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親友の好きな人(京楽 浮竹)

46.浦原商店
 ※浦夜表現があります


 藍染との戦闘報告を終えた千草は、その足でセンカイ門に向かった。
 浦原喜助に会うために。
「こんな夜更けに、総務官殿が現世に何用か」
門の周りを囲む柱の裏から声がして足を止めると、夜一が姿を現した。
「いないと思ったら、こんな所にいたの」
「儂から総隊長殿には知っている限りの情報を報告いたしましたが、それ以上に何をする必要が?」
夜一は不信の目で千草を見つめた。
「本人から直接聞くのよ」
「………喜助を、捕縛しますか」
「彼次第よ」
夜一はまたジッと千草を見つめ、懇願するように話した。
「儂も同行させてください」
「許可がないわ」
「………総務官殿………」
「夜一さん。あなた達の罪はもう許されてる。もう、規則を破るのはやめましょう、ね」
千草が夜一を諭したが、それでも夜一は千草を信用できない目で見てきた。
「………喜助に何かあれば、儂があなたを殺します………」
「……そうして」
警戒した目で千草を見る夜一を置いて、千草は門に向かった。
 夜一の気持ちは理解できた。
 長年の親友を想い、自分の身すら犠牲にする事を厭わない気持ち。100年前に罪を被ったのが浦原だったから、夜一が逃亡しただけで、浦原が浮竹や京楽だったら、千草が夜一の立場になっていた。
 千草は振り返り、夜一を見た。
「……もし、誰かが浮竹君や京楽君を殺したら、私はそいつを地獄の果てまで追いかけて、殺すわ」
千草の言葉に夜一は目を見張り、自身の想いを理解された事を悟った。
「……ええ。そうでしょう。儂もです」
千草と夜一がお互いに微笑むと、千草はようやくセンカイ門をくぐった。

 元柳斎に言われた地点に出ると、目の前に古めかしい店があった。『浦原商店』と看板がある。
「………隠れる気があるのかしら………」
まあそれでも100年見つける事は出来なかったのだ、あの男の事だから何かしら工夫をしているのだろう。などと考えながら店の入口に歩いていくと、ドアが開き、甚平に帽子を被った男が出てきた。
「お久しぶりです、横山総務官………」
男は帽子に手をかけ、素顔を見せた。無精ひげを生やしている以外、100年前と何も変わっていなかった。
「元気そうで良かったわ。浦原君」
浦原は、予想していた反応と違ったらしく、目を見開いて千草を見て、申し訳なさそうに頭を下げた。
「……アタシの作った物で、ご迷惑を……」
「……どうかしら。あなたが崩玉を作っていなくても、藍染は謀反を起こしたと思うわ。それに、あなたの研究を知っていながら、放置した私にも責任があると思うし……」
千草は浦原に近づいて、肩に手を置いた。
「今更どうしようもない事を話すより、前を向きましょ。あなたには、藍染の計画の予想見解と、100年前の真実を聞きに来たの」
「………じゃ、中へどうぞ。汚い部屋ですが…」
 浦原に案内され、千草は座敷に上がった。
 ちゃぶ台の前に座ると、奥から、眼鏡にみつ編みという異様な出で立ちの男が現れた。手には湯呑の乗った盆を持っていた。だが、千草はその男に見覚えがあった。
「あなた……柄菱鬼道長……?」
「はい。お元気そうでなによりです。総務官殿」
鉄斎はちゃぶ台に湯呑を置くと、浦原の横に腰を据えた。
「……では、質問にお答えしましょうか。まず、藍染ですが、彼はずっと、虚の改造をしていたと予想されます。きっと、アタシと同じく、死神の限界を取り払う方法を探していたんでしょう。そして、計らずともそれが、虚の強化にも繋がりました」
「虚を使って、軍隊でも作るの?ウェコムンドに逃げたって事は……」
「彼はウェコムンドに行ったんスねぇ。ならば、それは確実と言っても言いでしょう」
浦原は一旦口をつぐみ、湯呑を手に取り、お茶を啜った。
「……ですが、直ぐに軍隊は作れません」
浦原は湯呑を置き、千草を真っ直ぐ見詰めた。
「崩玉の覚醒までに、3ヶ月の猶予があります。それまでに、御艇で戦争への備えをしてください。アタシも自分にできる最大限の努力をします。いえ、させてください。お願いします」
浦原は机から体を離し、畳に額をつけた。
 千草は浦原の姿を見ると、安心したかのようにため息をつき、消えた。
「総務官!!?」
驚いた浦原が顔をあげ、千草がいた筈の場所を見ると、玄関が開いた。
 そちらを見ると、先程消えた筈の千草がいた。
「………今のは?」
鉄斎が不思議そうに千草に尋ねた。千草は座敷に歩み寄り、板間に腰掛けた。
「驚かしてごめんなさい。あなたを試したの。浦原君」
「アタシが、裏切ると?」
「………藍染と繋がっているとは思わないけど、別勢力の可能性が疑われてた。だから、あなたが御艇に手を貸すか、独自の動きを選ぶかで、決断をくだせ、と指示されたわ……」
千草は申し訳なさそうに目を伏せた。
「…ま、疑心暗鬼にもなりますよねえ…理解し難い事がありすぎますし」
帽子をかぶり直しながら、浦原は苦笑いをし、千草の横に来た。浦原はつま先立ちでしゃがむと、千草の横顔を見た。
「……100年前、アタシ達の事を救おうとしてくれたんですよね?夜一さんから聞きました。全てに見放された訳ではない、と言うのが、アタシらの心の支えでした。ね、鉄斎さん」
「ええ、諦めないでいられたのは、あなたのおかげです」
二人の言葉に、千草の胸は更に痛んだ。
「信用してくれていたのに、こんな事をして、ごめんなさい………」
「なーに言ってんすか、全く殺気も無かったのに……。怒っても失望もしていませんよ。顔を上げてください」
「………ありがとう。二人とも………」
千草は顔を上げて、浦原と鉄斎を見た。二人とも優しい顔をしていた。
「100年見ない間に、たくましくなったわね……最初は猿垣さんにあれほど………そうよ、猿垣さんは?平子君達は、どうなったの?」
千草は思い出したかの様に、浦原の目を見つめた。だが、浦原の目からは気持ちを汲めなかった。
「すいません……それは、アタシからは……」
浦原は帽子をかぶり直し、目を隠した。だが、死んだという言葉が言われなかっただけでも、千草は安心する事ができた。
 千草は立ち上がり、浦原と鉄斎に向き直ると、頭を下げた。
「改めて、生きていてくれてありがとう。これから、総隊長から指示がでると思うわ。その時はまた、よろしくね」
「はい。コチラこそ、よろしくお願いします」
「よろしくお願いしますぞ、総務官殿」
千草は顔を上げて、玄関に向かった。だが、扉を閉める前に、横目で浦原を見た。
「…こっちに来る前に、夜一さんに、浦原君に何かしたら殺すって言われたの。何もする必要が無くて、良かったわ」
その時の浦原の目には、明らかな照れがあった。千草は微笑んで扉を閉めた。
 急いで精霊艇に戻って、浦原から聞いた事と、崩玉の研究内容を書類にまとめていると、空が明るんで来た。
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