親友の好きな人(京楽 浮竹)
39.旅禍の侵入
隊首会が行われている裏で、千草は雨乾堂に来ていた。警報令が出された今、浮竹は帰宅が出来ず、雨乾堂に留まっていた。
「病人くらい、帰してくれてもいいのにね」
横になっている浮竹の額に手を当てながら、千草が文句を言った。
「隊士達も帰らず頑張ってんだ。隊長は残らないと」
「うん。分かってはいるんだけど、ね」
そうしていると、再び警報が鳴った。今度は精霊艇への侵入の疑いがあった。
千草はすぐ立ち上がり、斬魄刀を掴んだ。
「行くわね。無理して起きたら駄目よ」
「努力するよ」
浮竹は、簾をくぐる千草の背中を見送った。
総務部も各隊も寝ずに見張っていたが、侵入した者は見当たらなかった。
疲れ果てた皆が引き上げようとした時、空から何かが降ってきた。
「総務官!空から飛翔体が落下して来ます!!!」
部下が窓の外を指しながら叫び、千草が窓に駆け寄ると、飛翔体が四散し落下していく所だった。
「皆それぞれの机について、今から起こる事全てを記録して、順次各隊に流して」
「はい!」
総務部全員が席につくと、霊圧のぶつかりを感知し次第応援要請と記録を取っていった。
だが、ものの数時間で十一番隊は壊滅状態に近くなった。
そして夕方には、阿散井恋次が瀕死の状態で発見された。
日が暮れ始め、旅禍の目撃情報がパタリと止むと、千草は部下に交代で仮眠を取るよう指示し、自分は四番隊に向かった。
一番初めに旅禍に遭遇したとされる、斑目一角に会いに来た。
一角は病室のベッドの上で瞑想に耽っていたが、千草が部屋の前に立つと目を開けた。
「入っても?」
「どぞ」
ドアを開けると、胴体を包帯で包んだ一角がいた。
「お疲れ様。今、話せる?」
「旅禍の事ッスか?」
千草はベッドの横にある椅子に腰掛け、ベッド上であぐらをかく一角を見上げた。
「ええ、涅隊長がご立腹よ。私の所まで文句を言いに来た」
「すんません。どうしても隊長に先に見つけて貰いたくて」
「なら、戦わない私になら話せる?」
「……言える範囲なら」
千草はため息をつき、懐からノートを取り出した。
「いいわ。答えられる範囲で言って。まず旅禍の特徴は?」
「言えないっす」
「……名前は?」
「…黒崎、一護」
「他の旅禍の名前は?」
「聞いてません」
千草はノートを開き、メモをした。
「正確な人数は聞いた?」
「5人と1匹っつってました」
はあ?と首をかしげながらも、千草はメモをした。
「………目的は?」
「言えないっす」
「何故?言ったら行き先が分かるから?」
「……………」
「……なるほどね。更木剣八はそこに向かったの」
一角は目を見開き、千草を見据えた。更木の霊圧なら、簡単に補足できてしまう。
「総務官、すみません。お願いですから、援軍は出さないでください…この通りっス」
一角はベッドに正座し、頭を下げた。だが千草は一角を無視して、窓を開け、顔をだした。
更木剣八の霊圧を探すと、纖罪宮から霊圧が漂って来ていた。先日ルキアが移送された場所だ。
「何故、纖罪宮に………」
千草は暗闇で目を凝らし、白い塔を凝視した。一角は、千草の質問に答えたのを後悔するように目を瞑り、顔をしかめていた。
千草は窓を閉めると、一角の横顔を見た。
「………帰るわ」
それ以上問い詰めず部屋を出ようとする千草を、一角は不信そうに見た。千草は部屋を出る間際に、一角の顔を見た。
「……各隊に伝えるわ。纖罪宮で更木剣八が戦闘準備中って………」
一角は既に千草のいなくなったドアに向かって、頭を下げた。
夜の道をあれこれ考えながら歩いていると、後ろから近寄ってくる気配がした。かつての仲間の霊圧だった。
