親友の好きな人(京楽 浮竹)
40.藍染の死
「総務官……今までも、こんな事はありましたか?」
隊舎からの他出を禁じられ、実質監禁状態にされた事を不信に感じた補佐官が、心配そうに千草に聞いた。時刻は夜の21時、旅禍の動きは無い。
千草は腕を組みながら、窓の外を見た。
「……初めてよ。こんな事……」
総務は、普段は御艇の記録係だが、本来の役割は『最後の砦』だ。隊長達が倒れ、御艇が敗北しても、御艇の歴史と機能を保管管理している総務があれば、御艇は何度でも蘇る。
旅禍の目的が御艇の滅亡だとしたら、総務官である千草の身を保護するのは道理に適っている。だが、旅禍は隊士達を戦闘不能にはせど、とどめを刺していない。だとすれば、千草が危機に陥る可能性は低い。
もしかしたら、既に夜一との接触を敵に知られているか、もしくは、その可能性を潰すために、敵の意図によって千草の行動を制限しているのかも知れない。
とにかく、双極破壊の目処が立つまで命を消されないよう、従順なフリをしなければいけない。
補佐官と総務部で待機していると、扉をノックされ、隠密機動の隊士が2名入ってきた。
「隠密機動が総務部になんの用?」
千草はやや警戒しながら、隊士らに聞いた。
「四十六室の命により、総務官及び総務補佐官の護衛を承りました。これより戦時特例が解除されるまで、われわれが行動を共にさせていただきます」
体のいい事を言っているが、監視だ。こちらの動きは、全て敵に流されている。
総務内にも敵が潜入している可能性が拭えなくなり、千草が信用できるのは、浮竹と京楽だけになった。
朝になると、外から悲鳴が聞こえてきた。その直後に、副隊長クラスの斬魄刀解放の気配がし、何かによって止められたのが分かった。補佐官は終始不安そうに、体を強張らせていた。
千草達が総務部で待機していると、日番谷冬獅郎が入ってきた。
「何があったの」
千草の質問に、日番谷は顔をしかめ、目を伏せた。
「藍染が死んだ」
「なんですって?」
予想打にしなかった報告に、千草も総務部員達も驚愕した。日番谷は冷静さを保とうと深呼吸をして、説明を続けた。
「第一発見者は副官の雛森だ。隊長の死体を見て気が動転し、その場に居合わせた市丸に切りかかった所を、吉良に止められ、雛森と吉良が斬魄刀を解放した直接に俺が止めた」
日番谷は冷静だった。若くしてここまで落ち着きがある事に千草は感心した。
「……その副官二人と、藍染隊長の遺体は?」
「二人は留置場に連れて行かせ、遺体は四番隊に連絡をいれました」
「迅速な対応ありがとう。総隊長には連絡済みね?」
「はい」
「五番隊の業務を各隊に振り分けるわ。誰か2名五番隊へ」
千草が部下を動かそうとすると、日番谷が止めた。
「いえ、うちが引き受けます」
「一隊で引き受けられれ量じゃ無いわ」
「……俺も混乱してるんで。何かに没頭させて下さい」
日番谷の低い声を聞いた千草は、ふうと息を吐いた。
「……わかったわ。十番隊と五番隊を臨時合同編成として、日番谷冬獅郎に二隊の管理権限を与えます」
「………ッス」
千草は机に戻ると、紙面に権限譲渡証を書き起こし、判を押して日番谷に渡した。日番谷は証書を貰いながら、隅にいる隠密機動をチラリと見た。
「なんで総務に隠密機動がいるんスか?」
千草も隠密機動を見て、また日番谷に視線を戻すと、肩をすくめた。
「守られてるの、私と補佐官。か弱いから」
「必要無いと思いますけどね」
「他の皆にも言いふらしといて」
「言っときます」
そう言って日番谷は総務から出て行った。
だが、藍染が死んだ今、千草の周りを固めるかっこうの理由ができた。それすら、策の一つに感じた。
「どうして死んだの……藍染君………」
かつての部下を亡くした悲しみが、千草の胸を押しつぶした。
その後、纖罪宮から激しい霊圧のぶつかりを感じ、更木の敗北が知らされ、続け様に涅も旅禍と戦闘後に行方を眩ませたと報告が入った。
そしてその後、伊勢七緒、虎徹清音と小椿千太郎が総務を訪れた。
