親友の好きな人(京楽 浮竹)
4.不信
「しばらくしたら起き上がれるから、ついててあげてね」
保健医はそう言って、隣の仕事部屋に行った。
千草はベッドに横になり、天井を見ていた。京楽はベッドの横に座り、適当な冊子を手にとった。
「帰っていいよ……」
天井を見たまま、千草は京楽に話しかけた。京楽は冊子に目を落としたまま、動かない。
「ついててって、言われたからねえ…」
「ごめんね。私なんかに……」
「気にしないで。女の子を助けるなんて、当たり前の事だよ」
千草はそれ以上何も言わず、黙っていた。京楽も何も聞かず、適当に時間を潰した。
千草は、知らないうちに眠っていた。
辺りが暗くなってきた頃、浮竹が保健室にやってきた。
「お、よくここが分かったね」
「結構、探した」
浮竹がベッドに近づくと、京楽が指を口にあてて立ち上がり、浮竹をベッドから離した。
「お前のせいだぞ色男。下手に期待持たせるから」
ヒソヒソ声で京楽が浮竹を窘めた。
「まて、どういう意味だ」
「女の嫉妬は怖いって話さ」
「違うよ」
いつの間にか起きていた千草が、二人の会話に参加した。
「菱田さん…起きて大丈夫かい?」
「私が、うまくやれないせい……迷惑かけて、ごめんね。 浮竹君、片付けはどうなってる?」
「そんな事は気にするな。もうこのまま帰れ、菱田」
浮竹は千草に帰れと言ったが、千草は気まずそうにうつむくばかりで、ベッドから動かなかった。
「……昔通ってた書道教室の先生が、私を贔屓してたの…」
始めて千草が自分の事を話し出した。浮竹と京楽は黙って聞いた。
「私は嫌だったんだけど…周りの女の子達は私が気に入らなかったみたいで、嫌がらせされた。ぶりっ子って……」
千草の顔が歪み、悲しそうに目が陰った。どんな嫌がらせをされたのかは分からないが、千草にとって辛い過去なのが分かった。
「先生を避けるのを高飛車だって言われて、我慢して先生に合わせてたら、先生に……」
千草は言葉に詰まり、手で顔を覆った。
「無理して言わなくていいよ」
京楽が声をかけると、千草は手を離し、その手を見つめた。
「周りの子達に、先生はこんな嫌な事をするよって言ったらね」
千草は深呼吸をした。
「美人だから、それくらい不幸になっていい、って………」
「それは違う」
浮竹が言葉に力を込めた。
「…ありがとう……。私それから、家族以外信じられなくなって、ぶりっ子って言われない様に、誰にも変な事されない様に、距離を……嫌な態度とって、ごめん」
千草は頭を垂れて、浮竹と京楽に謝った。
「僕らは気にしないよ。君は、不幸になる必要なんかないし、自分の好きなように振る舞っていい」
京楽の落ち着いた声に安心したのか、千草が涙を流した。
京楽と浮竹は顔を見合わせ、千草のいるベッドに近づいた。
「今から、友達になろう。菱田」
うつむく千草の顔を、浮竹がのぞき込んだ。二人の目が合う。
「でも俺は、前から友達だって思ってた」
「……浮竹君……」
「僕の事も、リハビリ要因くらいに思ってくれていいからさ」
「京楽君………」
千草の顔がくしゃくしゃに歪んだ。とても人間らしい表情になった、と二人は感じた。
「ありがとう………」
次の日、千草が教室に行くと、女達から冷たい視線を浴びた。
無視して席につくと、二人の友人が来てくれた。
「おはよう。菱田さん」
「おーす菱田。隊長大丈夫か?」
京楽と浮竹は、明るい顔で千草の机の前に来た。女達から驚きの声があがる。
「京楽君…浮竹君……うん、大丈夫。ありがとう…」
今まで挨拶しても無視していた千草からしたら、大きな進歩だった。
それから千草は、京楽、浮竹と3人で行動するようになった。
朝は門で待ち合わせ、昼ご飯も、休み時間も、寮に帰るまで一緒にいた。周りの女達はいい顔をしなかったが、京楽と浮竹がいるからか、何かしてくる事は無かった。男からの千草へのアプローチも減った。
初めは聞き役だった千草も、2ヶ月もすると、自分から話をするようになった。心を許してくれているのが分かり、京楽も浮竹も嬉しそうに聞いた。
千草は次第に、京楽と浮竹の前では笑顔を見せるようになった。息を飲むほど、美しい笑顔だった。
千草は、京楽と浮竹をとても大切にした。細やかな気遣いが、二人に分かった。それと同じように、二人は千草を大切にした。
初めは、千草を守るつもりで友達になったが、時間が経つと、本当の友達になっていった。
