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親友の好きな人(京楽 浮竹)

43.戦い
 ※四肢切断の表現があります。

 「一等禁踏区域への無断侵入及び、雛森副隊長の殺人未遂の現行犯であなた達を捕らえるわ」
千草は罪状を言い渡しながら、懐に手を入れた。
「司法権はあなたには無い筈だ」
藍染は落ち着いている。気の乱れなど微塵もない。
「私人逮捕よ」
千草が懐から取り出したのは半紙だった。それを空中に放ると、真っ赤な火を纏った鳥が現れた。藍染は目を見開き、嬉しそうに笑った。
「美しい能力だ。それは不死鳥かな?」
「あなたに私の能力を教える義理は無いわ」
千草の指の動きに合わせて、不死鳥が藍染を狙った。藍染は簡単にかわしながら、興味深げに不死鳥を観察した。
「まだあるわよ」
千草が半紙の束を取り出すと、知らないうちに藍染と市丸の周りを大型の獣が取り囲んだ。
 虎や象や獅子に加えて、麒麟や鬼などの空想の生き物もいた。
 それぞれが一斉に藍染と市丸を襲い、二人は刀を抜いて応戦した。
「空想を現実に?」
一体一体を斬りながら藍染が問いかけた。
「言わないわ」
二人の千草は、藍染と市丸から距離を取りながら、倒れている獣達に触れた。
「裏打ち」
千草が触れた獣の体はたちまちくっつき、再び藍染達を襲った。
「なるほど、絵か」
納得した藍染が、鬼を木っ端微塵に切り裂いた。
「破れた紙は裏打ちで引っ付く。だが、細切れにしたら、蘇らない。ですよね?」
嫌な笑みを浮かべながら、藍染は千草を見た。千草の顔は冷静だが、怒りが宿っていた。
「所詮は絵空事ですよ」
「どうかしら」
藍染から離れた所で、市丸の刀を牙で抑えていた虎の口の奥が光った。
「なんやこれ」
市丸が言葉を放つか放たないかのうちに、赤い爆発が市丸を包んだ。
 市丸はぎりぎりでかわし、空中に飛び上がった。
「何で猫ちゃんが赤火砲撃つんや!」
虎だけでは無く、象も麒麟も獅子も揃って破道を撃った。
 藍染と市丸は、破道を避けながら防戦した。
「素晴らしい作品だ。あなたの霊力か」
藍染の目は、二人の千草を見比べていた。両手で刀を構える方と、片手で構える方……。
「こちらかな」
藍染の刀が、片手構えの千草を斬った。
 だが獣の破道は止まない。
 藍染は飛び退き、感心した。
「騙されてしまいました」
「どうせ戯れでしょ」
千草はもう一人を直しながら笑った。
「片方が偽物ならばもう一人を狙うまで」
藍染がもう片方を見た瞬間、目を見開いた。
「一人を狙う?どれ?」
千草が10人に増えていた。
「ギン、ペット達を頼むよ」
藍染は市丸に背を向け、10人の千草に向き直った。
「総務官殿が直々に能力をお見せくださるのだ。滅多にない幸運だ」
「随分余裕なのね」
千草達が剣を構え、一斉に藍染に斬りかかった。
 藍染は刀を受けたりかわしたりしながら、千草に話しかけた。
「僕の特技をご存知ですよね。総務官。あなたが絵が得意な様に、僕も書道が得意なんです」
「だから何」
「『見えて』いますよ」
藍染は一人の千草の胸に刀を突き刺した。
 この千草だけが、初めて血を吐き、刺し傷から出血した。
「な、んで………」
「筆の『クセ』と『息遣い』です。長年筆を握った者だけが感じる事ができる」
千草は震える手で藍染の手を握った。口元に笑みを浮かべている。
「刺し違えようと………」
「しまっ………」
残りの9人の千草が、藍染を串刺しにした。
 
 と思ったが、刺されていたのは、藍染に刺された千草だった。
 その一人は、目や腹、鎖穴や白錘等10箇所を貫通させられ、到底生きていられる傷では無かった。
 千草が倒れると、残りの千草や獣達も消えた。
「ひゃー。美人もこんだけ刺されたら、見えたもんやないですなあ」
刀を収めながら市丸が騒いだ。
「……霊力も失っただろう。生きてはおれまい。総務官とは言え、前線から遠のいた者はこんなものか………失望したよ」
藍染は侮蔑の目で千草を見下ろし、くるりと背を向けた。

 グサリ

 藍染の背中に刀が突き刺さった。
 藍染がゆっくり振り返ると、血まみれの千草が藍染を刺していた。
「……驚いたな。その傷で立ち上がるか………それとも、最初から絵空事か………」
「いいでしょ。力作なの」
しかしそれさえ藍染では無かった。刺していたのは、千草が放った半紙だった。
「斬っても意味が無いのなら、立ち上がれなくしようか」
後ろから声がしたと思ったら、千草の両足が切断されていた。
 バランスを崩した千草は、後ろに勢いよく倒れた。
「まだ手があるのかい?」
挑発するような藍染の声に千草は反応し、手で体を支えて起き上がった。
「………沙羅双樹」
千草の斬魄刀が筆に変わり、筆先を自分の血につけた。
「生々…………流転」
千草が筆を振るうと、屋内にも関わらず雨が振った。
「なんやこれ、雨?……ちゃうな、血や」
「……山に降った雨は激流をくだり川になり」
千草の声と共に、血が渦を巻き藍染と市丸を巻き込んだ。
「やがて水は海に着き」
渦はかたまって、二人を血の海に閉じ込めた。
「海を渡って龍になる」
血がスルスルと形を作り、とぐろを巻いた龍になり、藍染と市丸を締めつけた。
「龍は雲雷を呼び、厄災をもたらす」
いつの間にか足を直していた千草が、筆を構えた。
「さようなら、藍染君、市丸君」
千草の構えと共に、開かれた龍の口の奥から雷が見えた。
「前言を撤回するよ。君は素晴らしかった」
藍染の言葉と共に、龍が真っ二つに割れ、藍染と市丸がきれいに着地した。
「私に刀を振るわせたのだから」
既に千草の両腕が無くなっていた。追撃するように、藍染は千草の下腹部を刺し、その刀が抜かれると千草は床に倒れた。
「手が無ければ、もう直せないな」
「クソッ……」
藍染は刀を鞘に戻し、床に横たわる千草に微笑んだ。
「素晴らしい能力と作品だった。同じ芸の道を行く者として尊敬するよ」
「嬉しくないわ」
藍染を睨みあげながら、千草は苦しむ素振りもなく言い放った。
「痛みも無いのか。よく出来た偽物だ、骨も臓器も血管も全て描いたのかい?」
「…力作を壊された恨みは怖いわよ」
「本人が来なかったのは、賢明な判断だったよ」
藍染は後ろをチラリと見た。
「あそこにいる日番谷隊長とは違ってね」
 藍染の視線の先には、吉良を追っていた筈の日番谷がいた。
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