織姫は嬉しそうに出て行った。
 千草はその姿を見送ると、石田と茶渡に向き直った。
「……あの服は、ルキアさんの?」
「あ、はい。現世に帰った時必要かと」
「あの子、現世に戻るって言ったの?」
千草の質問で、二人はあっ…と言って、ようやく気付いたようだった。
 ルキアはもともと、死神側の存在なのだ。死刑の危機が去った今、現世帰る意味は無い。
「まあ、彼女の好きにすればいいわ…あの子が馴染める方で」
 正直に言えば、千草はルキアに残って欲しいと思った。だが、ルキアがこの旅禍の子ども達を仲間だと思えるなら、現世に行くのも然り、とも思った。

 結局その日のうちに、ルキアから現世滞在許可申請が出される事はなく、夜を迎えた。
 夜は、お別れ会と称して、一番隊隊舎の庭で宴会が開かれた。各隊の隊長、副隊長も一般の隊士も多くが参加した。
「元柳斎様……費用はどこから出されたんですか?」
席につき若者達を眺める元柳斎に千草が尋ねると、元柳斎はヒゲを撫でながら余裕の顔をした。
「特別予算を出したじゃろ」
「ほとんど修繕費に使いましたよ。更木剣八が棟を一つ斬りましたし」
「……!!痛恨なり!!!!」
「どうなさるんですか……一番隊の予算は使えませんよ」
千草が呆れたように聞くと、元柳斎は再三考えた挙げ句、千草に杖を向けた。
「千草…!お主に酒を飲んでもらうしか…!!」
「飲み比べですか?」
「左様……!」
「……安酒で無ければ………」
千草が了承すると、元柳斎はすぐに雀部にアナウンスを入れさせた。
 宴会会場に雀部の声が響いた。
「えー、会場にいる死神の皆さん、突然でありますが、会費を集めます」
会費と聞いて、タダ酒を期待していた面々からはブーイングが起きた。
「何よそれー!タダって聞いて来たのに!!」
「そうだそうだ!!」
「……会費を払いたくない皆さんは、横山総務官と飲み比べをして勝ったら免除にいたします」
パッとライトが一点を照らしたかと思ったら、大量の酒樽と、机の前に座った千草が現れた。
 文句を言っていた面々は、ラッキーとか言いながら千草の周りの席に着席し始めた。更木や、乱菊、檜佐木、一角、弓親、恋次、清音や千太郎など、若い死神の多くが参加した。
 だが、隊長達は更木以外誰も参加しなかった。それを見た一護は、不思議そうに浮竹に尋ねた。
「隊長達は、参加しないのかよ?」
一護の問いかけに、浮竹と京楽が顔を見合わせ、苦笑いをした。周りの卯ノ花や狛村も呆れた顔をしていた。
「山じいも人が悪いよね」
京楽が笠に手をやりながら言うと、卯ノ花がクスクス笑った。
「あれで、考慮したつもりなのでしょうね」
浮竹も苦笑いをしながら、一護を見た。
「まあ、見ていなさい。後学だと思って。相手が対戦を申し込んで来たら、勝機がある故、という事さ」
 一護が首をかしげながらも、成り行きを見ていると、浮竹の言葉の意味をようやく理解した。
 一時間以上経つと、酒樽が数本空になり、会場は屍で溢れた。屍の山の中で千草が一人、顔色1つ変えずに酒を飲んでいた。
「…やはりこうなったか……」
屍の山を見ながら、浮竹が呟いた。横の京楽もハハハッと笑った。
「こういうの見ると、千草は本当に魔女なんじゃ無いかって思うよ」

 結局、翌日の一護達の見送りは隊長達ばかりが集まった。
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