「しばらくしたら起き上がれるから、ついててあげてね」
保健医はそう言って、隣の仕事部屋に行った。
千草はベッドに横になり、天井を見ていた。京楽はベッドの横に座り、適当な冊子を手にとった。
「帰っていいよ……」
天井を見たまま、千草は京楽に話しかけた。京楽は冊子に目を落としたまま、動かない。
「ついててって、言われたからねえ…」
「ごめんね。私なんかに……」
「気にしないで。女の子を助けるなんて、当たり前の事だよ」
千草はそれ以上何も言わず、黙っていた。京楽も何も聞かず、適当に時間を潰した。
千草は、知らないうちに眠っていた。
辺りが暗くなってきた頃、浮竹が保健室にやってきた。
「お、よくここが分かったね」
「結構、探した」
浮竹がベッドに近づくと、京楽が指を口にあてて立ち上がり、浮竹をベッドから離した。
「お前のせいだぞ色男。下手に期待持たせるから」
ヒソヒソ声で京楽が浮竹を窘めた。
「まて、どういう意味だ」
「女の嫉妬は怖いって話さ」
「違うよ」
いつの間にか起きていた千草が、二人の会話に参加した。
「菱田さん…起きて大丈夫かい?」
「私が、うまくやれないせい……迷惑かけて、ごめんね。 浮竹君、片付けはどうなってる?」
「そんな事は気にするな。もうこのまま帰れ、菱田」
浮竹は千草に帰れと言ったが、千草は気まずそうにうつむくばかりで、ベッドから動かなかった。
「……昔通ってた書道教室の先生が、私を贔屓してたの…」
始めて千草が自分の事を話し出した。浮竹と京楽は黙って聞いた。
「私は嫌だったんだけど…周りの女の子達は私が気に入らなかったみたいで、嫌がらせされた。ぶりっ子って……」
千草の顔が歪み、悲しそうに目が陰った。どんな嫌がらせをされたのかは分からないが、千草にとって辛い過去なのが分かった。
「先生を避けるのを高飛車だって言われて、我慢して先生に合わせてたら、先生に……」
千草は言葉に詰まり、手で顔を覆った。
「無理して言わなくていいよ」
京楽が声をかけると、千草は手を離し、その手を見つめた。
「周りの子達に、先生はこんな嫌な事をするよって言ったらね」
千草は深呼吸をした。
「美人だから、それくらい不幸になっていい、って………」
「それは違う」
浮竹が言葉に力を込めた。
「…ありがとう……。私それから、家族以外信じられなくなって、ぶりっ子って言われない様に、誰にも変な事されない様に、距離を……嫌な態度とって、ごめん」
千草は頭を垂れて、浮竹と京楽に謝った。
「僕らは気にしないよ。君は、不幸になる必要なんかないし、自分の好きなように振る舞っていい」
京楽の落ち着いた声に安心したのか、千草が涙を流した。
京楽と浮竹は顔を見合わせ、千草のいるベッドに近づいた。
「今から、友達になろう。菱田」
うつむく千草の顔を、浮竹がのぞき込んだ。二人の目が合う。
「でも俺は、前から友達だって思ってた」
「……浮竹君……」
「僕の事も、リハビリ要因くらいに思ってくれていいからさ」
「京楽君………」
千草の顔がくしゃくしゃに歪んだ。とても人間らしい表情になった、と二人は感じた。
「ありがとう………」
次の日、千草が教室に行くと、女達から冷たい視線を浴びた。
無視して席につくと、二人の友人が来てくれた。
「おはよう。菱田さん」
「おーす菱田。隊長大丈夫か?」
京楽と浮竹は、明るい顔で千草の机の前に来た。女達から驚きの声があがる。
「京楽君…浮竹君……うん、大丈夫。ありがとう…」
今まで挨拶しても無視していた千草からしたら、大きな進歩だった。
それから千草は、京楽、浮竹と3人で行動するようになった。
朝は門で待ち合わせ、昼ご飯も、休み時間も、寮に帰るまで一緒にいた。周りの女達はいい顔をしなかったが、京楽と浮竹がいるからか、何かしてくる事は無かった。男からの千草へのアプローチも減った。
初めは聞き役だった千草も、2ヶ月もすると、自分から話をするようになった。心を許してくれているのが分かり、京楽も浮竹も嬉しそうに聞いた。
千草は次第に、京楽と浮竹の前では笑顔を見せるようになった。息を飲むほど、美しい笑顔だった。
千草は、京楽と浮竹をとても大切にした。細やかな気遣いが、二人に分かった。それと同じように、二人は千草を大切にした。
初めは、千草を守るつもりで友達になったが、時間が経つと、本当の友達になっていった。