親友の好きな人(京楽 浮竹)
5.お誘い
「二人共、夏休みはどうするんだい?」
自習室で期末試験の勉強をしながら、京楽は浮竹と千草に聞いた。
「俺は実家に帰る」
「わたしも」
教本を見ながら、浮竹と千草が答えた。京楽は既に飽きたらしく、椅子にもたれながら二人を見た。
「そういえば、菱田さんの家って、何人家族なの?」
「父と私だけよ」
「ありゃ、聞かない方がよかったかい?」
京楽はまずそうに頬を掻いたが、千草はチラリと京楽を見て微笑んで首を振った。
「ううん。いいよ。隠してる訳じゃないし」
「お父上は会いたがっているんじゃないか?」
千草の横の浮竹が心配そうに聞いた。
「そうね…そうかも。でも、私を院にいれたのは父だから、会いたいより早く死神になってほしいんじゃないかな」
「それはまた、どうして?」
勉強をする気がない京楽が、身を乗り出して千草の話を催促した。
「家を、絶やさないためよ。うちは代々死神の家系なの。そのうち婿をもらうわ。死神の」
千草が婿をもらうと聞いて、京楽も浮竹も黙った。複雑な気持ちだった。
「その婿は、もう決まっているのか?」
神妙な面持ちで浮竹が聞いた。
「まだ。私まだ死神でもないし」
「じゃあ僕とかどう?」
京楽が身を乗り出して、ニンマリ笑って千草の顔を見つめた。千草は京楽から離れる為に少し仰け反って、困ったように笑った。
「浮気性の婿なんてもらったら肩身が狭いわ」
「それって、結婚してもいいけどって事?」
「結婚なんて、愛が無くてもできるものよ」
千草は教本を見ながらサラリと言った。だが、京楽も浮竹も浮かない顔をした。
この時代の女は、どんなに実力があろうと、家の為の道具なのだ。男には知り得ない苦悩と覚悟を持っている。
「やだ、何で二人がそんな顔するの?」
「…自由に、恋愛や結婚ができるようになればいいな…」
横の浮竹が、顔をしかめながら低い声で言った。「………そうね………」
そう言った千草の顔がどこか冷たい感じがしたのを、京楽は見逃さなかった。
「お盆に、うちの近くの神社で夏祭りがあるんだが、来ないか?」
自習室から出ていく時に、浮竹が京楽と千草に聞いた。京楽は合点がいったように、ああ、と頷いた。千草は首をかしげている。
「出店や、神楽なんかあるんだ。花火も、少しだけあがるよ」
浮竹が千草に説明した。花火というフレーズに、千草の目が輝いた。
「花火は見たいかも…」
「じゃあ行こうよ。僕は毎年行くけど、巫女さんが綺麗でさ」
京楽が笑顔で誘った。
「お前はいつもそればっかだな、京楽」
「いいじゃないか、見世物だし」
「まあ見世物だけれど」
京楽と浮竹のやり取りに、千草がクスクスと笑った。
「二人を見ていられるなら、行きたいわ」
「菱田。俺達は見世物じゃないからな」
「いやあ、僕は見てほしいけどね。全身くまなく」
「京楽……」
夏休みに入り、お盆のある日の午後、京楽は浴衣で甘味屋にいた。
待ち合わせ場所だ。
「早いな」
次に来たのは浮竹だった。麻の浴衣を着ている。
「菱田さんの浴衣が見れると思うとねー」
「去年は巫女さんだったのにな」
席につきながら浮竹が笑った。京楽はところてんを食べながら、まーねーと笑った。浮竹も注文をした。
二人でダラダラと話していると、店の外から怒鳴り声が聞こえてきた。怒鳴り声はだんだんと近づいてきて、何を言っているかハッキリ分かった。
「おい無視してんじゃねーぞ!」
「ちょっと可愛いからって調子に乗りやがって!オイなんか言えよ!!」
京楽と浮竹は顔を見合わせ、同時に席を発つと、店の外に飛び出た。
予想した通り、千草が3人の男に絡まれていた。
浴衣を着ている千草を囲むように、3人の男が罵声を浴びせていた。千草は口をキツく結んで、黙って男達を見ているだけだった。
「すいませーん。この子僕らのツレなんですよー」
京楽が男の一人の肩を掴んで、にこやかに話しかけた。男達は京楽を見て、その巨体に一瞬怯んだ。その隙に浮竹が千草の手を引っ張って、自分の後ろに隠した。
「あ!おい、その女に用があんだよ!」
一人の男が浮竹に向かって手を伸ばしたが、その手を京楽が掴んで軽く捻った。
「すみませんねえー。この子とっても恥ずかしがり屋でして。見逃してくれません?」
「いてててて!!!!」
「ね?」
京楽がパッと手を離すと、3人はジロリと京楽と浮竹を睨むと、舌打ちをして去っていった。
3人男の姿が見えなくなって、ようやく京楽と浮竹は千草に向き直った。千草は申し訳なさそうに二人を見た。
「ごめんね……」
「菱田が悪いんじゃないさ」
「何もされなかったかい?菱田さん」
「うん…。うまく流せたらいいんだけど……」
俯く千草の肩に、京楽が優しく手を置いた。
「反省なんてしなくていいんだよ。君は悪くない。それより、何か食べない?僕も浮竹も食べてたんだ」
「……ありがとう。そうする」
京楽と浮竹は千草を促して甘味屋に戻っていった。
席につく前に、京楽が浮竹に耳打ちした。
「浴衣綺麗だねって言い逃した」