七緒からは、旅禍1名の捕獲と、彼らの目的『朽木ルキアの奪還』が報告された。
清音と千太郎からも、四深牢にて旅禍1名の捕獲と、旅禍に手を貸した四番隊士の報告を受け、加えて朽木白哉によって旅禍が重体になり、一度牢から出された朽木ルキアを再び牢に入れたと伝えられた。
2つの報告から、旅禍達が朽木ルキアを奪還しようとしているのが、裏付けられた。
「分かりました。それで、それぞれの隊長は今どちらへ?」
千草が二人に尋ねると、七緒が進み出て答えた。
「中央に向かわれました。旅禍の目的が極囚の奪還で、ここまでの甚大な被害が出ているのなら、一度刑を取り下げ、旅禍との和平交渉をするべき、と」
親友二人の誠実な行動に、千草の顔が少し緩んだ。
「……うまく行くといいけど………」
千草が目を伏せると、ドアが叩かれた。返事をすると、東仙要が顔をだした。
「総務官、旅禍を1名捕らえ、四番隊に移送しました」
「お疲れ様。こちらも今、2名の捕獲を受けた所よ」
東仙が詳しく話をしようと近づいて来ると、七緒は下がり、東仙に場所を空けた。
「では私はこれで」
七緒が帰ろうとしても、清音と千太郎は帰ろうとしなかった。
その二人を見て、東仙が動きを止めた。
「……どうした?まだ話す事があるのかい?」
清音も千太郎もソワソワするだけで、理由を話さない。
「警戒令が出されている時に、副官代理の2名が油を売っていては、部下への示しがつかないよ。帰りなさい」
東仙に促され、清音と千太郎は渋々帰って行った。扉から出る時に、清音が意味深な目つきをした事で、浮竹から何か伝言があったのでは、と予想した。
東仙の報告が終わり、日が傾きかけた時、今度は恋次、雛森、吉良の3名が脱獄した。
御艇の混乱を避けるため、3名の脱獄は隊長格にのみ伝えられた。
夜更けに、日番谷が斬魄刀を解放する霊圧が感知されたが、日番谷は報告に来なかった。
やがて朝になり、地獄蝶がやって来て、ルキアの処刑が明日に決定したと、告げた。
「総務官……今までも、こんな事はありましたか?」
隊舎からの他出を禁じられ、実質監禁状態にされた事を不信に感じた補佐官が、心配そうに千草に聞いた。時刻は夜の21時、旅禍の動きは無い。
千草は腕を組みながら、窓の外を見た。
「……初めてよ。こんな事……」
総務は、普段は御艇の記録係だが、本来の役割は『最後の砦』だ。隊長達が倒れ、御艇が敗北しても、御艇の歴史と機能を保管管理している総務があれば、御艇は何度でも蘇る。
旅禍の目的が御艇の滅亡だとしたら、総務官である千草の身を保護するのは道理に適っている。だが、旅禍は隊士達を戦闘不能にはせど、とどめを刺していない。だとすれば、千草が危機に陥る可能性は低い。
もしかしたら、既に夜一との接触を敵に知られているか、もしくは、その可能性を潰すために、敵の意図によって千草の行動を制限しているのかも知れない。
とにかく、双極破壊の目処が立つまで命を消されないよう、従順なフリをしなければいけない。
補佐官と総務部で待機していると、扉をノックされ、隠密機動の隊士が2名入ってきた。
「隠密機動が総務部になんの用?」
千草はやや警戒しながら、隊士らに聞いた。
「四十六室の命により、総務官及び総務補佐官の護衛を承りました。これより戦時特例が解除されるまで、われわれが行動を共にさせていただきます」
体のいい事を言っているが、監視だ。こちらの動きは、全て敵に流されている。
総務内にも敵が潜入している可能性が拭えなくなり、千草が信用できるのは、浮竹と京楽だけになった。
朝になると、外から悲鳴が聞こえてきた。その直後に、副隊長クラスの斬魄刀解放の気配がし、何かによって止められたのが分かった。補佐官は終始不安そうに、体を強張らせていた。
千草達が総務部で待機していると、日番谷冬獅郎が入ってきた。
「何があったの」
千草の質問に、日番谷は顔をしかめ、目を伏せた。
「藍染が死んだ」
「なんですって?」