「………何故あなたがいるの。夜一さん………」
千草は振り返らずに、感情を押し殺して尋ねた。
聞きたい事が沢山あった。
「お変わり無いようで…総務官殿」
嫌に声が下から聞こえると思い、足元を見ると、1匹の黒猫がいた。黒猫は千草を見上げて、喋りだした。本当にこれが夜一なのか、と千草は目を見張った。
「声を出さずにいてくださり、有り難く存じます。ところで総務官殿、鍵はまだお持ちで?」
千草は黙ったまま、首にずっと下げていた鍵を取り出して、黒猫に見せた。
「確かに………。儂を、信用してくださるか?」
「………ええ。今がそうなのね……」
千草は鍵を懐にしまいながら、重い声で呟いた。
「喜助は朽木ルキアの体内に崩玉を隠し、彼女の霊圧を消すと共に崩玉の力も葬ろうとした。だが、崩玉が消える前に朽木ルキアが捕らえられてしもうた」
「………誰の指示?」
「あなた様は聞かぬ方がよい。怪しまれる。奴は双極でルキアを殺し、体内の崩玉を取り出すつもりだろう。どうか、この死刑を止めていただきたい」
「四十六室への進言は通らなかったわ…」
「その為の鍵です。わが宝物庫に対双極用の武具があります。それを使ってくだされ」
「……分かったわ。何とかしてみる」
「申し訳無い。儂はもう片方の可能性を育てます」
夜一は猫のまま歩き出し、闇に消えようとした。
「………平子君達も生きてる?」
「……儂の口からは………」
夜一はそのまま消えていった。
千草が総務部に帰ると同時に、地獄蝶が飛んできた。
「一級厳戒令により、四十六室より総務官に告ぐ。現、戦時特例が解除されるまで、総務官並びに総務補佐官は最悪の事態を考慮し、一番隊隊舎からの他出を禁ずる。繰り返す………」
千草は一番隊隊舎に監禁され、行動ができなくなった。
隊首会が行われている裏で、千草は雨乾堂に来ていた。警報令が出された今、浮竹は帰宅が出来ず、雨乾堂に留まっていた。
「病人くらい、帰してくれてもいいのにね」
横になっている浮竹の額に手を当てながら、千草が文句を言った。
「隊士達も帰らず頑張ってんだ。隊長は残らないと」
「うん。分かってはいるんだけど、ね」
そうしていると、再び警報が鳴った。今度は精霊艇への侵入の疑いがあった。
千草はすぐ立ち上がり、斬魄刀を掴んだ。
「行くわね。無理して起きたら駄目よ」
「努力するよ」
浮竹は、簾をくぐる千草の背中を見送った。
総務部も各隊も寝ずに見張っていたが、侵入した者は見当たらなかった。
疲れ果てた皆が引き上げようとした時、空から何かが降ってきた。
「総務官!空から飛翔体が落下して来ます!!!」
部下が窓の外を指しながら叫び、千草が窓に駆け寄ると、飛翔体が四散し落下していく所だった。
「皆それぞれの机について、今から起こる事全てを記録して、順次各隊に流して」
「はい!」
総務部全員が席につくと、霊圧のぶつかりを感知し次第応援要請と記録を取っていった。
だが、ものの数時間で十一番隊は壊滅状態に近くなった。
そして夕方には、阿散井恋次が瀕死の状態で発見された。
日が暮れ始め、旅禍の目撃情報がパタリと止むと、千草は部下に交代で仮眠を取るよう指示し、自分は四番隊に向かった。
一番初めに旅禍に遭遇したとされる、斑目一角に会いに来た。
一角は病室のベッドの上で瞑想に耽っていたが、千草が部屋の前に立つと目を開けた。
「入っても?」
「どぞ」
ドアを開けると、胴体を包帯で包んだ一角がいた。
「お疲れ様。今、話せる?」
「旅禍の事ッスか?」
千草はベッドの横にある椅子に腰掛け、ベッド上であぐらをかく一角を見上げた。