「お前のそういう所本当に尊敬するよ」
「二人共、夏休みはどうするんだい?」
自習室で期末試験の勉強をしながら、京楽は浮竹と千草に聞いた。
「俺は実家に帰る」
「わたしも」
教本を見ながら、浮竹と千草が答えた。京楽は既に飽きたらしく、椅子にもたれながら二人を見た。
「そういえば、菱田さんの家って、何人家族なの?」
「父と私だけよ」
「ありゃ、聞かない方がよかったかい?」
京楽はまずそうに頬を掻いたが、千草はチラリと京楽を見て微笑んで首を振った。
「ううん。いいよ。隠してる訳じゃないし」
「お父上は会いたがっているんじゃないか?」
千草の横の浮竹が心配そうに聞いた。
「そうね…そうかも。でも、私を院にいれたのは父だから、会いたいより早く死神になってほしいんじゃないかな」
「それはまた、どうして?」
勉強をする気がない京楽が、身を乗り出して千草の話を催促した。
「家を、絶やさないためよ。うちは代々死神の家系なの。そのうち婿をもらうわ。死神の」
千草が婿をもらうと聞いて、京楽も浮竹も黙った。複雑な気持ちだった。
「その婿は、もう決まっているのか?」
神妙な面持ちで浮竹が聞いた。
「まだ。私まだ死神でもないし」
「じゃあ僕とかどう?」
京楽が身を乗り出して、ニンマリ笑って千草の顔を見つめた。千草は京楽から離れる為に少し仰け反って、困ったように笑った。
「浮気性の婿なんてもらったら肩身が狭いわ」
「それって、結婚してもいいけどって事?」
「結婚なんて、愛が無くてもできるものよ」
千草は教本を見ながらサラリと言った。だが、京楽も浮竹も浮かない顔をした。
この時代の女は、どんなに実力があろうと、家の為の道具なのだ。男には知り得ない苦悩と覚悟を持っている。
「やだ、何で二人がそんな顔するの?」
「…自由に、恋愛や結婚ができるようになればいいな…」
横の浮竹が、顔をしかめながら低い声で言った。「………そうね………」
そう言った千草の顔がどこか冷たい感じがしたのを、京楽は見逃さなかった。
「お盆に、うちの近くの神社で夏祭りがあるんだが、来ないか?」
自習室から出ていく時に、浮竹が京楽と千草に聞いた。京楽は合点がいったように、ああ、と頷いた。千草は首をかしげている。
「出店や、神楽なんかあるんだ。花火も、少しだけあがるよ」
浮竹が千草に説明した。花火というフレーズに、千草の目が輝いた。
「花火は見たいかも…」
「じゃあ行こうよ。僕は毎年行くけど、巫女さんが綺麗でさ」
京楽が笑顔で誘った。
「お前はいつもそればっかだな、京楽」
「いいじゃないか、見世物だし」
「まあ見世物だけれど」
京楽と浮竹のやり取りに、千草がクスクスと笑った。
「二人を見ていられるなら、行きたいわ」
「菱田。俺達は見世物じゃないからな」
「いやあ、僕は見てほしいけどね。全身くまなく」
「京楽……」
夏休みに入り、お盆のある日の午後、京楽は浴衣で甘味屋にいた。
待ち合わせ場所だ。
「早いな」
次に来たのは浮竹だった。麻の浴衣を着ている。
「菱田さんの浴衣が見れると思うとねー」
「去年は巫女さんだったのにな」
席につきながら浮竹が笑った。京楽はところてんを食べながら、まーねーと笑った。浮竹も注文をした。
二人でダラダラと話していると、店の外から怒鳴り声が聞こえてきた。怒鳴り声はだんだんと近づいてきて、何を言っているかハッキリ分かった。
「おい無視してんじゃねーぞ!」
「ちょっと可愛いからって調子に乗りやがって!オイなんか言えよ!!」
京楽と浮竹は顔を見合わせ、同時に席を発つと、店の外に飛び出た。
予想した通り、千草が3人の男に絡まれていた。
浴衣を着ている千草を囲むように、3人の男が罵声を浴びせていた。千草は口をキツく結んで、黙って男達を見ているだけだった。
「すいませーん。この子僕らのツレなんですよー」
京楽が男の一人の肩を掴んで、にこやかに話しかけた。男達は京楽を見て、その巨体に一瞬怯んだ。その隙に浮竹が千草の手を引っ張って、自分の後ろに隠した。
「あ!おい、その女に用があんだよ!」
一人の男が浮竹に向かって手を伸ばしたが、その手を京楽が掴んで軽く捻った。
「すみませんねえー。この子とっても恥ずかしがり屋でして。見逃してくれません?」
「いてててて!!!!」
「ね?」
京楽がパッと手を離すと、3人はジロリと京楽と浮竹を睨むと、舌打ちをして去っていった。
3人男の姿が見えなくなって、ようやく京楽と浮竹は千草に向き直った。千草は申し訳なさそうに二人を見た。
「ごめんね……」
「菱田が悪いんじゃないさ」
「何もされなかったかい?菱田さん」
「うん…。うまく流せたらいいんだけど……」
俯く千草の肩に、京楽が優しく手を置いた。
「反省なんてしなくていいんだよ。君は悪くない。それより、何か食べない?僕も浮竹も食べてたんだ」
「……ありがとう。そうする」
京楽と浮竹は千草を促して甘味屋に戻っていった。
席につく前に、京楽が浮竹に耳打ちした。
「浴衣綺麗だねって言い逃した」
「お前のそういう所本当に尊敬するよ」