予想打にしなかった報告に、千草も総務部員達も驚愕した。日番谷は冷静さを保とうと深呼吸をして、説明を続けた。
「第一発見者は副官の雛森だ。隊長の死体を見て気が動転し、その場に居合わせた市丸に切りかかった所を、吉良に止められ、雛森と吉良が斬魄刀を解放した直接に俺が止めた」
日番谷は冷静だった。若くしてここまで落ち着きがある事に千草は感心した。
「……その副官二人と、藍染隊長の遺体は?」
「二人は留置場に連れて行かせ、遺体は四番隊に連絡をいれました」
「迅速な対応ありがとう。総隊長には連絡済みね?」
「はい」
「五番隊の業務を各隊に振り分けるわ。誰か2名五番隊へ」
千草が部下を動かそうとすると、日番谷が止めた。
「いえ、うちが引き受けます」
「一隊で引き受けられれ量じゃ無いわ」
「……俺も混乱してるんで。何かに没頭させて下さい」
日番谷の低い声を聞いた千草は、ふうと息を吐いた。
「……わかったわ。十番隊と五番隊を臨時合同編成として、日番谷冬獅郎に二隊の管理権限を与えます」
「………ッス」
千草は机に戻ると、紙面に権限譲渡証を書き起こし、判を押して日番谷に渡した。日番谷は証書を貰いながら、隅にいる隠密機動をチラリと見た。
「なんで総務に隠密機動がいるんスか?」
千草も隠密機動を見て、また日番谷に視線を戻すと、肩をすくめた。
「守られてるの、私と補佐官。か弱いから」
「必要無いと思いますけどね」
「他の皆にも言いふらしといて」
「言っときます」
そう言って日番谷は総務から出て行った。
だが、藍染が死んだ今、千草の周りを固めるかっこうの理由ができた。それすら、策の一つに感じた。
「どうして死んだの……藍染君………」
かつての部下を亡くした悲しみが、千草の胸を押しつぶした。
その後、纖罪宮から激しい霊圧のぶつかりを感じ、更木の敗北が知らされ、続け様に涅も旅禍と戦闘後に行方を眩ませたと報告が入った。
そしてその後、伊勢七緒、虎徹清音と小椿千太郎が総務を訪れた。
七緒からは、旅禍1名の捕獲と、彼らの目的『朽木ルキアの奪還』が報告された。
清音と千太郎からも、四深牢にて旅禍1名の捕獲と、旅禍に手を貸した四番隊士の報告を受け、加えて朽木白哉によって旅禍が重体になり、一度牢から出された朽木ルキアを再び牢に入れたと伝えられた。
2つの報告から、旅禍達が朽木ルキアを奪還しようとしているのが、裏付けられた。
「分かりました。それで、それぞれの隊長は今どちらへ?」
千草が二人に尋ねると、七緒が進み出て答えた。
「中央に向かわれました。旅禍の目的が極囚の奪還で、ここまでの甚大な被害が出ているのなら、一度刑を取り下げ、旅禍との和平交渉をするべき、と」
親友二人の誠実な行動に、千草の顔が少し緩んだ。
「……うまく行くといいけど………」
千草が目を伏せると、ドアが叩かれた。返事をすると、東仙要が顔をだした。
「総務官、旅禍を1名捕らえ、四番隊に移送しました」
「お疲れ様。こちらも今、2名の捕獲を受けた所よ」
東仙が詳しく話をしようと近づいて来ると、七緒は下がり、東仙に場所を空けた。
「では私はこれで」
七緒が帰ろうとしても、清音と千太郎は帰ろうとしなかった。
その二人を見て、東仙が動きを止めた。
「……どうした?まだ話す事があるのかい?」
清音も千太郎もソワソワするだけで、理由を話さない。
「警戒令が出されている時に、副官代理の2名が油を売っていては、部下への示しがつかないよ。帰りなさい」
東仙に促され、清音と千太郎は渋々帰って行った。扉から出る時に、清音が意味深な目つきをした事で、浮竹から何か伝言があったのでは、と予想した。
東仙の報告が終わり、日が傾きかけた時、今度は恋次、雛森、吉良の3名が脱獄した。
御艇の混乱を避けるため、3名の脱獄は隊長格にのみ伝えられた。
夜更けに、日番谷が斬魄刀を解放する霊圧が感知されたが、日番谷は報告に来なかった。
やがて朝になり、地獄蝶がやって来て、ルキアの処刑が明日に決定したと、告げた。