「ええ、涅隊長がご立腹よ。私の所まで文句を言いに来た」
「すんません。どうしても隊長に先に見つけて貰いたくて」
「なら、戦わない私になら話せる?」
「……言える範囲なら」
千草はため息をつき、懐からノートを取り出した。
「いいわ。答えられる範囲で言って。まず旅禍の特徴は?」
「言えないっす」
「……名前は?」
「…黒崎、一護」
「他の旅禍の名前は?」
「聞いてません」
千草はノートを開き、メモをした。
「正確な人数は聞いた?」
「5人と1匹っつってました」
はあ?と首をかしげながらも、千草はメモをした。
「………目的は?」
「言えないっす」
「何故?言ったら行き先が分かるから?」
「……………」
「……なるほどね。更木剣八はそこに向かったの」
一角は目を見開き、千草を見据えた。更木の霊圧なら、簡単に補足できてしまう。
「総務官、すみません。お願いですから、援軍は出さないでください…この通りっス」
一角はベッドに正座し、頭を下げた。だが千草は一角を無視して、窓を開け、顔をだした。
更木剣八の霊圧を探すと、纖罪宮から霊圧が漂って来ていた。先日ルキアが移送された場所だ。
「何故、纖罪宮に………」
千草は暗闇で目を凝らし、白い塔を凝視した。一角は、千草の質問に答えたのを後悔するように目を瞑り、顔をしかめていた。
千草は窓を閉めると、一角の横顔を見た。
「………帰るわ」
それ以上問い詰めず部屋を出ようとする千草を、一角は不信そうに見た。千草は部屋を出る間際に、一角の顔を見た。
「……各隊に伝えるわ。纖罪宮で更木剣八が戦闘準備中って………」
一角は既に千草のいなくなったドアに向かって、頭を下げた。
夜の道をあれこれ考えながら歩いていると、後ろから近寄ってくる気配がした。かつての仲間の霊圧だった。
「………何故あなたがいるの。夜一さん………」
千草は振り返らずに、感情を押し殺して尋ねた。
聞きたい事が沢山あった。
「お変わり無いようで…総務官殿」
嫌に声が下から聞こえると思い、足元を見ると、1匹の黒猫がいた。黒猫は千草を見上げて、喋りだした。本当にこれが夜一なのか、と千草は目を見張った。
「声を出さずにいてくださり、有り難く存じます。ところで総務官殿、鍵はまだお持ちで?」
千草は黙ったまま、首にずっと下げていた鍵を取り出して、黒猫に見せた。
「確かに………。儂を、信用してくださるか?」
「………ええ。今がそうなのね……」
千草は鍵を懐にしまいながら、重い声で呟いた。
「喜助は朽木ルキアの体内に崩玉を隠し、彼女の霊圧を消すと共に崩玉の力も葬ろうとした。だが、崩玉が消える前に朽木ルキアが捕らえられてしもうた」
「………誰の指示?」
「あなた様は聞かぬ方がよい。怪しまれる。奴は双極でルキアを殺し、体内の崩玉を取り出すつもりだろう。どうか、この死刑を止めていただきたい」
「四十六室への進言は通らなかったわ…」
「その為の鍵です。わが宝物庫に対双極用の武具があります。それを使ってくだされ」
「……分かったわ。何とかしてみる」
「申し訳無い。儂はもう片方の可能性を育てます」
夜一は猫のまま歩き出し、闇に消えようとした。
「………平子君達も生きてる?」
「……儂の口からは………」
夜一はそのまま消えていった。
千草が総務部に帰ると同時に、地獄蝶が飛んできた。
「一級厳戒令により、四十六室より総務官に告ぐ。現、戦時特例が解除されるまで、総務官並びに総務補佐官は最悪の事態を考慮し、一番隊隊舎からの他出を禁ずる。繰り返す………」
千草は一番隊隊舎に監禁され、行動ができなくなった。